ファクトリー・オートメーションを使用して全体の効率を向上させることは、今日の製造業で最も重要な課題です。収益を向上させるだけではなく、機器のダウンタイムに伴う多大なコストを削減または排除するのにも役立つため、さまざまな組織はこの方向にシフトしています。プロセス制御/予知保全プログラムの開発者は、ワイヤレス振動センサーを使用することで、正確なリアルタイム解析や制御を行うことができます。このため、統計データを適用してメンテナンスが必要となる時期を予測したり、高度な訓練を受けた技師に依存する必要がなくなります。
精密工業プロセスでは、モーターや関連機器が常に安定して動作することが重要になっています(図 1)。アンバランス、欠陥、配管の緩み、機械のその他の異常により、振動が発生したり精度が低下するとともに、安全性の問題が発生したり、性能が低下したりします。これらの問題を放置し、修理のために機器を組み立てラインから取りはずす必要が生じると、生産性が低下します。機器の性能がわずかに変化するだけで(通常、これを最適な時期に予測するのは困難です)、大幅な生産性の低下につながります。
プロセス監視と条件ベースの予知保全は、生産性の低下を回避するのに役立つ実証済みの手法です。ただし、これらの手法は複雑ですが、十分な見返りが得られます。特に、振動データの解析(収集方法にかかわらず)やエラーの原因の特定について、既存の方法には限界があります。
代表的なデータ収集方法として、ハンドヘルド型データ収集ツールや機器に設置された単純なピエゾベースのセンサーを使用する方法があります。特に、機器に組み込んで自主的に対応する理想の検出/解析システムのソリューションとは異なり、これらの方法には限界があります。完全内蔵型の自律的センシング・システムを実装する前に、非常に再現性の高い測定から適切な文書化およびトレーサビリティに至る、データ収集プロセスに影響を与える 10 の要素を理解して考慮することは重要です。
正確で再現性の高い測定
既存のハンドヘルド型振動プローブには、実装に関していくつかのメリットがあります(図 2)。エンド機器を変更する必要がありません。大型のブリック・サイズで、比較的高度に統合されているので、データを十分に処理したり保存することができます。主な欠点の 1 つとして、再現性の高い測定が行えないことが挙げられます。プローブの位置や角度のわずかな違いにより、一貫性のない振動プロファイルが生成され、長期的な比較が不正確になります。このため、メンテナンス技師は振動の変化が機器の実際の変化によるものか、測定技術の変化によるものかを判断できません。機器に直接かつ永久に内蔵できるコンパクトで統合されたセンサーが理想的です。測定位置がシフトしないので、測定の計画を設定する際に柔軟性を最大限に発揮できます。
測定の頻度と計画
プロセス管理は、感度の高い電子部品の製造など、価値の高い機器の製造施設で特に有用です。このような場合、組み立てラインのわずかな変化は、工場出荷量の減少やエンド機器の仕様の変化を招くことがあります。振動シフトをリアルタイムで通知できないことが、ハンドヘルド型プローブの方法の限界です。この問題は、統合レベルが非常に低く(場合によってはトランスデューサのみを搭載)、後ほど解析するためにデータを別の場所に送信する必要があるピエゾベースのセンサーでも発生します。これらのデバイスを使用する場合、キャプチャできなかった事象やシフトを提示するには、外部からの介入が必要になります。それに対して、センサー、解析装置、ストレージ、およびアラーム機能のすべてが小型パッケージに収められた自律型センサー処理システムは、振動の変化を迅速に通知し、時間ベースのトレンドを表示できます。
データを理解する
内蔵センサーからのリアルタイム通知は、周波数ドメイン解析が採用されている場合のみ可能です。あらゆる機器には、通常、複数の振動源(ベアリングの欠陥、アンバランス、ギアのかみ合い)が存在します。これらの振動源には、正常動作時にも振動が発生するドリルやプレス機など、設計上不可避な振動源も含まれます。機器に対する時間ベースの解析では、これらの複数の振動源が複合した波形が生成され、高速フーリエ変換(FFT)解析を後から実行するまでわずかな識別情報が提供されるのみです。多くのピエゾベースのセンサーでは、FFT の計算と解析を外部で実行する必要があります。リアルタイム通知が不可能な他、機器開発者にとって設計上の負担が実質的に大きくなります。センサーでの内蔵 FFT 解析により、振動の変化を特定の振動源から直ちに分離することができます。完全に統合された自律型センサーの完全性と簡潔さによっては、そのようなセンサーを追加することで、機器設計の開発期間も 6 ~ 12 ヵ月短縮できます。
