単一セルのLi+バッテリで動作するデバイスの設計を簡素化する

要約

パワーマネージメントIC (PMIC)のMAX8671Xはリチウムバッテリを充電して、携帯用システム設計用の電源をレギュレートします。リチウムイオン(Li+)またはリチウムポリマー(Li-Poly)バッテリを充電するために、このデバイスは入力電源をUSBポートまたは外部のACアダプタのいずれかから使用します。このPMICはまたUSBおよびDC入力用の過電圧保護用の各パワースイッチ、およびシステム電源用の5つの独立した内蔵レギュレータなど多くのパワーマネージメント機能を集積化しています。

低コスト、小型、および軽量のすべてが今日の携帯用電子システムで要求されます。バッテリの充電と基板に搭載されたさまざまなサブシステム用のレギュレートされた電源を採用するシステムに理想的なパワーマネージメントIC (PMIC)のMAX8671Xは携帯用システム設計に必要なすべての機能を提供します。このデバイスはリチウムイオン(Li+)またはリチウムポリマー(Li-Poly)バッテリの充電用電源をUSBポートまたは外部のACアダプタのいずれかから受け取ります。バッテリの充電に加えて、このPMICはUSBおよびDC入力用の過電圧保護パワースイッチ、およびシステム電源用の5個の独立した内蔵レギュレータを集積化しています。これらの機能の組合せによって、高密度の回路基板(図1)上の部品点数を大幅に削減するため、このデバイスはスマートフォン、PDA、携帯用メディアプレーヤ、GPSナビゲーションデバイス、デジカメ、およびディジタルビデオカメラなどの小型携帯用デバイスに好適です。

図1.

図1. このMAX8671Xの評価基板の写真は標準的なアプリケーション回路のコンパクトなPCBレイアウトを示しています。

MAX8671XはシームレスにUSBとACアダプタ電源を処理するため、携帯用デバイスの小売パッケージ部品としてのウォールチャージャーが不要です。このため、小売パッケージの大きさと重量、および輸送コストが削減されます。製品はデータを同期または転送しながらコンピュータのUSBポートから充電するためのUSBケーブルのみを同梱して出荷し、ACアダプタは市販品をオプション購入することができます。

次に示す完全機能アレーがMAX8671Xに集積化されています。バッテリの充電、アダプタとUSBバッテリの切替え、システム電圧のレギュレーション、およびさまざまな監視機能です。図2に示すように、これらの機能によって、このPMICがさまざまなアプリケーションに理想的なものになっています。5個の独立した内蔵電圧レギュレータ(3個の効率が最高96%の2MHzスイッチモードステップダウンレギュレータ、および2個の低自己消費電流のリニアレギュレータ)が効率よく複数のサブシステムに給電します。

図2. 5個の独立したレギュレータ、およびバッテリ充電機能と電源選択スイッチのすべてがMAX8671X PMICに内蔵されています。電源はACアダプタまたはUSBケーブルから供給することができます。

図2. 5個の独立したレギュレータ、およびバッテリ充電機能と電源選択スイッチのすべてがMAX8671X PMICに内蔵されています。電源はACアダプタまたはUSBケーブルから供給することができます。

集積化によって電源の切替え回路が削減されます

PMICのMAX8671X内にはDC/USB入力の過電圧保護、単一セルのLi+バッテリ充電、およびバッテリと外部電源間で負荷切替えに必要とするすべてのパワースイッチが集積化されています。これらの内蔵スイッチとレギュレータによって、外付けのMOSFETおよび電圧検出器回路、電流検出抵抗、コンパレータ、タイマー、および多くの場合に電源監視および切替え回路に見られるその他の個別部品の必要性が排除されます。この結果、部品点数と基板スペースが削減されて、低コストとよりコンパクトなシステムが可能となります。

MAX8671XのSmart Power Selector™は外部入力、バッテリ、およびシステム負荷の間でシームレスに電源の分配を行います(図3を参照)。この選択回路は次に示す動作を行います。

  1. 外部電源(USBまたはACアダプタ)とバッテリの両方が接続される場合、システム(SYS)の負荷電流が選択された電流制限値を下回っていると、システムに使用されない使用可能電流でバッテリが充電されます。システム負荷が入力電流制限値を上回ると、バッテリが不足電流を負荷に供給してSYS負荷電流(ISYS)を維持してリセットを防ぎます。
  2. バッテリが接続されていて、外付け電源がない場合、システムはバッテリから給電されます。
  3. 外部電源が接続されていて、バッテリがない場合、システムは外部電源入力から給電されます。

