低耐圧のGaNをベースとする降圧コンバータ、そのゲートの駆動方法と評価方法を確立する

Figure 1

   

要約

DC/DCコンバータの分野では、パワー・スイッチとして窒化ガリウムをベースとするFET(以下、GaNFET)が広く使われるようになりました。その場合、DC/DCコンバータの回路は、GaN FETの駆動に関連する電圧を高い精度で制御できるように設計する必要があります。本稿では、このことが不可欠である理由について詳しく説明します。また、設計した回路を評価するためには、ハイサイドのGaN FETのゲート - ソース間電圧を正確に測定する方法を確立しておかなければなりません。これについては、先進的な光絶縁プローブを用いた測定方法を紹介することにします。また、その測定方法によって得られた結果を示した上で、従来から広く使われている方法による測定結果と比較します。

はじめに

GaN FETには、シリコン・ベースのFET(以下、シリコンFET)と比べてスイッチング速度が速いという特徴があります。それに加え、電力損失が少なく、パッケージを小型化できるという長所も備えています。これらの理由から、GaN FETを使用して構成したDC/DCコンバータは、より高いスイッチング周波数で動作させることができます。しかも、高い効率を維持しつつ、ソリューション全体のサイズを抑えることが可能です。GaN FETを使用するDC/DCコンバータの基本的な設計は、シリコンFETを使用する場合と比べて大きく異なるわけではありません。とはいえ、いくつかの新たな課題が生じることも事実です。また、設計だけでなく、回路の評価方法についても解決すべき課題が生じます。特に重要な課題の1つは、GaN FETのゲートの駆動に関連する電圧(以下、これらを総称して「ゲート制御電圧」と呼ぶことにします)とそのタイミングを精密に管理することです。GaNFETの場合、そのスイッチング速度が従来のコントローラICや計測装置の許容範囲を超えてしまうことがあります。そのため、適切に制御することが困難になる可能性があるのです。では、この問題に対処するにはどうすればよいのでしょうか。そのためには、GaN FET専用のコントローラICやより高度な測定技術を採用すべきです。そうすれば、それらの課題を解決し、複雑さを増大させることなく信頼性の高いDC/DCコンバータを実現することが可能になります。

GaN FETを使用する降圧コンバータ

まずは図1をご覧ください。これは、GaN FETを使用して構成した降圧(バック)コンバータの例です。この回路では、GaNFETとしてEPC(Efficient Power Conversion)製の「EPC2218」を2つ使用しています。それらを同期整流方式のコントローラIC「LTC7891」で駆動することにより、入力電圧を12Vまで降圧します。EPC2218が対応可能なドレイン - ソース間電圧は最大100Vです。より高い耐圧を備えるGaN FETも数多く製品化されているので、EPC2218は耐圧の低い製品に分類できるでしょう。この降圧コンバータは、500kHzのスイッチング周波数、20Aの負荷電流、48Vの入力電圧という条件で97%の効率を達成します。これは、100Vに対応する現世代のシリコンFETを使用する場合よりも約2%高い効率が得られるということを意味します(電力損失は40%低減)。シリコンFETを使用して同等の効率を達成するには、スイッチング周波数を半分以下に抑えなければなりません。そうすると、インダクタとソリューション全体のサイズが増大します。アナログ・デバイセズはGaN FETに対して最適化された様々なコントローラICを提供しています。LTC7891は、その種の新たなコントローラ・ファミリ製品の1つです*。このファミリの製品は、部品を追加することなくGaN FETのゲート駆動/スイッチングの要件を満たせるように特別に設計されています。LTC7891以外の代表的な製品の例としては「LTC7890」が挙げられます。これはデュアルチャンネルの降圧コントローラICであり、最大100Vの入力電圧に対応します。昇圧コントローラICの「LTC7893」は、最大100Vの出力電圧に対応可能です。「LTC7892」はデュアルチャンネルの昇圧コントローラICであり、最大100Vの出力電圧に対応します。

図1. GaN FETとLTC7891を使用して構成した降圧コンバータ
図1. GaN FETとLTC7891を使用して構成した降圧コンバータ

*LTC7891のゲート駆動電圧は4V~5.5Vであり、GaN FETだけでなく、ロジック・レベルのシリコンFETにも対応できます。また、ゲート駆動電圧が5V~10Vの「LTC7897」は、標準的なシリコンFETに最適な製品です。

