要約
このアプリケーションノートでは、QPSK変調と復調の動作について順を追って説明します。アナログ通信からディジタルへの移行により、QPSKの使用が促進されることになりました。ここでは、正弦信号と余弦信号の乗算を解析するための手段としてオイラーの関係式を使用しています。また、1MHzの正弦波のQPSK変調を実際に示すため、SPICEシミュレーションを使用しています。フェーザ図により、局部発振器との同期が良くない場合の影響を示します。位相と周波数の誤差を除去するために、ディジタル処理を使用しています。
はじめに
電子工学の初期の時代以降、技術が進歩するにつれて、ローカル通信とグローバル通信の境界がなくなり始め、その結果、世界はより身近になり、簡単に知識や情報を共有できるようになりました。ベルやマルコーニによる先駆的な活動によって現在の情報化時代の土台が築かれ、電気通信の未来への道が開かれました。
従来、ローカル通信はワイヤを介して行われてきました。その理由として、この方法が確実に情報を転送するための費用対効果に優れた方法であることが挙げられます。しかし、長距離通信の場合は、電波による情報の伝送が必要でした。この方法は、ハードウェアの観点からすれば便利でしたが、情報の破損については疑問が残り、しかも多くの場合、気象条件、大規模ビル、およびその他の電磁波の信号源による干渉を解決するため、高電力のトランスミッタを必要としていました。
さまざまな変調技法により、費用対効果と受信信号の品質に関する各種のソリューションが提供されましたが、最近までは依然としてアナログが主に使用されていました。周波数変調と位相変調により、ある一定の耐ノイズ性を確保できましたが、復調に関しては振幅変調の方が容易でした。ところが、ごく最近になって、低コストのマイクロコントローラが出現し、国内携帯電話や衛星通信が導入されたことにより、ディジタル変調が普及するようになりました。ディジタル変調技術には、従来のマイクロプロセッサ回路が有する、アナログ変調技術にはない優れた利点がすべて備わっています。また、ソフトウェアを使用することにより、通信リンクのあらゆる欠点を解消することができます。現在では、情報の暗号化が可能となり、誤り訂正により受信データの信頼性が増し、DSPの使用により各サービスに割り当てられた帯域幅の制限を緩和することができます。
従来のアナログシステムの場合と同じように、ディジタル変調でも振幅、周波数、または位相変調を使用することができ、それぞれ異なる利点が得られます。周波数変調と位相変調の技術はより優れた耐ノイズ性を実現できるので、現在、大多数のサービスで好ましい方式として採用されています。この周波数変調と位相変調の技術について、以下で詳しく説明します。
ディジタル周波数変調
従来のアナログ周波数変調(FM)を単純に変形しただけのディジタル周波数変調は、ディジタル信号を変調入力に加えることで実現できます。つまり、出力は、2つの異なる周波数の正弦波という形になります。この波形を復調するには、信号を2つのフィルタに通し、その結果をロジックレベルに変換するだけです。従来よりこの変調形式はFSK (frequency-shift keying:周波数偏移変調)と呼ばれています。
ディジタル位相変調
スペクトル的には、ディジタル位相変調、すなわちPSK (phase-shift keying:位相偏移変調)は、周波数変調とよく似ています。ディジタル位相変調では、周波数の代わりに搬送波形の位相を変化させることが必要であり、この一定の位相変化によってディジタルデータを表します。最も単純な形態では、ディジタルデータを使用して周波数が同じで位相が反対の2つの信号を切り替えることにより、位相変調波形を生成することができます。生成された波形に同じ周波数の正弦波を乗算すると、2つの成分が生成されます。1つは、受信周波数が2倍の余弦波形で、もう1つは、振幅が位相偏移の余弦に比例する周波数に依存しない項です。したがって、高周波数の項を除去すると、伝送前の元の変調データを生成することができます。これは、概念的に表すことは難しく、後で数学的に証明します。
4位相偏移変調
