GSMの概要及びGSMモバイルRFトランシーバの考察

GSMの概要及びGSMモバイルRFトランシーバの考察

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要約

このアプリケーションノートでは、GSMトランシーバのテストで必要となる基本的な測定について説明します。また、GSMモバイルの性能についても考察します。本書は、GSM RFシステムの経験の浅いRF設計者がGSMシステムについて的確に理解できるように書かれました。

GSMの概要

携帯電話の要件について説明する前に、この章では、GSM(Global System for Mobile Communications:モバイル通信のためのグローバルシステム)の概要について説明します。

GSMシステムは、ETSI(ヨーロッパ電気通信標準化協会)の一部門として定期的に会合していた専門家チームによって規定されたものです。現在GSMは、真の意味で「モバイル通信のためのグローバルシステム」となりつつあり、ほんの一例を挙げるだけでもヨーロッパ、アジア、アフリカ、及び南アメリカの大部分に普及しています。

GSMはその後、GSM900、DCS1800(PCNとも呼ばれる)、及びPCS1900(米国)に発展しました。

PCNは、英国においてMercury one-to-oneとHutchinson(Orange)が導入したもので、DCS1800を初めて使用した2つのネットワークです。PCNはこれ以降、世界中のその他の地域に普及しました。


2.1. 技術の相違点


この項では、GSMの新人エンジニアからよく尋ねられる質問を取り上げます。

2.1.1. GSMはCT2やDECTとどう違うのか?

GSM900とDCS1800はセルラシステムであり、DECTとCT2はコードレスシステムです。GSMでは、AMPSやTACSと同様、広域に渡る呼び出し発着信が可能です。このシステムはレジスタを使用してすべての携帯電話の位置をログ記録します。これによって、適正な基地局に呼び出しが転送されます。

他のコードレスシステムと同様、DECTとCT2にはこの追跡機能はありません。これらは従来の家庭用コードレス電話とほぼ同じ方法で動作します(携帯電話がヘッドセットの基地局の範囲内にある場合にのみ受信可能で、その他の場所では受信することはできません)。

2.1.2. GSM900、DCS1800、及びPCS1900はどう違うのか?

GSM900は最初のGSMシステムです。900MHz帯(1~124の番号)を使用し、広範囲でのセルラ運用を目的として設計されています。1W~8Wの最大出力電力がモバイルアプリケーションで利用することができます。GSMのセル半径は35Kmですが、アンテナパターンよっては最大60Kmも可能です。

DCS1800はGSM900の改良版で、1.8GHzを中心とした、さらに広い周波数帯を使用しています。このため、ユーザがより密集している地域にも対応できます。またDCS1800携帯電話は、低出力電力(最大1W)にも対応できるよう設計されており、セルの大きさがGSM900のセルよりも本質的に小さくなり、半径は約20Kmになります(アンテナパターンに応じて変化する可能性があります)。

その他のすべての点において、GSM900とDCS1800は同じです。その後、GSMのフェーズ2の仕様が規定され、新たな帯域幅とチャネルがGSM900に割り当てられました。これは現在では、E-GSM(Extended band GSM)と呼ばれています。さらに、この仕様では、モバイル用の低電力制御レベルが可能となり、マイクロセルの運用が実現しています。

PCS1900(DCS1900とも呼ばれる)は、1.9GHzを中心として動作するよう米国で設計されたものです。これは基本的に1.9GHzでGSM技術を利用したものです。


2.2. GSMのセル


GSMのセルのうち最も目に付きやすい要素は基地局とそのアンテナ塔です。一般的には、共通のアンテナ塔を中心として複数のセルが扇形に分割されています。アンテナ塔は複数の指向性アンテナを備えており、それぞれが特定の地域を取り扱います。この複数のアンテナの共同設置場所のことをセルサイト、あるいは基地局または無線基地局(BTS:Base Transceiver Station)と呼ぶこともあります。

すべてのBTSは、常に利用可能なBCH(報知チャネル:Broadcast Channel)を生成しています。これは「灯台の明かり」と考えることができます。BCH信号はセル内のすべての携帯電話で受信されます。これは各携帯電話が呼び出しを受けているかどうかには関係なく、以下の目的のために実施されます。

