T3/E3/STS-1 LIU上でのリターンロスの測定

T3/E3/STS-1 LIU上でのリターンロスの測定

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要約

このアプリケーションノートでは、マキシムのDS3150ラインインタフェースユニット(LIU)でのリターンロス(RL)の測定および改善の方法について説明します。このアプリケーションノートでは、リターンロスの定義、要件、測定、および改善についても説明します。

リターンロスの定義

高速の信号が伝送ラインの終端に到達したとき、伝送ラインの終端処理が不十分であると、信号エネルギーの一部がトランスミッタに反射されます。この反射信号が元の信号と混在すると、元の信号が歪んで、LIUのレシーバはクロックとデータを正しく回復することが困難になります。
リターンロスは、元の信号の電力と反射信号の電力の比(単位:dB)です。したがって、リターンロスは反射信号の相対的な大きさを表すため、伝送ラインの終端処理がどの程度十分か、あるいは不十分かを示します。LIUカードのリターンロスの測定値がある周波数において20dBの場合、反射信号の電力は、同一周波数において、元の信号より20dB低くなります。

リターンロスの要件

E3、ITU G.703、およびETS 300-686の場合の入力リターンロスの要件を表1に、出力リターンロスの要件を表2に示します。
表1. 入力ポートの最小リターンロス
Frequency Range Return Loss
860kHz to 1720kHz 12dB
1720kHz to 34368kHz 18dB
34368kHz to 51550kHz 14dB
表2. 出力ポートの最小リターンロス
Frequency Range Return Loss
860kHz to 1720kHz 6dB
1720kHz to 51550kHz 8dB

マキシムのLIU上でのリターンロスの測定

E3のリターンロスを測定するためのテストセットアップと測定方法は、ETS 300-686仕様書のA.2.5節とA.2.6節に記載されています。図1のテスト構成は、入力リターンロスを測定し、表1に示す要件に適合しているかどうかを検証することができるように設計されています。出力リターンロスの構成も同様ですが、同じ機器をレシーバの入力ではなくトランスミッタの出力に接続します。
図1. リターンロス測定のセットアップ
図1. リターンロス測定のセットアップ
図1のセットアップで、リターンロスブリッジは、Wide Band Engineering Company, Inc.製のA57TLSTDです。2つの50Ω/75Ωインピーダンスコンバータ(Wide Band Engineering製のA65L)を用いて、75Ωのブリッジを50Ωの発生器と50Ωのスペクトルアナライザのポートにインタフェース接続します。図1のブリッジの右側にある75Ωの精密抵抗器はリターンロスブリッジに組み込まれています。Advantest R3132スペクトルアナライザは、信号発生器とスペクトルアナライザの両方の役割を果たしています。
図1のセットアップにおいて、発生器は、860kHz~51550kHzの周波数で1Vピークの正弦波信号を供給します。
リターンロスの測定を行う前にテストのセットアップを確認するには、ブリッジのNTPインタフェース(図1の左側にあるインタフェース)を75Ω ±0.25%のテスト負荷に接続する必要があります。図1のセットアップでは、この精密抵抗器はWide Band Engineering製で、リターンロスブリッジの付属品です。このテスト負荷を用いた場合、リターンロスが表1に示す要件より20dB大きくなければなりません。図2は、75Ω ±0.25%のテスト負荷を用いて図1のセットアップで測定したリターンロスを示します。このセットアップでは、1720kHzで45.27dBのリターンロスを測定しました。
図2. 75ohm のテスト負荷でのリターンロス
図2. 75Ωのテスト負荷でのリターンロス
標準の330Ω終端抵抗器を使用して、DS3150DKデモキットのレシーバにブリッジのNTPインタフェースを接続すると、図3に示すように、リターンロスの測定値は1720kHzで15.27dBになります。この値は表1の要件を満足しません。次の項では、表1の要件を満たすためのリターンロスの改善方法を説明します。
図3. DS3150DKのリターンロス
図3. DS3150DKのリターンロス

DS3150のリターンロスを改善

いくつかの方法でDS3150 LIUのリターンロスを改善することができます。
  1. 終端抵抗器の値を330Ωから390Ωに変更します。
  2. PE-65968トランスをT3002トランスと交換し、100nHインダクタを1次コイルと直列に追加します。

終端抵抗器を330Ωから390Ωに変えてDS3150のリターンロスを改善

DS3150レシーバの標準的な終端抵抗ネットワークを図4に示します。厳密に正確な特性インピーダンスを備えたプリント基板のトレースを作成することは難しいため、多くの場合、終端抵抗器の値を理想値の330Ωから調整してリターンロスを改善する必要があります。
図4. DS3150DKの調整前の終端抵抗ネットワーク
図4. DS3150DKの調整前の終端抵抗ネットワーク
DS3150DKボードの場合、330Ωの終端抵抗器を390Ωの抵抗器に置き換えるとリターンロスが著しく増加します。390Ωの終端抵抗器を使用した場合のDS3150DKのリターンロスは1720kHzで18.01dB (図5)、34.01MHzで23.39dB (図6)です。これらの値はいずれも表1の要件を満たします。
図5. 調整後の終端抵抗ネットワークを用いた場合のDS3150DKのリターンロス(1720kHz)
図5. 調整後の終端抵抗ネットワークを用いた場合のDS3150DKのリターンロス(1720kHz)
図6. 調整後の終端抵抗ネットワークを用いた場合のDS3150DKのリターンロス(34.01MHz)
図6. 調整後の終端抵抗ネットワークを用いた場合のDS3150DKのリターンロス(34.01MHz)

トランスを変えて1次コイルと直列に100nHインダクタを追加して、DS3150のリターンロスを改善

この場合、DS3150DKボード上の下記の品目が交換されています。
  1. PE-65968トランスをT3002トランスに置換え
  2. 1次コイルと直列に100nHインダクタを追加
DS3150レシーバの調整後の標準終端ネットワークを図7に示します。
図7. DS3150DKの調整後の終端ネットワーク
図7. DS3150DKの調整後の終端ネットワーク
図8. 調整後の終端抵抗ネットワークを用いた場合のDS3150DKのリターンロス(1720kHz)
図8. 調整後の終端抵抗ネットワークを用いた場合のDS3150DKのリターンロス(1720kHz)
図9. 調整後の終端抵抗ネットワークを用いた場合のDS3150DKのリターンロス(34.37MHz)
図9. 調整後の終端抵抗ネットワークを用いた場合のDS3150DKのリターンロス(34.37MHz)

結論

ここに説明したリターンロスの測定手法と終端抵抗器の調整は、他のマキシムのDS3/E3/STS-1 LIUおよびSCTにも適用可能です。リターンロスの仕様を満足するために設計変更を行うかどうかは、理想的な330Ωの終端抵抗器で基板を測定した後で決定するようにしてください。330Ωの抵抗器でリターンロスの要件が満たされない場合は、終端抵抗値を調整したり、インダクタを1次コイルと直列に追加することができます。
マキシムのテレコム製品を使用した場合のリターンロスまたはその他に関するご質問は、テレコム製品アプリケーションサポートチームまでお問い合わせください。