要約
ほとんどの携帯用電子機器には3接点あるいは4接点のジャックが用意されています。このようなジャックは、ステレオヘッドフォン用、マイク入力とフックスイッチのついたモノラルヘッドフォン用、マイク/フックスイッチのついたステレオヘッドフォン用などとして使われます。MAX9060シリーズなどの超小型、超低電力コンパレータを利用すると、消費電力を無視することができるレベルに抑えつつ、接続されたアクセサリを検出可能な費用対効果の高いシンプルな小型ソリューションを作ることができます。
このアーティクルは「マキシムのエンジニアリングジャーナルvol. 65」 (PDF、2.64MB)にも掲載されています。
Audio DesignLineの2008年11月にも同様のアーティクルが掲載されています。
近年、広く普及している電子機器(携帯電話、PDA、ノートパソコン、携帯用メディアプレーヤ、ゲーム機など)は、ほとんどの場合、さまざまな外部アクセサリを接続することができるようになっています。そのため、アクセサリの有無だけでなくその種類を検出し、それに応じて内蔵制御回路を調節するための専用ロジック回路が組み込まれています。
自動検出/選択機能を実現する回路が増えると、システム全体が消費する電力の増加という問題が発生します。設計者としては、できる限り小さな実装面積で極力「グリーン」なソリューションとなるよう、システムの電力量は最小限に抑えなければなりません。そのためにはMAX9060シリーズをはじめとする超小型、超低電力コンパレータが半導体市場の中で最も適したソリューションを提供します。消費電力を要求仕様範囲内に抑えるためには、このようなコンパレータの採用が鍵となります。
物理的回路でジャックの有無を検出する
まず最初に、ジャックの自動検出の概要を紹介します。
図1はごく一般的なヘッドフォンソケットの回路です。この図のように検出用端子へプルアップ抵抗を接続すると、ヘッドフォンなどの外部機器の接続を示す信号を得ることができます。検出用端子は、多くの場合、外部機器が接続されると切断される構造になっています。
この回路では、ジャックがないと出力信号がハイ、ジャックが挿入されていると出力信号がローになります。この検出信号をマイクロコントローラのポートに接続すれば、ヘッドフォンが差し込まれていない場合にはオーディオ出力をスピーカへ、差し込まれていればヘッドフォンへと自動的に切り替えることができます。
なお、シンプルなトランジスタ回路をバッファとして検出端子とマイクロコントローラ入力の間に入れることもできます。こうすれば、コントローラとの接続に必要なレベル変換もバッファ部分で行うことができます。携帯電話やPDAなど、スペースが限られている機器には、2~3ミリメートル以下という小型パッケージのトランジスタがいいでしょう。このバッファリングとレベル変換は、超小型パッケージの低コスト、低電力コンパレータで行うこともできます。1mm x 1mmというチップスケールのパッケージで消費電力はわずか1µAというMAX9060ファミリ製品などがあります。
図1. ジャックの自動検出回路
ヘッドセットの検出
図1に示すオーディオ用ソケットは、一般的な3接点のオーディオプラグに対応した設計となっています。プラグの先にはステレオヘッドフォンか、マイク付きのモノラルヘッドセットのいずれかがあります。つながっているのがステレオヘッドフォンとマイク付きモノラルヘッドセットのいずれであるのかは、以下のような回路を使えば簡単に判別することができます。ヘッドフォンは電気抵抗が小さく(8Ω、16Ω、または32Ωであることが多い)、マイクは電気抵抗が大きい(600Ωから10kΩ)ことを利用します。
まず、オーディオジャックやエレクトレットマイクの一般的な構造を確認しましょう。3接点のオーディオジャック(図2)の場合、先端の「チップ」はステレオヘッドフォンの左チャネルあるいはマイク付きモノラルヘッドセットのマイクに接続されます。ステレオヘッドフォンの場合、中央の「リング」が右チャネル、根元の「スリーブ」がグランドとなります。マイク付きモノラルヘッドセットの場合は、リングがモノラルマイクへの入力、スリーブがグランドとなります。
図2. 3接点のオーディオジャック
エレクトレットマイク
