MAX1464のオンチップ温度センサ
要約
高性能デジタル信号コンディショナのMAX1464は、内部温度センサを含み、温度依存信号を修正するために使用することができ、あるいは、産業用主要温度センサーと同等の性能のスタンドアロン型温度計として使用することができます。このアプリケーションノートは、MAX1464オンチップ温度センサを説明し、試験システムの再現性に取り組む温度読取り値を得るための方法を提案します。
はじめに
MAX1464は、−40°C~+125°Cの広い温度範囲にわたって、約+2mV/°Cを出力するオンチップ温度センサーを内蔵した高性能デジタル信号コンディショナーです。内蔵の16ビットADCは、センサー入力と同様の方法で内部温度センサー出力を変換します。温度センサー出力を変換する一方、 ADC (温度センサー出力のためのADC_T)は、ADC_Tリファレンス電圧として内部バンドギャップ電圧の4倍(4 × 1.25V = 5V)を自動的に使用します。温度データ形式は、2の補数形式の15ビットプラス符号ビットです。温度分解能を改善するために MAX1464の粗オフセット(CO) D/Aコンバータは温度センサー出力オフセットをゼロに合わせるようにプログラムすることができ、またPGA利得は温度センサー出力を増幅するようにプログラムすることができます。内部CPUは、ディジタル利得とオフセット修正を追加するために使用することができます。
そのプリデセッサ、MAX1463と比較してMAX1464はオンチップ温度センサーの供給電圧比例誤差(または電源除去比(PSRR) )が非常に改善されました。このアプリケーションノートは、MAX1464のPSRRを非常に小さい誤差として定量化し、また簡単な式を提示してその誤差をさらに75%低下させます。
温度センサー出力値の計算
表1には、4.5V、5.0Vと5.5VのVDD値に対して、COT[3:0] = 1101とPGAT[4:0] = 00001 (PGA gain = 7.7)で50個のサンプルでの正規化されたMAX1464温度センサー出力が表されています。(非常に高いPGA利得ではADCが飽和して、値が無効となります。)表1に示されるように、VDD = 5Vにて −40°C ~+125°Cの温度範囲に対する代表的なADC_T出力変動は、0.4830正規化ADC値(約16,000ADCカウント)です。従って、この解析において、フルスケール(値)のパーセント(%fs)で温度センサー誤差を表すために、温度センサーフルスケール出力として0.4830の値が使用されました。現実のアプリケーションでは、MAX1464の内部CPUを使用して、追加のディジタル利得とオフセット調整を温度センサー出力に加えることができ、したがって、調整された温度出力を得ることができます。アプリケーションノート「MAX1464信号-コンディショナー、センサー補正アルゴリズム」において、このCPUのこの使用が説明されています。
Supply Voltage |
Typical Temperature-Sensor output (PGAT[4:0] = 00001; COT[3:0] = 1101) |
VDD1,2 |
|||||
−40°C |
0°C |
+25°C |
+70°C |
+85°C |
+125°C |
+70°C |
|
4.5V |
−0.26218 |
−0.14002 |
−0.08126 |
0.06909 |
0.11344 |
0.22223 |
0.61602 |
5.0V |
−0.26384 |
−0.14195 |
−0.08328 |
0.06671 |
0.11097 |
0.21912 |
0.68393 |
5.5V |
−0.26480 |
−0.14311 |
−0.08451 |
0.06516 |
0.10936 |
0.21684 |
0.75118 |
2- VDDを読む時、PGA[4:0] = 00000だけは有効な結果が得られます。非常に高い利得設定は、ADCの飽和の原因となります。
PSRRの計算と最適化
MAX1464のオンチップ温度センサーは、当初センサー補償だけを目的としました。このために、絶対精度またはその不足は、最終製品にとって重要ではありません。しかし、温度センサー再現性と供給電圧比例誤差は、最終製品の性能に対して重要です。MAX1464のオンチップ温度センサーは、優れた再現性を持っています。−40°Cと+125°Cの間の別々の温度ポイントでの100個の測定値に対する最も大きな標準偏差は、たったの2.5 ADCカウントまたは0.016% fsです。この性能によって、MAX1464の再現性は、市場における最も優れた温度センサーよりも良好です。
