要約
この記事では、GSMからOC-192以上までの高速シリアル通信用のクロックデータリカバリ(CDR)について説明します。典型的なリンクでデータがどのように伝送され回復されるのかについて述べています。また、この記事では、様々なCDR方式、そして通信リンクの送信側、受信側における基準発振器の役割について検討します。
さまざまなクロックデータリカバリ(CDR)アプリケーションがテレコミュニケーションや光トランシーバ、データ・ストレージエリアネットワーク、無線機器などの分野で利用されています。今後、より広帯域に対応した設計が求められるとともに、スペクトル帯域が割り当てられ、その利用も増えることから、CDR技術の重要性はますます高まるものと考えられます。また、システムやボードのインタフェースも、パラレルからシリアルに移行しつつあります。
近年、広がりつつあるバックプレーンのパラレルバス幅に対応するとともに、レシーバ側におけるクロックとデータのスキューを管理するため、CDR技術の採用が増えています。また、このような信号のルーティングには困難が伴います。基板スペースと電力を消費することと、信号とライン終端処理の管理にマルチレイヤルーティング方式が必要となることがその理由です。高ビット幅データバスから発生するEMIも心配されます。
通信技術と電気信号処理技術が進歩し、FR-4やバックプレーン、光媒体、無線媒体を通じて数ギガビットもの電気信号を送るようになったため、CDR技術が非常に重要となりました。送信前にクロックとデータを結合するという通信手法は以前からありました。この方法では、クロック信号とデータ信号が必ず同時に到着します。問題は、レシーバ側でクロックとデータをどのように分離するかということです。これを行うのが、CDR回路です。パラレルからシリアル、あるいはシリアルからパラレルにデータを変換する製品をシリアライザ/デシリアライザ(「SerDes (サーデス)」と省略することもあります)といいます。このような製品には、シリアルデータストリームをデシリアライズするCDRブロックが組み込まれています。
この記事では、高速シリアル通信リンクアプリケーションでCDRを滞りなく実行するために必要なCDRのコンポーネントブロックを検討します。まず、典型的な高速シリアル通信リンクの概要を紹介し、リンクでデータがどのように変換され、また、回復されるのかを説明します。その上で、さまざまなCDR方式を紹介し、一般的なCDR構成とどこが違うかを解説します。また、基準発振器がリンクの送信側と受信側の両方で果たす役割に、特に焦点を当てます。
高速シリアル通信におけるクロックおよびデータリカバリ
図1は、高速シリアル通信リンクの基本ダイアグラムです。送信側シリアライザに、パラレルデータ(ビットb1、b2、b3、... bn)が周波数ftで到達します。データは、シリアライザ内部でパラレルフォーマットからシリアルフォーマットに変換されます。生成されるシリアルビットストリームのビットレートは、n x ft以上になります(nはパラレルデータビットの総数)。データのエンコードにより、生成する信号の周波数(ビットレート)がftよりも高くなる場合もあります。データのエンコードを行うのは、チャネルが要求するBER (ビットエラーレート)レベルを満たすためであったり、受信側CDRに十分な遷移情報を提供する必要があったりするときです。チャネルエンコードにはリードソロモン符号によるFEC (前方誤り訂正)などが、受信側CDRに対する遷移情報の生成には8B10Bエンコードなどが使われます。こうして生成したシリアルデータは、チャネルへの送信準備が整えばレシーバに送られ、デシリアライザに到達します。通信媒体が光ファイバであっても大気であっても、また、バックプレーンであっても、この基本的な通信ブロックがデータに適用されます。
図1. クロックおよびデータリカバリが高速シリアル通信リンクの基礎となります。
CDRアプリケーションでは、タイミング(クロッキング)が重要です。設計者は、パラレルデータを未知の送信歪みを持つチャンネル経由で送信するためのシリアルデータにどのように変換するかを定めます。高いSN比とBER性能を実現するためには、設計によって発生するデータ信号の劣化を最小限に抑える必要があります。例えば、バックプレーンにおけるディジタル伝送スキームでは、システムのジッタ性能が特に重要です。これは、高速電気信号がさまざまなパス長を流れていく結果(FR-4とバックプレーン)、信号レベルの歪みと時間的な歪みが発生し、信号が劣化するからです。
クロックデータリカバリの中核は、PLL (位相ロックループ)を使用した回路で、ディジタルで構成できることもあります。図2は図1の通信リンクにあるシリアライザまたは送信側として使用可能な基本的なブロック図です。このPLLブロックは、位相/周波数検出器(PD)とフィルタ(LPF)、電圧制御発振器(VCO)、分周回路(1/n)で構成されます。分周回路の役割は、比較用周波数をPDに供給することです。こうすることにより、VCO出力の位相を、安定したリファレンス入力、VREFに同期させることができます。PLLブロックでは、基準周波数を固定倍率(n)で逓倍し、VCOの固有周波数を得ます。VREFには、普通、安定性と精度、位相対ノイズ特性に優れた水晶を使った回路を用います。また、アプリケーションやシステムの要件に応じ、このリファレンスは温度補償や電圧補償される場合もあります。SONETベースのアプリケーションでは、このリファレンスがある階層レベルに該当する場合があります(階層レベルの3、3E、あるいは4)。
