DN-313: 高周波数アクティブ・アンチエリアシング・フィルタ

はじめに

今では非常に高速の(100MHz以上)ICアンプを利用できるので、高周波数(1MHz以上)アクティブ・ローパス・フィルタはパッシブLCフィルタの実際的な代替品になっています。メガヘルツ領域の帯域幅をもったアナログ信号のフィルタリング・アプリケーションの実装には、抵抗、コンデンサおよびLT®1819のような400MHzオペアンプを使ったディスクリートのアクティブ・フィルタ回路または完全に集積化されたローパス・フィルタであるLT6600-10を使うことができます。LT6600-10は4次のフラット・パスバンド・チェビシェフ関数に相当する固定10MHzの周波数応答特性を備えています。LT1819をベースにしたアクティブRCローパス・フィルタはチェビシェフ、バタワース、ベッセル、またはカスタムの周波数応答(最大20MHz)を与えるようにデザインすることができます。

LT6600-10ローパス・フィルタ

LT6600-10は完全に集積化された差動の4次ローパス・フィルタで、表面実装型SO-8パッケージで供給されます(図1)。1600Ω~100Ωの範囲の2個の外部抵抗により、フィルタのパスバンドの差動利得をそれぞれ-12dB~12dBに設定します。LT6600-10のパスバンドの利得リップルは最大10MHzまで最大0.7dB~-0.3dBです。減衰は30MHzで標準28dBで、50MHzで44dBです。フィルタの出力でのSN比(SNR)は、パスバンド利得が1のとき2VP-Pの信号に対して82dBです(最大14ビットの分解能に適したSN比)。ローパスのフィルタリングに加えて、LT6600-10は入力の同相信号レベルをシフトすることができます。たとえば、単一3V電源で、入力の同相電圧が0.25Vの場合、出力の同相電圧を1.5Vに設定することができます。LT6600-10は3Vまたは5Vの単電源、または±5V電源で動作します。

図1.単電源で外部抵抗を2個だけ使ったLT6600-1010MHz、ローパス・フィルタ

図1.単電源で外部抵抗を2個だけ使ったLT6600-1010MHz、ローパス・フィルタ

LT1819ベースのRCローパス・フィルタ

LT6600-10は差動利得を設定するのに2個の外部抵抗しか必要としないのでローパス・フィルタのデザインが大幅に簡素化されますが、パスバンドは固定されます。柔軟性を向上させるには、高スルーレート、低ノイズ、低歪みの400MHzデュアル・オペアンプLT1819が最適です。LT1819を2個使った差動の10MHz、4次ローパス・フィルタを図2に示します。この手法を使うと20MHzまでの可変パスバンドが可能ですが、代償として多数の受動部品と能動部品が必要になり、部品の値のバラツキの影響を受けやすくなります。たとえば、図2の部品の感度分析をおこなうと、LT6600-10と同等のパスバンド・リップル(10MHzまで±0.5dB)を維持するには、部品の許容誤差が抵抗の場合±0.5%、コンデンサの場合1%を超えないようにする必要があります。さらに、LT1819の利得帯域幅積が300MHzより小さくならないようにします。バタワース、ベッセル、またはカスタムのフィルタ応答が望まれる場合、±1%の抵抗と±5%のコンデンサが適当です。これらのフィルタは「平坦な」パスバンド・チェビシェフ・フィルタに較べて感度が低くなります。LT1819をベースにしたフィルタは単一5V電源または±5V電源で動作します(単一3V電源のフィルタ回路にはLT1807(レール・トゥ・レールのデュアル325MHzオペアンプ)を使います)。

図2.図1に似た別の10MHz単電源ローパス・フィルタ。この回路はLT1819オペアンプを使い、最大20MHzの可変帯域幅を備えている。

図2.図1に似た別の10MHz単電源ローパス・フィルタ。この回路はLT1819オペアンプを使い、最大20MHzの可変帯域幅を備えている。

差動50Msps ADC用アンチエリアシング10MHzフィルタ

LT6600-10フィルタ、またはLT1819をベースにした10MHzローパス・フィルタは、LT1744(50Mspsの差動入力ADC)のような高速ADコンバータの入力のエリアシング信号を減らすのに適したストップバンド減衰特性を実現します。LT6600-10フィルタと、LT1819をベースにした10MHzフィルタの利得応答を図3に示します。LT1819フィルタは、十分なストップバンド減衰特性を実現するため、LT6600-10フィルタに較べて、20MHzでの減衰特性が高くなるように設計されています。LT1819回路の40MHzを超えるストップバンド減衰は、非常に高い周波数での同相除去を低下させるプリント基板の寄生経路と差動部品の不整合により-42dBに制限されます。完全に集積化されたLT6600-10フィルタのストップバンド減衰は40MHzを超えても継続して大きくなります。LT6600-10とLT1744 14ビットADCによって処理された2VP-Pの1MHz差動正弦波のDC~10MHzのプロットを図4に示します。このプロットは、5千万サンプル/秒でデジタル化された1MHzの正弦波の4096ポイントのFFTを平均化したものです。図4の1MHzの高調波歪みは、LT1819ベースのフィルタをLT1744と組み合わせて使った場合と実際上同じです。10MHzの帯域幅では、LT6600-10とLT1744の回路の測定されたSN比と歪みの和は74.5dBで、LT1744 ADCのダイナミック・レンジ(2VP-Pの信号で最小75.5dB)に基本的には等しくなります。LT1819をベースにしたフィルタはいくらかノイズが大きく、LT1819とLT1799を組み合わせた回路の測定されたSN比と歪みの和は71.5dBです。

図3.図1と図2に示されている2つの10MHzアンチエリアシング・フィルタの周波数応答

図3.図1と図2に示されている2つの10MHzアンチエリアシング・フィルタの周波数応答

図4.LT6600-10フィルタとLT1744 14ビットADCを組み合わせた回路への2VP-Pの1MHz差動正弦波入力のスペクトルのプロット(50MHzのサンプル・レートを使い、4096ポイントで平均化したFFTのDC~10MHzのプロット)

図4.LT6600-10フィルタとLT1744 14ビットADCを組み合わせた回路への2VP-Pの1MHz差動正弦波入力のスペクトルのプロット(50MHzのサンプル・レートを使い、4096ポイントで平均化したFFTのDC~10MHzのプロット)

まとめ

LT6600-10は利得付きの高性能10MHz差動フィルタで、小型パッケージ(SO-8)で供給されます。他方、LT1819オペアンプを使うと、20MHzまでの多様な差動フィルタを作成することができます。

著者

Philip Karantzalis

Philip Karantzalis

Philip Karantzalisは、アナログ・デバイセズのシニア・アプリケーション・エンジニアです。高精度システム・グループに所属しています。入社は1986年で、当初はシグナル・コンディショニング・グループに所属。データ・アクイジション、RF変調器、復調器、ミキサー、ADC、高精度のテスト・システムを対象とし、ベースバンド信号を扱う回路の設計を担当していました。アナログ信号を対象とした回路/システムの設計やテストの業務に1973年から携わっています。ニューヨーク市のRCAインスティテューツ・オブ・エレクトロニクスを卒業。その後、サンフランシスコ州立大学で高等数学を専攻しました。