  • 携帯電話がGSMネットワークを検出することができるようにする
  • ネットワークが、特定の携帯電話に最も近いBTSを検出することができるようにする
  • ネットワークID(vodaphoneやMannesmannなど)のような符号化された情報を認識することができるようにする
  • 呼び出しやその他のさまざまな情報を受け取る必要のある携帯電話にメッセージを無線送信することができるようにする

BCHが使用する周波数チャネルは各セルで異なります。チャネルは干渉の危険性の低い遠く離れたセルでのみ再利用することができます。

通話中の携帯電話はTCH(情報チャネル:Traffic Channel)を使用します。これは双方向のチャネル(アップリンク及びダウンリンクと呼ばれる)で、携帯電話と基地局間の音声データの交換に使用されます。GSMは、アップリンクとダウンリンクを異なる周波数帯に分離しています。

TCHはアップリンクとダウンリンクの両方で周波数チャネルを使用するのに対して、BCHはダウンリンク帯のチャネルのみを占有します。アップリンクの対応チャネルは完全に空きチャネルのまま残されます。これは携帯電話の臨時チャネルまたはランダムアクセスチャネル(RACH:Random Access Channel)として使用されます。携帯電話が基地局に要求を送信したいとき(すなわち電話をかけるとき)、この空き周波数チャネルを使ってRACHを送信します。


2.3. GSMの変調


GSMは、0.3GMSK(Gaussian Minimum Shift Keying)というデジタル変調方式を使用しています。0.3は、ビットレートに対するガウスフィルタの帯域幅を表しています。

GMSKは、特殊なタイプのデジタルFM変調です。1と0は、RFキャリアを±67.708kHzだけ偏移させることで表現します。2つの周波数を利用して1と0を表現する変調方式は、FSK(周波数偏移:Frequency Shift Keying)変調と呼ばれます。GSMの場合、RF周波数偏移の4倍にするために270.833kbpsのデータレートが選択されています。これは、変調スペクトルを最小化してチャネル効率を向上する効果があります。ビットレートが周波数偏移の正確に4倍のFSK変調をMSK(Minimum Shift Keying)と呼びます。GSMでは、予変調のガウスフィルタを利用することで変調スペクトルがさらに低減されます。これにより急激な周波数遷移が緩和されます。これを利用しないと、エネルギが隣接チャネルに広がることになります。

0.3GMSKは位相変調ではありません(したがって、たとえばQPSKの場合のように絶対位相状態によって情報が伝達されるということはありません)。情報を伝達するものは、周波数の偏移つまり位相状態の変化です。GMSKはI/Qダイアグラムによって視覚化することができます。ガウスフィルタのない状態で、1のストリームが継続的に送信されると、MSKは実質的にキャリアの中心周波数より67.708kHz上側にとどまることになります。キャリアの中心周波数を固定の位相基準と考えると、67.708kHzの信号によって常に位相の増加が生じることになります。位相は1秒間に67,708回転の速度で360度回転します。1ビットの期間(1/270.833kHz)に、位相はI/Qダイアグラムの4分の1つまり90度回転します。1は90度の位相増加とみなされます。同様に、1が2つで180度の位相増加、1が3つで270度の位相増加となります(以下同様です)。0は、同様の位相変化が反対方向に生じます。

正確な位相の軌道は非常に厳しく制御されます。GSM無線は、デジタルフィルタとI/Q、あるいはデジタルFM変調器を使用して正しい軌道を正確に生成します。GSM仕様では、理想的な軌道から、rms(自乗平均)で5度及びピークで20度を超える偏差は許されていません。


2.4. TDMAとFDMA


GSMは、TDMA(時分割多元アクセス)とFDMA(周波数分割多元アクセス)を使用しています。周波数は2つの帯域に分割されています。アップリンクは携帯電話からの送信、ダウンリンクは基地局からの送信に使用されます。各帯域はARFCN(Absolute Radio Frequency Channel Number)と呼ばれる200kHzのスロットに分割されます。周波数を分割すると同時に、GSMは時間も分割します。各ARFCNは8台の携帯電話で共有され順番に使用されます。各携帯電話はARFCNを1タイムスロット(TS)だけ使用し、再び順番が回ってくるまで待機します。TS番号とARFCNの組み合わせを物理チャネルと呼びます。


