概要

設計リソース

設計/統合ファイル

• Schematic
• Bill of Materials
• Gerber Files
• Layout Files (Allegro)
• Assembly Drawing 設計ファイルのダウンロード 1.46 M

評価用ボード

型番に"Z"が付いているものは、RoHS対応製品です。 本回路の評価には以下の評価用ボードが必要です。

  • EVAL-CN0365-PMDZ ($374.50) 16-Bit, 600 kSPS, Low Power Data Acquisition System for High Temperature Environments
  • EVAL-SDP-CB1Z ($116.52) Eval Control Board
  • SDP-PMD-IB1Z ($64.74) PMOD to SDP Interposer Board w/Power Supply
在庫確認と購入

機能と利点

  • 16ビット、 600kSPS、データ・アクイジション・システム
  • 175℃定格が規定
  • 低消費電力

回路機能とその特長

石油やガスの採掘、航空電子機器、自動車など、非常に高い周囲温度環境で確実に動作しなければならないデータ・アクイジション・システムを必要とするアプリケーションが増えつつあります。図1に示す回路は、175℃で定格が規定され、特性が評価され、保証されているデバイスを使った、16ビット、600kSPS逐次比較A/Dコンバータ(ADC)システムです。これらの過酷な環境のアプリケーションの多くはバッテリで駆動されるため、シグナル・チェーンが高性能を維持しながら消費電力になるように設計されています。
図1. 高温データ・アクイジション・システム(簡略回路図:全接続の一部およびデカップリングは省略されています)

この回路では、高温動作、低消費電力のオペアンプAD8634で直接駆動する、高温動作、低消費電力(600kSPSで4.65mW)のPulSAR® ADC AD7981を使用します。AD7981 ADCは、2.4V~5.1Vの外部電圧リファレンスを必要とし、このアプリケーションの場合、選択する電圧リファレンスはマイクロパワーの2.5V高精度リファレンスADR225です。このデバイスも高温度動作が保証され、210℃での静止電源電流が最大60μAと非常に小さい値です。

この設計で使用するICは全て高温環境用に専用に設計されたパッケージに収容されており、単一金属ワイヤ・ボンディングを採用しています。また、このリファレンス設計では、これらの過度の温度での動作を可能にする受動部品、プリント回路ボード(PCB)素材、および施工方法の選択についても説明します。部品表、回路図、組立図、PCBレイアウト・データなどを完備した設計サポート・パッケージも利用可能です。

回路説明

A/Dコンバータ

この回路の心臓部は、逐次比較アーキテクチャ(SAR)を使用し、最大600kSPSのサンプリングが可能な16ビット、低消費電力、単電源ADC AD7981です。図1に示すように、AD7981はコア電源のVDDとデジタル入出力インターフェース電源のVIOの2種類の電源ピンを使用しています。VIOピンは1.8V~5.0Vの任意のロジックと直接インターフェースすることができます。また、VDDピンとVIOピンを接続してシステムに必要な電源の数を減らすこともできます。これらのピンは電源シーケンスに関係しません。

AD7981は、変換と変換の間自動的にパワーダウンして電力を節約します。このため、消費電力がサンプリング・レートに対して直線的に変化することから、このADCは高サンプリング・レートとわずか数Hzの低サンプリング・レートの両方に最適であり、バッテリ駆動システムにおける超低消費電力を可能にします。さらに、オーバーサンプリング技術を使って低速信号の実効分解能を上げることができます。

AD7981は擬似差動アナログ入力回路を備えており、IN+入力とIN−入力の間の真の差動信号をサンプリングし、両方の入力に共通の信号を除去します。IN+入力は0V~VREFのユニポーラのシングルエンド信号を受け入れることができ、IN−入力はGND~100mVの範囲に限定されます。AD7981の擬似差動入力により、ADCドライバの条件が緩和され、消費電力が抑えられます。AD7981は、温度定格が175℃の10ピンMSOPパッケージを採用しています。簡略接続図を図2に示します。


図2. AD7981の接続図


ADCドライバ

AD7981の入力は低インピーダンス源で直接駆動することができますが、信号源インピーダンスが高いと、特に全高調波歪み(THD)のAC性能が大幅に低下します。したがって、図3に示すように、ADCドライバやAD8634などのオペアンプを使ってAD7981の入力を駆動することを推奨します。アクイジション・タイムの開始時に、スイッチが閉じ、容量性DACがADC入力に電圧グリッチ(キックバック)を注入します。ADCドライバは、このキックバックを安定化するとともに信号源から分離することができます。

低消費電力(1.3mA/アンプ)の高精度デュアル・オペアンプAD8634は、優れたDC仕様とAC仕様がセンサーのシグナル・コンディショニングやシグナル・チェーン内の各所に適合するため、この処理に適しています。AD8634はレールtoレール出力を備えていますが、入力は正電源レールと負電源レールから300mVのヘッドルームを必要とします。このヘッドルームの要件により、−2.5Vに選択した負電源が必要になります。