図2. クロック逓倍アプリケーションはPLLで駆動されます。
受信側では、クロックとデータの両方を回復する必要があるため、CDRのPLLブロックは構成が若干異ったものとなります。図3に示すように、PLLブロックに入る組み合わされたクロック/データ信号は、まず、バッファを通過し、そこで2つの異なるパスに分岐します。片方のパスは、データ決定(DEC)ブロックで、もう一方は、クロックリカバリブロックです。クロックリカバリブロックは、図2のPLLブロックから1/nブロックを省いたようなものです。回復されたクロックは、VCOから出力され、DECのサンプリング用入力として、位相/周波数検出器へのフィードバック信号として、また、下流機器のシステムタイミングとして利用されます。図1の場合、回復したクロックをパラレルクロック周波数まで分周し、デシリアライザブロックを駆動します。
図3. CDR回路では、基本PLLブロックの変化形を使用します。
クロック/データリカバリにおける基準発振器
図中の基準発振器は入力がVCOとなっていることが示されています。この電圧制御は、LPF段で行います。図3に示すようなケースでは、ループ発振器として、VCOやVCXO (電圧制御水晶発振器)を使うのが普通です。その役割から明らかなように、ループ発振器は、入力されるクロック/データの周波数変動に追随できなければなりません。また、このループ発振器のクロックは、CDR (デシリアライザ)下流にある他のコンポーネントにも供給されます。これを実現するのが、VCOやVCXOの電圧制御入力を駆動するLPF出力です。
通信や無線、データ通信などで使用するCDRアプリケーションでは、データとクロックが結合した受信信号の周波数特性は比較的安定しています。これは、送信側のクロックが一定レベル以上の精度と安定度を持つと考えられるからです。受信側の設計では、精度/安定度の最小値や最大値に対して余裕を持たせます。例えば、送信側クロック周波数が公称周波数から±50ppm変動する可能性がある場合、受信側クロックは、少なくとも±50ppmの周波数調整が可能でなければなりません。しかし、設計時には、±50ppmよりも若干広い周波数調整を考えておくべきです。このように周波数調整機能に余裕があれば、通信の混乱やチャネルによって信号周波数に歪みが生じても対応できるからです。
PLL回路は静的状態に向かおうとしても、つまり、周波数ロックをかけようとしても、電圧制御入力の変化速度が速すぎるということもあり得ます。PLLがロック状態を保持できる最大レートは、LPFの帯域幅によって決まります。最終的に、受信側VCO (またはVCXO)の役割は、回復されたクロックを追従させ再生することです。
データ/クロック入力がない間も、CDRは、一定時間、下流の通信コンポーネント(つまりデシリアライザ)に基準信号を供給しなければなりません。
アプリケーションによっては、VCOとVCXOを組み合わせる場合もあります。図4に示すようなVCOとVCXOを組み合わせた構成は、通常のCDR構成にはない利点を少なくとも2つ持ちます。一つは、VCXOが追加されたことにより、予測されるクロック/データ信号周波数に適合するVCO周波数を即座に安定化できることです。VCXO周波数は、期待されるクロック周波数レンジに合わせて選びます。例えば、広帯域VCOを入力データストリームにロックするためには、サンプリングを何千回も行う必要があります。VCXOとロック検出回路を追加すれば、VCOの動作周波数が固定され、スタートアップ時のロック時間を事前に予測できるようになります。もう一つの利点は、クロック/データ入力が長時間にわたり失われたとき、VCXOが役に立つという点です。クロック/データ信号が失われたとき、高安定の水晶発振器(VREF)を基準として、クロック/データ信号が信号消失(LOS)から回復するまでシステムはホールドオーバを供給し続けられるのです。ホールドオーバとは、リファレンスクロックの仕様の一つで、ある時間、ある精度を保つ能力を表します(例えば、24時間にわたり±4.6ppmなど)。
図4. 基本CDRブロックの改良により、クロック/データストリーム入力に対するロック性能を高めることができます。
結論
さまざまなソリューションが、通信アプリケーションにおけるクロックデータリカバリ/リタイミング、シリアライザ/デシリアライザ、クロック発生器、TCXOで使われています。このようなデバイスを使えば、10MHz~10GHzもの周波数で使える回路を開発したり、GSMからOC-192、または、それ以上のアプリケーションをサポートしたりすることができます。広帯域化が進む中、CDR技術は、今後ますます、電気通信や光トランシーバ、データ・ストレージエリアネットワーク、無線アプリケーションなどの分野で重要なものとなるでしょう。