最先端のエッジ向けセンサー・ソリューション、産業用機器の健全性をリアルタイムに監視

Figure 1

   

要約

本稿では、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術をベースとする最先端のスマート振動センサーを紹介します。そのセンサーは、アナログ・デバイセズの様々なMEMSセンシング技術を活用することによって実現されました。これを使用すれば、産業分野や研究分野の環境を対象として、精度と信頼性に優れるリアルタイム対応の監視機能を実現できます。本稿では、同センサーの仕様、機能、用途などについて詳しく解説します。

はじめに

現代の産業環境では、製品の製造工程などで使用する機器の健全性を監視する必要性が高まっています。しかも、優れた信頼性を確保しつつ、高い精度でリアルタイムの監視を実施できるようにしなければなりません。その結果として実現されるのが予知保全です。産業分野に予知保全を導入すれば、ダウンタイムの最小化、生産性の向上、メンテナンス・コストの削減を達成できます。この予知保全に基づく戦略の基盤になるのが状態基準保全(CBM:Conditional Based Maintenance)システムです。現在の産業環境では、様々な機械を対象として多様な評価が実施されています。それを可能にしたのが、MEMS技術を活用した最先端のセンサーと診断用の高度なアルゴリズムです。最先端のMEMS加速度センサー(振動センサー)の性能は、圧電振動センサーと並ぶレベルまで向上しています。また、MEMS加速度センサーには、消費電力が少ない、サイズが小さい、集積度が高い、帯域幅が広い、ノイズ・レベルを100μg/√Hz以下に抑えられるといった重要な長所があります。このような理由から、MEMS加速度センサーはCBMの分野に全く新たなパラダイムをもたらしました。最先端のMEMS加速度センサーを利用すれば、機械に生じる障害の検出/診断/予測を実現できます。最終的には、障害の発生に伴う大きな問題を回避することも可能になります。また、MEMS加速度センサーは消費電力が極めて少ないという特徴を備えています。そのため、同センサーを活用すれば、旧来型の有線のシステムからワイヤレス・システムへの移行を図ることができます。加えて1軸の圧電センサーを、MEMSをベースとする小型/軽量の3軸アナログ・センサーで置き換えることも可能です。更に、コスト効率の高い方法によって、多様な機械を常時監視することができるようになります。本稿では、最先端のMEMS加速度センサーの例として、「AVSセンサー・ファミリ」の製品を紹介します。具体的には、高い周波数に対応する「AVS1001HF」、低い周波数に対応する「AVS 1003LF」について詳しく説明します。なお、以下ではこれらのセンサーを「AVSセンサー」と総称することにします。

CBMの概要

CBMの分野では、回転機械(タービン、ファン、ポンプ、モータなど)やロボットを測定の対象とするセンサー(CMS:Condition-based Maintenance Sensor)が用いられます。その目的は、機械の健全性と性能に関するリアルタイムのデータを収集することです。それにより、的を絞った予知保全や最適化された制御を実現することが可能になります。機械のライフ・サイクルの早い段階で的を絞った予知保全を適用すれば、製造の現場でダウンタイムが生じるリスクを抑えられます。また、信頼性が向上し、コストが大幅に削減され、生産性が高まります。稿末に示した参考資料1、同2によれば、計画外のダウンタイムを経験したことがある企業は、平均2回のダウンタイムにより、平均4時間にわたる機器の停止が発生し、平均2百万米ドル(約3.1億円)のコストを費やしたといいます。

CBMの重要性

CBMシステムは、主な機能として、機械のメンテナンスのスケジュールを策定するために使用されるリアルタイムのデータを提供します。このデータ駆動型のアプローチにより、必要な場合にだけメンテナンスを実施できるようになります。また、予期せぬ故障を防ぎつつ、産業用機器(設備、アセット)の運用寿命を延ばすことが可能になります。CBMシステムを導入すれば、計画外のダウンタイムが発生するリスクを低減できます。それにより、製造フローの継続性を維持しつつ、リソースの配分を最適化することが可能になります。

AVSセンサーの概要

上述したように、産業分野では機器の健全性を監視するためのシステムが求められています。このようなニーズを受けて、加速度センサーは大きな進化を遂げました。実際、最先端の加速度センサーを用いれば、産業分野や研究分野の環境を対象として、精度と信頼性に優れるリアルタイム対応の監視機能を実現できます。

