広範な入力電圧で広いPWM調光範囲を可能にする昇降圧LEDドライバ

広範な入力電圧で広いPWM調光範囲を可能にする昇降圧LEDドライバ

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Keith Szolusha

Keith Szolusha

マルチチャネルLEDドライバは主に、複数のLEDまたは複数のLED列(場合によっては色や長さが異なる)を単一のIC から駆動する目的で設計されています。しかし、これらのドライバは、その他の魅力的な用途に使用できる多数の機能を備えています。例えば、LT3797 3チャネルLEDドライバの1チャネルを、BOOST電圧プリレギュレータとして使用して昇降圧機能をもつように構成できます。一方、他の2チャネルは降圧モードLEDドライバとして構成します。

入力電圧源の範囲が広く、LED列定格の上下両方の値をとる可能性がある場合、降昇圧、つまりSEPICトポロジが一般的に使用されます。これらのトポロジは、降圧のみまたは昇圧のみのレギュレータと比較すると、短所がいくつかあります。つまり、降圧のみのコンバータと比較すると、効率と帯域幅が低く(PWMの調光性能が低い)、昇圧のみのレギュレータと比較すると、効率が低く、伝導EMIが高くなります。

これらの問題を防ぐ方法の1つは、電圧プリレギュレータを使用して広範な入力を昇圧し、それを降圧のみのLEDドライバの入力として使用することです。これは昇圧と降圧の長所、つまり高いPWM調光の帯域幅、および低い伝導EMIをもちます。LT3797には、電圧レギュレーションとLED駆動のいずれかに使用できるチャネルが3つあるので、1チャネルを使用して入力電圧を昇圧できます。次に、この高い電圧を使用して、他の2チャネルで構成された2つの高帯域幅、降圧モードのLEDドライバを駆動できます。

トリプルLEDドライバ(マルチトポロジ、高効率)

LT3797はトリプルLEDドライバ・コントローラICであり、昇圧モード、降圧モード、昇降圧モード、SEPICなどの複数のトポロジで3列のLED電流の駆動に使用できます。各チャネルは他のチャネルとは独立して動作しますが、クロック位相を共有します。LED電流、開放LEDの保護、アナログ、およびPWM調光制御をそれぞれ独立して制御できます。

高電位側のフィードバック・ピンFBHは、LED列がGNDに戻らない場合に降圧モードと昇圧モードの両方で多様な過電圧保護を提供するので、レベルシフト・フィードバック・トランジスタは不要です。2.5V~40VのVIN 範囲と100Vの出力範囲により、LEDドライバには高電圧および高電力の能力が得られます。LT3797は、車載アプリケーションや産業アプリケーション、およびバッテリ駆動デバイスで使用できます。

図1に、車載入力から3列の50W(50V、1A)LED列を駆動する、効率93%のトリプル昇圧LEDドライバを示します。120HzでのPWM調光比が250:1であり、短絡保護を備えています。内蔵の降昇圧INTVCC 電圧は、VIN が2.5V に低下した場合でも、7.8Vのゲート電荷をパワー・スイッチに供給し、入力範囲が非常に広いコンバータにしています。

図1. 50V、1Aの昇圧LEDドライバ3個として構成されたLT3797トリプルLEDドライバ

図1. 50V、1Aの昇圧LEDドライバ3個として構成されたLT3797トリプルLEDドライバ

デュアル昇降圧モードLEDドライバ

最高のPWM調光比は、最高の動作帯域幅を提供する降圧LEDドライバにより達成できます。広範な車載入力電圧から高いLED調光比を達成するには、車載電圧をまずプリレギュレータで昇圧する必要があります。次に、昇圧後の出力電圧を、降圧モードLEDドライバの入力として印加できます。図2に、単一ICを使用してこれをどのように達成できるかを示します。LT3797の1チャネルを昇圧プリレギュレータとして使用し、他の2チャネルを降圧モードLEDドライバとして作動させます。

図2. 1000:1のPWM調光比をもつLT3797ダブル昇降圧LEDドライバ

図2. 1000:1のPWM調光比をもつLT3797ダブル昇降圧LEDドライバ

コンポーネント数とコストが低減する以外に、この単一IC 方式が、プリレギュレータとして別の昇圧ICを追加する方法よりも優れている点は、昇圧レギュレータのPWMピンを使用して、PWMのオフ時間にスイッチングをディスエーブルし、制御ループのステートを固定できることです。これにより、降圧モードLEDドライバがオンに戻ったときに、出力を低下させることなく、昇圧コンバータが前のPWMオン・ステートに即座に戻ることができます。PWMのオフ時間に昇圧のPWMがオフにならない場合、または別の昇圧ICを使用している場合、昇圧コンバータの帯域幅は最大PWM調光比を制限できます。

