デュアルチャンネル6A降圧レギュレータによる高効率でコンパクトなソリューションの実現
あらゆる産業分野にわたる消費電力の大きいSoCやFPGAの要求を満たすために、システム設計者には、より小型で高効率の電源ソリューションの開発が求められています。高度な電子システムでは、DRAMやI/OデバイスなどのSoCやその周辺デバイスの近くに電源を配置する必要があるため、電源フットプリント用に使用できるスペースは非常に重要です。ハンドヘルド・バーコード・スキャナや医療用データ・ロガー・システムなどの携帯型計測器では、スペースは更に狭くなります。
設計者の直面する問題は、限られたスペースに組み込むことのできるレギュレータを探せばよい、という単純なものではありません。多くの場合、コンパクトなソリューションに対する条件は、堅牢な設計、高い効率、大きい変換率、高出力、良好な熱性能といった先進的エレクトロニクスに対する諸条件とは相反するものとなります。これらの条件の多くは他の領域におけるトレードオフを伴うため、設計者には最適化に関して時間を要する難しい問題が提起されます。LTC3636は、デュアル6A降圧レギュレータによって設計者の負担を軽減することを目的とした製品で、シャットダウン時のスタンバイ電流が極めて小さいこと、全負荷時と軽負荷時の両方で効率が良いこと、4MHzまで動作可能なことなどが特長です。
コンパクトなサイズと4 MHz のスイッチング周波数
ほとんどの場合、電源に割り当てられたスペースは十分とは言い難いものです。DC/DCコンバータのソリューション容積と電デザイン・ノート力密度は、一般に、大きい磁気部品、入出力コンデンサ、EMIフィルタのサイズ、ヒートシンクなどによって制限されます。降圧パワー・コンバータでは、多くの場合サイズと効率は対応しません。インダクタと出力コンデンサのサイズは、スイッチング周波数を高くすることによってかなり小さくできますが、高周波数動作ではスイッチングに関連するインダクタとスイッチの損失が大きくなります。このため、狭いスペース内での熱管理が複雑になります。
LTC3636は、デュアルチャンネル、1出力あたり6Aの高効率モノリシック降圧レギュレータで、最大20Vの入力電源で動作させることができ、スイッチング周波数は最大4MHzまでプログラム可能です。この高スイッチング周波数によりインダクタとコンデンサのサイズと値が大幅に低減しますが、他の多くの高周波数ソリューションと異なり、LTC3636は高い効率も維持します。また、AC損失とDC損失が小さい複数の超小型フェライト製インダクタを使用することができます。2つのチャンネルは180°の位相差で動作するため、スイッチング・パルスのインターリービングによってリップルが相殺され、更に入力コンデンサの値を小さくすることができます。
図1のデュアル降圧コンバータは非常に小さいインダクタとコンデンサを使用しており、4MHzで動作します。その効率と熱性能を図2に示します。この熱画像は、VIN = 5V、自然対流での室温における温度上昇が40°C未満であることを示しています。

図1. 4MHzデュアル降圧レギュレータがコンパクトなソリューションを実現。

図2. 効率曲線(左)と熱画像(右)。条件:VIN = 5V、自然対流。
全負荷範囲で高効率の電力変換
携帯デバイスやオートモーティブ・アプリケーションでは、負荷範囲全体を通じて高効率であることが重要です。高負荷時には、回路動作の信頼性を高めるために電力損失を小さくする必要があります。これは、ヒートシンクや強制空冷を利用できない場合でも、熱モニタリング用のTMONピンを通じて確実な熱保護機能と信頼できる熱管理を組み合わせ、高負荷時の回路設計を最適化することによって実現できます。
バッテリ電源システムでは、充電間の動作時間を延ばすために、軽負荷時の効率が高いことも重要です。更に、バッテリ電源システムの電源を使い果たしてしまうのを避けるために、シャットダウン時の消費電力が小さいことも不可欠です。通常は、高負荷時や軽負荷時における効率とのトレードオフによってソリューション全体の性能が制限されます。
LTC3636レギュレータは、5Vまでの出力で高い効率を実現するために、静止電流を小さく抑えているのが特長です。LT3636-1ではVOUTの範囲が12Vに拡張されています。この降圧レギュレータは3.1V~20Vの入力電圧範囲で動作し、1チャンネルあたり最大6Aの電流を出力します。高効率ソリューションの例を図3に、その測定効率が動作範囲全体を通じて高い値に維持されていることを図4に示します。

図3. 高効率デュアル降圧レギュレータ

図4. VOUT = 5Vと3.3Vにおける効率曲線
最大12Aの2相シングル出力に合わせて構成可能
先進のSoCやFPGAを使用した電子システムがオートモーティブ用、輸送用、工業用アプリケーションに普及したことによって、高性能の電源システムが求められるようになりました。これらの先進的SoCのパワー・バジェットは増加の一途をたどっており、小型化と電流能力および効率の向上を図るには、従来のPWMコントローラやMOSFETに基づくソリューションをモノリシック・レギュレータに置き換える必要があります。LTC3636は、これらの先進的SoCのパワー・バジェットを満たす一方で、SoCのサイズと熱に関する制約に適合できるように設計されています。0.85Vで最大12Aの電流を供給するために2つのチャンネルを並列に配置した電源の回路図を図5aに示します。VINが3.3V時の出力負荷12Aの最大効率は、87%です。負荷過渡応答を図5bに示します。この設計で、FB1ピンとFB2ピンは、RUN1ピンとRUN2ピン同様、互いに接続されています。ITH1ピンとITH2ピンは、定常状態と過渡状態における電流の不整合を最小限に抑えるために、まとめて外部補償セットに接続されています。

(a) Schematic of LTC3636.

(b) Load Transient (2 A to 6 A, VIN = 3.3 V).
図5. 12A/0.85Vレギュレータの回路図と負荷過渡応答
まとめ
工業環境やオートモーティブ環境における高いインテリジェント機能、自動化機能、検出機能に対する需要は、より高性能の電源を必要とする電子システムの急速な広がりという結果となって現れています。LTC3636は、それぞれ最大6Aを供給できる2つの高効率レールと、シャットダウン時の非常に小さいスタンバイ電流によって、システム設計を容易にします。このデバイスは、熱性能を向上させたロー・プロファイルの28ピン4mm×5mmQFNパッケージで提供され、内蔵の過熱保護機能によって信頼性を向上させています。また、出力リップルと軽負荷時の効率とのトレードオフがあるため、入力モードを選択することができます。BurstMode®動作は軽負荷時に最大限の効率を提供するのに対し、強制連続動作は出力リップルを最小限に抑えます。