GaN FETのゲート制御電圧

DC/DCコンバータで使用されるシリコンFETの多くは、4.5V~10Vのゲート - ソース間電圧、±20Vの絶対最大定格に対応します。一方、GaN FETの場合、100Vのドレイン - ソース間電圧に対応可能な製品でも、長期信頼性の観点から5Vのゲート -ソース間電圧が標準的に使用されます。多くの場合、同電圧の最大値/最小値は6V/-4Vに制限されることになります。このようなGaN FETの仕様を満たすには、ゲート・ドライバ用の電源として高い精度が得られるものを使用する必要があります。つまり、厳密なレギュレートを実現可能な電源を使用しなければなりません。また、周波数の高いオーバーシュート/アンダーシュートも最小限に抑える必要があります。ローサイドのGaN FETについては精度の高い5Vの電源を用意すれば問題ないでしょう。それに対し、ハイサイドのGaN FETのゲート - ソース間電圧を制限するには、追加の回路またはGaN FET専用のコントローラICが必要になります。

ゲート・ドライバ用の電源

図2の回路をご覧ください。これは、スマート・ブートストラップ・スイッチを内蔵するGaN FET用のコントローラIC(LTC7891)の一部を示したものです。ハイサイドのゲート駆動に用いる従来型の電源と同様に、ブートストラップ・コンデンサCBOOTとダイオードDBOOTが実装されています。ハイサイドのスイッチ(図中のTOP)がオフになると、インダクタに電流が流れるか、ローサイドのスイッチ(図中のBOT)がオンになることによって、スイッチ・ノード(図中のSWのノード)がローのレベルにプルダウンされます。ここで、シリコンFETをスイッチとして使用するケースを考えます。両方のスイッチがオフである場合、スイッチ・ノードの電圧はシリコンFETのボディ・ダイオードによってグラウンドよりも約1V低い値までに制限されます。続いて、GaN FETをスイッチとして使用するケースについて考えてみます。その場合、GaN FETは逆方向に導通し、順方向電圧が2V~3Vのボディ・ダイオードのように振る舞います。ブートストラップ・ダイオードを使用する場合、負のスイッチ電圧がブートストラップ・コンデンサの電圧に加算されます。それにより、ハイサイドのGaN FETのゲート - ソース間電圧が上昇します。ここで、このコントローラICのスマート・ブートストラップ・スイッチが働くことにより、クランプ用のダイオードを追加することなくドライバの過充電を防ぐことができます。このアクティブ・スイッチは、BOTがオンになった後にオンになります。そのため、ハイサイドのゲート駆動用のものとして、ボディ・ダイオードによる電圧降下に依存しないレギュレートされた電圧が得られます。また、デッド・タイムが長い場合、コントローラICはスイッチ・ノードの負のスパイクに耐えられます。このように、LTC7891のようなコントローラICを利用すれば、ハイサイドのGaN FETに対応するドライバ用の安定した電源を確立することができます。

図2. スマート・ブートストラップ・スイッチを内蔵するGaN FET用のコントローラ
図2. スマート・ブートストラップ・スイッチを内蔵するGaN FET用のコントローラ

光絶縁プローブによるゲート制御電圧の測定

GaN FETの利用に当たって必要になるのは、ゲート・ドライバ用の安定した電源だけではありません。解決すべきもう1つの課題として、ハイサイドのGaN FETのゲート - ソース間電圧を正確に測定する方法を確立する必要があります。図3に、GaNFETを使用して構成した降圧コンバータのゲート制御電圧の波形を示しました。具体的には、ハイサイドのGaN FETのゲート電圧、ローサイドのGaN FETのゲート電圧、スイッチ・ノードの電圧の測定結果を示しています。図3(左)に示したように、ゲートにターンオン抵抗RTGUPを接続していない場合、TOP(ハイサイドのGaN FET)のゲート - ソース間電圧VTOP_GSは、最大定格である6Vを超えてしまいます。そこで、RTGUPとして2.2Ωの抵抗を追加します。そうすると、図3(右)に示したようにVTOP_GSが低下し、GaN FETのゲートとスイッチ・ノードに現れるリンギングが抑制されます。高インピーダンスのプローブを使用してオシロスコープで測定を行う場合、ローサイドのゲート電圧VBGとスイッチ・ノードの電圧VSWの波形を、グラウンドを基準として取得します。ここで、TOPのソース電圧(VSWに相当)は、VINのレベルとグラウンドのレベルに交互に変化します。しかし、GaN FETの高いスルー・レート(30V/ナノ秒以上)と300MHzのリンギングは、VTOP_GSの測定に一般的に使用される差動プローブの実用的なコモンモードの限界を超えています。そこで、この測定を実施するために、市販の光絶縁プローブを使用することにしました。そのプローブは、TektronixがIsoVu技術を適用し、世界に先駆けて開発したものです。これを使用すれば、高い周波数領域において驚異的なレベルの同相モード除去比 (CMRR:Common Mode Rejection Ratio) が得られます。ただ、同プローブはその性能に応じた価格で提供されています。

