背景
光ファイバ・システムは、世界的に大規模な市場を形成しています。市場規模の概算値は様々ですが、その多くは2019年における値を40億から45億ドルの範囲と見積もっており、CAGRは2021年までに10%近い値になると見込まれています。光ファイバは、主にテレコム、家庭内設備、CATV、防衛、工業といった分野の通信アプリケーションに使われています。光ファイバベースの通信には、ケーブルなどの他の技術と比較して多くの利点があります。例えば、帯域幅、電磁干渉耐性、電気的絶縁性、データ・セキュリティが向上し、コスト、サイズ、重量、減衰率が低減することなどです。このような利点も光ファイバの普及を加速する一因ですが、主な要因は、コンスーマやヘルスケア分野における通信帯域幅拡大へのニーズの高まりと、自国のネットワーク・インフラストラクチャ整備を目的とした政府の財政支援があることです。
何がこれらの有望な成長予測を牽引しているのかを詳しく検討してみると、単一のトレンドではなく、複数の要素の組み合わせであることは明らかです。すなわち、投資の拡大と、光ファイバ技術を発展させ性能向上を実現しようとする業界の主要な光ファイバ・ケーブル・メーカーによる研究が結びついたことも、要因となっています。光ファイバ技術分野では過去、永きにわたって研究開発が続けられてきましたが、これが今日の隆盛と、通信用およびデータ・サービス用の広帯域幅光ファイバ・ケーブルの需要拡大につながっています。これらの技術には、光ファイバ・コネクタ、センサー、広帯域光ファイバ、光ファイバ・ケーブルが含まれます。
同時に、高速で帯域幅が重視される高データ・レート・アプリケーションの需要が、世界の光ファイバ市場に変化をもたらしました。新しいファイバ・ネットワークの展開は、今後5年ないし7年間におけるファイバ市場を牽引する大きな要素になると見込まれています。通常、光ファイバ・システムは、トランスミッタ、レシーバー、光ケーブルなど、おびただしい数のコンポーネントで構成されます。更に、システムの設置には多大な労力が必要とされ、とりわけ地下や海底に設置する場合はこの傾向が顕著になります。しかし、世界的な光ファイバ市場を牽引しているのは、まさにこの広範で多様なアプリケーションであり、これによって、この市場が目覚ましい速度で成長を遂げているのです。
コスト効果と電力効率に優れ、高度に集積された情報技術(IT)インフラストラクチャの需要拡大が、今後数年間の主要な牽引役になると思われます。光ファイバ市場全体を分野で分けると、テレコム、石油およびガス、防衛および航空宇宙、鉄道、医療など、多岐にわたります。これらのうち、今後数年間における光ファイバ装置の需要が最も拡大すると予想されているのが、テレコム分野です。
地域ベースでは北米地域が世界の光ファイバ市場の約1/3と最も多くを占め、アジア太平洋地域がこれに近い値で後に続くと思われます。この成長を牽引する鍵となるのは、IT、通信、行政分野での大規模な採用による技術的発展です。
光ファイバ・システム設計上の課題
通常、光ファイバ・システムは多数の光伝送モジュールで構成され、冷却能力のほとんどない非常に限られたスペースに格納されます。代表的な光伝送システムを図1に示します。
図2は代表的な個別の光伝送モジュールの例で、チューインガム1箱とほぼ同じ大きさをしています。
このように高密度で設置されるシステムでは冷却の選択肢が限られるので、放熱が設計上大きな課題となります。1つの代表的なラック・システムには192個を超える個別の光伝送モジュールが含まれていることがあり、空冷能力が不足しがちです。特に、すべての光モジュールがフル稼働しているような場合は、その傾向が顕著になります。これらの光モジュールの動作温度が上がり過ぎると、システムが熱的に過負荷状態となり、シャットダウンしてしまうおそれがあるので、温度が上がり過ぎないようにすることが不可欠です。通常動作を再開するには、システムを冷却できるよう、停止後に十分な時間を取る必要があります。
設計リソースは、システムの複雑化と余裕のない設計スケジュールへの対応だけで手一杯の状態になっているため、研究開発のエネルギーは重要な知的財産の開発に集約されて専用電源の設計リソースが脇へ追いやられ、後回しにされることさえあります。限られた時間と、場合によっては限られた経験の下で、設計者は、使用可能な実装面積を最小限のフットプリントで使用してスペースと熱放出を最大限に活用する、高効率のソリューションを作り出さなければならないというプレッシャーにさらされます。問題は、これら2つの属性が互いに相反すると考えられていることです。
新しいコンパクトなICが難問を解決
高密度光伝送システムの電源設計者にとっての吉報は、スペースと熱に関するこれらの設計上の制約を具体的に解決する、新しいユニークなソリューションがあることです。
