LVDSシリアライザ/デシリアライザMAX9205/MAX9206を使用して車載アプリケーションでI2Sオーディオストリームを送信

要約

このアプリケーションノートでは、10ビットLVDSシリアライザMAX9205および10ビットLVDSデシリアライザMAX9206を使用し、1本のシールドツイストペア(STP)ワイヤにて2つのオーディオ部品間でI2Sオーディオデータストリームを送信する方法について説明します。

はじめに

低電圧差動信号方式は、車載のディジタルビデオの転送に最も効率的なインタフェースですが、ディジタルオーディオデータストリームを送信するための低コストのソリューションとしても使用することができます。1このアプリケーションノートでは、MAX9205/MAX9206 10ビットLVDSシリアライザ/デシリアライザ(SerDes) ICを使用して、STPワイヤ上で最大4つのI2Sオーディオデータストリームを送信する方法について詳しく説明します。これらのICの詳細については、MAX9205/MAX9206データシートを参照してください。

LVDSシリアライザの長所

アナログとディジタルの領域間でオーディオ信号を変換するたびに音質は低下するため、最良の音質を提供するためには、可能な限り、オーディオデータをディジタル形式で維持することが重要になります。MOST®バスは、車載のオーディオデータ送信用に設計されたものですが、ほとんどのアプリケーションにとって、実装するには高価であり、また過剰な性能になります。家庭用オーディオ機器の場合、一般的にS/PDIFを使用して、圧縮したオーディオデータをあるオーディオ機器から別の機器に送信します。ただし、S/PDIFは、5.1または7.1のディジタルオーディオを非圧縮形式で送信する帯域幅を備えておらず、また車載アプリケーションのための実績ある頑強な物理層がありません。

LVDSを使用してディジタルオーディオデータを送信することによって、システムリソースに影響を及ぼさずに既存のハードウェアに簡単に追加することができる、頑強で低コストな高帯域幅のインタフェースソリューションが得られます。I2Sストリーム形式のディジタルオーディオデータ(すでに利用可能)は、事実上ソフトウェアのオーバヘッドなしで、自動車内の別の位置に送信することができます。オーディオデータをディジタル形式で維持することによって、多数のADC、DAC、およびワイヤをシステムから排除することができます。これによって、他の機能にこのコストとボードスペースを割り当てることができます。

現在LVDSは、カメラ、DVDプレーヤ、およびナビゲーションシステムのビデオデータを自動車内のさまざまなディスプレイに転送するためにすでに使用されています。その低信号振幅と作動方式によって、LVDSは、電磁放射の少ない高帯域幅データを送信することができるようになります。

MAX9205/MAX9206ソリューション

MAX9205は、単一のリファレンスクロックから10ビットのパラレルデータを送信するように設計されています。I2S信号のSCLK、WS、およびSDA0-3をデータとして送信するには、SCLKに同期した、少なくとも周波数が2倍のリファレンスクロックが必要です。

ワイヤハーネス内のモジュールから出て行く信号は、過酷な自動車環境と不良状態に耐え得る頑強性が必要です。LVDSバスは、高電圧の短絡状態が生じた場合に損傷しないようにするためAC結合を行う必要があります。MAX9205は、送出信号のDCバランスを自動的に行うことはないため、実際には送信データのDCバランスが必ず行われるようにする必要があります。利用可能な10入力のうち6入力まではすでに使用されているため、残りの4入力を送信データのDCバランスに使用することができます。SCLK信号とWS信号は対称信号のため、ランダム信号SDA0-3を反転して、未使用の入力に送出するだけで、送信される各2チャネルI²Sパケットについて、0と1の数を等しくすることが可能です。

MAX9205のセットアップ時間とホールド時間を満たし、またMAX9206デシリアライザの出力における過剰ジッタを防ぐためには、ステートが変化していないときにI2S信号をサンプリングする必要があります。TCLK_R/FをGNDに接続し、MAX9205がリファレンスクロック(TCLK)の立下りエッジで入力をサンプリングすることができるようにします。これは、TCLKの立上りエッジが、SCLKのステートが変化するときと一致するものと想定しています。これと構成が異なる場合は、TCLK_R/Fに適切な調整を施して、入力のセットアップ時間とホールド時間を確実に満たせるようにしてください。I2S入力信号の適切なサンプリングについては、以下の図1を参照してください。

