精密制御によるMEMS (Microelectromechanical Systems)の駆動

精密制御によるMEMS (Microelectromechanical Systems)の駆動

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要約

MEMS (Microelectromechanical Systems)の導入数は増加しており、かつては不可能と考えられていた作業が可能になっています。このチュートリアルでは、MEMSのアプリケーションと、これらのデバイスを対象とした精密制御とドライバの提供の必要性の増大について解説します。設計および製造に関する項目も併せて検討します。

MEMS (Microelectromechanical Systems)の駆動は、自動車の駆動とよく似ています。MEMSの駆動は、アプリケーションによって異なります。自動車の種類は、モータースクーターから採掘作業で使用される最大のトラック(図1)にまで及びます。MEMSもさまざまな市場で使用されています。採掘作業用トラックが大型化しているのとは反対に、MEMSは超小型化の方向に進んでいます(図2)。
図1. 採掘作業用トラックは、大型自動車両のひとつである。
図1. 採掘作業用トラックは、大型自動車両のひとつである。
図2. ギアサイズの比較のためにMEMS上に置かれたハダニ(体長:~0.5mm (~0.020インチ))。
図2. ギアサイズの比較のためにMEMS上に置かれたハダニ(体長:~0.5mm (~0.020インチ))4
写真提供:Sandia National Laboratories, Summit Technologies
MEMSアプリケーションの種類は、人間の想像力に匹敵するほどに多様です。アプリケーションの範囲は、慣性および非慣性センサー、加速度計、アクチュエータ、スイッチ、リレーから流体、気体および生物学センサーに及びます。また、高周(RF)波ガイド、アンテナ、共振器、発振器、フィルタ、スイッチ、光マイクロフォン、グレーティング、ジャイロも含まれます1, 2, 3。MEMSの世界は爆発的に拡大しており、これらのデバイスを対象とした精密制御およびドライバの提供の必要性も同様です。
MEMSアプリケーションを分類するため、システムの使用方法に従って分けてみましょう。一部のMEMSは、センサーおよび測定に使用されています。これらのMEMSは、システム(図3の左側)に対して入力を発生します。システムのもう一方の側では、MEMSを出力デバイスとして使用して制御、動作、移動および結果の生成を行うことができます(図3の右側)。
図3. 入出力機能によるMEMS市場の分類。
図3. 入出力機能によるMEMS市場の分類。
オフセット向けアナログ-デジタルインタフェース較正と同様に、利得と直線性が必要となる場合があります。自動試験の高速化を図るため、デジタルポテンショメータ(デジポット)やデジタル-アナログコンバータ(DAC)などのデジタルアシストアナログが便利なことがあります。センサー上のノイズが問題になっている場合は、超低ノイズの電圧リファレンスを使用して電力を供給することができます。その他アプリケーションノート、計算器、システムに関するヒントはここをご覧ください。
一般的に、MEMSは、修正集積回路製造(ファブ)技術を用いて製造されます。エンジニアリング面と同様に、技術面においても妥協点が存在します。決定は、物理の法則と技術の進歩によって行われ、選択されます。理想的なMEMSデバイスを作り出す製造プロセスの一部の要素が、必ずしも良好な集積回路部品を生み出すプロセスとは限りません。実用的で製造可能なMEMSを製作するためには、製造プロセスを修正、考案する必要がありました。多くの先端技術と同様に、それぞれのメーカーには多くの固有の手順が存在します。分野の拡大に伴い、より多くの外部駆動回路がMEMSと同じダイに集積されます。外部駆動回路は、MEMSプロトタイプの開発を最適化および高速化するうえで便利です。しかし、各回路をMEMSと一体化することが、常に最適、実用的あるいは手頃とは限りません。設計者に刺激を与えると共に、設計者の意図するアプリケーションにとって最適なアーキテクチャの組み合わせを設計者が選別、選択できるようにするためのMEMSドライバに関するアイデアをご紹介します。

