概要
設計リソース
設計/統合ファイル
- Schematic
- Bill of Materials
- Gerber Files
- Allegro Layout Files
- Assembly Drawing
評価用ボード
型番に"Z"が付いているものは、RoHS対応製品です。 本回路の評価には以下の評価用ボードが必要です。
- EVAL-CN0532-EBZ ($88.28) IEPE Compatible Wideband MEMS Vibration Sensor
- EVAL-XLMOUNT1 ($100.05) Mechanical Mounting Block for MEMs Vibration Sensors
機能と利点
- 業界標準のIEPEインターフェース
- 広帯域MEMS加速度センサー
- 圧電式センサーから直接置き換え可能
製品カテゴリ
マーケット & テクノロジー
使用されている製品
参考資料
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CN0532 User Guide2020/05/08WIKI
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CN0532: 広帯域 MEMS 加速度センサー用の IEPE 互換インターフェース (Rev. 0)2020/05/08PDF279 K
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CN0549 - CbM Development Platform2024/10/15
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CN0549 状態基準保全 (CbM) 開発プラットフォーム2023/10/10
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状態基準保全システムには、なぜMEMS加速度センサーが最適なのか?2021/02/01
回路機能とその特長
状態基準保全(CbM)は予防メンテナンスの 1 つの方式で、動作中の機器の状態をセンサーを使用して長期間にわたり評価します。収集したセンサー・データを使用して、ベースライン・トレンドの確立や診断の他、故障を予測することも可能です。従来の定期的な予防メンテナンスと異なり、CbM を利用すると、必要なときにメンテナンスを実施できるため、時間とコストの両方を削減できます。
CbM 測定で一般的に行われるのが振動モニタリングです。なぜなら、振動の傾向の変化は、摩耗などの故障モードが発生している可能性を示しているからです。従来、振動データの測定には広帯域幅(10kHz 以上)、超低ノイズ(100µg/√Hz 以下)の圧電式センサーを使用して、CbM 測定に求められる条件を満たしてきました。圧電式センサー用に確立されたセンサー・インターフェースが集積電子圧電方式(IEPE)です。結果として、IEPEはCbMの振動エコシステムにおいて事実上の標準インターフェースになりました。
近年のマイクロテクノロジーにおけるプロセスと製造技術の進歩により、MEMS 加速度センサーは圧電式センサーの低ノイズ・レベルに追いつき、DC~低周波数の応答、熱的安定性、衝撃に対する耐性と回復性能、コストなど、他の多くの仕様では圧電式センサーを置き換えるほどになっています。しかし、MEMS センサーの出力は、従来型の 3 線式アナログ方式(グラウンド、電源、および信号)か、ADC と組み合わせたデジタル方式です。どちらの出力も、CbM で推奨される産業用センサー・インターフェースである IEPE と直接の互換性はありません。
このリファレンス設計を使用することで、圧電式センサーによる IEPE から、広帯域、超低ノイズ MEMS 加速度センサーへの置き換えが可能になります。この回路によって、MEMS 加速度センサーを使用した CbM アプリケーション向けの評価が簡単にできます。
回路説明
図 1 に示す回路は、MEMS加速度センサーに IEPE 互換インターフェース回路(バイアス電圧:12.5V、消費電流:4mA)を組み合わせた振動センシング・ソリューションです。
IEPE のプロトコルとインターフェース
IEPE インターフェースは、信号とグラウンドの 2 線式プロトコルです。データ・ロガーなどの計測器は、信号ラインを介して振動センサーに電源を供給します。電源として電流を使用し、電圧は任意(一般的には10V~30V)です。信号ラインは電流源によって供給されるため、センサー・デバイスは電圧レールで加速度データの変調が可能です。したがって、信号ワイヤは電源とセンサーの変調電圧出力の両方に使用することができます。図 2 に、12V のバイアス電圧と±2V のフルスケール・レンジ(FSR)振幅を持つ IEPE 出力の例を示します。