AVSセンサーは、アナログ・デバイセズの様々なMEMSセンシング技術を活用して実現されました。同センサーは、高周波/低周波に対応する振動の測定機能に加え、リアルタイムのデータ処理/転送機能を備えています。このことから、予知保全のための包括的なソリューションとして活用できます。統合が容易であること、汎用性が高いこと、測定精度に優れることもAVSセンサーの特徴です。このような長所を備えていることから、産業環境における生産性の向上、ダウンタイムの削減、メンテナンス戦略の最適化を図るための貴重なツールとして利用できます。

AVSセンサーは、状態監視の再定義を促す製品です。このソリューションを導入すれば機械の運用効率が高まります。それだけでなく、機器の健全性を管理するための新たな基準が設けられることになるでしょう。産業分野ではスマート技術の導入が進んでいます。AVSセンサーのような高機能のセンサーもそうした技術の1つです。この種のセンサーは、次世代の産業用オートメーションや機器のメンテナンスを実現する上で、ますます重要な役割を果たすようになるでしょう。

AVSセンサーの長所

上述したとおり、AVSセンサーは状態監視の再定義を促す製品です。一般的なCBMには、数多くのセンサー、広い範囲にわたるケーブル配線、専用のデータ収集/処理ユニットが必要です。よりスマートな技術であるAVSセンサーを採用すれば、必要なすべての機能を同センサーによって実行できます。AVSセンサーによって得た分析結果は、PLC(Programmable Logic Controller)やSCADA(Supervisory Control and Data Acquisition)に直接送信できます。また、RS-485に対応するデジタル・リンクを使用することで、1本のケーブルによって数多くのセンサーを接続することが可能になります。

AVSセンサーにはもう1つ重要な長所があります。それは、広範なアプリケーションに対応可能な汎用性を備えていることです。例えば、通常動作時にはパラメータの値を算出し、得られた結果(データ)だけを送信することができます。より高度な分析が必要になる場合には、未処理のデータ(振動のデータ)をそのまま送信することも可能です。それにより、データを受け取った側で高度な分析を実施するということです。

対象周波数の異なる2種類のセンサー

ここでは、AVS 1001HFとAVS 1003LFについて説明します。これらの製品の大きな違いは対象周波数にあります。つまり、測定の対象とする信号の周波数が大きく異なります。

AVS 1001HFの概要

AVS 1001HFは1軸対応のデジタル加速度センサーです(図1)。高い周波数の振動の測定に加えて、温度の測定も実施できます。同センサーは、測定した加速度(振動)のデータを自身で処理します。その上で、産業分野で標準的に使用されているRS-485/Modbusプロトコル対応のデジタル・コネクタを介して処理後のデータを送出できるようになっています。出力するデータとしては、アプリケーションのニーズに応じて2種類のうちどちらかを選択します。1つは未処理の振動データです。もう1つは、振動の測定結果に基づいて算出されたパラメータのデータです。

図1. AVS 1001HFの外観
図1. AVS 1001HFの外観

AVS 1003LFの概要

AVS 1003LFは3軸に対応するデジタル加速度センサーです(図2)。AVS 1001HFと同様に振動と温度の両方を測定できますが、AVS 1003LFは低い振動周波数に対応します。測定結果となるデータは、RS-485/Modbusプロトコルを介して提供されます。3軸を網羅した包括的な監視機能を実現できることも大きな特徴です。

図2. AVS 1003LFの外観
図2. AVS 1003LFの外観

表1は、AVS 1001HF/AVS 1003LFの仕様についてまとめたものです。いずれの製品も、保護、機械の監視、状態の評価、動的な状態の測定といったアプリケーションに適しています。

表1. AVS 1001HF/AVS 1003LFの主な仕様
仕様 AVS 1001HF AVS 1003LF
測定範囲 ±50g(ピーク) ±40g(ピーク)
周波数範囲 0~11kHz 0~1kHz
サンプリング周波数 32 kHz 4 kHz
ノイズ密度 25 µg/√Hz 80 µg/√Hz
動作電圧 24 V DC 24 V DC
消費電流 13 mA
動作温度 -40℃~85℃
保護等級 IP67
耐衝撃性 10000g(ピーク) 5000g(ピーク)