2.5. GSM携帯電話の電力制御


携帯電話のセル内の移動に合わせて、トランスミッタの電力を変化させる必要があります。携帯電話が基地局に近いとき、他のユーザとの干渉を避けるために電力レベルは低く設定されます。携帯電話が基地局から離れるほど、増大する伝搬損失を抑えるために電力レベルは高く設定されます。

すべてのGSM携帯電話は、基地局からの指令に応じて2dBステップで電力を制御することができます。


2.6. タイミングアドバンス


GSMでは時分割多元アクセス(TDMA)を使用するので、タイミングアドバンスが必要となります。携帯電話から基地局への無線信号の送信時間は限られているため、信号を正しい時刻に確実に基地局に到着させるための手段が必要になります。

タイミングアドバンスがなければ、セルの末端のユーザから送信されたバースト信号が遅れて到着し、基地局のすぐ隣のユーザから送信された信号を破損します(ただし、タイムスロット間で最大信号伝送時間よりも長いガードタイムを使用する場合は除く)。携帯電話のタイミングを進ませることで、送信信号は正確な時刻に基地局に到着します。携帯電話(MS)が移動するとき、セルの中心に近づくにつれて基地局(BTS)は携帯電話にタイミングアドバンスを減らすように信号を送り、またセルの中心から離れるにつれてタイミングアドバンスを増やすように信号を送ります。


2.7. GSM TDMA電力バースト


GSMはTDMAシステムであり、1つの周波数ペアを8人のユーザが使用しているため、各ユーザは許容時間帯にのみトランスミッタをオンにし、時刻どおりにトランスミッタをオフにする必要があります。こうすることで、隣接タイムスロット内の他のユーザとの干渉を避けることができます。

GSMは、タイムスロットのRFバーストの振幅エンベロープと、タイムスロット内の有効ビットのアクティブ部の平坦性の両方を規定しています。振幅エンベロープは70dBを超えるダイナミックレンジを備えています。またタイムスロットのアクティブ部に対する平坦性の測定値は±1dB未満であることが必要です。これらはすべて、1タイムスロットの577μS以内に行われます。


2.8. GSMの携帯電話のスイッチをオンにしたときの動作


初めて携帯電話のスイッチをオンにしたとき、携帯電話はダウンリンクの124チャネルすべてで信号を検索します。次に、受信した信号の強度によってチャネルを並び替えて、チャネルがBCH(報知チャネル)かどうかを確認します。携帯電話がBCHを検出すると、FCH(Frequency correction channel)とSCH(Synchronization channel)から内部周波数とタイミングを調整してから、BCHが公衆陸上移動網(PLMN)からのものかどうかを確認します。この処理では、SIMカードに保存されている利用可能なネットワークと国のコードを、BCCH上で符号化された情報に比較することが必要になります。携帯電話は適切な報知チャネルが見つかるまでこのサイクルを繰返します。携帯電話が、最後に使用したときと違うセル内にあることを認識した場合、ネットワークに現在地を知らせる必要があります。ネットワークはあらゆる携帯電話の場所を常に監視する必要があります。こうすることで、特定の携帯電話に対応する適正なセルに呼び出しを転送することができます。ネットワークに現在地を知らせるこの処理は「位置の更新」と呼ばれます。

携帯電話が基地局との同期を完了し、ネットワークの使用が許可されたと判断すれば、そこで停止します(必要なら位置の更新を行う)。停止すると、携帯電話は呼び出しの送受信の準備が完了したことになります。

GSMトランシーバの測定

GSM規格は、各構成部品が厳密な制限値の範囲内で動作する場合にのみ正しく機能する無線通信システムを定義しています。基本的に携帯電話と基地局は十分な電力を送出する必要があります。ただし、許容可能な品質の通話を維持するための忠実度を備え、さらに他の携帯電話に割り当てられた周波数チャネルやタイムスロットに過大な電力を送出することなく実行する必要があります。同様にレシーバは、低レベルの信号を受信して復調するだけの適切な感度と選択性を備えている必要があります。

GSM携帯電話のトランスミッタとレシーバの測定は、ETSI 3GPP規格(05.05.V8.12.0の項の「Radio access network; radio transmission and reception (1999年公開)」に基づいています。

この章では、GSMのテストで必要となるトランスミッタとレシーバの基本的な測定法のいくつかについて説明します。これらのテストによりGSM規格に準拠していることが保証されます。