図 3 に、この回路の基本動作を示します。レギュレータ A は、すべての素子に電流を供給します。レギュレータ B は、ADXL1002 のバッファ出力(2.5V ± 2V)に DC オフセット(約9.5V)を追加します。これにより、信号ラインに十分なコンプライアンスが与えられます(出力電圧(V_IEPE)= 12V ± 2V)。信号ラインの電圧レベルは常に 5V以上となるため、シャント・レギュレータ(レギュレータ A)は安定した VDD(5V)を生成して ADXL1002 と AD8541 に電源を供給できます。
信号ラインを流れる電流は、4mA を超えてはなりません(最も標準的な業界基準です)。また、シャント・レギュレータ、バッファ・アンプ、およびセンサーの電源として十分な電流を供給し、センサー出力の全振幅を確保できるようにする必要があります。これがシャント・レギュレータを選定する際の最も重要な制約条件です。バッファ・アンプはレギュレータ A から電流をシンクします。このアンプは、50kHz で±2V の振幅をカバーする高いスルー・レートを備えている必要があります。AD8541 バッファ・アンプは、この高速スルー・レートの条件を満足すると共に、100μA の超低静止電流を実現しています。
電源電圧と抵抗 R3 によってシャント・レギュレータの電流が決まります。この電流と電圧は、以下のように見積もることができます。
- V_IEPE の範囲は固定されており、12 ± 2.5V です。ADXL1002 の有効出力範囲は 2.5V ± 2V ですが、信号の完全性を問わなければ、更に±0.5V のヘッドルーム駆動能力を備えています。したがって、電流の最小値と最大値を計算するには、駆動可能な最大振幅を考慮する必要があります。
- レギュレータ A(IC1)は、V_IEPE の最小値(9.5V)でセンサー(IC2)とバッファ・アンプ(IC3)に十分な電流を供給し、かつ、(V_IEPE − VDD)/R3 >(IC2 と IC3 の消費電流)+(IC1 の(最大)最小カソード電流 100μA)となることが必要です。これにより、R3 は 3.3kΩに設定されます。(V_IEPE − VDD)/R3 = 1.36mA。
- V_IEPE が最も高い(14.5V)ときに R3 の消費電流は最大となります。(V_IEPE − VDD)/R3 = 2.88mA。データ・ロガーからの電源電流が 4mA の場合、残りの 1.12mA がレギュレータ B(IC4)を流れるカソード電流の最小値です。IC4(TL432B)の最小カソード電流は 1mA(最大値)です。したがって、この条件でも IC4 は動作可能です。
このシナリオから、消費電流の合計は、データ・アクイジション・システムからの電源電流の推奨値である 4mA に収めることができます。
シャント・レギュレータは、高い S/N 比(SNR)を確保すると同時にカソードの消費電流を低く抑えるよう、慎重に選定します。レギュレータ B のノイズは、直接出力に影響を与えるため、SNR にも支配的な影響を及ぼします。IC4 は、最も低ノイズですが、このカソード電流は相対的に高い値です(最大 1mA)。総電流を 4mA 以下に保つため、IC2 にはカソード電流がわずか100µA のものを選定しました。これは、この設計において 2 番目に良好なノイズ性能を備えています。
MEMS 振動センサーの利点
ADXL1002 は、業界をリードする超低ノイズ、広帯域 MEMS 加速度センサーで、25µg/√Hz のノイズ・スペクトル密度、11kHzの 3dB 帯域幅、21kHz のセンサー共振周波数を備えています。ADXL1002 は、圧電式センサーに匹敵するノイズと帯域幅を備える一方、温度に対する感度、DC~低周波数の応答、位相応答(および群遅延)、衝撃への耐性、衝撃からの回復性能などにおいて、圧電式センサーより優れた性能を実現します。また、±50g の線形測定範囲(±0.1% FSR 以内)を備えており、これは CbM アプリケーションの大部分に対応できる測定範囲です。ADXL1002 は LFCSP パッケージを採用しているため、従来の圧電式センサーよりも簡単に機器に組み込むことができます。
ADXL1002(および他のアナログ・デバイセズの MEMS 加速度センサー)は、長期にわたる優れた信頼性を備え、低価格で高性能のセンシング・ソリューションを CbM アプリケーションに提供します。インダストリ 4.0 に向けた取り組みにおいて、これらはすべて、CbM 技術を採用する際に必要となるものです。
バリエーション回路
この回路は、様々なアプリケーション用にバリエーションを適用できます。EVAL-CN0532-EBZ は ADXL1002 をベースにしており、センサーの共振周波数は 21kHz です。しかしながら、同じ回路を、MEMS 加速度センサー・ファミリの他のセンサーに対しても IEPE 互換インターフェースとして使用できます。その場合は、センサーの共振周波数を基にローパス・フィルタのカットオフ周波数を選定してください。
AD8541 は、この設計においてゼロ・ゲインのバッファとして構成されています。そのため、センサーと IEPE インターフェースの出力振幅は等しくなります。しかし、他のバリエーションとして、圧電式センサーの代替デバイスや他の設計条件に応じてV_IEPE の感度範囲を変更する場合は、AD8541 のゲインを調整してください。ゲイン抵抗を選定する場合には、センサー、レギュレータ、バッファの出力電流条件も満足するように考慮する必要があります。
