GaN FETを使用するスイッチング電源、その設計でポイントになる事柄とは?

GaN FETを使用するスイッチング電源、その設計でポイントになる事柄とは?

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Frederik Dostal

Frederik Dostal

要約

スイッチング電源(SMPS:Switch-mode Power Supply)では、GaNをベースとするパワー・スイッチ(GaNスイッチ)を使用するケースが増えています。本稿では、そのようなアプリケーションを構成する際に考慮すべき事柄や課題について解説します。結論から言えば、そのような設計を成功に導くためには、GaNスイッチ専用のドライバICを採用すべきです。それにより、堅牢性と信頼性の高い設計に必要なあらゆる機能を利用できるようになります。また、本稿では、GaNスイッチを使用するSMPSについて理解するためのツールとして、「LTspice®」の活用を提案します。

はじめに

GaN(窒化ガリウム)は、III-V族の半導体です。これをうまく活用すれば、優れた特性のSMPSを実現できます。実際、GaNスイッチ(GaN FET)は、絶縁耐圧の向上、スイッチング損失の削減、電力密度の向上といった効果をもたらします。そのため、GaN技術はより広く普及しつつあります。

最近では、数多くのGaNスイッチ製品が提供されています。但し、GaNスイッチは従来のシリコン・ベースのMOSFET(以下、シリコン・スイッチ)とは異なる方法で駆動しなければなりません。そのことが、GaNスイッチの利用を妨げているケースも存在します。

図1. SMPSにおけるパワー・スイッチの駆動部
図1. SMPSにおけるパワー・スイッチの駆動部

図1に示したのは、降圧型のSMPSの構成例です。この種のアプリケーションで一般的に使用される、ハーフブリッジ構成の出力段(パワー・スイッチの駆動部)を示してあります。この構成において、パワー・スイッチとしてGaNスイッチを使用するケースを考えます。その場合には、GaNスイッチのゲート電圧の最大許容範囲について十分に配慮しなければなりません。通常、その最大許容電圧はシリコン・スイッチの場合と比べて低くなるからです。つまり、GaNスイッチを駆動する際には、ゲート電圧がその上限値を上回ることがないよう厳密に制御することが不可欠となります。

ハイサイドのスイッチとローサイドのスイッチが接続される点はスイッチング・ノードと呼ばれます。このノードで行われる高速なスイッチングについて考慮することも重要です。具体的には、そのようなスイッチングに伴い、GaNスイッチが意図せずターンオンしてしまうことを避けなければなりません。そのような動作は従来のシリコン・スイッチでは滅多に生じません。この状況が発生すると故障につながる可能性があります。これについては、立ち上がりエッジと立下がりエッジのそれぞれに対応する形でゲート制御ラインを用意することで問題を緩和できます。

また、ブリッジのトポロジにおいて、GaNスイッチではデッド・タイムの間にライン損失が増大します。したがって、その種のアプリケーションでは、最適な性能を確保するためにデッド・タイムを最小限に抑えなければなりません。

図2. LT8418の使用例。同ICはGaNスイッチ専用のドライバであり、入力電圧が100Vのハーフブリッジ構成に対応できます。
図2. LT8418の使用例。同ICはGaNスイッチ専用のドライバであり、入力電圧が100Vのハーフブリッジ構成に対応できます。

上述したように、GaNスイッチの制御に関しては特有の要件が存在します。それらに効果的に対応するには、GaNスイッチ専用のドライバICを採用するとよいでしょう。ここでは、その代表的な例として「LT8418」を紹介します。図2に示したのは、同ドライバICの使用例です。この例では、同ICを使用して降圧型のSMPSを構成しています。ブリッジに対応するドライバであるLT8418は、ゲートの充電向けには最大4Aの電流を供給できます。また、シャットダウンに伴ってゲートを放電する際には最大8Aの電流に対応することが可能です。このICでは、充電向けと放電向けに個別の制御ラインを使用します。そのため、立ち上がり時間と立下がり時間を異なる値に制御することが可能です。結果として、堅牢性の高い動作が保証されます。

図2の回路は、入力電圧が48V、出力電圧が12V、負荷電流が12Aという条件で約97%の変換効率を達成します。注目すべきは、1MHzのスイッチング周波数を使用してこのような高い効率が得られる点です。

GaNスイッチを使用して出力段を構成する場合、細心の注意を払って基板レイアウトを最適化する必要があります。高速のスイッチング・エッジと寄生インダクタンスの組み合わせによって、望ましくないレベルの電磁放射が発生する可能性があるからです。このことから、寄生インダクタンスを最小限に抑えるために、回路全体をコンパクトに設計する必要があります。LT8418の場合、パッケージとしてサイズがわずか1.7mm×1.7mmのWLCSP(Wafer Level Chip Scale Package)を採用しています。そのため、基板面積の縮小に貢献できます。

GaNスイッチの制御方法について迅速かつ効果的に学ぶにはどうすればよいのでしょうか。そのためには、無料のシミュレーション・ツールであるLTspiceを活用することを強くお勧めします。LTspiceには、GaNドライバであるLT8418のシミュレーション・モデルが用意されています。そのモデルは包括的なものであり、外付け回路も完備した状態で構築されています。図3に、LTspiceでLT8418の動作をシミュレーションするための回路図を示しました。

図3. LTspiceでLT8418の動作をシミュレーションするための回路。GaNスイッチを含む回路全体の評価を実施できます。
図3. LTspiceでLT8418の動作をシミュレーションするための回路。GaNスイッチを含む回路全体の評価を実施できます。

まとめ

GaNスイッチが登場した当初はニッチな製品という位置づけでした。それが現在では、重要なパワー・デバイスだと見なされています。GaNスイッチを使用すれば、効率と電力密度を高められます。この優位性により、電圧変換、電気モータの駆動、D級オーディオ・アンプなど、様々なアプリケーションにとって魅力的な選択肢になっています。現在では、LT8418のような最適化されたドライバICを使用できるようになりました。そのため、GaNスイッチという新たなデバイスの制御が容易になりました。しかも、高い信頼性を得ることができます。その結果、GaNスイッチは、パワー・エレクトロニクスを大きく進化させる重要なデバイスとして位置づけられるようになったのです。