3.1. トランスミッタ


性能は、チャネル内、チャネル外、そして帯域外の3つの領域において重要となります。

チャネル内測定は、対象ユーザに備わるリンク品質を測定します。この測定には、以下が含まれます。

  • 位相誤差と平均周波数誤差
  • RFキャリアの平均送信電力
  • RFキャリアの送信電力対時間

チャネル外測定は、ユーザが他のGSMユーザに対してどの程度干渉するかを測定します。この測定には、以下が含まれます。

  • 変調と広帯域ノイズによって生じるスペクトル
  • スイッチングによって生じるスペクトル
  • Tx/Rx帯域のスプリアス

帯域外測定は、あるユーザがGSM以外の無線周波スペクトル(軍、警察、航空機用など)のユーザにどの程度干渉するかを測定します。他のすべてのスプリアス(高調波や広帯域など)がここに含まれます。

3.1.1. 位相誤差と周波数誤差

位相誤差は、変調の精度を明らかにするためにGSMで使用されるパラメータの1つです。通常、位相誤差が貧弱であるということは、トランスミッタ回路におけるI/Qベースバンド発生器、フィルタ、変調器、またはアンプに問題があることを示しています。

周波数誤差が測定されるということは、シンセサイザ/位相ロックループの性能が低いことを示しています(たとえば、各送信毎に周波数が偏移する際にシンセサイザが迅速に安定しないことがあります)。GSMシステムでは、周波数誤差が貧弱であるために、目的のレシーバが送信信号のロックを得られない場合があります。また、トランスミッタが他のユーザとの干渉を引き起こす可能性もあります。

位相誤差と周波数誤差を測定するために、テストセットを使ってテスト対象デバイスの送信出力をサンプリングすることによって、実際の位相の軌道を捉えることができます。その後、これを復調すると、数学的に理想的な位相の軌道が得られます。一方の軌道から他方の軌道を減算すると誤差信号が得られます。この信号の平均勾配(位相/時間)が周波数誤差を表します。この信号のばらつきは位相誤差であり、自乗平均(rms)とピークで表されます。以下の図は、このテストの手順を示しています。

以下の図は、ある送信バーストでの測定と、GSM規格で設定されている制限値との関係を示しています。

3.1.2. 平均送信出力電力

GSMシステムは、動的な電力制御を使用して、各リンクが最小電力で十分に維持されることを保証しています。これにより全体的なシステム干渉を最小限に抑え、MS(携帯電話)のバッテリ寿命を最大限に延ばすことができます。

電力測定値が仕様から外れている場合、通常、パワーアンプ回路、キャリブレーションテーブル、または電源に障害があることを示しています。GSMの平均出力電力はGSMバーストの有効部分の間で測定されます。この測定の実施中、GSMのテスト機器は、入力信号を復調し、GSMバーストの有効部分をゲート制御することにより、正確なタイミング基準を導出します。

3.1.3. RFキャリアの送信電力対時間

GSMシステムでは、トランスミッタはTDMA構成の範囲内で立上り/立下りを実施し、隣接タイムスロットの干渉を防いでいます。トランスミッタがオンになるのが遅すぎる場合、バーストの先頭のデータが消失し、リンクの品質が劣化することになります。また、オフになるのが遅すぎると、TDMAフレーム内での次のタイムスロットのユーザが干渉を受けることになります。

したがって、この測定は、規定されたマスクに対して、時間領域内のキャリア電力のエンベロープを評価するために行われます。またトランスミッタのオフが完了していることの確認も実施します。トランスミッタが「RFキャリアの送信電力対時間」の測定に失敗した場合は通常、装置のPA(パワーアンプ)または電力制御ループに問題があることを示しています。

3.1.4. 隣接チャネル電力(ACP:Adjacent Channel Power)

ACPは、次の2つの測定方法で定義します。

  • 変調と広帯域ノイズによって生じるスペクトル
  • スイッチングによって生じるスペクトル

通常、これら2つの測定はまとめて「出力RFスペクトル」(ORFS:Output RF Spectrum)と呼ばれます。

3.1.4.1. 変調と広帯域ノイズによって生じるスペクトル

トランスミッタでの変調プロセスによって、連続波のキャリアがスペクトル的に拡散されます。「変調と広帯域ノイズによって生じるスペクトル」の測定は、変調プロセスが過剰な拡散を生じないことを保証するために使用します。この拡散により隣接チャネルのユーザに干渉を引き起こすおそれがあるからです。

