低損失のMOSFETとORコントローラで、ORingダイオードを置き換える

低損失のMOSFETとORコントローラで、ORingダイオードを置き換える

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Tim Regan

はじめに

1つのシステムに対し、複数の電源が用意されることがあります。その目的は、冗長化によって信頼性を高めたり、トータルの供給電力を増やしたりすることです。その際に使用されるのがORingダイオード(OR結合ダイオード)です。その種のダイオードは、十分な電圧を供給できない電源を切り離すために使用することもできます。

供給する電力量が多い場合、ORingダイオードとしてはショットキー・ダイオードが使用されます。ショットキー・ダイオードであれば、順方向電圧を0.35V~0.6Vといった比較的小さい値に抑えられるからです。しかし、電流量がより多くなると、ショットキー・ダイオードを選択したとしても順方向電圧の電圧降下によってかなりの電力損失が発生してしまいます。

そうした場合の最適な代替策となるのが「LT4351」のようなORコントローラです。同ICによってNチャンネルの外付けパワーMOSFETを制御することで、大電力に対応するORingアプリケーションに適した理想ダイオードに近い機能が得られます。オン抵抗RDS(ON)が小さい外付けのMOSFETとLT4351を使用すれば、負荷が軽い場合のMOSFET両端の順方向電圧をわずか15mVに維持することができます。

ここで、5V/10A(50W)を供給する電源を考えます。この条件下で順方向電圧が0.45Vのショットキー・ダイオード(例えば「SBG1025L」)を使用すると、同ダイオードによって4.5Wの電力が消費されます。つまり、9%の損失が生じます。一方、オン抵抗が3mΩのパワーMOSFET(例えば「Si4838DY」)とLT4351を組み合わせれば、それらで消費される電力はわずか0.3Wです。その場合、電圧降下を0.03Vに抑えられるからです。損失もわずか0.6%に抑えられます。しかも、電源電圧の許容誤差も改善されます。LT4351は、最低1.2Vの入力電圧によって動作することが可能です。その場合の効率(損失)は更に大きく改善されます。

ダイオードでは提供できない機能

図1に、LT4351のブロック図を示しました。同ICの基本的な性能はダイオードよりも優れています。加えて、ダイオードでは提供できない機能を備えています。入力部のコンパレータは、入力が低電圧(UV)の状態または過電圧(OV)の状態であることを検出します。また、入力が規定の範囲を外れている場合にはMOSFETをディスエーブルにします。加えて、コンパレータは電源からの電力をマニュアルでオフにする手段も備えています。FAULTピンの出力は、UV/OVの状態では電流をシンクします。それにより、入力に異常があるためMOSFETをオフにしていることを示します。

図1. LT4351のブロック図

図1. LT4351のブロック図

MOSFETのゲートは、LT4351が内蔵するドライバ・アンプによって駆動します。このアンプは、MOSFETの両端(入力から出力)の電圧を約15mVに維持するように動作します。MOSFETのRDS(ON)が非常に大きい場合には、最大のゲート電圧が印加されます。その場合の順方向電圧はI×RDS(ON)で決まります。ゲート電圧は、MOSFETのゲート酸化膜が破損しないように、入力と出力のうち低い方より7.5V高い電圧でクランプします。ゲートを駆動する強力なアンプは、入力がショートしたときに流れる逆電流を最小限に抑えるために、1マイクロ秒以内にMOSFETをターン・オフさせます。このような強力なアンプにより、電源のグリッチが生じている状態から即座に回復することができます。

LT4351を採用すれば、単一のMOSFETだけでなく、バック・ツー・バック接続したMOSFETも使用可能です。バック・ツー・バック接続のMOSFETは、MOSFETのボディ・ダイオードを介した逆導通を防ぐために使用します。バック・ツー・バック接続のMOSFETとLT4351を使用した場合、OVの状態の入力から出力が切り離されます。これは、通常のダイオードでは実現できないことです。

UVピン/OVピンにはヒステリシスが設けられており、OV/UVの状態だと誤ってトリガしてしまうことを防げるようになっています。UVピンは電流ヒステリシスを使用します。入力電圧がUVの閾値より低くなると(UVフォルト)、外付けの分圧器から10µAの電流が引き込まれます。分圧器の抵抗値を適切に選択することによって、必要なヒステリシスのレベルを設定できます。一方のOVピンには内蔵フィルタが用意されており、小さなパルスに対して応答しないようになっています。

LT4351のSTATUSピンの出力はMOSFETの状態を表します。入力が出力よりも高く、ゲート‐ソース間の電圧、ゲート‐ドレイン間の電圧が0.7Vより大きいとき、STATUSピンは電流をシンクします。それにより、MOSFETがオンになっていることを示します。入力から出力までの電圧が210mVを超え、GATEピンの電圧が(クランプされて)最大値になっていたら、FAULTピンに接続されている内蔵トランジスタがターン・オンし、MOSFETが正常に機能していない可能性があることが示されます。

