多用途フェーズ・エクスパンダによる昇圧コンバータの電力増幅
概要
エンジニアリングの世界では、昇圧コンバータが高い出力電圧を供給しなければならないときに必要となるマルチフェーズ機能は、低い入力電圧から機能し、高い昇圧率を提供する、あるいは高い負荷電流に対応している、と一般的に理解されています。マルチフェーズ昇圧設計には、効率が高い、過渡応答が優れている、入力および出力容量が小さい(インダクタのリップル電流と入力および出力コンデンサのリップル電流が小さいことによる)など、シングル・フェーズ設計よりも優れた点がいくつもあり、結果として、昇圧コンバータのパワー・トレイン全体の部品に加わる熱的ストレスが小さくなります。
マルチフェーズ昇圧コンバータの設計において、入力電源と出力レールを接続して、入力/出力フィルタのサイズとコストを減らすのは容易に行うことができます。難しいのは、エラー・アンプの出力と位相コントローラの帰還ピンを接続して、平衡電流の分担と正しい位相同期を行えるようにすることです。どちらの信号も極めてノイズに敏感であり、レイアウトに細心の注意を払ったとしても、昇圧コンバータ・アプリケーションによく見られる、急激な電流や電圧の変化の影響を受ける可能性があります。昇圧コントローラの中には、この問題を解決するためにマルチフェーズ機能を備えているものもありますが、多くのコントローラはこのような機能を備えていません。
マルチフェーズ回路を備えていないコントローラの場合は、LT8551マルチフェーズ昇圧コンバータ用フェーズ・エクスパンダが、プライマリ・コントローラのスイッチング部品と共に動作し、それらの部品の状態を検出することによってこの問題を解決します。LT8551はその機能を複製し、プライマリ・コントローラのインダクタ電流を測定して、各追加フェーズのインダクタ電流を調整します。
LT8551は、入出力電圧が極めて高く(最大80V)、双方向電流機能を備えたものを含めて非常に高出力の昇圧コンバータを作成できるので、オートモーティブ用および工業用アプリケーションに最適です。
コンバータの機能
LT8551ベースのフェーズ・エクスパンダ・ソリューションの全体像を図1と図2に示します。機能を明確にするために、ここではフェーズ・エクスパンダU1をU1.1、U1.2、U1.3の3つのサブ回路に分割しています。インターフェースU1.1は、プライマリ・コントローラU2および任意の外部信号との通信を行います。電力段U1.2とU1.3は実際の電力変換を行い、MOSFETスイッチを制御します。図1と図2に示すU1の3つのセクションは、すべてLT8551コントローラに組み込まれています。
プライマリ・コントローラU2は、そのFBピンを通じて出力電圧を検出します。また、そのITHピンをエラー・アンプの出力として使うことで、ピーク電流モード制御の機能を果たします。すべての高インピーダンス回路(FBピンから)とノイズに敏感な部品(ITHピンから)はU2に隣接しており、外部部品には接続していません。このアプローチは、ノイズからシールドされたコンパクトなレイアウトを実現します。
標準的な帰還信号とエラー・アンプ信号を使ってフェーズを拡張する代わりに、LT8551は精巧な(ただし、より信頼性の高い)スイッチ状態検出方式を実装しています。サブ回路U1.1は、プライマリ・コントローラのゲート駆動電圧の信頼の高い信号BGおよびTGと、スイッチング・ノード信号SWに依存して、U1.2とU1.3によって駆動されるパワー・トレインを構成する4つのフェーズを管理します。コントローラU1は、すべてのフェーズ(エクステンダとプライマリ)においてインダクタ電流が等しくなるように、調整を行います。これは、対応する電流検出用のISPxピンとISNxピン、およびU2のSENSE+とSENSE−に接続されたISP端子とISN端子を介し、各チャンネルの出力電流を測定することによって行います。制御の式には、INTVCC信号とブートストラップ電圧(BOOST)信号も含まれています。
図1と図2の接続図は、最大で5つのフェーズを備えた昇圧コンバータの最小構成を示しています。LT8551を使用すれば、ほぼあらゆるシングル・フェーズ昇圧コントローラを最大で18の異なるフェーズに拡張し、それに応じて使用可能な出力を増幅することができます。5フェーズを超える構成では1つのLT8551がマスターとして機能し、追加のLT8551コントローラはスレーブとして動作します。マスターのCLK1信号はプライマリ・コントローラとスレーブ・コントローラを同期し、CLK2信号はその結果として生じるフェーズの位相角を最大18の固有の角度で決定します。18フェーズの制限は、必ずしもチャンネルの数を制限するものではありません。複数のチャンネルが同じ位相角を共有できる場合、電力フェーズの数は基本的に無制限です。
図1と図2に示すパワー・トレイン構成は、Nチャンネル・パワーMOSFET Q1~Q20、インダクタL1~L5、および入力フィルタと出力フィルタで構成されています。最大出力電流30A、出力電圧VOUT = 48V、入力電圧VIN = 24Vのときのコンバータの効率を図3に示します。VINが低くなると、負荷電流値を減らし熱ストレスを低下させなければなりません。負荷電流のディレーティング曲線を図4に示します。LT8551は、±6%から最大±10%までの範囲でフェーズ間の良好な電流分担機能を提供する、内部インダクタ電流バランシング回路を内蔵しています。
両方のコントローラに加わる熱的ストレスを緩和するには(特に高電圧時)、補助電源(AUX)を使用します。LT8551回路図にはソリューションの一例が示されています。
プライマリ・フーズと拡張フェーズの範囲を示したDC2896A-B評価用回路の写真を図5に示します。図6は拡張フェーズの熱画像です。
まとめ
LT8551フェーズ・エクスパンダは、必要な出力限界が得られるまでスイッチング・フェーズを拡張することによって、高出力、高効率の昇圧コンバータを作成するための柔軟なツールを電源設計者に提供します。高い周波数(最大1MHz)は電源コンポーネントのサイズを最小限に抑える助けとなり、内蔵ゲート・ドライバは、正確なインダクタ電流のモニタリングおよびバランシング機能と共に、飽和を防止してボード表面に熱を均等に拡散する助けとなります。