同様に、MAX1464の供給電圧比例誤差は非常に小さいです。表1で示されるデータに基づいて、図1から、最も大きな供給電圧比例誤差は0.64% fsであり、またそれはVDD = 4.5VとT = +125°Cで起こることが示されます。この誤差は、1%オーバーオールエラーレートをもつ製品に対して、誤差のたった0.0064%だけを占めます(0.64% × 1% = 0.0064%)。
小さいですが、供給電圧比例誤差は修正して性能を改善することができます。
図1の誤差曲線は、+70°Cにおける誤差が4.5Vと5.5VのVDDに対する供給電圧比例誤差曲線の中央から起こることを図示しています。単に中間点(+70°C)に誤差曲線をシフトすることによって、実効誤差は非常に低下します。
式1は、+70°Cでの供給電圧比例誤差関数です。
(式1) ADC_T_error (VDD、 70°C) = 0.088111 x VDD^2 - 0.14959 x VDD + 0.061092
すべてのADC_T読取り値からこの誤差関数を引き算することによって、+70°Cにおける誤差が除去され、0%ラインに誤差曲線がセンタリングされます。図2は、式1を表1の中の読取り値に適用した結果をプロットしたものです。この簡単な修正によって、すでに小さな内部温度センサー供給電圧比例誤差は75%低下しました、すなわち0.64%から0.15%までに低下しました。
さらに良好な供給電圧比例性能が必要となる若干のアプリケーションに対しては、温度センサーに複数温度点での特性付けが必要であり、式1がまた温度の関数であるように拡張される必要があります。ここで、供給電圧比例誤差が一般的に設計と処理の関数であることに注目することが重要です、すなわち、 同じ種類のすべてのデバイスは、一般的に類似した形と量を持っています。したがって、サンプルの代表グループに対して、供給電圧比例誤差を記述する関数を規定することができ、全体の製品ラインにその関数を適用することができます。1温度点修正かまたは複数温度点修正が必要とされるかどうかにかかわらず、その計算は、製品開発段階の間に一回だけ行われる必要があります。その結果の式は、それから補正アルゴリズムに組込まれます。
式1が実際のデータから得られるので、それは、開始点として使用され、必要に応じて修正または拡張されます。複数温度点補正を実行することによって、供給電圧比例誤差は、試験システム/MAX1464/センサー再現性を取り入るために低下させることができます。
温度計としてのMAX1464
オンチップ温度センサーは、センサー補正だけのために設計されました。しかし、MAX1464の温度センサーが特性付けされるならは、それは絶対デバイス温度をモニターするための温度計として使用することができます。供給電圧比例誤差が類似のデバイスに対して一回だけ特性付けされる一方で、各デバイスは絶対温度を測定するためには個々に特性付けされる必要があります。これは、ADC_T (温度センサーオフセット、温度センサー感度とCO D/Aコンバータ出力)への入力信号の要素がデバイスの間で非常に異なるからです。
温度センサー精度は、評価者が果たす特性付けのレベルに影響されます。一般に、複数温度において温度センサーを特徴づけて、ADC_T測定値に特性関数を適用することによって、市場におけるほとんどの優れた温度センサーを凌ぐ非常に正確な測定値を達成することができます。一般的に±2°C精度は、2つの温度点のみで温度センサーを特性付けることによって得ることができます(図3)。各々のADC_T読取り値に温度センサー修正を加える時に、この処理によってオーバーオール補正処理に対してわずか2、3ミリ秒が、また操作の間のMAX1464の信号-ループに対して数マイクロ秒が付け加えられるだけです。
ADC_Tに入力を発生させるためにMAX1464のアーキテクチャにおいて温度センサーの出力と粗オフセットD/Aコンバータの出力が結合されるので、各々の温度センサーの特性付けなしでは、温度精度は得られません。言うまでもないですが、通常のセンサー信号補正のために温度センサーを使用する場合には、温度センサー特性付けや修正は必要ありません。
参考資料
2アプリケーション・ノートMAX1464シグナル・コンディショナ、センサー補償アルゴリズム