センサーの励起

MEMSセンサーは、すべてのセンサーと同様に物理的パラメータ(圧力、運動、加速度、光、傾きなど)の変化を測定可能な変化(通常は抵抗、静電容量、電圧、電流インピーダンスまたは共振)に変換します。あるいは、逆のこと-すなわち(MEMSミラーアレイと同様に)電気バイアスの変化がMEMSデバイスによる動作になる-が発生する可能性があります。これについては、このチュートリアルで後述します。
センサーでは、信号対ノイズが重要な制限要素のひとつです。センサーの信号は、アナログ-デジタルコンバータ(ADC)に印加される前に増幅され、フィルタにかけられ、オフセットおよびバイアスに応じて調整されます。直流励起に加え、DACを使用してより複雑な波形を作り出すことができます。アプリケーションによっては、複雑な波形を用いてセンサーシステムの信号対ノイズ比(SN比)を向上させることができます。SN比の向上を目的として、蒸気エンジンを使用して赤外線(IR)センサーを冷却している例も以下にご紹介します。
シリコン圧力センサーはMEMSデバイスの1つの例であり、1970年代から使用されています。今日、シリコン歪みゲージセンサーは安価で、大きな出力レベルを備え、比較的堅牢です。しかし、マイナス面もあります。これらのセンサーは温度に大きく影響を受け、初期オフセットおよび感度に対する許容誤差が大きくなっています。チュートリアル3545 「抵抗ブリッジの基礎:パート2」は、高出力シリコン歪みゲージに焦点を当てています。デルタ-シグマADCおよび電流駆動シリコン歪みゲージの特性を組み合わせることにより、単純なレシオメトリック回路を作り出すことができます。これらのセンサーの補正に必要なADCの分解能とダイナミックレンジを理解していただくために、計算例を示します。
MEMSセンサーの補正は、歴史的にアナログアーキテクチャに基づいていました。デジタルアシストアナログ回路を目にする機会が増えています。デジタルセンサー信号処理(DSSP)用高性能計算エンジンが現在、圧力センサーで実用されています。チュートリアル743 「Approaches for Compensating Span and Offset in Pressure Sensors (圧力センサーにおけるスパンおよびオフセットの補正アプローチ)」では、DSSPアーキテクチャの詳細が示されています。

制御およびアクチュエータ用MEMS

出力制御信号に応答するためにミラー、ギアおよびモータが使用されています。光ルーティングスイッチとして機能するようある入力から多数の出力のうちのひとつにレーザー通信光を偏向させる場合、図4に示すようなモータ駆動ミラーが使用されています。
図4. (a)ミラーアセンブリ上のハダニ;(b)持ち上げた状態のミラーのクローズアップ。
図4. (a)ミラーアセンブリ上のハダニ;(b)持ち上げた状態のミラーのクローズアップ。
写真提供:Sandia National Laboratories, Summit Technologies
モータまたはエンジンを、エネルギーを運動に変換する機械であると定義するのであれば、ミラーを動かすアクチュエータは、実際に小型のモータを使用しています。次のセクションでは、変換を中心に取り上げ、超小型蒸気エンジンについて解説します。

モータ:静電、磁気および蒸気エンジン

くし形構造(図5)は、静電モータの電力を増大します。バネの力で復帰する代わりに、第2のくし形構造を使用することができます。両方のくし形構造を差動させることにより、バランシング動作が生じます。このバランシング動作は、精密DACの細かな精度を利用します。
図5. くし形モータ。中央のバネは復元力を発生し、静電くし歯を元の位置に戻す。写真提供:Sandia National Laboratories, Summit Technologies。
図5. くし形モータ。中央のバネは復元力を発生し、静電くし歯を元の位置に戻す。写真提供:Sandia National Laboratories, Summit Technologies
しかし、比較的大きなスペーシングを持つプレートが2、3組あるいは1組しかない場合はどうなるのでしょうか。静電力は直線的ではなく、クーロンの法則に則っています。電極またはプレートのサイズ、形状および輪郭は、引力曲線の形状に影響を及ぼします。このため、DACを使用してこのような非線形デバイスを駆動します。デジタル値を選定、選択することにより、任意の曲線を近似させることができます。
一方の端(この解説では左端)では指数曲線が必要になります。ゆっくりと変化が生じます、そしてその結果、ここでは6ビットの精度が必要です。曲線の反対の右端では、変化の速度がはるかに速いため、近似には16ビットの精度が必要です。そのため、16ビットDACが使用されています。左側では、6ビットの分解能を確保するためにコードがスキップされています。左側から右側に進むに従い、スキップされるコードの数は、すべての16ビットコードを使用している右側に達するまでに徐々に増加していきます。この波形適合を測定し、メモリに保存して特定のデバイスを較正することができます。あるいは、アプリケーションによっては、通常または標準の曲線で十分な場合もあります。
MEMS磁気モータは、より大型のモータと同様に磁力と反発力を利用して動作します。外部配線コイルは、MEMSを起動させることも、あるいはMEMS構造に組み込むこともできます。2相ステッパモータと図6に示す回路を使用すれば、適切な電力レベルでステッパモータを駆動させることができます。一方のDACと増幅器は1相を駆動し、もう一方のDACとドライバは2相に対応します。他のモータでは、3相、4相あるいはそれ以上の相が必要になる場合があります。1相と2相との間の適切な位相差の方形波は、モータを右方向または左方向に回転させます。精密DACは言うに及ばず、1対のDACを用いて方形波を発生させるのは何故でしょうか?これには2つの理由があります。超小型サイズでは、通常の摩擦と静止摩擦に原子間力が加わります。運動を開始し、位置を保持するため、2、3のサイクルの駆動振幅を大きくするのが望ましい場合があります。駆動電流を小さくすれば、電力損失が減少します。第二の理由は、加速および位置制御を行うために正弦波またはその他の波形を印加することにより、ステップモータの位相を平滑化し、より精密に制御することができるからです。
図6. 2相ステッパモータ用モータドライバ。
図6. 2相ステッパモータ用モータドライバ。
MEMS蒸気エンジンを見ると、最初は集積回路の歴史を振り返っているような感覚に囚われます。我々は、線路を走っている蒸気機関車を見たり、その音を聞くのが好きなのですから、MEMSについても同じことをしてみませんか?蒸気にはいくつかの優れた特性があります。車輪を線路上で駆動するピストンエンジンは、0 RPMで最大トルクを発生します。これこそが大きな負荷を動作させるのに必要なものなのです。
MEMSデバイスにとっては、宇宙のほぼすべての物が大きな負荷です。蒸気エンジンが回転するのに必要なのは熱源のみです。流体は、適温で液体から蒸気に変化し、また元に戻ることが求められます。また、大半の回路の熱を下げようとする場合には、熱は我々の味方になります。熱をある場所から別の場所に伝える流体が流れるヒートパイプについて考えた場合、ヒートパイプを、蒸気エンジンが行うような外力仕事を行わないエンジンと見なします。奇妙に聞こえるかもしれませんので、図7にMEMS蒸気エンジンを示します。
図7. 3ピストンマイクロ蒸気エンジン。写真提供:Sandia National Laboratories, Summit Technologies。
図7. 3ピストンマイクロ蒸気エンジン。写真提供:Sandia National Laboratories, Summit Technologies
3本の圧縮シリンダ内の水あるいは別の流体は、電流によって加熱され、蒸発し、ピストンを押し出します。電流が除去されると、毛管力がピストンを引っ込めます。動作中の単ピストン蒸気エンジンの動画があります5。蒸気エンジンの極めて実用的なアプリケーションは、IRセンサーおよび低ノイズ増幅器(LNA)を冷却する冷却機として使用されているスターリングエンジンです。

