要約
このアプリケーションノートでは、広帯域トランスミッタで使用するMAX2721について説明します。また、2.3GHzでのWCDMAアプリケーションについて述べています。I/Q振幅と位相のマッチングには高い精度が必要なため、2.4GHzでのダイレクトコンバージョンは極めて難しくなります。MAX2721は一般的に、±0.2dBと±1°のマッチング、31dBのキャリア抑制、35dBの側波帯抑制、および32dBの利得制御範囲を備えています。ドライバアンプは、1dBの圧縮ポイントで+12.5dBmを提供します。全体的な性能としては、2300MHzでのWCDMAアプリケーションにおいて6.6%のEVMを示しています。
追加情報
はじめに
ワイヤレス業界では、データレートとチャネル容量を改善して高品質のマルチメディア性能のサービスを提供することへの要求が高まっています。これらのシステムはほとんどの場合、スペクトラム拡散技術を必要としています。たとえば、IEEE® 802.11bに準拠し、2.4GHz帯域でのワイヤレスLANアプリケーション用に高レートに拡張された直接スペクトラム拡散(DSSS)システムなどです。3GPPやワイヤレスローカルループ(WLL)など、第3世代のシステムもWCDMA (wideband code division multiple access:広帯域符号分割多元アクセス)変調方式を利用しており、それぞれ5MHzと10MHzのチャネル間隔で動作します。
MAX2721は、2.4MHzの帯域での広帯域トランスミッタの設計を簡素化するために特に設計された、ダイレクトアップコンバータ直交変調ICです。MAX2721では、IF発振器とシンセサイザが除去されているため、IFベースのトランスミッタアーキテクチャに比べ、システムコストが低減されています。このアプリケーションノートでは、WLLアプリケーション用に2.3GHzで動作する完全なダイレクトアップコンバータWCDMAトランスミッタが、そのシステム性能の特性を測定することによって、IFベースのトランスミッタに取って代わる簡素で洗練された新しいトランスミッタであることを実証しています。特性を測定するために構築したトランスミッタのブロック図については、図1を参照してください。
図1. MAX2721ダイレクトコンバージョントランスミッタのブロック図
広帯域トランスミッタの要件と問題
MAX2721 I/Q入力ポートは、1kΩのインピーダンスで20MHzの-1dB帯域幅と規定されています。-1dBの入力帯域幅は、実験的に300Ωで44MHz、50Ωで250MHzとなるように決められています。MAX2721は、このような広いベースバンド帯域幅を必要とする新しいワイヤレス規格に対応するために非常に適したものです。
2.4GHz帯域で動作するダイレクトコンバージョン変調は、RF IC設計者にいくつかの設計上の課題を突きつけます。この課題とは特に、I/Q振幅と位相のバランス、およびLO信号で要求される直交精度です。通常、直交変調器は300MHz未満のIF周波数で動作します。振幅と位相のマッチングは、動作周波数が高くなればなるほど実現が難しくなります。直交LOの生成が不完全であったり、2.4GHzでの振幅の不均衡やDCオフセットが生じたりすると、側波帯抑制およびキャリア抑制が不十分になってしまう可能性があるからです。ベクトルの振幅と位相の精度は、エラーベクトル振幅(EVM)の測定によって最適化されています。DSPから得られるI/Q信号を変調すると振幅/位相の誤差とDCオフセットが最小限になると仮定すれば、MAX2721は通常、利得と位相の不均衡がそれぞれ±0.2dBと±1.0°となり、31dBのキャリア抑制と35dBの側波帯抑制が実現できることになります。
主な懸念事項の1つに、パワーアンプ(PA)の強い信号レベルによる、送信シンセサイザ上のVCO挿入プリングがあります。VCO同調周波数を中心とした、PAからの高電力で変調された波形は、伝導または放射のいずれかによって、再びVCOに戻ります。設計者は、PAとVCOの間で適切なアイソレーションを確保するために、PCBレイアウトとシールド方法に細心の注意を払わなければなりません。MAX2721は、この挿入-プリング現象を低減するため、オンチップのLOダブラを備えています。伝導からのアイソレーションをさらに向上するため、MAX2472 VCOバッファを利用しています。2.4GHzでの標準的な逆アイソレーションは、26dBです。