一般にエレクトレットマイク(図3)は内部にコンデンサを持ち、機械的な振動に対応してその静電容量が変化する構造となっています。これによって、音波に比例する電圧変動を得ます。エレクトレットマイクには永久的に電荷を蓄える物質が使われており、外部電源を必要としません。ただし、内蔵されるFETプリアンプの電源として数ボルトの電圧をかける必要があります。
図3. エレクトレットマイクの回路例
エレクトレットマイクは出力インピーダンスが非常に高い定電流シンクとなります。この出力は、FETプリアンプでインピーダンスを引き下げ、後段のアンプに接続します。エレクトレットマイクは低コスト、小型、および高感度という特長を持つため、携帯電話のハンズフリー通話用ヘッドセットやコンピュータのサウンドカードなどのアプリケーションに最適です。
マイクには、バイアス抵抗(1kΩから10kΩ程度)を経由して一定のバイアス電流を流します。バイアス電流はメーカーや製品によって異なりますが、100µAからだいたい800µA程度です。バイアス抵抗は、電源電圧、バイアス電流、および必要となる感度を考慮して決定します。つまり、部品や動作条件によって必要なバイアス電圧は異なります。たとえば、負荷抵抗が2.2kΩ、電源電圧が3Vで100µAのバイアス電流を流す場合、バイアス電圧は2.78Vとなります。同じ条件で800µAのバイアス電流を流す場合は、バイアス電圧が1.24Vとなります。
ソケットに差し込まれたヘッドセットの種類を判別する方法を図4に示します。この回路では、2.2kΩのRMIC-BIAS抵抗がオーディオコントローラからの低ノイズリファレンス電圧(VMIC-REF)に接続されています。オーディオジャックが差し込まれると、RMIC-BIASを経由してチップ-グランド間の抵抗(図には記載されていない)へVMIC-REF電圧が印可され、MAX9063の非反転入力にVDETECTという電圧が入力されます。チップ-グランド間の抵抗は、ステレオヘッドフォン(8Ω、16Ω、または32Ω)の場合には小さく、100µAから800µA程度の定電流シンクであるマイクの場合は大きくなります。こうして差し込まれたヘッドセットによって異なるVDETECTが発生するため、VDETECTをコンパレータでモニタリングすれば ヘッドセットの種類を判別することができます。
図4. ヘッドセットの検出に使用するコンパレータ回路
この図のようにマイクロコントローラのリファレンス電圧(VMIC-REF)が3Vの場合、32Ωのヘッドフォン負荷を接続するとVDETECTが43mVとなります。これに対し、500µAの定電流が流れるマイク負荷では1.9Vとなります。ただし、このVDETECTを直接検出するのは基本的に困難です。一般的なマイクロコントローラのポートはCMOS入力では、ロジックレベルを0.7 x VCC以上と0.3 x VCC以下とする必要があります。つまり、電源電圧が3.3Vの場合、コントローラの入力ロジックは2.3V以上と1V以下にしなければなりません。
500µAのマイク負荷によって生成される1.9Vレベルの電圧では、ロジックをハイにすることはできません。マイクのバイアス電流が100µA~800µAの範囲だとすると、生成されるVDETECTは2.78Vから1.24Vとなりますが、このうち、2.3V未満の電圧はコントローラのVIH仕様(入力がハイとなる条件。ただしRBIASは2.2kΩと仮定)を満足しません。2.3V以上のVDETECTを得るためには、マイクのバイアス電流が318µA以下である必要があります。異なるバイアス電流のマイクを使う場合にはバイアス抵抗の2.2kΩを変更する必要がありますが、そうすると、今度はマイクの感度が変化してしまいます。これに対し、1V以下のロジックローを得るのは簡単です。ヘッドフォン負荷は32Ω程度であることが多く、グランドに近いレベルの電圧は簡単に生成されるからです。
接続されたヘッドセットの種類をこのような条件で判別するためには、VDETECTとリファレンス電圧をコンパレータで比較する必要があります。こうすれば、ヘッドセットの種類を表す状態をコンパレータから出力することができます。
このヘッドセット検出アプリケーション用コンパレータは、ポータブル用であるゆえに小型で消費電力も少ないものとすべきです。図4に示すコンパレータはわずかに1mm x 1mmという大きさで消費電流も最大で1µAにすぎません。また、携帯電話で使用されている周波数の影響を受けにくく、高い信頼性で動作させることができます。内部にヒステリシスを持つとともに入力バイアス電流が小さいというのも特長です。このため、携帯電話や携帯用メディアプレーヤ、ノートパソコンなど、スペースと消費電流が大きな意味を持つバッテリ駆動のアプリケーションで使用するヘッドセットの検出に最適な回路だと言えます。