LTC3310Sは非常に小型で低ノイズのモノリシック降圧DC/DCコンバータで、2.25V~5.5Vの入力電源で最大10Aの出力電流を得ることができます。このデバイスは、ホット・ループ・バイパス・コンデンサを2個内蔵したSilent Switcher® 2アーキテクチャを採用しており、5MHzという高いスイッチング周波数で低EMIと高効率を実現します。より高い電力を必要とするシステムでは、多相並列コンバータ・セットアップを容易に実装することができます。また、最大4個のLTC3310Sを並列に使用すれば、40Aの出力電流が得られます。各IC間では1%以内の差で電流が自動的に分担されるので、熱的なミスマッチを心配する必要はありません。
LTC3310Sは、固定周波数の電流モード降圧DC/DCコンバータです。各クロック・サイクルの開始時に、発振器が内部の上側の電源スイッチをオンにします。インダクタを流れる電流は上側のスイッチ電流コンパレータがトリップするまで増加し、トリップすると上側の電源スイッチがオフになります。上側のスイッチがオフになるときのピーク・インダクタ電流は、ITHノードの電圧によって制御されます。エラー・アンプは、FBピンの電圧と500mVの内部リファレンスを比較することによって、ITHノードをサーボ制御します。
負荷電流が増加すると帰還電圧がリファレンスよりも低下するため、平均インダクタ電流が新しい負荷電流に見合った値となるまでエラー・アンプがITH電圧を上げます。上側の電源スイッチがオフになると、次のクロック・サイクルが始まるまで(あるいは、パルス・スキップ・モードの場合はインダクタ電流が0になるまで)同期電源スイッチがオンになります。
過負荷状態となって下側のスイッチに流れる電流が過大となった場合は、スイッチ電流が安全なレベルに戻るまで次のクロック・サイクルの開始が遅延されます。ENピンがローになるとLTC3310Sはシャットダウンされ、低静止電流状態になります。ENピンが閾値を超えると、スイッチング・レギュレータがイネーブルされます。LTC3310Sの「S」は、アナログ・デバイセズの第2世代のSilent Switcher技術が使われていることを表しています。この技術は、高スイッチング周波数で高効率を実現する高速スイッチング・エッジを可能にし、同時に良好なEMI性能を実現します。VINのセラミック・コンデンサはすべての高速ACループを小さく抑えて、EMI性能を改善します。
LTC3310Sは固定周波数のピーク電流モード制御アーキテクチャを使用しているので、最小限の出力容量で高速の過渡応答を実現することができます。500mVのリファレンスが低電圧出力を可能にする一方、100%のデューティ・サイクルでの動作はドロップアウトを小さい値に抑えます。その他の機能としては、出力がレギュレーション状態にある場合のパワーグッド信号、高精度イネーブル閾値、出力過電圧保護、サーマル・シャットダウン、温度モニタ、クロック同期、モード選択、出力短絡保護などがあります。このデバイスは、小型で18ピンの3mm×3mm LQFNパッケージを採用しています。
LTC3310Sの重要な属性
LTC3310Sは小型でコンパクトなソリューションですが、図3の回路図に示すように最小限の外付けコンポーネントを必要とします。LTC3310Sは固定周波数のPWMアーキテクチャを使用しています。スイッチング周波数を設定する方法は3つあります。1つめはRTピンとグラウンドの間に接続した抵抗(RT)を介して500kHz~5MHzに設定する方法、2つめは内部PLL回路をMODE/SYNCピンに加えられる外部周波数に同期させることによって0.5MHz~2.25MHzに設定する方法、3つめはデフォルトである公称2MHzの内蔵クロックをそのまま使用する方法です。
標準的なスイッチング・レギュレータと異なり、高スイッチング周波数での動作がLTC3310Sの変換効率を低下させることはありませんが、放熱に悪影響を与える可能性があります。図4に示すように、定格値10Aに近い電流値で3.3V入力から1.2V出力に降圧したときの公称変換効率は90%です。
まとめ
光伝送システム用の最適な電力変換回路の設計には、従来、ソリューションのフットプリント、EMI性能、消費電力の間で、性能上の大きなトレードオフが求められてきました。経験豊富なスイッチモード電源設計者でも、この3つの性能をすべて最大限まで高めることは不可能だと考えるでしょう。しかし、もはや不可能ではありません。アナログ・デバイセズのPower by Linear™LTC3310Sを使用すれば、単一のIC電源で小型化、低EMI、低消費電力を同時に実現することができます。このことは、データ伝送が妨げられるのを防ぐために低EMI放出であることが求められ、スペース的な制約も厳しい光ファイバ通信用の機器では、特に重要です。