DirectDrive®技術の概要

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Adrian Rolufs

要約

DirectDriveは従来のヘッドフォンアンプの出力に必要とされた出力ブロッキングコンデンサを不要とする方式です。このアプリケーションノートはDirectDriveの動作と技術的な利点について説明しています。

従来のヘッドフォンアンプ

バッテリ給電の電子機器で使用されるほとんどの従来型アンプは正電圧とグランド間で動作する単電源デバイスです。この設計では正の信号のみを処理することができるアンプとなります。しかし、オーディオ信号は本質的に正と負の振幅を備えています。このため、従来の単電源アンプはオーディオ信号を扱うためにDCバイアスを加える必要があります。最大の信号振幅を得るために、このDCバイアスは通常電源電圧の半分とします(図1)。

Figure 1. Conventional output waveform.
図1. 従来の出力波形

増幅のためにDCバイアスが必要ですが、スピーカはDCバイアスのない信号を必要とします。スピーカにDCバイアスが印加されると、スピーカのコーンは物理的にその中点からコーンの片側の最大偏移に近い点までシフトします。これは歪なしには大きい音圧をもはや生成することができないことを意味します。DC信号によってボイスコイル内でDC電力が消費され、電力が浪費されて、不要な熱がスピーカに発生します。極端な場合には、この熱がスピーカに恒久的な損傷を与えます。

DCバイアスがスピーカにかかることを防ぐために、通常DCブロッキングコンデンサが使用されます。このコンデンサはほぼ抵抗性の負荷と組み合わせるとハイパスフィルタを構成します。代表的なヘッドフォンの負荷は32Ωに等価であり、所望のオーディオ帯域部分が遮断されることを防ぐためには、コンデンサを非常に大きくしなければなりません。20Hzまで帯域幅を拡大する必要がある場合は、20Hzで3dB以内の減衰とするためには、最低250µFのコンデンサを使用しなければなりません。16Ωのヘッドフォンを使用すると、DCブロッキングコンデンサは最低500µFでなければなりません。システムによっては安価なアルミ電解コンデンサを収容する十分なスペースがありますが、たいていの携帯用デバイスはそのようなコンデンサを収容する余地はありません。この後者のシステムでは、スペースを節約するためには、さらに高価なタンタルコンデンサを使用しなければなりませんが、このようなコンデンサでも貴重なボード面積を使ってしまいます。このため、多くの場合、より小さいコンデンサがスペースとコストを削減するために使われることがありますが、20Hzまでの平坦な周波数応答は得られません。図2は幾つかの標準的なコンデンサの大きさに応じた周波数応答を示しています。

Figure 2. The frequency response for a conventional headphone amplifier with a 16 Ohm load.
図2. 16Ω負荷とした場合の従来型ヘッドフォンアンプの周波数応答

DirectDrive技術

DirectDriveによるヘッドフォンアンプを使うとDCバイアスが不要で出力のDCブロッキングコンデンサを削除することができます。DirectDriveヘッドフォンアンプは単電源で動作しますが、アンプは正と負の信号を処理します。負の振幅は正電源に追従する負電源を生成する内蔵のチャージポンプによって達成されます。このようにして、両電源を使用可能であるため、アンプとしては単電源で動作する必要はなくなります。図3に示すように、アンプはグランドレベルにバイアスすることができます。

Figure 3. The output waveform for an amplifier with DirectDrive technology.
図3. DirectDrive技術によるアンプの出力波形

DirectDriveの設計で使用するチャージポンプはその動作に小さい2個のセラミックコンデンサのみを必要とします。フライングコンデンサ1個と保持コンデンサ1個です。これらのコンデンサは通常1µFで0402などの小さいコンデンサが使用可能です。この結果は220µFを使用する従来のヘッドフォンアンプに比べて大幅な省スペースとなり、優れた性能を提供します(図4)。

Figure 4. a) Two 1uF charge-pump capacitors represent a major space savings compared to, b)  two 220uF output coupling capacitors.
図4. a)の2つの1µFのチャージポンプのコンデンサがb)の2つの220µFの出力結合コンデンサに比較して大幅な省スペースが示されています。