AD8634は、温度定格が175℃の8ピンSOICパッケージと、温度定格が210℃の8ピンFLATPACKパッケージを採用しています。


図3. SAR ADCのフロントエンド・アンプとRCフィルタ

ADCドライバとAD7981の間のRCフィルタは、AD7981の入力に注入されるキックバックを減衰させ、入力へのノイズを帯域制限します。ただし、帯域制限をしすぎると、セトリング・タイムと歪みが大きくなる可能性があります。最適なRC 値の計算は、主に入力周波数とスループット・レートに基づいて行います。ここに示した例では、R = 85Ω とC = 2.7nFが693kHz のカットオフ周波数になる最適な値です。計算の詳細については、アナログ・ダイアログ資料「高精度SAR A/Dコンバータ(ADC)のフロントエンド・アンプとRCフィルタの設計」を参照してください。

この回路では、ADCドライバはユニティ・ゲインのバッファ構成になっています。ADCドライバのゲインを上げると、ドライバの帯域幅が減少してセトリング・タイムが長くなります。この場合、ADCのスループットを下げることが必要になります。つまり、ゲイン段の後にドライバとしてバッファを追加することができます。

電圧リファレンス

210℃での最大静止電源電流がわずか60μAで、40ppm/℃(typ)の非常に低ドリフトの2.5V電圧リファレンスADR225は、この低消費電力データ・アクイジション回路に最適なデバイスです。ADR225は、初期精度が±0.4%で、3.3V~16Vの広い電源電圧範囲で動作することができます。

他のSAR ADC同様、AD7981の電圧リファレンス入力は動的入力インピーダンスを持っているため、図4に示すように、REFピンとGNDの間を効果的にデカップリングした低インピーダンス源によって駆動する必要があります。AD8634はADCドライバのアプリケーションに加えて、リファレンス・バッファとしても最適です。

リファレンス・バッファを用いるもう1つの利点は、ローパスRCフィルタを追加することにより、電圧リファレンス出力のノイズをさらに低減できることです。この回路では、49.9Ωの抵抗と47μFのコンデンサで約67Hzのカットオフ周波数を得ています。


図4. SAR ADCのリファレンス・バッファとRCフィルタ

変換の間、AD7981のリファレンス入力に最大2.5mAの電流スパイクが生じる可能性があります。値の大きな蓄電コンデンサをリファレンス入力のできるだけ近くに設置することによってこの電流を流し、リファレンス入力のノイズを小さく抑えます。一般に、10μF以上の低ESRセラミック・コンデンサを使用しますが、高温のアプリケーションにはセラミック・コンデンサは使えません。このため、回路の性能にほとんど影響しない47μFの低ESRタンタル・コンデンサを選択しました。

デジタル・インターフェース

AD7981は、SPI、QSPIなどのデジタル・ホストと互換性がある柔軟なシリアル・デジタル・インターフェースを備えています。このインターフェースは、入出力数を最小にするためのシンプルな3線モード、またはデイジーチェーン接続による読出しとビジー表示のオプションが可能な4線モードの構成にすることができます。また、4線モードはCNV(変換入力)からの独立した読出しタイミングを可能にし、複数のコンバータで同時サンプリングを行うことができます。

このリファレンス設計に用いるPMODインターフェースは、SDIをVIOに接続したシンプルな3線モードを構成します。VIO電圧は、SDP-PMODインターポーザ・ボードにより外部から供給します。

電源

このリファレンス設計は、+5Vと−2.5Vの電源レールに低ノイズの外部電源を必要とします。AD7981は低消費電力なので、図5に示すように、リファレンス・バッファから直接給電することができます。このため、電源レールを追加する必要がなく、電力とボード・スペースが節約されます。


図5. リファレンス・バッファからADCのリファレンスを供給


ICのパッケージと信頼性

アナログ・デバイセズの高温製品ラインのデバイスでは、設計、特性評価、信頼性認証、および出荷時のテストを含む特別なプロセス・フローを実践しています。このプロセスの一部として、極端な温度に対して特別に設計した特殊パッケージがあります。この回路の175℃のプラスチック・パッケージには特殊素材が用いられています。

高温パッケージの主な故障メカニズムの1つは、ボンディング・ワイヤとボンディング・パッドのインターフェースで、特に、プラスチック・パッケージで標準的な金(Au)とアルミ(Al)の金属を組み合わせた場合です。温度が上昇すると、AuAl金属間化合物の成長が加速します。脆弱なボンディングやボイディングなどのボンディング故障に関係するのがこれらの金属間化合物で、図6に示すように、数百時間で生じる可能性があります。