図3. Smart Power Selectorは負荷スイッチおよび充電用スイッチとして動作する内蔵のパワースイッチのMOSFET (Q3)を使用します。

図3. Smart Power Selectorは負荷スイッチおよび充電用スイッチとして動作する内蔵のパワースイッチのMOSFET (Q3)を使用します。

ピークのシステム負荷を供給するためにアダプタまたはUSB電流が充分でない場合があります。この問題を扱うために、システム負荷のピークが選択された入力電流制限値を超える場合、または電源がDCまたはUSB入力で使用可能でない場合、低RDSONの内蔵MOSFETが内部でバッテリとSYS端子を接続します。システム負荷が連続して入力電流制限値を超えると、外部電源が接続されていても、バッテリは充電されません。ほとんどの場合、このような状態は長く続きません。それは、大電流負荷はほんの短い時間しか生じないからです。このようなピークの間、バッテリのエネルギがシステムをサポートし、その他の時間には、ずっとバッテリは充電されます。

バッテリの充電に加えて、MAX8671XはSYS出力および複数の内蔵レギュレータによってシステムへの給電も行います。このICは充電電流がSYSノードからも供給されるように設計されています。したがって、選択された入力電流制限値が総合のSYS電流(すなわち、ISYSとバッテリ充電電流の和)を制御します。

SYSにはDCまたはUSB入力端子から(または、外部電源が接続されていない場合はバッテリから)給電することができます。DCとUSBソースの両方が接続されている場合は、DC入力が優先されます。設計者はUSBとACアダプタ電源に別の入力を使用するか、または両方を受け取る1個の入力にしてMAX8671Xを使用するオプションが可能です。ロジック入力のPEN1とPEN2によって、デュアル入力またはシングル入力動作に対する正しい電流制限値を選択します。DC入力電流制限値は最大1Aに調整可能で、DCおよびUSB入力の両方は100mA、500mA、およびUSB保留モードをサポートします。

バッテリの長寿命のためのレギュレータの設計

高効率のMAX8671Xの5個の内蔵レギュレータは電力消費を最小化して、バッテリ寿命を最長化します。重負荷で動作する場合に高効率を提供することに加えて、これらのレギュレータは軽負荷においても高い効率で動作します。このことによって、さらにバッテリ寿命が改善されます。それは各サブシステムの機能が数百ミリアンペアのピーク負荷になりますが、ほとんどの時間、それよりもずっと小さい負荷を要求するからです。そのようなシステムでは、最高の負荷に対してではなく、もっとも頻繁に要求される負荷電流に対して効率を最適化することがバッテリ寿命にとっては最大の利点を与えます。

多くの携帯システムは大部分の時間で「休眠」状態になります。したがって、最大負荷で高効率(> 90%)、アイドル状態では効率が低い(< 60%)レギュレータは軽負荷で高効率を維持するレギュレータよりも、早くバッテリを枯渇させます。MAX8671Xのレギュレータは大電流範囲(システム負荷に最大425mAを供給)で96%の効率を提供し、わずか1mAの負荷では最高85%の効率をなお維持して、この問題に対処します。

3個の調整可能なスイッチングレギュレータ(REG1、REG2、REG3)のおのおのは最高425mAまでを供給することができます。これらのレギュレータは2MHzのスイッチング周波数で動作し、このためインダクタとコンデンサのサイズを最小にするのに役立ちます。外付け抵抗によって各レギュレータの出力電圧が設定されます。

残りのレギュレータ(REG4とREG5)は低ドロップアウト(LDO)のリニアレギュレータで最大150mAを供給します。REG5はシステムのUSBトランシーバ回路に給電し、USB電源が利用可能な場合にのみ、アクティブです。REG4はDCまたはUSBソースからの電源が利用不可能な場合にバッテリから給電されます。これらの2つのLDOによってバッテリ寿命が改善されて、システム設計者により大きいフレキシビリティを与え、しかもその入力電圧範囲が1.7V~5.5Vと広いため、さらに省電力になります。最低入力電圧が1.7Vであるため、これらのLDOにはバッテリから直接ではなくステップダウンDC-DCコンバータの1つから給電することが可能です。

内蔵の充電器がバッテリを操作

PMICのデュアル入力の充電器の部分がUSB電源またはACアダプタ出力のいずれかを受け取ります。この充電器は内蔵のSmart Power Selctor技術および充電サイクルを管理する状態制御ロジックによって、電源制御と充電機能のすべてを実行します。これは図4の充電曲線に示されています。充電電流はバッテリ容量の広い範囲をサポートするために最大1Aに調整可能です。

図4. 内部の状態コントローラがLi+バッテリセルの充電を管理して、安全にバッテリを充電するために必要な電圧と電流を供給します。

図4. 内部の状態コントローラがLi+バッテリセルの充電を管理して、安全にバッテリを充電するために必要な電圧と電流を供給します。

DCおよび/またはUSB入力が正常であると、充電器がイネーブルになっている場合、バッテリ充電器が充電サイクルを開始します。充電器は最初にバッテリが予備充電スレッショルド(3.0V)未満に深く放電しているかどうかを確認するためにバッテリ電圧をチェックします。そうである場合、充電器は安全な予備充電モードに入ります。このモードではバッテリは設定された高速充電電流の10分の1で充電されます。バッテリ電圧が3.0Vを超えて上昇すると、充電器は高速充電モードに進み、設定された充電電流を印加します。