この測定を実施するために、アナライザをスポット周波数に調整し、次に変調されたバーストの一部に対して時間的にゲート制御します。次に、このモードを使用して電力を測定した後、アナライザは次の周波数、つまり対象のオフセットに再調整されます。このプロセスは、すべてのオフセットを測定し、許容制限値と照らし合わせてチェックするまで継続されます。この結果は、信号のスペクトルを定義する、一連の「周波数対電力」の点になります。ただし、バーストの影響によって生じるスペクトル成分は、ランプがゲート制御されるため現れません。

この測定のテスト制限値はdBcで表されます。このため測定の最初のステップは、トランスミッタが調整される中心周波数の読取りを行うことです。

3.1.4.2. スイッチングによって生じるスペクトル

GSMトランスミッタはRF電力を急激に立ち上げます。上述の「RFキャリアの送信電力対時間」の測定は、このプロセスが正確な時刻に十分な速さで実施されることを保証します。ただし、RF電力の立上りが早すぎた場合、不要なスペクトル成分が送信の中に現れます。この測定は、これらの成分が許容レベル未満に収まることを保証するものです。

「スイッチングによって生じるスペクトル」の測定を実施するために、アナライザはゼロスパンモードの多重オフセット周波数に調整して測定します。この場合には、時間的なゲート制御は行いません。

3.1.5. スプリアスの測定

これらは、GSMトランスミッタがスペクトルの間違った部分にエネルギを注入しないようにするために必要です。他のスペクトルを使用するユーザに干渉するのを防ぐためです。

ここでは、伝導スプリアスを取り上げます。これらはMS(携帯電話)のアンテナコネクタにテストセットを直接接続して測定します。このパラメータの測定には、以下が含まれます。

  • TxとRx帯域のスプリアス
  • クロスバンドのスプリアス
  • 帯域外スプリアス

3.1.5.1. GSM TxとRx帯域のスプリアス

Tx帯域のスプリアス測定は、925MHz~960MHzのGSM Tx帯域内にあるスプリアスに関連するものです。

ただし、Rx帯域のスプリアス測定は、トランスミッタによってRx帯域(880MHz~915MHz)に注入されるエネルギの目安となります。このテストは、隣接するレシーバをTxスプリアスが「ジャミング」しない、すなわち感度を落とさないことを保証するものです(この仕様は平均1mの携帯電話間距離に基づいたものです)。

この測定を実施するときには通常、アナライザ入力の前にRxバンドパスフィルタを使用してTx帯域信号を減衰させます。

3.1.5.2. クロスバンドのスプリアス(たとえば、GSM900とDCS1800)

国によっては、GSM900システムとDCS1800システムが共存しています。このため、ETSI 3GPP規格では特定のクロスバンド性能を要求しています。これにより、GSMトランスミッタがDCS1800帯に注入するエネルギが最小限になるようにしています。また逆の場合も同様です。

3.1.5.3. 帯域外スプリアス

帯域外スプリアスは、100kHz~12.75GHzという広範な周波数範囲に渡る、スペクトラムアナライザによる一連の測定です。3GPP規格では、携帯電話が準拠する必要のある、広帯域のスプリアス制限値が含まれるように規定されています。


3.2. レシーバ


この項では、GSMレシーバの定義で使用する、主要なレシーバ性能パラメータのいくつかを定義して説明します。

3.2.1. 感度

感度は、レシーバ性能の基本的な目安です。これは、復調された情報において、規定の誤差(割合)を実現できる最小信号レベルを規定します。レシーバのすべての測定について報告される値は、BER(ビットエラー率)またはそれに類似するもので、以下にこれらを示します。

  • FER(フレーム削除率):これは、観察期間中に送信された合計フレーム数に対する削除されたフレーム数の割合です。
  • RBER(残留ビットエラー率):フレームが削除されたとき、残ったフレームのBERだけを測定します。RBERパラメータはこの測定値を定義します。

BERは、受信した合計ビット数に対する誤って受信したビット数の割合です。これは次の方法で測定します。テストシステムは、既知のビットパターン(通常はPRBS(擬似乱数ビット列))を搬送する信号を出力します。PRBS信号は通常PNxと表示されます。ここでxは、列の中で並べ替えられるビット数を表します(たとえば、PN9 = 2^9 - 1、つまり511ビットになります)。