フックスイッチの検出
ほとんどのハンズフリー通話用のヘッドセットには、通話を始めたり終わりにするフックスイッチと呼ばれるスイッチが内蔵されています。このスイッチにはMUTE/HOLD機能があり、通話を保留にして別の電話に出るときなどに使います。このようなヘッドセットの制御を行う場合、マイクロコントローラでヘッドセットの有無を検出するとともにフックスイッチの状態も把握する必要があります。ジャックが差し込まれたこと(つまりヘッドセットが接続されたこと)は、自動的に検出が可能です(図1)。フックスイッチの状態を示す信号も生成可能です。マイクと並列にフックスイッチが入ったステレオヘッドセットの場合、4接点でフックスイッチの状態を検出する回路を構成します(図5)。モノラルのヘッドセットの場合、3接点のコネクタを用いる以外は同様となります。どちらのタイプのヘッドセットでも、先端はマイクおよびマイクと並列に入っているフックスイッチにつながっています。図から明らかなように、フックスイッチを押すと抵抗が小さくなり、離すとマイクによって抵抗値が大きくなります。ヘッドセット検出においても説明しましたが、マイク/フックスイッチの検出においてもヘッドフォン検出電圧とマイクロコントローラのCMOS入力の整合をとるインタフェース回路が必要になります。
図5. MAX9063コンパレータを使用したフックスイッチの検出回路
フックスイッチを押すと電圧VDETECT (図5)はグランドとほぼ等しいレベルに低下し、マイクロコントローラはロジック0であると解釈します。しかしフックスイッチを離したとき、VDETECTがCMOS入力のVIH仕様を満足するとは限りません。VDETECT入力は、RMIC-BIAS (今回の例では2.2kΩ)とヘッドセット内のマイクの種類によって、1.24V~2.78Vの間で変化する可能性があります。
つまり、すべてのマイクの種類に対してフックスイッチとコントローラを直接接続が可能なわけではありません。そのため、図5に示すように低電力コンパレータを使用します。リファレンス電圧を適切に設定すれば、所定の種類のマイクを検出するとともにフックスイッチの状態を把握することができます。フックスイッチを押すとコンパレータ出力がハイになり、離すとローになります。このフックスイッチ検出アプリケーションも、MAX9060シリーズのコンパレータを使用した低電力ソリューションで実現することができます。
図6はオシロスコープのスコープショットで、モノラルヘッドセットのフックスイッチを押したときの変化を示しています。回路は図5と同じですが、試験用に携帯電話用の2.5mmユニバーサルヘッドセットを使いました。ヘッドセットの先端にはエレクトレットマイクとフックスイッチが接続されており、リングには32Ωのスピーカが接続されています。マイクは、電源3V、バイアス抵抗2.2kΩで、212µAのバイアス電流が流れるものを使用しています。
図6. モノラルヘッドセットと内蔵制御回路を用いてフックスイッチ付きのエレクトレットマイクについて測定した波形です。モノラルヘッドフォンのフックスイッチを押してマイクをショートさせるとそれをコンパレータが検出し、コンパレータ出力がロジックハイになります。
VDETECTの時点におけるDC電圧は2.52Vで(図6)、MAX9063の出力はローにアサートされています。フックスイッチを押してVDETECTをグランドに落とすと、外付けのプルアップ抵抗(10kΩ)によってMAX9063の出力がハイになります。このようにわずか1mm x 1mmという小型のCSPパッケージに収められたコンパレータMAX9063は、フックスイッチとアクセサリの検出に適しています。同じくコンパレータのMAX9028ファミリも利用に適しています。
まとめ
さまざまなポータブルアプリケーションにおいて、ジャック、ヘッドセット、およびフックスイッチの検出を行う必要があります。このようなとき、特に実装面積も消費電力も小さくしなければならないような場合には、MAX9063シリーズやMAX9028シリーズなどの専用コンパレータが最適です。これらのコンパレータを使用すれば、ポータブルアプリケーションにおいて安価に検出回路を実現することができます。