データのアクセスと送信
内蔵センシングは、正確でリアルタイムのトレンド・データを得るのに最適な方法ですが、リモートのプロセス・コントローラまたはオペレータにデータを伝送するタスクが複雑になります。内蔵 FFT による解析では、単純化されたデータを送信できるように、アナログ・センサーのデータがコンディショニングされ、デジタル信号に変換されていると仮定します。今日使用されているほとんどの振動センサー・ソリューションがアナログ出力のみであるため、送信時に信号が劣化するとともに、複雑なオフライン・データ解析が必要となります。
データの方向性
既存センサー・ソリューションの多くのは、1 軸ピエゾ・トランスデューサです。これらのピエゾ・センサーは方向情報を提供しないため、機器の振動プロファイルに関する情報は限定的です。方向性が欠如していることが原因で、必要な識別を行うには、非常に低ノイズのセンサーが必要になります。多軸 MEMS(MicroElectromechanical Systems)ベースのセンサーを使用することで、振動源を切り分ける能力を大幅に向上できると同時に、コストを削減できる可能性が高くなります。
位置と配信
機器の振動プロファイルは複雑であり、時間によって変化する他、機器、材料、場所によっても変化します。センサーの設置場所は重要ですが、機器のタイプ、環境、および機器のライフ・サイクルにも大きく依存します。センサー素子のコストは高く、プローブ設置場所が 1 か所または数か所に制限されるため、設置場所はさらに重要になります。これは、開発前にテストを通じて最適な位置を判断する時間が大幅に増えたり、キャプチャするデータの品質と量が損なわれる場合が多いことを意味します。現在のコストの数分の一で入手可能な、より統合度の高いセンサー・プローブを使用すると、システムごとに複数のプローブを設置し、事前の開発時間とコストを削減することができます。
ライフサイクル変化
ハンドヘルド型監視システムを使用した手法では、経時変化に合わせて( 周期、データの量などを) 調整できますが、同じライフサイクル・ベースの調整を内蔵センサーで実施するには、必要な調整が行えるように、設計および導入の段階で事前に計画する必要があります。使用するテクノロジにかかわらず、トランスデューサ部品は重要です。トランスデューサを取り巻くセンサーのコンディショニングと処理はさらに重要です。信号およびセンサーのコンディショニング/処理は、各機器とそのライフ・サイクルによって異なります。つまり、センサーの設計には、いくつかの重要な考慮事項が存在します。前述の A/D 変換により、システム内での設定と調整が可能になります。理想的なセンサーは、ベースライン・データの迅速なキャプチャ、フィルタリングの操作、アラームのプログラミング、およびさまざまなセンサー位置での実験を通じて機器のセットアップを容易にする単純なプログラマブル・インターフェースを提供します。既存の単純なセンサーでは、機器のライフサイクル全体にわたるメンテナンス要件の変化に対応できるように一部のセンサー設定を調整する必要があります。例えば、設計者は、機器が故障する可能性の低いライフ・サイクルの初期と、機器が故障する可能性が高いうえに有害な影響を与える可能性も高いライフ・サイクル末期のどちらを重視してセンサーを設定するかを判断する必要があります。推奨される方法は、ライフ・サイクル期間中の変化に応じて、システム内でプログラマブル・センサーを設定することです。例えば、ライフ・サイクルの初期は頻繁に監視を実行せず(消費電力を最小限に抑える)、変化(警告閾値)が検出されるようになった時点で、頻繁(ユーザー設定期間)に監視を実行するように設定を変更します。
性能の変化/トレンド
機器のライフサイクルで生じた変化に対してセンサーを適応させるには、機器のベースライン応答に関する知識が不可欠です。単純なアナログ・センサーを使用している場合でもこのような対応が可能です。この場合はオペレータが測定とオフライン解析を行って、このデータをオフラインで保存し、特定の機器およびプローブ位置に適切にタグ付けします。一方、間違いが少なく推奨される方法は、センサー・ヘッドでベースライン FFT データを保存することです。この場合、データ紛失の可能性がなくなります。ベースライン・データはアラーム・レベルを設定するのにも役立ち、これもセンサーで直接プログラミングします。このため、警告またはエラー状態が検出される後続のデータ解析およびキャプチャで、リアルタイムの割込みが生成できます。
