優れたシステム・ブロック・デザインのためのレシピ—SPICE の追加

優れたシステム・ブロック・デザインのためのレシピ—SPICE の追加

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Reza Moghimi

Reza Moghimi

背景

シミュレーションを行うとプロトタイプの前に回路動作の検証と評価が可能になり、デザイン・チェーン内でデザイン不備が続くことを防止し、リスクのない仮想環境で回路性能を向上させることができるため、デザイン・プロセスではシミュレーションが不可欠なステージになっています。

デザイン不備により回路ボードが返却されてくるほどストレスが溜まることはありません。多くの設計者は現在、プロトタイプを数日以内ではないとしても数週間以内に用意しなければならないプレッシャを受けており、デザインを繰り返し行う余裕はありません。幸運なことに、最新のデザイン・ツールは回路のデザインと評価に対して総合的かつ直感的な手法を提供して生産性を向上させてくれます。

多くの半導体メーカは、仕様決定の初期ステージで強固なシステム・ブロックのデザインを支援するツールを提供しています。例えば、アナログ・デバイセズ(ADI)は、オンライン・フィルタ・デザイン・ツール(参考資料1参照)を提供しています。このツールは、アクティブ・フィルタ合成のプロセスと仕様に基づく推奨オペアンプの選択をガイドします。このツールはさらに、最終回路デザイン、部品表、SPICEネットリストを生成します。プロトタイプの前のステージでは、National Instruments社(NI)が提供するようなシミュレーション環境はさらに、指定部品のマクロモデルを使った最適化と検証も提供します(参考資料2)。

この資料では、この総合的手法によりフィルタ(広範囲な電子機器アプリケーションで使用される共通ビルディング・ブロック)の困難なデザイン作業をどのように高速化し向上させるかを調べます。では、まず基本から。

シミュレーションの基本

最も一般的なアナログ回路シミュレーション・ツールはSPICEです。このSPICE は、Simulation Program With Integrated CircuitEmphasis の略号です。SPICE の起源は、University of California,Berkeley により開発された1960 代後半です。SPICE はアナログ回路シミュレーションの業界標準になり、世界で最も広範囲に使われる回路シミュレータの地位を維持しています。年を経るにしたがい、シミュレーション・アルゴリズム、部品モデル、機能拡張が加えられてきました。例えば、Georgia Tech 社により開発されたXSPICE では、ミックス・モードとデジタル・シミュレーションを加速する部品のビヘイビア・モデルが可能になっています。NI のMultisim環境では、SPICE 3F5 とXSPICEシミュレーションをサポートしています。

しかし、設計者は何故シミュレーションに煩わされなければならないのでしょうか? シミュレーションはプロトタイプの前に回路動作の評価と検証を可能にするため、デザイン・プロセスでは不可欠なステージになっています。シミュレーションは、回路ボード製造までのデザイン・チェーンでデザイン不備が続くことを防止します。一方、デザインのやり直し費用は急激に高価になっています。さらに、設計者は広範囲な状況仮定シナリオを調べることにより、リスクのない仮想環境で回路性能を向上させることができます。

回路シミュレータを使用する主な利点の1 つは、購入可能な実部品をエミュレートするマクロモデルをシミュレーションできることです。また、現代のSPICE シミュレータでは、従来はテキスト・ベースのプロセスであったところへグラフィカルな手法を取り入れることも増えています。例えば、NI のMultisim は17,500 を超える部品を用意しています。多くのマクロモデルは大手半導体メーカから提供され、回路を入力すると自動的にテキスト・ベースのSPICE ネットリストが生成され、オシロスコープやファンクション・ジェネレータのような対話型計測器は実際のベンチトップを真似た表示と機能を持っています。これらのグラフィカルな機能拡張により、シミュレーションを利用するためにSPICE 構文の知識が必要なくなりました。

