DN-271: バッテリ駆動機器へ3.3V/1.3Aを供給する小型昇降圧電源

はじめに

セルラー電話、PDA、MP3プレーヤなど多くの携帯機器では、1個の再充電可能なリチウムイオン電池から、安定した3.3V電源を供給する必要があります。問題は、十分充電したリチウムイオン電池の電圧は3.3Vよりいくらか高く、逆に、使用時間が経過すると電圧が下がってきて3.3Vより低くなることです。リチウムイオン電池を使った電源では、高低どちらの入力に対しても3.3Vの一定出力を維持できる電圧レギュレータが必要です。リチウムイオン電池が使用される代表的アプリケーションは量販市場向け携帯機器ですが、この分野では短期開発、長時間の電池寿命、小型、低コストなどに焦点が当てられていますので、レギュレータは場所を取らず、高効率なものでなければならず、可能なかぎり安価な汎用在庫部品を使用する必要があります。

2.7V~4.2Vの電池1個の入力から、1.3Aまでの3.3V出力を供給する簡単で効率のよいSEPICコンバータを図1に示します。簡単で低コスト、さらに高効率で部品サイズが小さい(どの部品の高さも3.1mmを超えない)ので、電池駆動の携帯機器の寸法および電力消費に対する要求条件を満たしています。

図1.リチウムイオン電池の電圧を3.3V、1.3Aへ変換(SOT-23 DC/DCコンバータを使用、最小の部品点数で高さは最大3.1mm)

図1.リチウムイオン電池の電圧を3.3V、1.3Aへ変換(SOT-23 DC/DCコンバータを使用、最小の部品点数で高さは最大3.1mm)

一定範囲の入力から安定化出力電圧を供給

SEPICは多くのDC/DCコンバータ構成法の1つにすぎませんが、携帯機器に応用した場合、他の選択肢に比べて大きな利点があります。図1のSEPICは、2.7V~4.2Vの入力電圧範囲にわたって3.3Vの出力を供給します。SEPIC構成以外の選択肢の1つは簡単な降圧コンバータです。降圧コンバータはバッテリ電圧が3.6Vを超えているあいだは3.3Vを供給しますが、バッテリ電圧が3.6Vを切ると出力電圧が低下し始め、入力電圧よりも数百ミリボルト低くなります。入力電圧が2.7Vに下がると、出力電圧は完全に2.5Vよりも低くなります。

高効率

このデザインでは78%に達するDC/DC変換効率を実現することができ、このことは携帯機器のバッテリ寿命を最大限延ばすために重要です。異なった入力電圧と出力電流に対する効率曲線を図2に示します。10mAを超す出力では回路の効率が70%を超し、1Aの出力では78%まで上昇することに注目してください。出力電流が1mAまで下がっても効率は60%を超えていますが、これは主にLTC®1872の消費電流が低いためです。シャットダウン・モードが望ましい場合、LTC1872のシャットダウン電流は22µA(最大)と非常に低いのでバッテリ寿命を延ばします。

図2.LTC1872 DC/DCコンバータを使った場合のリチウムイオン電池から3.3V、1.3Aへの変換の標準的効率

図2.LTC1872 DC/DCコンバータを使った場合のリチウムイオン電池から3.3V、1.3Aへの変換の標準的効率

この回路は簡単なので、コスト、ボード・スペース、それに設計上の問題を軽減します。この550kHzの電流モードSOT-23コントローラは、1個のTSOP-6のNチャネルMOSFETをドライブします。10µFのセラミック・カップリング・コンデンサは、サイズが小さく安価な割には非常に高いRMSリップル電流能力をもっています。2個の4.2µH、2.2Aの小型インダクタ(L1とL2)は高さが3.0mm以下で、互いに隣接して配置する必要はなく、磁気部品の代替品(高さが3mmを大きく超え、サイズもコストももっと大きなトランス1個)の場合とは異なります。一般に、カップリングされていないパワー・インダクタは、相当するトランスに比べて、多くの供給元から多くの異なった定格のインダクタンスとDC電流のものが入手できます。トランスの場合、レイアウトの柔軟性も制限されます。回路のサイズを最小にし、高周波数ACスイッチング経路を最短にして、できるだけノイズ耐性を高めるレイアウトにするために、2個の別個のインダクタ(両方のコストを合計しても、相当する1個のトランスよりも小さい)が、どのように配置されているかを図3に示します。参考までに、2個のインダクタを1個のトランスで置き換える場合、最も可能性の高いトランスを示します。このトランスは高さが最大6.0mmで、2個のインダクタ回路の高さ最大3.1mmをはるかに超えます。この4ピンのトランスはサイズが大きいので、回路のサイズも大きくなり、レイアウトが難しくなります。

図3.インダクタ2個を使ったデザインはトランスを使ったデザインよりも優れた性能を実現

図3.インダクタ2個を使ったデザインはトランスを使ったデザインよりも優れた性能を実現

100µFの出力コンデンサのリップル電流定格は高く、ESRは非常に小さいので、出力電圧のリップルが抑えられます。このデザインでは、(インダクタL1内の連続電流により)SEPICの入力リップル電流が低いので、22µFのセラミック入力コンデンサで十分です。電流定格が2Aの小型ショットキ・ダイオードはほとんど場所を取らないので、薄型SOT-23パッケージのLTC1872を使えば、ボード全体を非常に小さくできます。

LTC1872は2.5Vの低電圧ロックアウト機能を備えており、低入力電圧での電流暴走を防ぎます。これはリチウムイオン電池駆動の機器では特に重要です。

著者

Keith Szolusha

Keith Szolusha

Keith Szolushaは、アナログ・デバイセズ(カリフォルニア州サンノゼ)のアプリケーション・ディレクタです。2000年からIPSパワー製品グループに所属しています。主に降圧/昇圧/昇降圧コンバータ、LEDやGaNに対応するコントローラ/ドライバなどの製品を担当。また、電源製品向けのEMIチャンバの管理も担っています。マサチューセッツ工科大学で1997年に電気工学の学士号、1998年に同修士号を取得。テクニカル・ライティングの集中コースも修了しています。