MAX2721は通常、32dBの可変パワー制御範囲を備えています。これはIEEE 802.11bアプリケーションにとっては十分であり、トランスミッタの製品リストに可変利得アンプを追加する必要が一切なくなります。WLLアプリケーション用の追加のパワー制御範囲は、PINダイオード減衰器と可変利得PAを用いて実現でき、これによってパワーアンプの効率を高めることができます。図1に示すPA回路では、ゲート電圧とドレイン電圧の両方をPHEMTデバイス上で変更して、可変利得を得ると同時に、低電力動作でのドレイン電流を減らします。また、MAX2721は+12.5dBmの1dB圧縮ポイントを持つドライバアンプを内蔵しています。このドライバアンプは、変調波形のピーク対平均の比率に応じて、ワイヤレス業界が提供する多様な種類のパワーアンプに接続できるよう、十分な量のリニアパワーを供給します。トランスミッタの性能の概要を表1に示します。
表1. 性能の概要
Output Frequency | 2300MHz |
Modulation | WCDMA |
I/Q Chip Rate | 4.096Mcps, α = 0.22 (HP-E4433B) |
Input I/Q Level | 200mVP-P |
Maximum Power Output | +21dBm |
ACPR | -38dBc (integrated over 4.9MHz BW, POUT = +21.8dBm) |
EVM | 6.6% (typ) |
Carrier Suppression | 30dBc |
Power-Control Range | 25dB (65dB with PIN attenuator and variable-gain PA) |
LO Input Frequency | 1150MHz (fO/2) |
LO Input Level | -13dBm |
PLL Synthesizer Step Size | 125kHz |
PLL Tuning Speed | 2ms to ±1kHz of final frequency |
DC-Supply Voltage | +3.6V and +5.0V for PA |
ACPR測定については図2を、EVM測定については図3を参照してください。LO PLLは、1150MHzで合成されています。LOダブラを有効にし、VGA同調電圧を+2.5Vに設定しています。4.9MHzの帯域幅にわたって積分したACPRの測定値は、-38dBc未満です。チャネル電力はデュプレクサのアンテナポート端で+21.8dBmを記録しています。EVMは、5.9% (min)、6.6% RMS (typ)、および7.9% RMS (max)を記録しています。
図2. アンテナポート端でのトランスミッタのスペクトル表示
図3. トランスミッタ配置とアンテナポート端でのEVM表示
結論
MAX2721は、2.4GHz帯域での広帯域トランスミッタアプリケーション用として理想的です。広いベースバンド帯域幅、内蔵のLOダブラ、可変利得アンプ、および高リニアドライバアンプを備えたこのデバイスは無限の可能性を秘めており、基本の構成要素として機能し、低コストのトランスミッタアプリケーションに最適です。2.3GHzでのテストデータは、WCDMAシナリオにおける、MAX2721のEVMとACPRの優れた性能を実証しています。
参考資料
- Draft Supplement to Standard [for] Information Technology. Part 11: Wireless LAN Medium Access Control (MAC) and Physical Layer Specifications: Higher Speed Physical Layer Extension in the 2.4GHz Band. IEEE Standard 802.11b/D7.0, July 1999.
- Razavi, Behzad, RF Microelectronics, Prentice Hall, Inc. 1998.
- 1.7GHz~2.5GHz、VGAおよびPAドライバ付き、ダイレクトI/Q変調器MAX2720/MAX2721のデータシート、Rev 0、2000年1月。
- 500MHz~2500MHz、VCOバッファアンプMAX2472/MAX2473のデータシート、Rev 0、1999年6月。