AVSセンサーの長所

ここでは、AVSセンサーの長所について説明します。この新たなセンサーを採用すれば、以下に列挙するようなメリットが得られます。

デジタル・データへの直接アクセスが可能

AVSセンサーには、デジタル・データに直接アクセスするための機能が統合されています。そのため、あらゆる機能をセンサー内部で実行することができます。それにより、広い範囲にわたるケーブル配線や専用のデータ収集/処理ユニットが不要になります。つまり、設置のプロセスが大幅に簡素化され、トータルのコストが削減されます。

アプリケーションにおける汎用性の高さ

AVSセンサーは注目すべき汎用性を備えています。通常動作時には算出したパラメータのデータだけを送信するので、帯域幅と処理能力を節約できます。より高度な分析を行いたい場合には、未処理の振動データをそのまま送信することも可能です。それにより、データを受け取った側で分析を実施するということです。結果として、機械の状態をより詳細に把握することが可能になります。

データ伝送の信頼性が高い

RS-485のデジタル・リンクを使用することで、1本のケーブルによって多数のAVSセンサーを接続することができます。この構成により、最高1kmにわたって信頼性の高いデータ伝送を実施することが可能です。産業環境におけるノイズを最小限に抑えつつ、センサー・ネットワークを容易に拡張することができます。

高精度、低ノイズ

AVS 1001HF/AVS 1003LFは、いずれも高い感度を備えています。また、ノイズは最小限に抑えられています。そのため、振動データを高い精度で測定できます。具体的には、AVS 1001HFの感度は最大100mV/g、ノイズ密度は4μg/√Hzです。一方、AVS 1003LFのノイズ密度は80μg/√Hzです。これらの製品を使用すれば、過酷な産業環境においても高精度の測定結果が得られます。.

MEMS技術がもたらす効果

AVSセンサーでは小さなサイズと高い性能が両立されています。これはMEMS技術によってもたらされた効果です。MEMSベースのセンサーは、要件の厳しい産業用アプリケーションに不可欠な堅牢性と耐久性を実現します。

広い帯域幅で障害を捕捉する

ここでは、1軸対応の加速度センサー「ADXL1002」を例にとります。このセンサーは11kHzの3dB帯域幅を備えています(図3)。帯域幅の狭いセンサーでは見逃す可能性がある障害の兆候を捕捉するためには、ADXL1002のようなセンサーが不可欠です。例えば、ベアリングやギアの障害の兆候は高い周波数成分として現れます。ADXL1002やAVS 1001HFのような広帯域幅のセンサーを使用することにより、そうした重要な部品の詳細な解析が可能になります。結果として、潜在的な故障の早期検出と故障の予防を確実に実施できるようになります。

図3. ADXL1002の周波数応答。5kHz以上の高い周波数成分に対しても応答を示します。
図3. ADXL1002の周波数応答。5kHz以上の高い周波数成分に対しても応答を示します。

3軸対応による包括的な監視

AVS 1003LFは3軸に対応するセンシング・ソリューションです。この種のセンサーを採用すれば、1軸対応のセンサーでは見逃す可能性がある障害の予知を実現できます。3つの軸に対応するデータを取得すれば、機械の状態をより包括的に把握できるようになります。その結果、障害をより適切に予知したり、より合理的なメンテナンスの計画を策定したりすることが可能になります。

AVSセンサーの活用事例

続いてAVSセンサーの活用事例を紹介します。AMC TECHは、AVS 1001HFとAVS 1003LFを採用し、それらをクラウド・ベースの状態監視システムに統合しました。そのシステムでは、両センサーで取得した未処理のデータがエッジの処理ユニットに送信されます。その処理ユニットは診断に利用する信号の特徴を算出し、結果となるデータをクラウド・サーバに送信します。このような構成を採用すれば、機械の健全性に関する情報に迅速にアクセスできるようになります。つまり、大きな利便性が得られるということです。サーバ側では、様々な種類のプロットを利用できます。例えば、マップ、カスタム・ミミック(棒グラフなど複数の要素を含む)、アラーム、トレンド、波形、スペクトルなどのプロットを利用可能です(図4)。

図4. 棒グラフによるプロットの例
図4. 棒グラフによるプロットの例

図4に示した棒グラフのプロットは、構成が可能(コンフィギュラブル)です。この例では、オペレータが迅速に評価を実施できるようにするための表示を採用しています。具体的には、制限値からの逸脱が生じた場合、棒の色が黄色(警告)または赤色(アラーム)に変化します。画像をはじめとする要素を追加すれば、直観的な理解が得られる情報伝達ツールを構築できます。