シミュレーションとフィルタ・デザイン

フィルタは、超音波装置からペースメーカに至るまで、特定範囲の周波数のみを通過させることが必要な場合に使用されています。フィルタは電子機器アプリケーションのどこでも使用されるビルディング・ブロックですが、フィルタ・デザインはあまり理解されず、ときには苦痛でもあります。何故こんなに複雑なのでしょうか? 特定の性能に対して必要とされるフィルタの次数について、アナログ回路デザインを専門としないシステム設計者が理解していないことがあります。

フィルタ・タイプには多くの派生があり(例えば、バタワース、チェビシェフ、楕円)、リップル単調性や遷移領域幅のような種々の仕様について最適化されています。また、フィルタ・デザインには、フィルタ形状(応答)を変える極/ゼロ点の位置を決める複雑な式が関係します(参考資料3参照)。もう1 つの難点は、理論計算で想定する完全な部品は実在しないことです。例えば、抵抗の製造許容偏差は、予想する回路動作に影響を与えます。

フィルタ・ウィザードのようなデザイン・ツールは、設計者が様々な回路間の相異を理解することを支援し、複雑な計算なしにデザインで使用する推奨部品を提示することにより、この複雑な作業を大幅に簡素化します。グラフィカル環境を使うと、設計者は広範囲な部品偏差での回路動作を見ることができます。

バタワース・フィルタ・デザインの検証

ここの例では、アクティブ・フィルタのデザインを検証します。このフィルタはADIのフィルタ・ウィザードを使ってデザインし、ADA4000-2デュアル高精度オペアンプを使用しています。このアンプは、高速スルーレートであり容量負荷で安定なため選択され、フィルタ・デザインには最適です。このオペアンプのバイアス電流は非常に小さい(ピコアンペア)ため、DC誤差が増えることを心配しないで済み、大きな値の抵抗を使って低周波フィルタを構成することができます。さらに、R1 に大きな値を使うと、信号ソース抵抗との干渉を小さくすることができます。複数のブロックをカスケード接続することによりフィルタ次数を高くすることができますが、部品値に対する感度と部品間の相互作用による周波数応答への影響が劇的に大きくなるため、意味がなくなります。信号の位相はフィルタで維持されます(非反転構成)。

このフィルタはNIのMultisimを使って入力し、検証と解析で使います(図1参照)。4 次バタワース・ローパス・フィルタは、20kHzのカットオフ周波数を持ち、デザインが容易で、最平坦周波数応答、最小部品数のサレン・キー構成を採用しました。バタワース・フィルタは通過帯域と阻止帯域で単調で、最適通過帯域リップルと広い遷移領域(通過帯域と阻止帯域との間の領域)を持っています。これらのフィルタは、データ・アクイジション・システムで折り返し防止フィルタとして広く採用されています。2極のサレン・キー・フィルタ回路は、EVAL-FLTR-SO-1RZフィルタ・ボードとEVAL-FLTR-LD-1RZフィルタ・ボードで使用されています。これらのボードはADIから購入することができます。このボードのアプリケーション・ノートはAN-0991です。

図 1.NI のMultisim での20 kHz バタワース・フィルタ

フィルタのデザインでは、回路の周波数応答と時間応答を考慮することが重要です。NI のMultisim を使ってこれらの特性をどのように検証するか調べてみます。

周波数応答の検証

図 2 にAC解析の結果を示します。このシミュレーション結果は、カットオフ周波数(ゲインが3 dB低下する周波数)が20.1 kHzであることを示しています。この20.1 kHzは指定した20 kHzに近い値です。このコーナー周波数から上では、ゲインが80 dB /ディケード(フィルタ伝達関数の各極あたり−20dB/decすなわち−6dB/oct )で減少していることが分かります。

図 2.バタワース・フィルタの周波数応答

また、阻止帯域も理想フィルタで予測したほど連続的に減衰していないことも分かります。ゲインはオペアンプの電圧ゲイン低下のため約1 MHz で増加し始めています。カーソルを使うと、この阻止帯域は約700 kHz であることが分かります。