充電が進むにつれて、バッテリ電圧は上昇してバッテリレギュレーション電圧(BVSET端子で選択)に達し、この時点で、充電電流が降下を始めます。充電電流が設定された高速充電電流の4%に減少すると、充電器は短い時間トップオフ状態に入り、充電はその後、停止します。充電が停止した後、バッテリ電圧がバッテリのレギュレーション電圧よりも継続して120mV低下すると、充電が再開されて、タイマーがリセットされます。このことによって、過電圧になる危険がなく、バッテリが常に最大充電、または少なくともそれに近い状態に維持されます。

充電速度は次の幾つかの要素によって決定されます。バッテリ電圧、USB/DC入力電流制限値、充電設定抵抗(RCISET)、ISYS、およびダイ温度です。MAX8671Xは設定された充電速度を下回るように充電電流を自動的に減少させて、入力の過負荷と過熱を防ぎます。

USBポートからの電源の取り込み

MAX8671XのUSB端子は電流制限された電源入力でSYS端子に最大500mAを供給します。USBをSYSに接続する電流制限されたスイッチはドロップアウトで動作するように設計されたリニアレギュレータでもあります。このリニアレギュレータはSYS電圧が5.3Vを超えることを防止します。それは最大14VのUSB入力のフォルト状態の場合でも、そうです。

アプリケーションでは、USB端子は通常USBインタフェースのVBUSラインに接続されます。USB端子はUSB電流制限仕様をサポートするため、2番目の電源イネーブル(PEN2)およびUSBサスペンド(USUS)の各ディジタル制御入力によって、3種の電流制限値の1つに設定することができます。ローパワーモードでは制限値は100mA、ハイパワーUSBモードでは500mA、そしてUSBサスペンドおよび設定なしのオンザゴー(OTG)モードでは0.11mA (typ)です。

USB入力電圧が低電圧スレッショルド(VUSBL:4V、typ)またはバッテリ電圧よりも小さい場合は、その入力は正常でないとみなされオフになります。同様にUSB入力電圧が過電圧スレッショルド(VUSBH:6.9V、typ)を超えると、それはオフになります。

ハイスピードUSB仕様に準拠するためには、接続された各デバイスは最初ローパワーに設定されていなければなりません。USBのエミュレーションの後、USBホストから許可されれば、デバイスはローパワーからハイパワーに切り替わることができます。MAX8671Xはエミュレーションを行わず、USBホストと通信するシステムに依存します。ホストは適切な電流制限値を決定し、PEN1、PEN2、およびUSUS入力を通してMAX8671Xにコマンドを送信します。

内蔵の温度管理

MAX8671Xには温度管理機能があり、温度の上昇を防止します。これは非常に小さい携帯用デバイスで普通に起こる準最適な温度状態においても行われます。ダイの温度が+100℃を超えると、このデバイスは入力電流を5%/℃で低減します。すべての状態において、ISYSは充電電流よりも優先されて、入力電流は最初に充電電流を減少させることで減少します。充電電流を減らしても、接合部の温度がなお+120℃に達すると、入力電流は取り込まれず、バッテリがシステム負荷に供給します。内蔵の温度制限回路はバッテリを監視するための外付けサーミスタを通常使用するサーミスタ入力(THM)に関係なく、独立して動作します。

PMIC全体

充電、電源の切替え、およびシステムのレギュレーションのバッテリ給電の携帯用機器で必要とする重要なパワーマネージメント機能を内蔵していることの他、MAX8671Xはこれらの設計で通常使われる個別部品も少なくします。熱レギュレーション、過電圧保護、充電状態およびフォルト出力、パワーOKモニタ、バッテリサーミスタモニタ、および充電タイマーなどの機能を内蔵しているため、このデバイスは外部ロジックおよびスイッチング部品を不要としてコストを低減します。さらに重要なのは設計時間が短くて済むことです。マキシムが集積化ハードウェアソリューションとしたことは充電または電源マネージメントにおいてソフトウェアの問題が影響を与えないことを意味し、システムおよびバッテリの安全性と信頼性も改善されます。

MAX8671Xは熱特性を強化し、省スペースの5mm x 5mmの40ピンTQFNパッケージに封止されています。このパッケージによって、このデバイスが今日のスペースが制限された携帯用製品の多くに適合することが可能になっています。さらに、このPMICは拡張温度範囲(-40℃~+85℃)で動作することができ、このため、多くの工業用アプリケーションに好適です。

同様の記事が「EDN Power Supplement」の2007年10月号に掲載されています。