ノートブックのVGA信号の切替え

要約

このアプリケーションは、低容量VGAスイッチMAX4885Eを使用してノートブックコンピュータとドッキングステーションの間の切替え機能を実現する方法を示すものです。MAX4885Eは消費電流がほぼゼロであり、4mm x 4mmのパッケージに封止され、ディスクリート実装で使用されるスイッチと能動部品のほとんどが組み込まれています。したがって、このデバイスによってアプリケーションのコストと部品数が減少します。デバイスのすべての出力が、±15kVヒューマンボディモデル(HBM)に対して保護されています。

はじめに

2008年にはディジタルビデオ切替えが一般化してきましたが、少なくとも2015年までは、アナログVGAサポートの使用を要求するモニタやプロジェクタが依然として数千万台の規模で存在しています。ドッキングステーションを採用している企業向けノートブックコンピュータのほぼすべてが、ノートブック底面にある1組のコネクタを通してVGA信号の切替えを行っています。

ドックとVGAコネクタの間の切替えを処理するデバイスは、すべての切替えを管理するとともに、ポートコネクタに接続されるすべての出力について適切なESD保護を備えているのが理想的です。

VGAスイッチMAX4885Eは、ノートブックとドッキングステーションの間の信号切替えに最適化されています。このデバイスは、RGB用の3つの超高周波数(最大950MHz)スイッチ、DDC信号用の2つの低周波数クランプスイッチ、および水平/垂直信号用の2つのレベル変換バッファを内蔵しています。

最適化されたVGA切替え

アナログVGA信号を適切に処理するためには、7つの信号をコンピュータ背面のコネクタまたはドッキングポートのいずれかにルーティングする必要があります。この機能の切替えが行われない場合、どちらかのポートが使用時以外も接続されることになり、DACに対する容量が大幅に増大して帯域幅が減少する原因になります。ビデオ信号は通常は75Ωインピーダンスに規格化され、ビデオDACは通常は75Ω負荷を駆動する電流ソースです。モニタも75Ω負荷であり、二重に終端されたシステムを構成します。75Ω負荷に対するDACの最大出力は、VGAの場合で0.7Vです。

設計者の多くは1920 × 1200、60Hzを実現しようとしますが、これはピクセルレートが約6.0nsになります。立上り/立下り時間(それぞれ) 1.7nsを許容すれば、この信号はVESA (Video Electronics Standards Association)の要件を満たすことになります。したがって、

tR = 2.2RC、ただしR = 37.5Ω

DACのtRが0であれば、この式からシステムのtRが求まることになります。しかし、このアプリケーション向けの標準的なDACには、他に負荷がない場合で、1nsのtRが存在する可能性があります。DACには、その出力容量により、内部遅延と立上り時間の2つの遅延要素があると考えられます。以下の解説では、DACが300psの内部遅延と8pfの容量を持つものと仮定します。この場合、全体の容量は約16pFが許容され、スイッチには合計8pFが許容されます。この機能に使用される従来のアナログスイッチの多くは400MHzのf3dB帯域幅が保証されています。140Mspsの信号にはこれで十分のように思えますが、システムのマージンの大半がDACによって使用されます。

VGAスイッチMAX4885Eによる部品数の削減

MAX4885Eは、帯域幅700MHz以上、容量7pF以下の、RGB切替え用の完全なVGA 1:2スイッチです。さらに、これらの出力は±15kV HBM (ヒューマンボディモデル)のレベルまで保護されているため、ESD保護を追加する必要がありません。この設計はコストの節約になるだけでなく、保護デバイスに起因する容量の増加を排除することができます。

MAX4885Eは、他にも2つの重要な機能を備えています。まず、低レベルの水平および垂直信号を、VESAの仕様に従って5.0V互換のTTL信号に変換します(図1)。水平と垂直の1組の出力が、両方の負荷を駆動するために供給されます。RGB信号と同様、水平と垂直の信号も±15kVまで保護されているため、それらの出力を保護するための追加部品は必要ありません。VL端子を+3.3Vに接続することによって、水平と垂直の信号は低レベルからフルTTL互換に変換されます。

Figure 1. Schematic for a horizontal and vertical translator.

図1. 水平および垂直変換器の回路図

MAX4885Eは、DDC (display data control)の切替え、レベルクランプ、およびESD保護も提供します。DDC信号を切り替えることによって、容量性負荷が分離されます。これらの信号はI²C対応であり、最大負荷は700pFになります。2つの負荷が同一の出力に接続された場合、この容量性負荷を超過する可能性があります。MAX4885Eは1度に1つの負荷だけの存在を許容します。他の機能と同様、DDC出力も±15kV ESDに対して保護されています。

MAX4885EのDDC切替えがアプリケーションに提供する最後の1つの機能が、電圧クランプです。モニタからのDDC電圧は、通常は2.2kΩの抵抗を通して+5Vにプルアップされます(図2)。この電圧がDDCドライバデバイス上に現われることは許容されません(通常は最大で+3.3Vまで許容されます)。DDC信号はI2C対応であり、スイッチのそれぞれの側にプルアップ抵抗が存在します。スイッチ自体は、2つのnチャネルトランジスタで構成されています。

Figure 2. Schematic for an n-channel FET translator clamp.

図2. nチャネルFET変換器クランプの回路図

ボディ効果が原因で、nチャネルFETはゲート電圧から最大0.7Vまでの信号のみを通過させることができます。電圧がゲート電圧に近づくにつれて、バイアスの不足によってチャネル抵抗が増大します。スイッチの両側がそれぞれの電源にプルアップされているため、nチャネルはほぼ完璧なクランプになります。グランド付近の信号の通過については問題が存在しないため、スイッチはプルダウンを利用します。+5V側が0.5Vから4.8Vに変化した場合、3.3V側は上図(左側)のように0.5Vから3.3Vに変化します。

結論

アナログVGA信号は、2015年またはそれ以降まで、メインストリームのコンピュータで必要とされます。高精細モニタは、信号の立上り/立下り時間が1.6ns以下であることを要求します。これらの非常に高速な時間を実現するために、DACの出力はあらゆる容量の増加を最小限に抑える必要があります。MAX4885Eは容量7pF以下のVGA切替えデバイスであり、4mm × 4mmの小型パッケージで提供されます。デバイスのすべての出力が±15kVに対して保護されているため、RGB、水平と垂直、およびDDCの各信号について追加のデバイスが不要です。要件を完全に満たすため、MAX4885Eは低電圧からTTLロジックレベルへの変換器/バッファも備えています。水平と垂直の信号は約0.5V~1.5Vからフル5V TTLレベルに変換されます。出力は保護され、バッファされ、負荷に対して±8mAを駆動することが可能で、立上り/立下り時間は5ns以下です。最後に、MAX4885Eはより低容量の切替え、保護のためのクランプ、およびESD保護を提供します。MAX4885Eは、ドッキングのためのスイッチを必要とするすべてのラップトップで使用可能です。デバイスおよびこのアプリケーションをテストするための便利な評価(EV)キットが利用可能です。