DirectDriveの利点

あきらかに、従来のヘッドフォンアンプで必要とした出力結合コンデンサを除去することは大きさとコストにおいて大幅な利点です。しかし、DirectDrive法によって得られる利点は他に沢山あります。

  1. クリックとポップノイズの抑制
    DirectDrive技術の最も明らかな利点の1つはクリックとポップノイズの大幅な低減です。従来のヘッドフォンアンプでは、出力コンデンサはアンプがイネーブルになるたびに充電し、アンプがディセーブルになるたびに放電しなければなりません。充電と放電プロセスによってヘッドフォンに電流が流れる必要があるため、可聴の「ポップ」ノイズが発生します(図5)。コンデンサを除去すると、このようにDirectDriveによってクリックとポップノイズの主要源が取り除かれます。

    Figure 5. Data showing click and pop for: a) conventional headphone amplifiers; and b) DirectDrive headphone amplifiers.
    図5. クリックとポップノイズを示すデータ:a) 従来のヘッドフォンアンプ、b) DirectDriveヘッドフォンアンプ。

  2. 通過帯域性能の向上
    DCブロッキングコンデンサと抵抗性のヘッドフォン負荷によって構成されるハイパスフィルタもオーディオ性能に影響します。たいていのシステムでは、20Hz~20kHzの完全な周波数応答を可能とするコンデンサを使用することは不可能です。スペースとコストを削減するために、理想的というより小型のコンデンサが使われて低周波のロールオフ周波数が高くなり、システムの低音性能が悪化します。この性能の低下は16Ωのヘッドフォンを使用すると強調されます。標準的なシステムでは32Ωのヘッドフォン用に設計されています。16Ωのヘッドフォンを接続すると、低周波コーナー周波数が2倍になり、さらに可聴低音周波数が削減されます

    しかし、DirectDrive法を使用すると、ハイパスフィルタは完全に除去されて入力結合コンデンサによってコーナー周波数が決まります。普通アンプの入力インピーダンスは10kΩを超えるため、1µF以下の小さいコンデンサでも完全なオーディオ帯域を保証するのに十分です。

  3. 低電圧動作
    DirectDrive技術によってヘッドフォンアンプがシステムの使用するディジタルICで使われる電源でじかに動作することが可能になります。バッテリ電圧よりも低い電源で動作させると、ヘッドフォンアンプは効率がさらに向上します。3.3Vあるいは2.5V電源さえ使用されることが普通ですが、1.8V電源がこれらの電源を代替します。従来のヘッドフォンアンプでは1.8V電源では理論的には10mWの出力電力(32Ωの負荷へ)しか可能ではありません。 しかし、DirectDriveアンプはアンプに使用可能な電源電圧を2倍にし、同じ電源電圧から40mWの出力電力を得ることができます。このように、このアンプは十分な音声レベルを生成して現代のシステムで最大限の効率で動作することができます。

  4. 2VRMSラインの出力アンプ
    DirectDriveが生成する2倍の電源電圧は2VRMSのオーディオ出力を必要とするシステムで2つ目の利点を備えています。通常、これらのシステムは容易に利用可能な5V電源を備えています。しかし、標準的なアンプを5V電源で使用しても出力を2VRMSとするには不十分です。2VRMSを得るためにはさらに高い電圧が必要です。DirectDrive法では利用可能な電源電圧が内蔵されて2倍になっているため、5V電源から2VRMSを十分に超える値を得ることが可能です。

  5. 歪の減少
    最後に従来のヘッドフォンで用いられた出力コンデンサは低周波でオーディオ信号に大きな歪を与ええる可能性があります。低周波のコーナー周波数の近くでは、コンデンサの電圧係数が非線形の原因となり、オーディオ信号に歪を与えます。歪は1%の大きさにもなる場合があり、それは聞こえ、また測定可能です(図6)。DirectDriveは結合コンデンサを削除することによって、歪の原因を除去します。

    Figure 6. Distortion from output coupling capacitors.
    図6. 出力結合コンデンサによる歪

要約

DirectDrive用ヘッドフォンアンプは従来の単電源ヘッドフォンアンプに優る多くの点で改良されています。この技術は小型化とコスト削減を実現し、シリコンがわずかに大きくなるだけでオーディオ品質を改善します。

同様の記事がCMP's Audio Design Line誌の2007年2月号に掲載されています。