大電力のアプリケーションに対応可能なフライバック・コンバータを設計する

2024年09月03日
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要約

複数のトランスを並列で使用し、マルチフェーズで動作するフライバック・コンバータを構成すれば、非常に大きな出力電力に対応することができます。また、フライバック型のスイッチング電源(SMPS:Switch-mode Power Supply)において、入力側の伝導エミッションを低減することも可能になります。

はじめに

マルチフェーズに対応するフライバック・コンバータは、比較的容易に設計できます。それにもかかわらず、その種のコンバータを使用すれば出力電力の上限値を高められます。更に、伝導性の干渉を低減することも可能になります。

フライバック・コンバータを使用すれば、ガルバニック絶縁を適用した状態でレギュレートされた電圧を生成できます。この電圧変換技術は広範なアプリケーションで使用されており、十分な実績を積み重ねています。その普及を後押しする理由の1つとしては、非常にシンプルに回路を構成できることが挙げられます。図1に、フライバック・コンバータの構成を簡略化して示しました。

図1.シンプルなフライバック・コンバータ。No-Opto技術を採用したコントローラを使用した場合の例です。

図1.シンプルなフライバック・コンバータ。No-Opto技術を採用したコントローラを使用した場合の例です。

但し、フライバック技術の使用についてはいくつかの制約があります。例えば、変換可能な電力量には上限が存在します。図1の例の場合、スイッチQ1がオンになっている間、トランスの1次側に電流が流れます。その間、トランスのコアT1にエネルギーが蓄えられることになります。Q1がオフの間は1次側の電流は流れませんが、トランスの2次側に電流が生成されます。先に貯えられていたエネルギーは、2次巻線を介して放出されることになります。

トランスに貯えることが可能なエネルギー量には限界があります。このことから、フライバック・コンバータによって対応可能な電力量が制限されます。特別に設計されたトランスを使用すれば、100Wを超える出力電力を達成することも不可能ではありません。とはいえ、通常、フライバック・コンバータは出力電力が約60Wまでのアプリケーションに限って使用されています。

では、フライバックのトポロジを、より合理的な手段を使って、より高い電力レベルに対応させることはできないのでしょうか。実は、それを実現する巧妙な手法が存在します。それは、2個以上のトランスを使って複数のチャンネルを構成するというものです。それらのトランスは並列に存在し、異なる位相で動作することになります。そのように構成したフライバック・コンバータにより、出力電力を分割します。つまり、各チャンネルがトータルの出力電力の何割かを分担するように構成するということです。その場合、各トランスについては、多様な候補の中から適切なものを選択し、すぐに使用することができます。

図2に、2つのチャンネルを設けたフライバック・コンバータの例を示しました。図中の「MAX15159」は、2チャンネルに対応可能なフライバック・コンバータ用のコントローラICです。同ICは、同コンバータが位相シフト動作するように制御を行います。それにより、2つの並列電力パスに対して出力電流が均等に分割されることを保証します。また、MAX15159を2個使用すれば、4個のトランスを使用して4相動作のフライバック・コンバータを構成することも可能です。この手法を採用すれば、サイズの大きいトランスを使用することなく100Wを超える電力を生成することができます。

図2.MAX15159を使用して構成したフライバック・コンバータ。同ICは、マルチフェーズ動作の制御を担います。

図2.MAX15159を使用して構成したフライバック・コンバータ。同ICは、マルチフェーズ動作の制御を担います。

図1に示したシングルチャンネルのフライバック・コンバータは、フィードバック・パスにオプト・カプラを適用することなく実現されています。No-Opto技術を採用したコントローラを適用することで、このようなことが可能になります。MAX15159もNo-Opto技術を採用した製品です。そのため、図2に示したマルチフェーズ動作のフライバック・コンバータでもオプト・カプラは使用していません。No-Opto技術では、スイッチがオフの間、1次側巻線の両端の電圧を評価することによって出力電圧を調整します。

マルチフェーズ対応のフライバック・コンバータには、もう1つ固有の長所が存在します。それは、伝導性の干渉を低減できるというものです。フライバック・コンバータにおいて、入力側は降圧型のSMPS(降圧トポロジのレギュレータ)と同様に動作します。いずれのトポロジにおいても、パルス状の入力電流が発生します。マルチフェーズ対応のコンバータでは、個々のチャンネルに位相シフトを適用し、異なる時間帯にオン/オフするよう制御が行われます。それにより入力側の干渉が最小化され、電磁干渉(EMI)性能が向上します。それだけでなく、入力側に必要なコンデンサのサイズ/数を削減することも可能です。図3に、2チャンネルのフライバック・コンバータにおける入力側の電流波形を示しました。

図3.2チャンネルのフライバック・コンバータにおける入力側の電流波形

図3.2チャンネルのフライバック・コンバータにおける入力側の電流波形

改めて、マルチフェーズ対応のフライバック・コンバータの特長についてまとめます。同コンバータでは、1個の大きなトランスの代わりに、簡素で安価で小型のトランスを使用することができます。そのため、より広範なアプリケーションに適用することが可能です。

まとめ

従来、ガルバニック絶縁を必要とする電源を設計する際には、必要な電力量に応じて異なるトポロジが使われてきました。必要な電力量が60W以下の場合にはフライバック・コンバータ、60W以上の場合にはフォワード・コンバータを使用するといった具合です。しかし、実際にはそれ以外の選択肢も存在します。マルチフェーズ対応のフライバック・コンバータであれば、60W以上の電力を供給することも可能です。その種の回路は、MAX15159のようなコントローラICを使用することで容易に構成できます。しかも、同ICの場合、No-Opto技術を採用しているのでオプト・カプラも不要です。更に、位相シフトを活用した制御方式の効果によって、伝導性の干渉が最小化されます。

著者について

Frederik Dostal
Frederik Dostalは、アナログ・デバイセズ(ドイツ ミュンヘン)のパワー・マネージメント担当エキスパートです。20年以上にわたって蓄積した設計/アプリケーションに関する知識を活かし、パワー・マネージメント分野のエキスパートとして活躍しています。ドイツのエアランゲン大学でマイクロエレクトロニクスについて学んだ後、2001年にNational Semiconductorに入社。お客様のプロジェクトを支援するフィールド・アプリケーショ...

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