時間応答の検証

Multisim 内に用意してある計測器を使ってステップ応答を調べることができます。ファンクション・ジェネレータを使うとテスト信号を入力することができ、オシロスコープを使うと出力波形を観測することができます。両方とも回路図環境で直接行います。これらの計測器は実験室の環境を真似ています。例えば、オシロスコープの場合、時間軸や電圧軸の表示単位のようなパラメータは波形特性に基づいて調整することができます。計測器では、ファンクション・ジェネレータで設定される周波数などの設定値をリアルタイムで変更することもできます。この機能により、20 kHz を超える周波数で信号の減衰を表示することができます。

図3に示すように、立上がり時間やセトリング・タイムのような特性をオシロスコープで測定することができますが、Grapher内でこのデータを表示することもできます。このGrapherはドキュメント化のためにグラフにアノテーションを付けてプリントするオプションです。

図 3.バーチャル計測器を使った時間領域応答の調査

ここで、立上がり時間特性を最初に調べます。立上がり時間は最終出力値の10%から90%までの時間と定義されます。カーソルを使うと、この値は19.3 µsと得られます。また、セトリング・タイムは約92 µsと得られます。これらの特性は、図4に示すグラフ上にアノテーションされます(パラメータTMAXは立上がり時間に影響を与えるので、この例で使うためにデフォルト値から変更してあることに注意してください)。

図 4.Grapher を使った時間領域特性のドキュメント化

最悪ケース・シナリオの考慮

シミュレーションのもう1つの重要な利点は、非理想部品値(すなわち許容偏差)を考慮できる機能があることです。このセクションでは、モンテカルロ解析を実行します。このモンテカルロ解析では、この回路図例で定めた5%の部品許容偏差範囲を持つ部品値の順列を使ってAC 解析を複数回実行します。この機能を使うと、最悪ケースでカットオフ周波数が受ける影響の大きさが分かります(この解析は過渡解析またはDC 動作ポイント解析に使うこともできることに注意してください)。

最初の実行は公称値に対するもので、理想条件を仮定しています。回路例の200 の順列に対して繰り返し実行した解析結果を図5に示します。171 回目の実行(下のトレース)と2 回目の実行(下のトレース)は、カットオフ周波数がそれぞれ20.67 kHzと19.02 kHzである最悪ケースです。カットオフ周波数からのこの変化は、このフィルタ・デザインの部品分散に対する感度が低いことを示しています。

 

図 5.モンテカルロ・シミュレーション結果

図から読み取れるように、測定値によっては後処理が必要な場合があることも分かります。例えば、立上がり時間の計算のような作業は、繰り返し行う場合は退屈なものになります。幸運なことに、この問題を解決するツールも提供されています。NIのLabVIEWは、グラフィカル・プログラミング言語です。このプログラミング言語を使うと、Multisim 内で測定値の表示と解析のためのカスタム・インターフェースを作成することができます。この計測器は、入力波形と出力波形を使ってフィルタ・デザインの立上がり時間、スロープ、オーバーシュート、アンダーシュートの計算を自動化します。カスタム計測器を生成することにより、これまで手動の後処理が必要であった特性の正確な値を自動的に表示することができるようになります。カスタム計測器は広範囲なアプリケーションに対して生成することができます。これらのアプリケーションとしては、ノイズのような実世界の影響を組込んで、シミュレーション精度を向上させるために、実際に取得した測定値のNI Multisim へのインポートなどがあります。

結論

今日のシステム設計者には、未検証の方法を実行する余裕はありません。ADIフィルタ・ウィザード(構築/検証済みの回路、このLab Reference Circuits (CFTL)回路はhttp://www.analog.com/jp/circuits-from-the-lab/index.html#_で提供中)、さらにNI Multisimのような新しいデザイン・ツールでは、この必要はありません。プロトタイプ・ステージよりはるか前に回路動作を検証し改善することができるため、デザインの生産性が大幅に向上します。このため費用のかかる再デザインが少なくなり、マーケット投入時間が短くなり、デザイン性能が向上します。