また、LT4351はMOSFET用のゲート・ドライバに電力を供給するための電源電圧を生成する昇圧レギュレータを内蔵しています。同レギュレータの高い出力電流能力により、VDDピンに接続されたコンデンサを高速に充電することができます。加えて、ゲートの駆動に向けたより多くの電流に対応することが可能です。そのため、MOSFETは起動時に即座にターン・オンすることができます。更に、通常動作の最中にも即座にターン・オン/ターン・オフすることが可能です。このレギュレータに必要な外付け部品は、4.7µH~10µHの小さなインダクタ、ショットキー・ダイオード、コンデンサだけです。

5Vのデュアル電源への対応

図2に示したのは、5Vの電源を2つ使用する場合の例です。それらの電源により、冗長構成を実現しています。つまり、一方の電源に障害が発生したら、もう一方がバックアップ電源として給電を行います。このアプリケーションでは、バック・ツー・バック接続のMOSFETを使用しています。これらは、5Vの電源のレギュレーションが緩んで過電圧の状態になったとき、MOSFETのボディ・ダイオードが導通するのを防ぎます。

図2. 5Vのデュアル電源に対応する回路。LT4351によってORingを実現しています。

図2. 5Vのデュアル電源に対応する回路。LT4351によってORingを実現しています。

VINピンとUVピン/OVピンの間の抵抗分圧器は、フォルト検出の閾値の設定に使用します。この例では、0.25Vのヒステリシスが存在する条件の下、UVフォルトは4.5Vで発生します。一方、OVフォルトは5.5Vで発生します。

インダクタL1とダイオードD1は、内蔵昇圧レギュレータ用の外付け部品です。LT4351は、VINより10.5V高い電圧VDDを生成します。なお、ゲートの駆動に必要な要件を満たす外付け電源を利用できるのであれば、昇圧レギュレータの代わりにそちらを使用しても構いません。

MOSFETは、消費電力を考慮しつつ、電圧降下の値に基づいて選定します。この例で使用しているSi4838DYでは、ワースト・ケースのRDS(ON)が4.5mΩになります(温度は室温)。2つのMOSFETをバック・ツー・バック接続すると、RDS(ON)の総計は9mΩになります。これらのMOSFETはSO-8パッケージを採用しており、電力がそれぞれ1Wに制限された場合、14.9Aの電流に対応できます。その場合、両MOSFETの両端の電圧降下は、2×4.5mΩ×14.9A = 0.134Vとなります。より多くの電流に対応する必要がある場合には、よりRDS(ON)が小さいMOSFETか、より熱抵抗性能が優れたMOSFETを使用します。あるいは、並列接続のMOSFETを追加するという方法も考えられます。

LT4351は、冗長構成の電源だけでなく、消費電力を抑えることによってメリットが得られるあらゆるORingアプリケーションで利用できます。また、種類の異なる電源をORingすることも可能です。LT4351のダイオード機能はゲーティングによって実現されるので、異なる電源を使用する場合の電源シーケンスも比較的容易に構築できます。

図3に示した回路例をご覧ください。この回路は、冗長構成の2つの電源とバックアップ用のバッテリに対応しています。冗長構成の2つの電源は、理想ダイオードによってORingされています。そのため、規定の範囲内にある高い方の電源から電力の供給が行われます。UV/OVの閾値は、入力電源範囲に基づいて設定されます。一方、LT4351を使用したバッテリ向けの回路は、冗長構成の電源のうちいずれかから電力が供給されている際にはバッテリを切り離します。いずれかの電源のFAULTピンがハイを出力しているとき(UVピンの電圧が閾値より高い)、OVピンの電圧は閾値より高くなります。両方の電源がディスエーブル(両システムのFAULTピンがローを出力)の場合には、バッテリ側のLT4351のOVピンの電圧は閾値より低くなり、バッテリから電力が供給されます。

図3. ORingによる冗長化を実現すると共に、バックアップ用のバッテリにも対応する電源回路

図3. ORingによる冗長化を実現すると共に、バックアップ用のバッテリにも対応する電源回路

もう1つ、回路の例をご覧いただきましょう。図4に示した回路では、LT4351の理想ダイオード機能とホット・スワップ・コントローラ「LTC1642」を組み合わせています。これにより、プラグイン・ボードにORingを適用して冗長化された電源を構築しています。LTC1642は、電流の制限機能、回路ブレーカの機能、リセット・タイミング機能を提供します。一方、LT4351はORingダイオードと同様に振る舞います。

図4. ORingとホット・スワップに対応した電源

図4. ORingとホット・スワップに対応した電源

まとめ

現在の電源には、大電流、低電圧、高効率に対応しつつ、信頼性を高めることが求められます。このようなニーズに、ショットキー・ダイオードを利用した従来のORingで対応するのは困難です。LT4351は、理想に近いダイオード機能を実現するために、RDS(ON)の小さいMOSFETを制御することによってORingのソリューションを改善します。また、LT4351は、必要に応じて電力経路の導通を止めるための監視機能も提供します。LT4351をベースとするソリューションを採用すれば、ショットキー・ダイオードを使用する方法よりも消費電力を大幅に削減することができます。加えて、ショットキー・ダイオードでは実現できない保護機能を利用することも可能になります。