図3. 光絶縁プローブを使用して取得したターンオン波形
図3. 光絶縁プローブを使用して取得したターンオン波形

図4は、その光絶縁プローブを使用している様子を示したものです。この種のプローブは、光ファイバ・ケーブルを介してオシロスコープに接続します。それにより、ガルバニック絶縁が実現されるだけでなく、コモンモードの入力容量の値が低く抑えられます。プローブのアッテネータ・チップはMMCXコネクタに直接差し込みます。また、この光絶縁プローブは、ヘッダ・ピンと、MMCXからスクエア・ピンへの変換アダプタを使用することで、プリント回路基板上のテスト・ポイントに接続することも可能です。このプローブの完全な性能を維持するためには、プローブのチップと基板の間の距離ができるだけ短くなるように接続します。その上で、適切にシールドを施します。基板に実装されるMMCXコネクタは、最適な同軸接続を実現します。ただ、GaNFETのゲートとソースからのケルビン接続は可能な限り短い距離で実現してください。

図4. 光絶縁プローブを使用している様子
図4. 光絶縁プローブを使用している様子

パッシブ・プローブを使用する方法

光絶縁プローブを使用するのは、ハイサイドのGaN FETのゲート制御電圧を測定するための最善かつ唯一の方法であるのかもしれません。ただ、一般的な方法と言えるものがもう1つ存在します。それは、パッシブ・プローブを使用するというものです。その方法を用いた場合、光絶縁プローブを使用する方法と比べてどのような違いが生じるのでしょうか。以下、それについて確認してみます。ハイサイドのGaN FETのゲート - ソース間電圧は、グラウンドを基準とする2本のパッシブ・プローブを使用することで測定できます。測定自体には、1台のデジタル・オシロスコープを使用します。その上で、演算機能を利用することによって必要な結果を得ます。この方法は、「A - B方式の測定」または「疑似差動測定」1と呼ばれます。この方法には、電圧の範囲とCMRRが限られているという欠点があります。それにもかかわらず、低電圧に対応するDC/DCコンバータにおけるゲート制御電圧の測定やタイミングの評価に広く用いられています。測定に当たって最初にやるべきことは、同相ノイズ除去についての確認です。そのためには、2つのプローブをdv/dtが大きい単一のノードに接続し、タイミング・スキューの補正を実施します。その状態で、2つのチャンネルで測定した電圧の差をとり、得られた結果を確認します。CMRRが十分に高ければ、実際のゲート制御電圧よりもはるかに小さい残余電圧だけが存在しているはずです。測定を実施する際には、プローブ・ローディングも重要な要素になります。理想的には、プローブを使用することが原因となって測定の対象となる回路の動作や波形に影響が及んではなりません。標準的な高インピーダンスのパッシブ・プローブの場合、入力インピーダンスは10MΩですが、3.9pF~10pFの容量が並列に接続された状態になっています。一方、光絶縁プローブではグラウンドとの間の容量がそれよりも低い値に抑えられます(2pF未満)。また、あまり一般的ではありませんが、低インピーダンス(500Ω~5kΩ)のパッシブ・プローブも提供されています**。その種のプローブは容量が小さいので、A - B方式の測定に役立つ可能性があります。