 
図6. Alパッド上のAuボール・ボンディング、195℃で500時間後

これらの故障を避けるため、アナログ・デバイセズではオーバー・パッド・メタライゼーション(OPM)プロセスを採用して、金のボンディング・ワイヤを接続する金のボンディング・パッド面を形成しています。この単一金属システムでは金属間化合物が生じないため、図7に示すように、195℃での6000時間のソークによる認証テストで信頼性が実証されました。


図7. OPMパッド上のAuボール・ボンディング、195℃で6000時間後

アナログ・デバイセズは195℃での高信頼度のボンディングを実証しましたが、プラスチック・パッケージの動作定格は成形材料のガラス転移温度によって決まる175℃までです。

この回路に用いた175℃定格の製品に加えて、セラミックFLATPACKパッケージの210℃定格のモデルも利用できます。カスタム・パッケージを必要とするシステム用に、良品保証ダイ(KGD)を利用することもできます。

アナログ・デバイセズでは、デバイスを最大動作温度にバイアスさせた高温動作寿命(HTOL)を含む、高温製品の統合型信頼性認証プログラムを用意しています。高温製品のデータシートでは、最大定格温度で最小1000時間の認証時間を規定しています。生産される各デバイスの性能を保証するのに必要な最終ステップは製造時の全数テストです。アナログ・デバイセズの高温製品ラインの各デバイスは、性能を満たしていることを保証するため、製造時に高温でテストされます。

受動部品

受動部品は高温定格のものを選択する必要があります。この設計では、175℃以上の薄膜低TCR抵抗を用いました。小さな値のフィルタとデカップリングにCOG/NPOコンデンサを使用しました。これらのコンデンサの温度係数は非常にフラットです。高温定格のタンタル・コンデンサはセラミック・コンデンサよりも大きな容量のものを入手可能で、電源のフィルタリングに一般的に使用されています。このボードに使用しているSMAコネクタの温度定格は165℃なので、高温での長時間テストは避ける必要があります。同様に、0.1インチ・ヘッダ・コネクタ(J2とP3)の絶縁素材は高温での短時間の定格しか規定されていないため、これも長時間の高温テストは避ける必要があります。

PCBレイアウトとアセンブリ

この回路のPCBはアナログ信号とデジタル・インターフェースがADCの両側になるように設計されており、ICの下やアナログ信号経路の近くを通るスイッチング信号はありません。この設計によってADCダイに結合されるノイズの大きさを最小限に抑えることで、アナログ・シグナル・チェーンをサポートします。AD7981のピン配置では、全てのアナログ信号を左側に、全てのデジタル信号を右側にしているため、この作業が容易になります。電圧リファレンス入力REFには動的入力インピーダンスがあるため、寄生インダクタンスを最小にしてデカップリングする必要があります。これは、リファレンス・デカップリング・コンデンサをREFピンとGNDピンのできるだけ近くに設置し、ピンへの接続を幅の広い低インピーダンスのパターンで行うことによって実現します。このボードのレイアウトは、熱をボードの底面から加える温度テストを容易にするため、部品がボードの上面だけになるように意図的に設計されています。レイアウトに関する推奨事項の詳細については、AD7981のデータシートを参照してください。

高温回路では、信頼性を確保するために特殊な回路素材とアセンブリ方法を用いる必要があります。FR4はPCBの積層板に用いる一般的な素材ですが、コマーシャル・グレードのFR4の標準ガラス転移温度は約140℃です。140℃を超えると、PCBは破壊や層間剥離が始まり、部品にストレスを与えます。高温アセンブリ用に広く用いられている代替素材はポリイミドで、標準ガラス転移温度は240℃以上です。この設計では4層ポリイミドPCBを使用しました。

特に錫を含む半田とともに使用する場合、半田に銅箔パターンとの金属間化合物が形成される傾向があるため、PCB表面も問題になります。ニッケルと金の表面仕上げが一般的に使用されており、ニッケルがバリアとなり、金が半田接合ボンディングに適した表面となります。融点とシステムの最大動作温度の間に十分なマージンを持つ高融点の半田を使用することも必要です。このアセンブリにはSAC305鉛フリー半田を選択しました。融点が217℃で、175℃の最大動作温度から42℃のマージンがあります。

性能予測

AD7981では、1kHz入力トーンと5Vリファレンスで標準91dBのSNRが規定されています。ただし、低消費電力/低電圧システムに一般的な低リファレンス電圧を使用すると、SNRがある程度低下することが予想されます。AD7981のデータシートの代表的な性能特性のグラフから、室温と2.5Vのリファレンスで約86dBのSNRが予想されます。このSNR値は、図8に示すように、回路を室温でテストしたときに得られた性能の約86dBのSNRと変わりません。



