SAR ADCの消費電力を正しく見積もる

SAR ADCの消費電力を正しく見積もる

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Alan Walsh

Alan Walsh

逐次比較型のA/Dコンバータ(SAR ADC)を使用するにあたっては、システムのレベルで電力に関する要件を正確に計算する必要があります。その作業は、意外に難易度の高いものになりかねません。その一因としては、SAR ADC製品のデータシートを正確に読み解くのが容易ではないということが挙げられます。実際、データシートに記載された電力に関する仕様には、紛らわしい表現が含まれていることがあります。

SAR ADCは、消費電力を抑えて入力信号を正確に測定したい場合に適しています。通常、その消費電力はサンプル・レートに比例します。この性質をうまく活かせば、非常に効率的な測定システムを構成することができます。但し、SAR ADCの総消費電力を計算するためには、すべての電源ピンについて検討を行う必要があります。

通常、SAR ADCには消費電力に関連する可能性のある電源が3系統存在します。電源VDD、リファレンス入力部、デジタル・インターフェースのI/O用の電源(以下、デジタルI/O電源)の3つです。

ここで言うVDDとは、アナログ回路やADCのコア部に電力を供給する電源のことを指します。では、残る2つはそれぞれどのようなものなのでしょうか。

まず、リファレンス入力部について説明します。SAR ADC製品の中には、外部からリファレンス電圧を供給しなければならないものがあります。そうしたSAR ADCのリファレンス入力部は、スイッチド・キャパシタ回路として実現されています。この回路は、SAR ADCの変換処理におけるビット・トライアルの最中に充電電流を消費します。その消費電力は、SAR ADCのスループット・レートとコンデンサを利用する内蔵DAC(以下、容量性DAC)のサイズによっては、かなりの量に達する可能性があります。ADCのスループット・レートが高くなると、より多くのビット・トライアル(コンデンサの充電量が多くなる)によって、容量性DACのアレイにおける消費電流は増大します。

容量性DACのサイズが大きいということは、充電の対象となる容量値が大きいということを意味します。そのため、この部分の消費電流も多くなります。そして、容量性DACのサイズが大きい場合には、リファレンス用の駆動回路が問題になるかもしれません。つまり、より多くの電力を消費するリファレンス回路が必要になる可能性があるということです。アナログ入力部についても同じことが言えます。アクイジション期間には、より重い負荷に相当する容量性DACを駆動しなければなりません。そのためには、より駆動能力の高いアンプが必要になるでしょう。加えて、アナログ入力部に関連するその他の回路に対し、リファレンスから電力が供給されるケースもあります。その場合には、消費電力が更に増える可能性があります。SAR ADC製品の中には、リファレンス・バッファを内蔵しているものがあります。その場合、リファレンス入力部については高いインピーダンスが得られます。このような製品の場合、バッファは別の電源ピンを利用して必要なリファレンス電流を供給することになります。

では、デジタルI/O電源の消費電力はどのようになるのでしょうか。その量は、スループットと出力データ・レートに加え、データの出力ラインの負荷に依存します。ADCのスループットが高いほど、変換後のデータの伝送に必要なクロック・レートが高くなります。そのため、デジタルI/O電源の消費電力が増大します。データの出力ラインにおいては、容量性の負荷に対する充放電を繰り返すことになります。そのため、容量値が大きいほど消費電流が増加します。なお、デジタルI/O部電源の消費電流は、出力コードにも依存します。電流が最も大きくなるのは、出力に1と0が交互に現れる場合です。一般にデジタルI/O電源の消費電流は、ADCに正弦波などを入力し、より多くの出力コードが網羅された状態で測定する必要があります。スループット、クロック・レートの高いADCでは、デジタル・インターフェースに関連する消費電力がかなり増大する可能性があります。

多くの製品では、データシートを見てもVDDの消費電力しか記載されていません。しかし、実際に製品を採用するにあたっては、仕様についてまとめた表を入念に確認し、リファレンス入力部とデジタルI/O電源の消費電力を正確に把握する必要があります。システムのレベルで消費電力を正確に見積もるには、上述した3種の電源電流について考察しなければなりません。

表1. SAR ADCにおける消費電力の仕様の例(AD7980のデータシートから抜粋)
パラメータ 条件 最小値 代表値 最大値 単位
消費電力 VDD = 2.625 V、VREF = 5 V、 VIO = 3 V
合計 10kSPSのスループット 70 µW
1MSPSのスループット、Bグレード 7.0 9.0 mW
1MSPSのスループット、Aグレード 7.0 10 mW
VDDのみ 4 mW
REFのみ 1.7 mW
VIOのみ 1.3 mW

データシートには、あらゆる条件を考慮して個々の消費電力の値が記載されていることが望ましいと言えます。表1に示したのは、分解能が16ビット、変換レートが1MSPSのPulSAR®ADC「AD7980」の例です。特に消費電力のような重要な仕様については、このような詳細な情報が必要になります。

本稿で紹介した製品の詳細については、www.analog.com/jpをご覧ください。