データのトレーサビリティと文書化
工場では、適切な振動解析プログラムを使用してハンドヘルド型プローブまたは内蔵センサーによって数 10 ヵ所または数 100 ヵ所で監視を実行することがあります。このため、特定の機器の耐用期間にわたって、数千のレコードをキャプチャする必要が生じる可能性があります。予知保全プログラムの完全性を高めるには、センサー収集ポイントを位置および時間の観点で適切にマッピングする作業が非常に重要です。リスクを最小限に抑えて有益なデータを得るには、内蔵ストレージを用意することに加え、センサーに固有のシリアル番号を割り当て、データのタイム・スタンプを記録する必要があります。
信頼性
ここでは、プロセス制御および予知保全に関する振動監視向けに、既存のセンサーベースの手法を改善する方法について取り上げます。フォールトトレランスを実現し、監視を実行するには、センサー自体を詳細に調査する必要があります。機器ではなく、センサーが故障(性能が変化)したらどうしますか?また、完全自律型センサーを使用して運用する場合、センサーが機能し続けるという見通しにどの程度確信を持てますか?ピエゾベースのトランスデューサなど、多くのトランスデューサでは、どのような種類のシステム内セルフテストも実行できないため、これは重大な制限事項となります。長期間にわたって記録したデータの整合性は常に信頼性が欠如しています。リアルタイムの故障通知が時間とコストの面で重要である(さらに安全性に関する重大な懸念になりえる)ライフ・サイクル末期の重要な監視フェーズで、センサーが機能しなくなる懸念は常に存在します。信頼性の高いプロセス制御プログラムの重要な要件は、トランスデューサを遠隔操作でセルフテストできることです。この機能は、一部の MEMS ベースのセンサーで利用可能です。内蔵デジタル・セルフテストにより、信頼性の高い振動監視システムを実現するため、すべての問題点を解消できます。
RF トランシーバを内蔵したアナログ・デバイセズの ADIS16229 デジタル MEMS 振動センサーは、ここまでに説明したすべてのメリットを提供できる完全自律型のワイヤレス周波数ドメイン振動モニタです。周波数ドメイン処理機能、512 ポイントの実数 FFT、オンボード・ストレージを内蔵し、個別の振動源を特定/分類したり、それらの経時変化を監視したり、プログラマブルな閾値レベルに対応することができます。このデバイスでは、構成可能なスペクトル・アラーム・バンドとウィンドウ処理オプションも利用できます。6 つのバンドと 2 つのアラーム(警告閾値と故障閾値)構成を使って全周波数スペクトルを解析することが可能で、問題を早期かつ正確に検出できます。多軸の広帯域 MEMS ベースのセンサーと設定可能なサンプル・レート(最大 20,000 サンプル/ 秒)および平均化/デシメーション・オプションにより、振動プロファイルのわずかな変化もより高精度に評価できます。MEMS センサーはデジタル・セルフテスト・モードを実装しており、機能とデータの完全性に関して継続的な信頼性を実現しています。この完全内蔵型のデバイスはプログラマブルで、振動源の近くに配置して、再現性の高い方法でわずかな信号を早期に検出できます。また、ハンドヘルド型デバイスの場合は測定ごとの位置/結合方法の違いが原因でデータの不整合が発生する可能性がありますが、そのような不整合を回避できます。
独自の 862/928 MHz ワイヤレス・プロトコル・インターフェースにより ADIS16229 センサー・ノードを離して配置できます。ADIS16000 ゲートウェイ・ノードは、あらゆるシステム・コントローラ・デバイスに対して標準のシリアル・ペリフェラル・インターフェース(SPI)を提供し、ADIS16229 をサポートしています(図 3)。このゲートウェイを介して最大 6 個のリモート・センサー・ノードを制御できます(図 4)。
自主的で設定可能な動作を実行でき、信頼性の高い完全集積型の振動センサーは、これまでの振動解析方法に見られる限界や妥協に影響されずにプロセス制御を実行し、予知保全プログラムを実現するとともに、データ収集プロセスの品質と完全性を大幅に向上します。高度に統合され、簡素化されたプログラマブルなワイヤレス・インターフェースにより、これらのセンサーを使用して振動センシングをさらに広い範囲に配備できます。このように、センサーが完全に統合されたため、配線/インフラストラクチャの改修に依存せず、性能の変化をより正確かつ信頼性の高い方法で検出できるので、事前メンテナンスと定期メンテナンスのコストを大幅に削減できます。