要約
我々は、1つのサイズで誰にでもフィットする服を作ることができるとは思っていません。同様に、1つのESD素子ですべての問題を解決することは不可能です。アプリケーションによってESDの要件は異なります。「1つのサイズですべてに適合」が電源設計に当てはまらないことを理解した上で、電源の設計者、すなわちエンジニアリングの「スーパーヒーロー」は、電源の安定した流れを乱す可能性のあるすべての要因を考慮し、それらを軽減するためのさまざまな方法を検討する必要があります。このチュートリアルは、電源を管理するための電圧/電流制限デバイスおよび立上り時間低減要素について説明します。また、ローパスフィルタの設計、コンデンサの自己共振のチェック、および回路のシミュレーションに役立つ無料および低コストのソフトウェアツールも紹介します。
同様の記事が「
How2Power Today」誌の2012年11月号に掲載されています。
はじめに
ほとんどの人は、洋服に「フリーサイズ(one-size-fits-all)」というラベルが使用されていたり、市場で売られている果物にどれも同じように美味しいと書かれているのを見たことがあるはずです。洋服や生鮮食品についてこれが真実であることはほとんどなく、ICの電源管理には絶対に当てはまりません。無線周波数干渉(RFI)、電磁干渉(EMI)、電磁感受性(EMS)、および静電気放電(ESD)—これらはすべて潜在的な安全上の問題で、アプリケーションの機能を妨害し、生命を危険に晒す可能性さえあります。結局、各電源アプリケーションごとにそれぞれ異なる要件、固有の特質、および固有の設計上の落とし穴が存在します。
電源エンジニアは防衛の第一線であり、エンジニアリングの「スーパーヒーロー」であり、あるいはすべてのアプリケーションにおいて電源の破壊的な力を管理するための万能薬です。これらのエンジニアは、プロジェクトを最初に開始し、他の設計者を指導するコンサルタントの役割を果たし、システムのエネルギー効率改善のための最後の砦になる必要があります。
「1つのサイズですべてに適合」が電源設計に当てはまらないことを理解した上で、我々は20%/80%ルールに注意を集中し、良好な設計の電源管理回路を作る必要があります。この基本方針に従って、電源設計者は電源の安定した流れを乱す可能性のあるすべての要因を考慮し、それらを軽減するためのさまざまな方法を検討する必要があります。以下では、電圧/電流制限デバイスおよび立上り時間低減要素による電力の管理を提言します。また、ローパスフィルタの設計、コンデンサの自己共振のチェック、および回路のシミュレーションに役立つ無料および低コストのソフトウェアツールも紹介します。
電源エンジニアの役割
時として、電源エンジニアは正当に評価されないことがあります。すべての回路に給電が必要で、経営陣はそれが容易な仕事だと考えている場合さえあります。我々エンジニアは本当の答えを知っていますが、経験豊富な電源設計者に期待される責任と専門知識についても知っています。単に非常に大きい既製品の電源を購入し、うまく動作するよう願っていたのは遠い過去の話です。消費者でさえ消費電力とバンパイア(スタンバイ電流)負荷を意識しています。そして電力負荷の増大にともなって、安全性の問題が我々全員の懸念となっています。
今日の電源設計者は、シャーシ内の配線の位置と大きさの決定、リモート検出、およびシャーシ内や基板上の電源/グランドのスターポイントなどを含む、電源とグランドに関するプロジェクトの設計ガイドライン1を管理し、励行します。目的の周波数にわたりノイズを低減し適切なデカップリングを維持するために、基板レイアウトを監視し整理します。ESD、EMI、およびRFIの脆弱性は外部の世界とのインタフェースの問題であり、協調的な方法で対処するのが最善です。電源設計は入力電源との外部インタフェースから開始されるため、設計者は通常は他の設計者と相談してシステム全体にわたり他のインタフェースポイントを保護する必要があります。
この中心的な役割を理解し、電源設計者は主要な重点に20%/80%ルールを反映させる必要があります。一般に、多くのシステムは同じようなRFI、EMI、EMS、およびESDの問題に直面しますが(こちらが80%)、いくつかの特別な要件や部品(20%)の適応と追加によって保護が提供されます(確かに、これは神秘の技でも魔法でもありませんが、これによって電源エンジニアは多くの企業でスーパーヒーローになっています)。
どこから始めるか?
