カメラシステムにおけるアナログビデオのフィルタリング

カメラシステムにおけるアナログビデオのフィルタリング

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要約

アナログビデオフィルタリングは、CCTV、セキュリティカメラ、ディジタルスチルカメラ(DSC)、ディジタルビデオカムコーダ(DVC)などのビデオカメラアプリケーションの出力段で広く使用されています。製品の小型化と低電力化に伴い、設計者はディスクリートソリューションからより集積度の高いワンチップソリューションへ移行しています。このアプリケーションノートでは、ビデオカメラ市場で広く使用されているいくつかのDAC向けの異なるフィルタアンプ構成について説明します。これは、広範囲のビデオアプリケーション要件を満足させるマキシムの様々な高集積ビデオフィルタアンプの使い易い手引きとなっています。

このアーティクルはマキシムの「エンジニアリングジャーナルvol. 62」(PDF、1MB)にも掲載されています。

ビデオシステムには、一般に、ビデオエンコーダのビデオ出力ラインにローパスフィルタが入っています。このフィルタはビデオ信号用D/Aコンバータ(DAC)の出力から高周波ノイズを除去し、ビデオ信号の立上りエッジと立下りエッジをスムーズにする働きを担っています。従来は、ディスクリートのパッシブフィルタが広く使用されていました。これに対して最新のビデオ用サブシステムでは、内蔵のフィルタアンプがビデオDACの後に続き、ビデオ信号のクリーンアップと増幅を行うようになっています。このアーティクルでは、さまざまなビデオアプリケーションに適したマキシムのさまざまな高集積ビデオフィルタアンプについて説明します。

ビデオカメラに搭載されたビデオDACの出力としてもっとも広く普及しているのは、コンポジットビデオ(CVBS)信号とY/C信号です。このアーティクルでは、DAC出力における信号のDCレベル、信号振幅、出力の(ACまたはDC)結合の方法が異なる8種類のフィルタアンプ構成(例1例8)を紹介します。高集積ビデオフィルタでは、一般に5Vか3.3Vの電源が使用されますが、消費電力の少ない例(例6と例7)では、1.8Vや2.5Vでビデオフィルタアンプを駆動することができます。これらの例で使用されているフィルタアンプ(MAX9509)は、マキシムのDirectDrive®技術を採用しており、8V/Vの内部固定利得、2VP-Pのビデオ信号を出力することができます。

以下に紹介する8つの例は、いずれも、その出力を75Ω負荷で測定しています。したがって出力グラフが1VP-Pであれば、高集積フィルタアンプの出力は2VP-Pということになります。また、ソースには、75% TV NTSCのカラーバー信号を使用しました。


例1:再生フィルタでビデオDACとビデオアンプを接続

例1
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(PDF, 115kB)

例1では、ビデオDACの出力は、再生フィルタを内蔵するビデオアンプMAX9502Gに接続されています。DACのビデオ信号出力には、シンクチップがほぼグランドとなるようにバイアスをかけます。MAX9502Gではこの信号のフィルタリングと増幅を行い、2VP-PのDCバイアス信号とします。MAX9502Gの出力には、シンクチップがグランドから約300mV高くなるようにバイアスをかけます。出力に75Ω分周器がセットされているため、負荷側から見たシンクチップ値は150mVとなります。MAX9502Gは高集積なソリューションで基板面積に占める割合が小さく、ポータブルシステム設計での省スペース化に貢献します。


例2:ビデオDACからAC結合でビデオアンプへ出力

例2
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(PDF, 111kB)

例2では、ビデオDACからAC結合でビデオ信号をビデオフィルタアンプMAX9586へと出力しています。信号はAC結合とし、シンクチップはグランド以下としなければならない単一電源アプリケーションに適したソリューションです。ただし、出力側ビデオのAC結合には、ブラックレベルがグランドにならず、ビデオ信号の内容が変化するとブラックレベルも変化してしまうという問題があります。MAX9586は、2つのDC結合ビデオ負荷、または1つのAC結合150Ω負荷を駆動することができます。


例3:例1に0.5VP-P、DCバイアス信号を追加

例3
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(PDF, 117kB)

例3は例1とよく似ていますが、例3は、DACが0.5VP-P、DCバイアス信号しか出力することができないという違いがあります。このような場合、利得が12dB固定のMAX9502Mが適切なソリューションとなります。負荷側のビデオ信号にはDCオフセットがかかっており、シンクチップはグランドから150mV高くなります。なお、DACのビデオ信号出力もグランドより高くなければなりません。MAX9502Mは、1つの2VP-Pのビデオ信号をグランド接続された150Ω負荷に対して駆動することができます。


例4:ビデオDACから1本の出力ラインでCVBS信号やY信号を出力

例4
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(PDF, 191kB)

