3.5V~60Vの入力電圧(VIN)で動作し、軽負荷時に高い効率を維持する、消費電流(IQ)が40μAのPチャネル降圧コントローラ

3.5V~60Vの入力電圧(VIN)で動作し、軽負荷時に高い効率を維持する、消費電流(IQ)が40μAのPチャネル降圧コントローラ

著者の連絡先情報

Terry-Groom-Blue

Terry Groom

LTC3864は、低IQ の降圧DC/DCコントローラです。このデバイスは外付けのPチャネルMOSFETを制御して、優れた軽負荷時の効率、低ドロップアウト動作を含む広い入力電圧範囲(3.5V~60V)、信頼性、および簡素化された機能を実現しており、使いやすい12ピン・パッケージに収められています。LTC3864はデューティレシオ100%の動作が可能なので、入力電源電圧が低下しても継続して動作が可能です。

こうした機能の組み合わせにより、このデバイスは電子制御装置(ECU)のオールウェイズ・オン電源などの自動車用アプリケーションに最適です。全動作温度範囲にわたって最小3.5Vでの低ドロップアウト性能が保証されています。LTC3864 は自動車用の温度および信頼性グレードで供給されており、厳格な故障モード影響解析(FMEA)がなされています。

高効率のPMOSコントローラ

LTC3864は、PMOS がオンのとき0.9Ωでオフのとき2Ωの強力なゲート・ドライバとIQの少ない(40µA)Burst Mode®動作により、高負荷と軽負荷の両方で高い効率を実現しています。現代の自動車用オールウェイズ・オン・アプリケーションでは、バッテリの消耗を防ぐため70µA未満の全電源電流が要求されます。Burst Modeのスイッチングとわずか40µAの低IQにより、これらの非常に低い電流で高い効率が可能になります。

標準的な効率のグラフを図1に示します。負荷電流が減少しても効率の低下はごくわずかであることが分かります。軽負荷時の効率は、低周波のBurst Modeスイッチングと低VIN IQの2つの方法で達成されています。軽負荷時のBurst Mode 動作では、負荷電流は「バースト(集中)」動作時に発生する複数のスイッチング・パルスによって供給され、バーストとバーストの間にはスイッチングのない期間があります。

図1.LTC3864のパルス・スキップ・モードおよびBurstModeでの効率

図1.LTC3864のパルス・スキップ・モードおよびBurstModeでの効率

これにより、スイッチング回数を実質的に下げることができます。パワーFETのスイッチング損失は、負荷が軽いときは大きな損失要素の1つです。スイッチング回数が実質的に低下すると、スイッチング損失が減少して効率が高くなります。効率の下限は、VIN静止電流(IQ)である40µAで決まりますが、この電流値では、オールウェイズ・オンの用途で効率的なスタンバイ動作が可能です。

広い動作入力電圧範囲

LTC3864は、最大60Vおよび最小3.5Vで連続動作可能な高電圧PMOSゲート・ドライバを内蔵しています。この入力電圧動作範囲は、最大でミリタリ・グレードの全温度範囲(–55°C~150°C)で保証されます。最小入力電圧動作条件あるいは低電圧ロックアウト条件は、実際にはVINピンとCAPピンの間の差電圧が3.5Vの場合で規定されます。この電圧はパワーFETのゲートを駆動するために使用されます。

LTC3864の内部リニア・レギュレータは、VINとCAP の間の電圧を8Vに維持します。VINが8Vより低くなると、VCAPレギュレータはドロップアウト状態になり、CAPピンの電圧はグランドに保持されます。この状態では、VINの低電圧ロックアウトしきい値がVIN - CAP 間の低電圧ロックアウトしきい値で設定されます。LTC3864は、PMOSスイッチのゲート電圧が確実に十分な値になるように、VINとCAP間の電圧が最小でも3.5Vになることを保証しています。 VINが低い動作条件の場合は、VINが最小値に近づいたときに十分なオーバードライブ電圧を確保できるように、しきい値電圧が2V未満の外付けPチャネルMOSFETを選択することを推奨します。

デューティ・サイクル100%の動作

LTC3864は、外付けのPチャネルFETのゲートを強制的にオンにすることだけで、デューティ・ファクタが100%の動作を自然にかつ容易に処理します。昇圧駆動回路や補助回路は必要ありません。PチャネルFETを大電流で使用すると、NチャネルFETの場合と比べて効率が低くなりますが、この方法はシンプルなので、低電流から中程度の電流レベルの多くのアプリケーションではLTC3864が最適です。

自動車用アプリケーションでの重要な機能の1つは、コールド・クランク状態時の出力電圧ドロップアウトです。コールド・クランク状態の間に、安定化5V出力がドロップアウト状態になった後で回復する様子を図2に示します。出力は、出力レギュレーション電圧より低い入力電圧にそのまま追従します。コールド・クランク状態が終了すると、出力は安定状態の5Vに素早く回復します。

図2.12Vから5Vより低い電圧になる自動車の標準的なコールド・クランク

図2.12Vから5Vより低い電圧になる自動車の標準的なコールド・クランク

ソフトスタート、フォルト保護、および回復

LTC3864は、過酷な条件下でも堅牢な動作を保証するために、ソフトスタート、トラッキング、フォルト保護、および回復機能を内蔵しています。SSピンはソフトスタートとトラッキングの両方の機能を果たします。