図1. I2S入力信号のサンプリング

図1. I2S入力信号のサンプリング

図2は、アプリケーションの回路図です。

図2. MAX9205/MAX9206を使用してI2Sオーディオデータを送信する場合の回路図

図2. MAX9205/MAX9206を使用してI2Sオーディオデータを送信する場合の回路図

回路図の左(“Serializer”と表示)は、LVDSオーディオデータストリームをシリアル化して送信するために必要な回路です。表1は、シリアライザ回路用の部品と信号の説明リストです。

表1. シリアライザ側の部品と信号のリスト
DESIGNATION QTY DESCRIPTION
R1 1 100Ω ±1% Surface-mount resistor
R5, R7 2 10kΩ ±1% Surface-mount resistors
R8 1 Unpopulated. Move R7 here to sample I2S signals on the rising edge of REFCLK.
C1, C2 2 0.1µF 25V ±5% Surface-mount ceramic capacitors
C5, C6 2 1nF 16V ±10% Surface-mount ceramic capacitors
C9, C10 2 0.1µF 25V ±10% Surface-mount ceramic capacitors
U1 1 MAX9205EAI 10-Bit LVDS Serializer
U3, U4 2 Dual inverter—ON Semi NL27WZ04DFT2G
SCLK I2S serial clock
WS I2S word select or left/right channel select
SDIN0–3 I2S serial data stream
Active-low SDIN0–3 Inverted I2S serial data stream input. This DC-balances the LVDS data stream to allow AC-coupling of the output. If AC-coupling is not necessary, then these signals can be tied to GND or used for control signals.
REFCLK Reference clock. This reference clock must be at least two times the frequency and synchronous to SCLK. With a 48kHz I2S sample rate this clock must be at least four times SCLK. The inputs IN0–9 will be sampled on the falling edge of REFCLK with R8 populated and R7 unpopulated.
Active-low PWRDN Power-down logic input. Pull down to put the part into shutdown mode.

回路図の右(“Deserializer”と表示)は、LVDSオーディオデータストリームを受信してデシリアル化するために必要な回路です。表2は、デシリアライザ回路用の部品と信号の説明リストです。

表2. デシリアライザ側の部品と信号リスト
DESIGNATION QTY DESCRIPTION
R2 1 100Ω ±1% Surface-mount resistors
R3, R4, R6 2 10kΩ ±1% Surface-mount resistors
R9 1 10kΩ ±1% Surface-mount resistor. When populated ROUT_ is strobed out on the falling edge of REFCLK.
R10 1 Unpopulated. Move R9 here to strobe ROUT_ out on the rising edge of REFCLK.
C3, C4 2 0.1µF 25V ±5% Surface-mount ceramic capacitors
C7, C8 2 1nF 16V ±10% Surface-mount ceramic capacitors
C11, C12 2 0.1µF 25V ±10% Surface-mount ceramic capacitors
U1 1 MAX9205EAI 10-Bit LVDS Serializer
U2 1 MAX9206EAI 10-Bit LVDS Deserializer
U3, U4 2 Dual inverter—ON Semi NL27WZ04DFT2G
SCLK I2S serial clock
WS I2S word select or left/right channel select
SDO0–3 I2S serial data stream
Active-low LOCK Lock indicator. Active-low LOCK goes low when the PLL has achieved frequency and phase lock to the serial input, and when the framing bits have been identified.
REFCLK Reference clock. This clock must be within ±500ppm of the MAX9205 reference clock frequency.
Active-low PWRDN Power-down logic input. Pull down to put the part into shutdown mode.

結論

車載のディジタルビデオの転送に最も効率的なインタフェースであるLVDSは、オーディオデータを送信する場合にも効率的なインタフェースとなります。MAX9205/MAX9206 LVDSシリアライザ/デシリアライザICは、自動車内の2点間で複数のI2Sオーディオストリームを送信するための簡単で低コストのソリューションです。マキシムの次世代LVDS製品は、さらに改良を続けることで、同一STPワイヤ上で制御信号とデータ信号を送信することができるようにする予定です。これによって余分な制御インタフェースが不要となります。

参考資料

1 車載アプリケーションにおけるディジタルビデオ送信でのLVDSの長所を詳述したアプリケーションノートについては、アプリケーションノート4019 「LVDSが車載アプリケーションに高信頼性のビデオインタフェースを提供」を参照してください。