次に、テスト対象のレシーバはこのパターンを復調及び復号し、結果として生じたビットを比較のためにテストシステムに復路を経由して返送します(ループバックという方法を使用)。データを受け取ると、テストシステムは必要な測定基準を算出します。GSM電話機は、このループバック方法を使用してテストされます。

3.2.2. 共通チャネル除去

ほとんどのレシーバは、チャネル内に干渉信号が存在する状態で、規定のBERを維持することを要求されます。GSMでは、以下の方法でこのパラメータを測定します。
共通チャネルは、感度点の20dB上で、フェージングとGMSKの変調干渉源のある状態にてテストします。
デジタル変調信号の電力は、レシーバ感度の20dBs上で、レシーバの通過域の中心に設定し、(希望の周波数と同じ周波数に対する)GMSK変調干渉源及びフェージング特性と組み合わせます。その後、レシーバのアンテナポートに組み合わせた信号を注入します。次に干渉信号の電力レベルを公称レベルに設定します(これは、レシーバのBERがレシーバの感度仕様を超えてはならないレベルです)。2つの信号間の電力レベルの違いが干渉比です。

3.2.3. レシーバのブロッキング

このパラメータは、チャネル外レシーバテストの1つです。ブロッキングテストは、チャネル外信号が存在する状態での適正なレシーバ動作を確認し、内部で生成されるスプリアス応答に対するレシーバの妨害感受性を監視します。以下の3つの主要なテストにより、レシーバのブロッキング性能を定義します。

  • スプリアス耐性
  • 相互変調歪み
  • 隣接チャネルの選択性

3.2.3.1. スプリアス耐性

これは、チャネル外の単一の干渉信号が、レシーバの出力端で不要なチャネル内応答を生じることを防止するレシーバの能力です。スプリアスは、電源の高調波、システムクロックの高調波、またはLOのスプリアスなどによってレシーバ内で生成される可能性があります。

3.2.3.2. 相互変調耐性

これは、レシーバの入力端に複数のトーンが存在するときに歪出力が生成される場合や、あるいはレシーバの通過域内にある3次相互変調の出力を生成する非線形ミックスが存在する場合のレシーバ性能の目安です。

3.2.3.3. 隣接チャネルの選択性

これは、隣接チャネルに強力な信号が存在するときに、希望の復調信号を処理できるレシーバの能力の目安です。交互チャネルの選択性もよく似たテストですが、干渉信号は、RFの2チャネル分だけ、レシーバの通過域から離れています。

GSMモバイルRFトランシーバの考察

このアプリケーションノートは、以下に示す3つの項に分かれています。

  • レシーバの解析
  • トランスミッタの解析
  • LOの位相ノイズ要件の解析

4.1. レシーバの解析


4.1.1. Rxのノイズ指数/感度

レシーバの感度(S)とレシーバのノイズ指数(NF)の関係は、次式で表されます。

感度S = -174 + 10logBi + S/N + Gimp + NF...........[1]

ここで、

Bi = レシーバの帯域幅(GSMの場合180kHz)
S/N = ベースバンドの信号対ノイズ比
Gimp = RFとBBの実装利得

GSM規格は、-102dBmの最小感度要件を規定しています。ワーストケースである9dBのベースバンドS/N比(受信信号を正しく復調するために所定のベースバンドチップセットで必要)と2dBの実装マージンを想定すると、上記の式[1]から、このレシーバのワーストケースのNFを次のように計算することができます。

NF = -174 + 10logBi + S/N + Gimp - S
= -174 + 10log(180,000) + 9 + 2 - (-102)
= 8.5 dB

このワーストケースのNFを想定すると、レシーバ設計者は次に、さまざまなフロントエンドの利得とNFの区画オプションを次式に従って調査することができます。

NF = 10log(F, RxのNF) = 10log[F1 + (F2 - 1)/G1 + (F3−1)/G1.G2 + ....]...[式2]

ここで、Fi = 区画のi番目のブロックのノイズ指数(I = 1,2,3...)

