電源ICの出力電圧を決める分圧器

電源ICの出力電圧を決める分圧器

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Frederik Dostal

Frederik Dostal

電源を設計する際には、抵抗で構成した分圧器を使うことにより、必要な出力電圧の値を任意に設定することができます。スイッチング・レギュレータICやリニア・レギュレータICを使う場合はもちろん、ほとんどの電源ICで同じことが行えます。当然のことながら、2つの抵抗値の比は、必要な出力電圧を得るために適切に設定しなければなりません。図1に示したのが分圧器の使用例です。抵抗値の比は、式(1)のように、電源ICの内部のリファレンス電圧VREFと必要な出力電圧によって決まります。

数式 1

図1. レギュレータICに付加された分圧器。出力電圧の調整に使用します。

図1. レギュレータICに付加された分圧器。出力電圧の調整に使用します。

VREFは、スイッチング・レギュレータまたはリニア・レギュレータの製品ごとに規定されています。多くの場合、1.2Vか0.8Vですが、0.6Vのこともあります。この電圧値が、出力電圧VOUTとして設定できる最も低い値となります。式(1)において、リファレンス電圧と出力電圧の値は既知ですが、R1とR2の値は未知です。2つの抵抗値のうちの1つは比較的自由に選択することができ、通常は100kΩ以下の値が選択されます。

図1を見ればわかるように、この回路では動作中にVOUT / (R1 +R2)という電流が常に流れ続けます。そのため、抵抗値が小さすぎると電力損失が非常に大きくなります。例えば、R1とR2の値がそれぞれ1kΩで出力電圧が2.4Vであるとすると、常に1.2mAの電流が流れることになります。これは、分圧器だけで2.88mWの電力損失が発生するということを意味します。

設定する出力電圧の精度や、FBピンにおけるエラー・アンプの電流の大きさに応じてこの電流を考慮することで、式(1)をより正確に規定できます。

抵抗値をそれぞれ1MΩとすると、電力損失はわずか2.88µWに抑えられます。しかし、抵抗値が高すぎる場合にも問題が生じます。非常に大きい値の抵抗を選択した場合、帰還ノードのインピーダンスが非常に高くなってしまいます。帰還ノードに流れる電流は、レギュレータによって非常に少なく抑えられることがあります。その結果、ノイズが帰還ノードに結合し、電源の制御ループに直接影響が及ぶ可能性があります。制御ループが不安定になった結果、出力電圧の安定化処理が停止してしまうかもしれません。

特にスイッチング・レギュレータでは、電流の高速スイッチングによってノイズが発生し、それが帰還ノードに結合することがあります。そのため、この部分の振る舞いには十分な注意が必要です。

R1 + R2の値は、他の回路ブロックから生じることが予想されるノイズや、出力電圧の値、電力損失の削減の必要性に応じて決定します。通常は50kΩ~500kΩの範囲に設定することになるでしょう。

この他に重要なポイントとしては、プリント回路基板のレイアウトが挙げられます。まずは、分圧器の配置場所が重要です。帰還ノードは、このインピーダンスの高いノードにノイズが結合することがないよう、できるだけ小さくなるように設計する必要があります。また、抵抗R1とR2は、電源ICのFBピンのすぐ近くに配置しなければなりません。通常、R1と負荷の接続部は、インピーダンスの高いノードではありません。そのため、長い配線を使用することができます。図2に、帰還ノードの近くに抵抗を配置した例を示しました。

図2. 電源回路において適切に配置された分圧器の例

図2. 電源回路において適切に配置された分圧器の例

エナジー・ハーベスティングなど、アプリケーションによっては、消費電力を非常に少なく抑えることが求められます。そうしたアプリケーションでは、分圧器における電力損失を削減する必要があります。そのために、降圧レギュレータ「ADP5301」のようなICでは、スタートアップの際にVIDピンに接続された抵抗の値を一度だけ確認する出力電圧の設定機能を備えています(図3)。その値は、電源ICが動作している間、分圧器に常時電流が流れていなくても保持されます。効率の高いことが求められるアプリケーションに向けた、非常に実用的なソリューションです。

図3. ADP5301の使用例。分圧器で連続的に電力を損失することなく出力電圧を調整できます。

図3. ADP5301の使用例。分圧器で連続的に電力を損失することなく出力電圧を調整できます。