例4は興味深い構成となっています。通常、DACからはYとCの両方を出力しますが、例4の回路には出力ラインが1本しかありません。この出力は、CVBS信号かY信号の選択となっており、CVBS信号は加算(結合)回路を使って構築します。適切なタイミングで1本の出力ラインを切り替え、2種類の信号を取り出すのは非常に困難です。このような場合、普通は、2:1のマルチプレクサを出力ラインに取りつけます。幸い、この例で使用しているビデオフィルタアンプMAX9524には2つの単極アナログスイッチが内蔵されているため、これらを使って2:1のマルチプレクサとすることができます。こうすると、1つのチップで入力の選択からフィルタリング、増幅までを行うことができるため非常に便利です。なお、YとCが合算され、DCレベルは未知となるため、ビデオ信号はフィルタアンプの前でAC結合にする必要があります。AC結合コンデンサの後に入っているクランプ回路は、バイアスレベル設定用です。

CVBS信号を生成する結合回路の設計には注意が必要です。特にYとCのDCオフセットレベルおよびDACの電圧適合レベルは注意して検討すべきです。YとCを直接接続すると、各信号のDCバイアスレベルによっては、DACの電圧適合範囲を超えるCVBS信号が生成するおそれがあります。


例5:Y/C-CVBSミキサによる複数のビデオ出力

例5
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(PDF, 293kB)

MAX9512には4つの独立した出力チャネルがあり、例5のように複数のビデオ出力を持つ回路を設計することができます。MAX9512は、YとCからコンポジットビデオ信号を生成するY/C-CVBSミキサも内蔵しています。各出力は、2つのDC結合のビデオ負荷、あるいは1つのAC結合の150Ω負荷を駆動することができます。また、この回路にはマキシムのSmartSleep回路(図には表示なし)も内蔵されており、入力信号や出力負荷の有無を検出して、アンプのオン/オフを行い、消費電力を抑えることができます。この構成は、1つのSビデオ出力、あるいは2つのCVBS出力に対応したい場合によく利用されます。


例6:ほぼグランドのブラックレベルで低消費電力

例6
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(PDF, 115kB)

例6は、1.8Vでも動作し、平均消費電力がわずか11.7mWのMAX9509を活用した低消費電力型回路です。また、この構成では、ブラックレベルがほぼグランドと等しく、出力に大容量の結合コンデンサが不要であること、また、ビデオ信号の内容にかかわらず、そのビデオ信号が-300mVから+700mVになるという利点があります。このアンプは8V/Vの内部固定利得であるため、DAC出力の振幅は0.25VP-Pとなります。なお、どのような種類のDACを用いても、その出力に接続する終端抵抗の値を変えるだけで、簡単にこれを実現することができます。


例7:1つの出力からY、C、およびCVBS信号を出力

例7
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(PDF, 123kB)

アプリケーションによっては、DAC出力からY信号とC信号しか得られないのに、CVBS信号を出力しなければならないケースがあります。そのような場合、結合回路によって必要な出力信号を得るのが一般的です。よく利用されるこのソリューションは例4で使われたものとよく似た結合回路となりますが、必要なCVBS信号が0.25VP-Pとなるため、ほとんどの場合、電圧適合範囲を満足するものと思われます。通常出力が1VP-PのDACであれば、DACの終端抵抗値を変えるだけで0.25VP-Pという振幅を得ることができます。

例7は、超低電力アプリケーションに適したフィルタリングと増幅のソリューションです。DAC出力の終端抵抗をスケールダウンすることによって、適切な振幅(0.25VP-P)とすることができます。DCバイアスレベルは未知となる場合がある(信号と結合回路によって変化する)ため、MAX9509への接続はAC結合とします。信号は、入力端でシンクチップクランプのレベルによって適切にシフトされます。フィルタアンプにDirectDrive機能が内蔵されていることによって、アンプ出力のブラックレベルはほぼグランドになります。そのため、出力に大容量の結合コンデンサを挿入する必要がありません。このようにMAX9509は、150Ω負荷を2VP-Pのビデオ信号で駆動することができます。


例8:DCオフセットなしで2つのビデオ信号を出力

例8
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(PDF, 181kB)

2系統のビデオ出力信号(Sビデオなど)が必要な場合、例8に示すように、2チャネルのビデオフィルタアンプMAX9583を採用すると、コンパクトなソリューションが実現可能です。MAX9583は2V/Vの内部固定利得で、1VP-P出力のDACとの組み合わせに適しています。デバイスの出力はAC結合によって150Ω負荷へ接続するか、あるいはDC結合によって2系統のビデオ負荷に接続することができます。ビデオ信号をAC結合することによってDCオフセットを取りのぞくことができます。なお、ブラックレベルはビデオの内容によって変化します。


まとめ

このアーティクルでは、最近のビデオカメラアプリケーションでよく利用されているさまざまな構成を紹介しました。そのようなアプリケーションでは、出力信号として一般にCVBSとY/Cが利用されます。ハイエンド機器では、YPbPrによって標準画質(SD)あるいは高画質(HD)のビデオを出力する場合もあります。今回のアーティクルでは取りあげていませんが、このようなケースについても高集積ソリューションが存在することを覚えておいてください。