式2は最初のアクティブ段の利得が高いほど、システムのNFが低くなることを示していますが、レシーバ設計者は最初のアクティブ段が、確実にその後の段を圧縮しないことを確実にする必要があります(レシーバの直線性が劣化するのを避けるため)。

これは、システム感度が、レシーバのNF(フロントエンドの構成部品の選択によって決まる)とレシーバの直線性の間の妥協であることを示しています。一般的には、以下に示すレシーバのフロントエンドのオプションを調査します。

  • シングルLNA + アクティブミキサ.............[オプション1]

  • デュアルLNA + アクティブミキサ.............[オプション2]

  • Figure 1. Non-page mode memory interface.

    オプション1と比べたオプション2の主な長所は、オプション2では、個々のLNAのNFと利得の要件が極めて緩やかであるということです。一方、オプション1で同じシステムNFを達成するためには、フロントエンドのLNAを厳しく規定する必要があります。

    オプション2の主な短所は、2番目のLNAを追加することによって、一般的にコストが上昇し、また余分な消費電流が必要になる可能性があるということです。

    4.1.2. Rxブロッキングの解析

    表1. 以下の表はブロッキングの信号レベルを表しています。これは、GSMの携帯電話が確実に受信されることが想定されるレベルです。
    Frequency band MS Blocking signal level Description
    600KHz |f-fo| < 800KHz -43dBm In band blocking
    800KHz |f-fo| < 1.6MHz -43dBm
    1.6MHz |f-fo| < 3MHz -33dBm
    3MHz |f-fo| -23dBm
    900 - 915MHz -5dBm Out of band blocking
    0.1 - < 915MHz
    980 - 12750MHz 0dBm

    GSMレシーバの設計者は、上記の帯域内ブロッキング信号レベルの仕様に基づいて受信ストリップの圧縮ポイントを規定し、また帯域外ブロッキングの信号レベルを使用してフィルタ除去の仕様を定義することによって、信号経路の圧縮を避けることができます。

    たとえば、3MHzオフセットでの帯域内ブロッキング(すなわち、-23dBm)は、フロントエンドで必要な圧縮ポイントを設定します。受信ストリップにおいてLNA段の前に1dB損失のスイッチと2.5dB損失のフィルタを仮定すると、LNA段の前の損失は合計で3.5dBとなります。つまり、LNA圧縮ポイントはワーストケースで-26.5dBmでなければならないということです(すなわち、-23 - 3.5dBm)。

    4.1.3. Rxの相互変調

    GSMレシーバの相互変調の性能は、主としてフロントエンドの回路に影響を受けます。これは選択したIFフィルタが±800kHzと±1600kHz(このパラメータをテストするときのオフセット周波数。GSM 05.05規格による規定どおり)で十分な減衰量を持つ場合です。

    通常、システムのIP3の要件を求めるために使用する式は、次のとおりです。

    IP3 (min) = Pi + (Pi - Pu + C/I)/2

    ここで、Pi = 干渉信号のレベル = -49dBm(GSM 05.05仕様による)

    Pu = 有効な信号レベル = GSMの感度レベル + 3dB = -102 + 3 = -99dBm

    C/I = キャリア対干渉比(レシーバ設計の目標)

    たとえば、8dBのC/Iの場合、GSMレシーバの最小入力インターセプトは、次式で求められます。

    IP3(min) = -49dBm + (99 - 49 + 8)/2 = -20dBm


    4.2. LOの位相ノイズ要件の解析


    発振器の位相ノイズの仕様は、GSMレシーバの設計で最も重要な部分の1つです。一般的に、システム設計者は、チャネルシンセサイザには、許容される最低限の仕様を設定し、システム内の他のすべてのVCOについては、はるかに優れた性能を規定します(たとえば、8dBs~10dBsよい値)。このため、チャネルシンセサイザのVCOの位相ノイズが、他のVCOよりもシステム性能に大きく影響します。

    4.2.1. GSM RFのVCO位相ノイズの考察

    「離れた」RFのVCO位相ノイズ(すなわち、ループ帯域幅外の位相ノイズ)は、GSM 05.05仕様で定義された4つの主要な要素によって決定されます。以下にこれらを示します。

    • 変調スペクトル(05.05仕様の5.2.1.1の項を参照)
    • スプリアス発射(05.05仕様の5.2.1.2の項を参照)
    • レシーバのブロッキング(05.05仕様の5.2.1.3の項を参照)
    • 隣接チャネル性能(05.05仕様の5.2.1.4の項を参照)