図5. イベント/アラート・ビュー
図5. イベント/アラート・ビュー

図5に示したのはイベント/アラート・ビューです。これは第1階層のもう1つのプロットです。これを使用すれば、オペレータはその瞬間における閾値からの逸脱を確認したり、過去の変化について調査を行ったりすることができます。もちろん、オペレータが時間を節約できるようにするためのフィルタリング・オプションも複数用意されています。

図6. 選択した振動の履歴を表すトレンド・プロット
図6. 選択した振動の履歴を表すトレンド・プロット

図6に示したのは、トレンド・プロットの例であり、選択した振動パラメータ(rmsと速度rms)の履歴を表示しています。これを使用すれば、時間の経過に伴って変化する性質について迅速に確認できます。例えば、不安定な状態の発生、上昇傾向、他の測定値との相関などを確認するために利用することが可能です。

振動のレベルが上昇した場合には、その原因を把握しなければなりません。場合によっては、より詳細な知見が必要になることもあるでしょう。そのような場合の究極の情報源は、未処理の振動データです。振動の専門家であれば、未処理の信号波形や周波数スペクトルのプロットに基づいて詳細な解析を実施できます。

また、Modbus、OPC UA(Unified Architecture)、MQTTなどのデジタル・プロトコルを利用すれば、他のシステムとの間で簡単にデータ交換を実施できます。加えて、詳細な解析を行うために、対象とするデータをファイルにエクスポートすることも可能です(図7)。

図7. 実際のデータの監視
図7. 実際のデータの監視

これも便利な機能の1つです。図7に示したデータは、8つのセンサー(HFが4つ、LFが4つ)を利用して情報の選別を行うことにより取得したものです。図8に、ベアリングにAVSセンサーを取り付けた様子を示しました。

図8. 過酷な環境に設置されたAVSセンサー
図8. 過酷な環境に設置されたAVSセンサー

この例により、過酷な環境においてもAVSセンサーは適切に機能し、産業用の設備を監視できることが実証されました。

まとめ

AVS 1001HF/AVS 1003LFは、MEMSベースの加速度センサーです。この種のセンサーは、産業用機器の健全性を監視できるようにするために大きな進化を遂げました。AVS 1001HF/AVS1003LFの場合、高周波/低周波の振動測定機能とリアルタイムのデータ処理/転送機能を備えています。このことから、予知保全のための包括的なソリューションとして活用できます。また両センサーは、統合が容易で、汎用性に優れ、精度が高いという特徴も兼ね備えています。そのため、産業環境における生産性の向上、ダウンタイムの削減、メンテナンス戦略の最適化を図るための貴重なツールとして利用可能です。

AVSセンサーは状態監視の再定義を促す製品です。これを採用すれば、機器の運用効率が高まります。それだけでなく、機器の健全性を管理するための新たな基準が設けられることになるでしょう。産業分野ではスマート技術の導入が進んでいます。AVSセンサーのような高機能のセンサーもそうした技術の1つです。この種のセンサーは、次世代の産業用オートメーションや機器のメンテナンスを実現する上で、ますます重要な役割を果たすようになるでしょう。

参考資料

1Graham Immerman「The Actual Cost of Downtime in the Manufacturing Industry(製造業で生じるダウンタイム、それに伴う実際のコスト)」IIoT World、2018年11月

2What Downtime Really Costs - and Why Maintenance Contracts Make Sense(ダウンタイムに伴う実際のコスト、保守契約が理に適っている理由)」Sumitomo Drive Technologies、2025年4月

著者について

Shuai Ren
Shuai Renは、アナログ・デバイセズのシステム・アプリケーション・エンジニアです。産業用オートメーション事業部門のインテリジェント・モーション/ロボティクス・チームに所属。状態基準保全(CBM:Conditional Based Maintenance)、産業用通信、磁気センシングが専門です。アイルランドのゴールウェイ大学で工学修士号を取得しました。
Tomasz Potaczała
Tomasz Potaczała氏は、AMC TECHのテクニカル・ディレクタです。組み込みシステム部門の責任者として15年以上にわたり、業務の定義、プロセスの確立、事業活動の組織化に携わってきました。これまでに参画した研究開発プロジェクトの数は約20件。組み込みシステムの開発、プロジェクトの管理、品質保証に関する広範な知識を有しています。AGH科学技術大学で電子工学の理学修士号を取得しました。
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