上記のPSKの概念をさらに一歩進めると、位相偏移の数は2つの状態だけに制限されるものではないと想定できます。搬送される「キャリア」は、位相変化を何度でも実行することができ、受信信号に同じ周波数の正弦波を乗算すると、位相偏移を周波数に依存しない電圧レベルに復調することができます。
これは、まさにQPSK (quadraphase-shift keying:4位相偏移変調)の事例です。QPSKでは、キャリアは位相の変更を4回実行するため、1つのシンボルで2つのバイナリビットのデータを表現できます。これは、最初は重要ではないように思われるかもしれませんが、現在の変調方式では、キャリアは1ビットではなく2ビットの情報を伝送できるものと想定されているので、キャリアの帯域幅が実質的に2倍になります
位相変調、およびQPSKの復調方法の証明を以下に示します。
この証明は、オイラーの関係式を定義することから始めます。この式から、すべての三角関数の恒等式を導出することができます。
オイラーの関係式は、次式で表すことができます。
ここで2つの正弦波の乗算を考えます。これは、次式のようになります。
式1によれば、2つの正弦波(1つは入力信号となる正弦波、もう1つはレシーバミキサの局部発振器)を乗算すると、出力周波数は入力周波数の2倍になって(振幅は1/2)、入力振幅の半分のDCオフセットに重畳されることがわかります。
同様に、sin ωtとcos ωtを乗算すると、次のようになります。
この式によると、出力周波数(sin 2ωt)は入力周波数の2倍で、DCオフセットは存在しないことがわかります。
以上から、「sin ωtと任意の位相偏移正弦波(sin ωt + ø)を乗算すると、出力周波数が入力周波数の2倍の「復調」波形が生成され、そのDCオフセットは位相偏移øに応じて変化する」と仮定できることがわかります。
これを証明する式は、次のようになります。
つまり、上式は、「正弦波の局部発振器を備えたキャリアを乗算して高周波数の項を除去することにより、キャリアの位相偏移を変動出力電圧に復調することができる」という仮説を証明しています。ただし、位相偏移は2つの象限に限定されています。つまり、π/2の位相偏移と-π/2の位相偏移を区別することはできません。したがって、4つのすべての象限にある位相偏移を正しく復調するには、入力信号に正弦波形と余弦波形の両方を乗算し、高周波数を除去して、データを再構築する必要があります。これは、上記の数学的手法を展開することにより、以下のように証明できます。
SPICEシミュレーションを使えば、上記の理論を検証することができます。図1は、簡単な復調器回路のブロック図を示しています。入力電圧QPSK INは1MHzの正弦波で、5µ秒ごとに位相が45°、135°、225°、および315°だけ偏移されています。
図2と図3はそれぞれ、「同相」波形のVIと「直交」波形のVQを示します。どちらの波形にも、位相偏移に比例するDCオフセットを備えた2MHzの周波数が見られ、上記の数学的手法を裏付けています。
図4は、QPSK INの位相偏移と復調データを示したフェーザ図です。
上記の理論は、完全に納得のいくものであり、キャリアからデータを取り出す処理は、ミキサの出力をローパスフィルタリングし、4つの電圧をロジックレベルに再構築するだけの単純な処理であると考えられます。実際には、レシーバの局部発振器を入力信号に正確に同期させることは容易ではありません。局部発振器の位相が入力信号によって変動する場合、フェーザ図上での信号は相回転を受け、その大きさは位相差と直接比例します。さらに、局部発振器の位相と周波数が受信信号に対して一定でないと、フェーザ図上で継続的な回転が見られます。
したがって、一般にフロントエンドの復調器の出力はADCに送られ、局部発振器の位相または周波数の誤差による回転は、DSPで除去されます。
ベースバンドに直接変換する別の効果的な方法として、ダイレクトコンバージョンチューナICの使用が挙げられます。
上記のデバイスは、急速に拡大しつつあるマキシム・インテグレーテッド・プロダクツ製RFチップセットの一部です。5つの高速プロセス、70を超える標準高周波製品、および52のASICを開発中のマキシムは、RF/ワイヤレス、ファイバ/ケーブル、および計測機器の各市場において中心的な役割を果たすべく全力を注いでいます。