    発振周波数近傍器の位相ノイズは、システム帯域幅内にノイズが加わることになり、システムのNFに直接的に影響します。上記の仕様(特に、離れた位相ノイズに関する仕様)の中には周波数が重複するものもあります。したがって、システム設計者は、所定のオフセット(マージンを設けた状態)における最も厳しい要件を満たすようにVCO位相ノイズを設計します。こうすることで、所定のオフセットにおけるその他の要件はすべて満たされます。

    次に、各性能要件を満たす最悪の位相ノイズが集計されて、最終チャネルのシンセサイザにおけるVCOの位相ノイズ要件が与えられます。

    次の項のいくつかの例は、受信帯域で変調と搬送のノイズによって生じるスペクトルを満たすためのVCO位相ノイズ要件を導き出す方法を示しています。

    4.2.1.1. 変調スペクトル[GSM05.05段落]

    05.05は、dBc/BWで仕様を規定していますが、VCO位相ノイズはdBc/Hzで規定されています。このため、dBc/BWをdBc/Hzに換算するために、次式を使用します。

    dBc/Hz = 10log(05.05で規定された帯域幅) + 05.05で規定された|dBc|値...[式3]

    たとえば、200kHzのオフセットにおいて、変調によって生じるスペクトルの仕様は、-30dBc/30kHzです。これを(式3に従って)200kHzオフセットにおけるVCO位相ノイズ要件に換算すると、最悪のケースで次のようになります。

    = [10 log(30,000) + 30] dBc/Hz
    = 75dBc/Hz

    上記の方法を使用して、変調の仕様によって生じるスペクトルを満たすために必要なVCOの最小位相ノイズを計算します。

    表2.
    Offset frequency dBc/BW Derived Phase noise (dBc/Hz)
    ±200KHz -30/30KHz -75
    ±250KHz -33/30KHz -78
    ±400KHz -60/30KHz -105
    ±600 - 1200KHz -60/30KHz -105
    ±1200 - 1800KHz -60/30KHz -105
    ±1800 - 3000KHz -63/100KHz -113
    ±3000 - 6000KHz -65/100KHz -115
    > ±6000KHz -71/100KHz -121

    4.2.1.2. スプリアス発射

    表3. 以下の表は、指定のオフセットにおけるスプリアス発射に関する05.05仕様を示したものです。
    Offset frequency 05.05 specification dBc/BW
    > ±1.8MHz -30dBc/30KHz (in band)
    > ±6MHz -33dBc/100KHz (in band)
    > ±2MHz -60dBc/30KHz (out of band)
    > ±5MHz -60dBc/100KHz (out of band)
    > ±10MHz -60dBm/300KHz (out of band)
    > ±20MHz -63dBm/1MHz (out of band)
    > ±30MHz -65dBc/3MHz (out of band)
    10 ~ 20MHz (i.e. 925 ~ 935MHz) -67dBc/100KHz (out of band)
    > 20MHz (i.e. 935 ~ 980MHz) -79dBc/100KHz (out of band)

    33dBmのTx出力電力に対する、受信帯域(すなわち、925MHz~980MHz)での送信ノイズを満たすために要求される必要な位相ノイズを計算するため、以下の計算を行います。

    • 925MHz~935MHzの場合
      仕様は、100kHz BWで-67dBmです。換算すると-117dBc/Hzになります。ただし、33dBmのTx電力を基準にすると、925MHz~935MHz帯でのVCO位相ノイズに要求される仕様は、(117dBc/Hz + 33)dBc/Hz = -150dBc/Hzになります。

    同様に、

    • 935MHz~980MHzの場合
      仕様は、100kHz BWで-79dBmです。換算すると-162dBc/Hzになります。

    結論

    このアプリケーションノートは、経験の浅いGSMのシステム設計者が、GSMモジュールの仕様と、その仕様がシステム性能に及ぼす影響をより的確に把握できるようにするために使用するものです。

    Maxim Integratedは、GSMトランシーバ技術を他の技術(WCDMA、GPRS、EDGEなど)と組み合わせて、世界でも最先端の統合ソリューションを提供しています。このソリューションは、最小の電流とサイズを実現しています。

    これらのソリューションのほとんどは、マキシムのウェブサイト上で公開されているか、同サイトのワイヤレス設計ガイドに今後の製品として発表されています。

    本記事に類似した内容が、2003年6月発行の『RF Design』という雑誌に掲載されています。