静電気駆動ミラーを使用すればより高速な動作が可能です。

図8. 2象限静電気ミラー用駆動回路。
図8. 2象限静電気ミラー用駆動回路。
静電気MEMSデバイスは、低電流(1mA未満)において高DCバイアス電圧(40Vから100V)をしばしば必要としますが、使用可能な電源電圧が12V未満の場合があります。アプリケーションノート1751 「High-V DC-DC Converter Is Ideal for MEMS (Warning: High-Voltage Circuit) (MEMSにとって高電圧DC-DCコンバータは理想的(警告:高電圧回路))」は、誘導性回路と容量性回路を組み合わせて高価な変圧器を必要とすることなく高電圧を発生させることができるDC-DCコンバータを重点的に取り上げています。

MEMSベースの製品例

MEMSデバイスはDS3231Mでも使用されています。DS3231Mは、低コストの超高精度(±5ppm)なI²Cリアルタイムクロック(RTC)です。MEMS共振器は、発振周波数を提供し、フェーズロックループ(PLL)とその他の制御ロジックを内部に備えたデジタルロジックチップの上に実装されています。このデバイスは、バッテリ入力を備え、デバイスへの主電源が遮断された場合も高精度な計時を維持します。MEMS共振器を集積することにより、デバイスの長期精度は向上し、RTCは小型化され、製品製造時の部品数が少なくなります。
MEMSの使用は増加しており、かつては不可能と考えられていた作業が可能になります。生物学的アプリケーションは、体内に化学物質を生成し、また体内の化学物質を監視することができ、人類を苦しめる数多くの病気の診断、処置、治療を行うことができる潜在的可能性があります。「MEMS内蔵」マシンは、多くの分野で普及しています3。MEMSデバイスが考案されれば、電子エンジニアは、アナログ回路およびデジタル回路を考案、改造してMEMSの駆動を最適化することでしょう。

参考

  1. 異なる機構のさまざまなMEMSの写真: http://mems.sandia.gov/gallery/images.html
  2. MEMS Industry Group:www.memsindustrygroup.org
  3. 航空/飛行、工業、自動車、医療、バイオテクノロジー、消費者、エネルギー科学/研究およびその他の分野における実際の製品アプリケーション:www.memsindustrygroup.org/i4a/pages/index.cfm?pageid=3933
  4. ハダニは生きており、ギアに乗っているハダニの動画を見ることができる:http://mems.sandia.gov/gallery/movies_bugs_on_mems.html.
  5. 動作している蒸気エンジンの動画: http://mems.sandia.gov/gallery/movies_steam_engines.html.
  6. RTCに関するアプリケーションノート:
    アプリケーションノート504 「Design Considerations for Maxim Real-Time Clocks (マキシムのリアルタイムクロックに関する設計検討項目)」
    アプリケーションノート3506 「DS3231と8051互換マイクロコントローラとのインタフェース接続
    アプリケーションノート3644 「Power Considerations for Accurate Real-Time Clocks (正確なリアルタイムクロックに関する電力検討項目)」
    アプリケーションノート3816 「Selecting a Backup Source for Real-Time Clocks (リアルタイムクロック向けバックアップソースの選択)」