**低インピーダンスの抵抗分圧方式を採用した高周波向けのZ0プローブ(50Ω整合プローブ)と呼ばれるものです。

パッシブ・プローブを用いた測定の結果

図5に示したのは、パッシブ・プローブを使用してA - B方式の測定を行った結果です。ゲート電圧(VG)の波形、スイッチ・ノードの電圧(VSW)の波形、両者の差分(VG-VSW)の波形をプロットしています。また、破線で示しているのは、光絶縁プローブを使用して測定したTOP(ハイサイドのGaN FET)のゲート - ソース間電圧(VTOP_GS)の波形です。A - B方式の測定には、低インピーダンスのパッシブ・プローブ(5kΩ // < 2pF)を使用しました。容量が大きい(3.9pF以上)プローブを使用すると、プローブ・ローディングの徴候が現れたからです。具体的には、VSWのピークの振幅が顕著に低下しました。図5を見ると、光絶縁プローブを使用した場合とパッシブ・プローブを使用した場合のゲート制御電圧の波形はよく似ています。しかし、図5(右)を見ると、A - B方式の測定による残余コモンモード電圧のピークtoピーク値は2.7Vに達しています。これは、VG - VSWのピークtoピーク値である7Vとの対比で言えば、かなり大きい値だと言えます。高インピーダンスのパッシブ・プローブでも、残余コモンモード電圧のレベルは同等でした。しかし、測定されたVG - VSWのピーク値は17%~30%低くなっていました。このような結果になった原因としては、プローブ・ローディング、マッチング、応答の問題が考えられます。

図5. A - B方式によってTOPのゲート - ソース間電圧(VG - VSW)を測定した結果
図5. A - B方式によってTOPのゲート - ソース間電圧(VG - VSW)を測定した結果

続いて図6をご覧ください。これは、1本のパッシブ・プローブを使用して2つのステップでVGとVSWを測定した結果です。この方法では、1つ目のステップとしてVGの波形を取得し、その結果をメモリに保存します。2つ目のステップでは、同じプローブを使用してVSWの測定を実施します。両方の測定において、オシロスコープはVSWに接続した2本目のプローブによってトリガしています。そして、オシロスコープのチャンネル演算機能を使用し、波形のデータを読み出して減算を行います。この方法では、測定に必要なステップが1つ増えることになります。その一方で、プローブのミスマッチを回避できるというメリットが得られます。結果として、同相ノイズ除去の性能が向上します。高インピーダンスのパッシブ・プローブを使用した場合、予想していたよりも高い性能が示されました。ただ、低インピーダンスのプローブを使用した方が、確かな評価を得ている光絶縁プローブを使用した場合と近い結果が得られました。したがって、この測定に対しては、低インピーダンスのプローブがより優れた選択肢になると言えます。

図6. 1本のプローブによってTOPのゲート - ソース間電圧(VG - VSW)を測定した結果
図6. 1本のプローブによってTOPのゲート - ソース間電圧(VG - VSW)を測定した結果

まとめ

比較的耐圧が低いGaN FETを使用してDC/DCコンバータを構成すると、シリコンFETを使用する場合と比べて性能とサイズの面で明確なメリットが得られます。しかし、それらのメリットを享受するためには新たな課題を解決しなければなりません。すなわち、GaN FETのゲート制御電圧をより精密に管理する必要があります。また、ハイサイドのGaN FETのゲート - ソース間電圧を測定するための適切な方法を確立しなければなりません。GaN FET向けに最適化されたコントローラICと適切な測定方法を組み合わせれば、これらの課題を解決できます。そうすれば、追加の回路を使用することなく、堅牢性に優れる効率的な設計を実現することが可能になります。

※初出典 2026年 TECH+(マイナビニュース)

参考資料

1Fundamentals of Floating Measurements and Isolated Input Oscilloscopes(フローティング測定と絶縁入力オシロスコープの基礎)」Tektronix

著者について

Kurk Mathews
Kurk Mathewsは、アナログ・デバイセズのシニア・アプリケーション・マネージャです。パワー・アプリケーションとコントローラICの開発をサポートするパワー・コントロール・グループ(カリフォルニア州)に所属。アナログ回路の設計と、様々な計測機器を用いたトラブルシューティングに注力しています。アリゾナ大学で電気工学の学士号を取得しました。
Luis Onofre Lazaro
Luis Onofre Lazaroは、アナログ・デバイセズのアプリケーション・エンジニアです。2020年に入社しました。パワー・コントロール・グループ(カリフォルニア州)に所属。カリフォルニア・ポリテクニック州立大学で電気工学の学士号を取得しています。
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