図8. 1kHz入力トーンでのAC性能、580kSPS、25℃

この回路を全温度範囲で評価すると、図9に示すように、SNR性能は175℃で約84dBに低下するだけです。図10に示すように、THDは−100dBより良好な値を維持します。175℃での回路のFFTの概要を図11に示します。

回路の評価とテスト

この回路には、 EVAL-CN0365-PMDZ 回路ボード、 SDP-PMD-IB1Z インターポーザ・ボード、および EVAL-SDP-CB1Z システム・デモンストレーション・プラットフォーム(SDP)ボードが使用されています。インターポーザ・ボードとSDPボードは120ピンの接続用コネクタを備えています。このインターポーザ・ボードとEVAL-CN0365-PMDZボードは12ピンのPMOD対応コネクタを備えているので、短時間で組み立てて回路の性能を評価することができます。EVAL-CN0365-PMDZボードには、この回路ノートに示す評価対象の回路が含まれており、SDP評価ボードは CN-0365評価用ソフトウェアと共に使用します。


必要な装置

以下の装置が必要です。

  • EVAL-CN0365-PMDZボード
  • システム・デモンストレーション・プラットフォーム(EVAL-SDP-CB1Z)
  • PMOD/SDPインターポーザ・ボード(SDP-PMD-IB1Z)
  • CN-0365評価用ソフトウェア
  • 今回のテストで使用されたAudio PrecisionのSYS-2522のような関数発生器/信号源
  • 電源:+5Vと-2.5V
  • 電源:+6V ACアダプタ(EVAL-CFTL-6V-PWRZ)
  • USBポートとUSBケーブルを備えた、Windows® XP(SP2)、Windows VistaまたはWindows 7 Business/Enterprise/Ultimateエディション(32ビット/64ビット・システム)搭載のPC

評価開始にあたって


始めに、以下の手順に従います

  1. CN-0365評価用ソフトウェアをftp://ftp.analog.com/pub/cftl/CN0365からPCにダウンロードします。
  2. SDPボードをPCに接続したときに正しく認識されるように、ソフトウェアをインストールしてからSDPボードをPCのUSBポートに接続してください。
  3. ダウンロードしたファイルを解凍します。
  4. setup.exeファイルを実行します。
  5. 画面上の指示に従ってインストールを終了します。全てのソフトウェア・コンポーネントをデフォルトのロケーションにインストールすることをお奨めします。


機能ブロック図


テスト・セットアップの機能図を図12に示します。


図12. AC性能測定用回路のテスト・セットアップ


セットアップ


以下の手順で回路をセットアップします。

  1. EVAL-CFTL-6V-PWRZ(+6V DC電源)を、DCバレル・ジャックを介してSDP-PMD-IB1Zインターポーザ・ボードに接続します。
  2. SDP-PMD-IB1Zインターポーザ・ボードを、120ピンCON Aコネクタを介してEVAL-SDP-CB1Z SDPボードに接続します。
  3. EVAL-SDP-CB1Z SDPボードを、USBケーブルでPCに接続します。
  4. EVAL-CN0365-PMDZ評価ボードを、12ピン・ヘッダPMODコネクタを介してSDP-PMD-IB1Zインターポーザ・ボードに接続します。
  5. +5V(VS+)電源と−2.5V(VS−)電源をEVAL-CN0365-PMDZのP3ヘッダに接続します。VDD電圧(2.5V)は内部で生成されるため、デフォルト設定で外部接続にする必要はありません。
  6. 信号源をSMAコネクタを介してEVAL-CN0365-PMDZに接続します。
  7. Audio PrecisionのSYS-2522(または等価な信号発生器)を、周波数が1kHz、DCオフセットが1.25Vの2.5V p-pサイン波に設定します。


テスト


評価用ソフトウェアを立ち上げます。アナログ・デバイセズのシステム開発プラットフォーム・ドライバがWindowsのデバイス・マネージャに表示されていれば、ソフトウェアはSDPボードと通信を行います。USBによる通信が確立されると、評価用ソフトウェアを使って回路性能の評価基準のテスト、確認、および保存を行うことができます。

ソフトウェアの操作の詳細については、 UG-340 とwikipw-時の Evaluating 14-/16-/18-Bit ADCs from the 8/10 LEAD PulSAR® Family を参照してください。

環境室で温度テストを行う場合、延長用ハーネス(付属しない)を使ってアナログ入力、電源、およびPMODの接続を行うことができます。これらのハーネスはできるだけ短くし、ノイズを防止するための最善策を講じる必要があります。このボードに使用しているSMAコネクタの温度定格は165℃なので、高温での長時間テストは避ける必要があります。同様に、0.1インチ・ヘッダ・コネクタ(J2とP3)の絶縁素材は高温での短時間の定格しか規定されていないため、これも長時間の高温テストは避ける必要があります。

EVAL-CN0365-PMDZボードの写真を図13に示します。


図13. EVAL-CN0365-PMDZ回路ボードの写真