ソフトスタートによる電圧上昇時間を設定するには、SSピンとグランドの間にコンデンサを接続すれば済みます。こうすれば10µAの内部充電電流により、SSピンの電圧は0Vから0.8Vに上昇します。SSピンの電圧が0.8Vのとき、出力は設定されたレギュレーション電圧に達しています。

LTC3864は、10µAの電流をオーバードライブしてSSピンに別の入力電圧を強制することにより、別の入力電源をトラッキングできます。出力は信号が0.8Vを超えるまでSSピンの電圧に追従します。

フォルト保護機能には、パワーグッド機能、低電圧ロックアウト機能、短絡回復機能と、起動状態および短絡状態時の周波数フォールドバック機能があります。

LTC3864はソフトスタート電圧上昇機能を内蔵していますが、この機能により、短絡からの回復を含むすべての動作条件で出力電圧の最大上昇率が設定されます。内部のソフトスタート電圧上昇機能により、出力電圧の最小上昇時間は約650µs に設定されます。内部の最小値である650µsを超えると、SSピンの電圧上昇はSSピンの外付けコンデンサによって決まります。

短絡からの回復における出力電圧の最大上昇値も、内部のソフトスタート電圧上昇機能によって決まります。この機能がないと、出力の回復は電流制限によってのみ制限されることになります。ソフトスタートなしでは、出力回復時の大きな過渡電流の原因になり、出力電圧のオーバーシュートが発生する可能性があります。

回復を含む短絡状況を図3に示します。出力が短絡すると、出力は0V近くまで低下し、電流は短絡設定値に安定化されます。回復時におけるVOUTの最初の上昇は、短絡が解消されてインダクタのエネルギーが出力に伝達された結果です。次に、内部のレギュレーション上昇電圧により、上昇電圧がレギュレーション点を超えるまでスイッチングは開始されず、その後スイッチングが開始されると単調に増加します。電流制限値を超えることも出力電圧のオーバーシュートもなく、出力が短絡から滑らかに回復する様子を図3に示します。

図3.短絡からの緩やかな回復を含む短絡時動作

図3.短絡からの緩やかな回復を含む短絡時動作

検証された故障モード影響解析(FMEA)

LTC3864は、最も厳しい自動車の要求条件を満たし、標準的な構成で隣接ピンの短絡やピン開放状態での動作に対するFMEAをクリアする目的で設計されました。 このテストの目的は、典型的なPCBの欠陥の影響を想定して、それが破壊に結びつくかどうかを判定することです。このテストでは、LTC3864は12VのVIN、5VのVOUT、1Aの出力負荷に合わせて構成されました。その後、規則に従って全てのピンについてオープン状態にし、また隣接ピンのショート状態にして、その結果を測定しました。すべてのケースについて試験した結果、FMEA条件が解消されるとLTC3864は正常状態に戻りました。その結果についてはLTC3864のデータシートに記載されています。

簡単で使いやすい

LTC3864 は非同期のPMOS DC/DCコントローラで、低電流から中程度の電流レベルのさまざまなアプリケーションで使用できます。標準的な5V出力の自動車用アプリケーションを図4に示します。これは部品点数が最小のソリューションです。入出力のコンデンサ、PMOSスイッチ、非同期ダイオード、検出抵抗、バイアス・コンデンサ、および補償回路を組み込めば、アプリケーションは完成です。

図4.標準の5V出力自動車用アプリケーション

図4.標準の5V出力自動車用アプリケーション

この5V/2A出力のソリューションは、図1に示すように、最大負荷近くでは約90%の効率を達成し、軽負荷時でもBurst Mode 動作によって高い効率を維持します。出力電圧は帰還抵抗RFB2およびRFB1によって設定し、必要に応じて、過渡応答を高速化するためにオプションでCFFを使用できます。

LTC3864は、サイズと軽負荷時の効率が最優先される幅広いアプリケーションに適しています。出力は0.8Vから最大60Vまで設定できます。出力電流の標準的な範囲は最大5Aまでで、アプリケーションによって異なります。ピークの効率が92%(1A時)で、Burst Mode 動作時は低電流時の効率が72%より高い、出力電圧24V、750kHz のアプリケーションを図5に示します。

図5.入力:24V~60V、出力:24V/1A(750kHz)

図5.入力:24V~60V、出力:24V/1A(750kHz)

まとめ

LTC3864 は、多用途で使いやすい高電圧PMOSコントローラで、軽負荷時の効率が優れています。その40µAという低IQ Burst Mode動作は、スタンバイ状態での軽負荷時の効率が重要なアプリケーション(オールウェイズ・オンの電源システムなど)に最適です。デューティ・サイクル100%が可能なので、出力電圧がコールド・クランク状態時のような厳しい入力電圧低下を乗り切ることができます。LTC3864は、全温度範囲で3.5VのVIN電圧低下状態で動作するよう設計されています。LTC3864は高い入力電圧に対応し、軽負荷時の効率が優れており、シンプルで使いやすい12ピン・パッケージで供給されます。LTC3864EとLTC3864I の2つのバージョンは、–40°C~125°Cの接合部温度範囲で動作します。LTC3864Hは–40°C~150°Cの動作接合部温度で動作することが保証されています。LTC3864MPは3種類の温度で全数テストされており、–55°C~150°Cの動作接合部温度範囲で動作することが保証されています。

データシート、デモ基板、その他のアプリケーション情報については、www.analog.com/LTC3864をご覧ください。