昇降圧モード・ドライバのもう1つの長所は、同様な定格をもつ降昇圧レギュレータと比較して伝導EMIが低いことです。昇圧コンバータは、メイン・インダクタが入力と直列であるため、通常はAM帯周囲で降圧コンバータよりも伝導EMIが低くなります。昇降圧方式では、インダクタが入力と直列です。一方、降昇圧方式では、1つのインダクタが降圧段と昇圧段の間にあります。基本的な降昇圧トポロジではインダクタが1つのみ必要ですが、高電力LEDドライバのアプリケーションでは多くの場合、伝導EMIを低減するために2つ目の入力フィルタ・インダクタが必要です。

図2に示すLT3797デュアル昇降圧LEDドライバは、35W(35V、1A)LED列2列に、車載入力から直接電力を供給します。120HzでPWM調光比は1000:1です。また、短絡保護と開放LEDの保護も備えています。PWM調光比を最大にし、PWMがオフのときに3つすべてのチャネルの制御ループのステートを固定するために、3本のPWM調光入力ピンはすべて、同じPWM調光入力に接続されています。昇圧チャネルの出力は50Vに調整されます。昇圧出力電圧を高くするとさらに高いPWM調光比が得られますが、高い電圧定格の電力部品が必要になり、効率が低下します。降圧モードLEDドライバの2つのチャネルは、50V入力から1A、35VのLED列2列に高い効率で電力を供給します。コンバータ全体の効率は87%です。

高いPWM調光比

前述したように、降圧および降圧モードのLEDドライバは、昇圧トポロジのドライバよりも高い帯域幅を提供します(降昇圧およびSEPICコンバータを含む)。このため、より高いPWM調光比が可能になります。昇圧トポロジでは、過渡時にインダクタ電流を増加するためにデューティ・サイクルが増加し、出力が受け取るエネルギが一時的に低くなりますが、降圧トポロジではデューティ・サイクルの増加時に増加したエネルギを出力に継続して供給します。このため、昇圧とは異なり、降圧コンバータの制御ループを高い帯域幅で最適化できます。

さらに、PWM調光では、各サイクルの開始時に降圧レギュレータのインダクタ電流を、昇圧レギュレータで必要なほど増加する必要がありません。これは、インダクタ電流がLED電流以下のほぼ等しい値だからです。これにより、降圧コンバータは昇圧コンバータよりも、トランジェント応答とPWM調光比の両方の点で優れています。昇圧プリレギュレータが過渡時に出力電荷を失わない限り、昇降圧モード・コンバータは降圧コンバータに似た高い帯域幅をもつことができます。

図3.50%(500mA)から100%(1A)のフルスケール電流までのアナログ調光過渡は、昇圧段が固有の通常速度で回復するときでも、降圧モードの高い帯域幅を示します。

図3.50%(500mA)から100%(1A)のフルスケール電流までのアナログ調光過渡は、昇圧段が固有の通常速度で回復するときでも、降圧モードの高い帯域幅を示します。

LEDの短絡と開放の保護

図1 および2 に示すLT3797 LEDドライバは、短絡防止機能を備えています。高電位側のPMOS切断はPWM調光に使用されるだけでなく、LEDの+端子がグランドに短絡したときの短絡保護にも使用されます。独自の内部回路が高すぎる出力電流を監視し、そのチャネルの切断用PMOSをオフにして、フォルトを報告します。同様に、LED列が取り外されたり開放したりすると、ICはそのチャネルの最大出力電圧を制限してフォルトを報告します。

図4. デュアル昇降圧モードLEDドライバのPWM調光波形。120Hzで調光比1000:1

図4. デュアル昇降圧モードLEDドライバのPWM調光波形。120Hzで調光比1000:1

まとめ

LT3797は、入力2.5V~40V、最大出力100VのトリプルLEDドライバで、多くのトポロジで使用できます。PWM調光比として最高の1000:1またはそれ以上のPWM調光比を得るために、昇圧と降圧が必要な場合、1チャネルを昇圧プリレギュレータとして使用でき、他の2チャネルを降圧モードLEDドライバとして使用できます。短絡保護はすべてのトポロジで使用できるので、このICは多くのアプリケーションでLEDを駆動する堅牢で強力なソリューションです。