プロジェクトの進行を急ぐ必要のあるあなたに、他のエンジニアがアドバイスします。「カタログを見てフィルタを買えばいい。それをカタログから選んだ既製品の電源の前に挿入すれば十分さ」。図1の回路は、そのようなフィルタの標準的な例です。
図1. コモンモードチョークパワーラインフィルタ
あなたは自問します。本当にそれで十分だろうか?2 そうかも知れませんが、確認しておく方がはるかに安全です。それが、数学的および物理的にソリューションをテストする経験豊富な電源設計者の問題意識であり、体系的なアプローチです。
脆弱性について考える場合、民生用アプリケーションも産業用アプリケーションも同じようなものです。表面上まったく異なるこれらのアプリケーションにとって、外的な干渉(ESD、EMI、RFI、およびEMS)によって安全性が損なわれないことが非常に重要です。工場にて、長い配線がアンテナとして作用し、データ配線にショートし得る百ボルト単位のモータ電圧のところで、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)を見ることがあります。工場または産業施設は、悪天候、雷、「グラウンド・ループ」が一般的な屋外にあるかもしれません。民生用機器は常に電源ラインの変動による影響を受けます。
このことを知っている我々は、アプリケーションのESD、EMI、およびRFI脆弱性の大部分を予測しようと努力します。図2の簡単なインタフェース回路3は、回路の中の共通の80%と、最適化された設計の20%を見込むための部分を示します。
図2. 入力ポイントと出力ポイントの両方に適用可能な20%/80%インタフェース回路。より「一般的な」デバイスの代わりに一つの部品を使用することは、不要な電気的脆弱性を防ぎます。
図2を見ると、ESD、EMI、EMS、およびRFIデバイスを3つのカテゴリに分類することができます。
- 電圧制限デバイス:ガス放電アレスタ、金属酸化物バリスタ、サプレッサダイオード、トライアック、ダイアック、およびスイッチ4
- 電流制限デバイス:ヒューズ、回路ブレーカー、およびサーマルカットアウト
- 立上り時間低減要素:抵抗、インダクタ、コイル、フェライトビーズ、およびコンデンサは、すべて過渡の立上り時間を遅らせることにより、他の保護デバイスが機能するための時間を稼ぎます。
図2の回路を注意深く調べると、以下のことが分かります。
- R1、R2:入力範囲3VのADC5を使用可能にするように、高入力電圧を減衰するための高精度抵抗—これには抵抗分圧器のMAX5490が提案されます。
- R1、C1、D1:C1-D1を保護するために電流を制限しローパスフィルタを形成するための、ヒューズまたはフェライトビーズ(FB1)と交換可能な抵抗
- R2:この抵抗が250Ωの場合、4-20mAの電流がADC用の1V~5Vに変換されます。
- C1、C2、C3:RFI低減、アンチエイリアスコンデンサ
- R3–C2、R4–C3:RCローパスフィルタ
- D1:-0.6Vと5.6Vでクランプする、5.6V過渡電圧サプレッサ(TVS)ダイオード。これにはVishay® VCUT0505-HD1が提案されます。
- D2–D3:シリコンクランプダイオード(順電圧:0.6V~0.7V)—これには高速ダイオードの1N4148が提案されます。より大きい、シリコンクランプダイオード—これには、汎用整流器の1N4001-7が提案されます。
- D4–D5:順電圧0.25V~0.3Vのショットキークランプダイオード—BAT54またはSD101ダイオードが提案されます。
- R1、R3、R4:上記のクランプダイオードの電流を制限します。
- L1 replaces R4:2ポールまたは3ポールのローパスフィルタ
- R1、R3、および配線:フィルタ用の直列抵抗
- R5:フィルタ出力の終端
- L1、C2、C3:2ポールまたは3ポールのフィルタ
- C4:ACカップリングまたはL1と並列のフィルタ用
コンデンサは抵抗とともに使用され、フェライトビーズとインダクタはローパスフィルタの役割を果たします。このアプローチは、データコンバータ用のアンチエイリアスフィルタを制御します。これらは、インパルスを長時間にわたり拡散するためにESDの立上り時間を遅くし、コンデンサをより効果的にします。各コンデンサの使用電圧および自己共振ポイントは、アプリケーションの周波数および帯域幅と適合させる必要があります。これらの回路はそれぞれ互恵的で、外部の世界からシステムを保護するとともに、デバイスが放出する可能性のある意図しない信号から外部の世界を保護します。ソフトウェアツール6、7を図2とともに使用して、最終的な回路の作成とシミュレートを行うことができます。
結論
明らかに、この短い記事で提供したのは、電源設計エンジニアにとって利用可能であり考慮する必要のある広範なESD、EMI、RFI、およびEMS保護についての初歩のみです。我々はすべて、設計における20%/80%ルールおよび現実のアプリケーションで対処すべき潜在的危険性について考える必要があります。電源管理の問題に対するこの敏感さが、経験豊富な電源設計者が設計プロジェクトにおける無名のヒーローである理由です。
参考文献
- アプリケーションノート4345 「Well Grounded, Digital Is Analog」
- チュートリアル5065 「無線感受性— 治療法は抗生物質、ワクチン、それとも物理法則?」
- アプリケーションノート1833 「Using RS-485/RS-422 Transceivers in Fieldbus Networks」
- アプリケーションノート1167 「Practical Aspects of EMI Protection」。このアプリケーションノートは、トランスによる電源の絶縁、ガスアレスタから抵抗までの回路保護デバイス、MAX4506やMAX4507などのフォルト保護された、高電圧、信号ラインプロテクタ、およびEMI耐性の試験と測定の技法について説明しています。
- リファレンスデザイン2398 「±10Vアプリケーションで使用される3V DAC」
- https://www.maximintegrated.com/jp/design/design-tools/calculators.htmlにあるマキシムのツールおよび計算器へのリンクを参照してください。HP50g用の6種類以上のアナログ設計計算器と無料のPCエミュレータ、プログラマブルフィルタのオンライン設計とシミュレーションが提供されています。
- https://www.maximintegrated.com/jp/design/design-tools/calculators.htmlで、以下へのリンクも参照してください。
- Micro-Cap 10:Spectrum Software社製の回路シミュレータ(無料評価バージョン)
- Solve Elecはシンプルな回路シミュレータです(ドネーションソフトウェア)。
- FilterFreeは最大3ポールまでのフィルタ用のフィルタ設計プログラムです(フリーウェア)。
- Kemet® Spice Software (フリーウェア)
- Johanson Technology、JTIsoft® (フリーウェア)は、MLCsoft®とMLIsoft®の2つの高度な設計シミュレーションソフトウェアパッケージで構成されています。このソフトウェアは、Johanson社のRF多層セラミックコンデンサおよびインダクタ製品シリーズについて1MHz~20GHzの周波数範囲にわたる完全なSパラメータおよびSPICEモデリングデータを提供します。
- AADE Filter Design and Analysis (フリーウェア)