回路の評価とテスト
回路のセットアップと機械的な取り付け方法、出力の読出し方法、および想定すべき事項について、以下のサブセクションで説明します。ハードウェアの詳細については、CN0532 ユーザ・ガイドを参照してください。
機能ブロック図
図 4 にこの回路の機能ブロック図を示します。実線の黒矢印は信号経路を、点線の黒矢印は回路に供給する電源電流の経路を表しています。
必要な装置
以下の装置類が必要になります。
- IEPE 互換の振動測定装置(LMS SCADAS(Siemens 製)やCompactDAQ(National Instruments 製)など)
- 振動台などの振動源
- アルミニウム製のブロック(EVAL-XLMOUNT1)
- 同軸ケーブル、または適切にシールドされたケーブル
- EVAL-CN0532-EBZ
開始にあたって
この試験のセットアップを理解し、再現するには、以下の基本的な手順を参考にしてください。
- 同軸ケーブル、またはシールド・ケーブルをプリント回路基板(PCB)にハンダ付けします。
- ケーブルのもう一端を、IEPE 互換の振動測定装置(LMS SCADAS(Siemens 製)や CompactDAQ(National Instruments 製)など)に接続します。
- 手順 2 で接続した振動測定装置を使用して加速度の感度(40mV/G)を設定し、加速度センサーのデータを取得します。
- ADXL1002 の感度範囲は部品ごとに若干異なることがありますが、重力場や他のリファレンス・センサーを使用して簡単に補正できます。
セットアップの詳細については、CN0532 ユーザ・ガイドを参照してください。
電源構成
前述のとおり、この回路には 4mA の電流源を使用して電源を供給する必要があります。これは、IEPE 互換の振動測定装置でセットアップするか、単純な電流源を使用して供給します。単純な電流源を使用する場合は、電源ラインの電圧がセンサーの出力になります。
試験結果
この回路の振動測定アプリケーションにおける性能を検証するため、アナログ・デバイセズの振動研究室で試験を行いました。回路は、周波数応答、ノイズ・スペクトル密度、耐衝撃性および群遅延について特性評価されています。各試験の詳細および結果を以下に説明します。
周波数応答の測定
EVAL-CN0532-EBZは、図 5に示すように取り付け用ブロックを使用して振動台に固定します。振動台は、2g に固定された加速度で 100Hz~30kHz に制御された機械振動を発生します。IEPE回路の出力とリファレンスの振動測定値(ここではレーザー・ドップラー振動計を使用)を記録します。センサー出力は、高精度な感度のスケール係数を得るため、低周波数のピーク振幅と補正済みリファレンスの関係をプロットしたグラフを使用して補正します。正弦波で周波数掃引したときのセンサー出力のグラフを図 6 に示します。この結果は、ADXL1002 の伝達関数と一致しています。
この試験だけでなく、他の高周波振動試験においても、信号経路の機械的な完全性がとても重要です。すなわち、振動源からセンサーまで、振動信号の減衰(ダンピングによる)も増幅(共振による)もあってはなりません。例えば、この試験では、アルミニウム製ブロック(EVAL-XLMOUNT1)、4 個の固定ねじ、および厚い PCB を使用して周波数の測定範囲にわたり平坦な機械応答を確保しています。
ノイズ・スペクトル密度
バッファ・アンプとシャント抵抗が超低ノイズのため、等価入力ノイズでは ADXL1002 のセンサー・ノイズが支配的です。IEPE インターフェースを使用したセンサーのノイズ密度特性を図 7に示します。測定の温度範囲は−40ºC~+125ºCで、比較として IEPE インターフェースを使用しないで測定した 5 個の異なるADXL1002 の出力も記載します。この結果から、IEPE 回路を使用した ADXL1002 のノイズ・レベルは、IEPE インターフェースを使用しないで測定した場合と同等であることが分かります。また、この温度範囲におけるノイズ密度のばらつきもADXL1002 の仕様範囲内でした。
図 8 に、2g の振幅、10kHz の正弦波振動で EVAL-CN0532-EBZを加振して取得したサンプル・データを示します。この試験結果に示すリファレンスは、レーザー・ドップラー振動計で測定した加速度です。
衝撃試験
この回路では、図 9 に示す衝撃波形を使用した試験も実施しています。衝撃のピーク加速度は 10g、幅が 100μs で波形は正弦半波です。ADXL1002 MEMS センサーは、2 次系の不足減衰応答でモデル化できるため、出力にリンギングが発生することが想定されます。
この試験では、リファレンス・センサーとして共振周波数を持ち、群遅延が 4μs と特性評価されている圧電式センサー(Model 353C23)を使用しています。リファレンス・センサーの出力とADXL1002 の出力の間に 15μs の位相差があります。したがって、この回路全体の群遅延は約 19μs になります。