プロセス制御用アナログ入力モジュールの設計を簡素化する
はじめに
プログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)モジュールや分散型制御システム(DCS)モジュールなどのプロセス制御アプリケーション用のアナログ入力モジュールを設計する場合、通常、考慮すべきトレードオフは性能とコストです。このアプリケーション空間では、入力信号の減衰や増幅に使用されるアクティブ・フロントエンド部品を供給するために、従来より両極性の±15Vレールが使用されてきました。このことは、部品(BOM)コストに影響を与え、絶縁型バイポーラ電源を生成することで設計がより複雑化する結果となります。コストを削減するには、5Vの単電源で設計するという方法もあります。単電源の5Vレールにより、アナログ・フロント・エンドの絶縁型電源の設計は大幅に簡素化されます。一方で、別の短所が生じる可能性があり、計測ソリューションでは精度が低下するおそれがあります。AD4111では、電圧と電流の測定に必要な多くの集積化がなされており、5V単電源ソリューションの限界を克服しています。
統合化されたフロント・エンド
AD4111は、24ビットのシグマ・デルタ(Σ-Δ)ADCで、革新的でありながら簡素なシグナル・チェーンを実装することで、開発時間と設計コストの両方を削減します。アナログ・デバイセズ独自のiPassives™技術を採用しており、アナログ・フロント・エンドとADCが組み込まれています。これにより、AD4111は、外付け部品なしで、±10Vの電圧入力と0mA~20mAの電流入力を許容しながら、5Vまたは3.3Vの単電源で動作することができます。このデバイスが変換を確実に行い電圧ピンでの±50Vの絶対最大定格を維持できる電圧入力のオーバーレンジは、±20Vに仕様規定されています。電流入力は−0.5mA~24mAの範囲に仕様規定され、0mA付近まで正確な電流測定が可能であると同時に、24mAまで高精度の変換を行えます。AD4111の電圧入力は、最小1MΩのインピーダンスが確保されています。そのため、±15Vの外付けバッファを省くことができ、基板面積とBOMコストを更に削減できます。5Vの設計は、電圧入力に高インピーダンスの分圧器を要するという制約を受け、これにより多くの基板面積を占有することになります。ディスクリート部品によるソリューションの設計は、コストと精密抵抗の精度とのトレードオフとなります。これを解決するため、AD4111では図3に示すように、各電圧入力に高インピーダンスで高精度の分圧器が組み込まれています。
断線検出機能
通常、断線検出機能は、15Vの電源レールに高インピーダンス抵抗を実装して、断線した接続を範囲外の電圧に引き上げるものですが、この機能を欠いていることが代表的な5V単電源設計の欠点の1つです。AD4111では、5Vまたは3.3V電源を使用する独自の断線検出機能を備えており、この点が克服されています。これにより、断線検出機能が範囲外(Out of Range)故障から分離され、診断が大幅に簡素化されます。AD4111はこの機能を搭載することで、フロント・エンドにプルアップ抵抗が不要になるため、図2に示すように、15V電源の必要性もなくなります。±15V電源を省くことができるため、絶縁回路の複雑さ、面積、エミッションの問題が軽減されます。断線検出機能が不要なアプリケーションに対しては、AD4112が代替品として広く用いられています。このデバイスは、断線検出機能以外のAD4111の長所をすべて備えています。
システムレベルのソリューション
AD4111には電圧リファレンスと内部クロックが内蔵されているため、基板面積とBOMコストを大幅に削減できますが、温度に対してより高精度で誤差の小さい変換が必要な場合は、外付け部品を使用できます。図2に代表的なハイエンド・ソリューションを、図3に代表的なローエンド・ソリューションを示します。両方の図において強調表示されている部分は、AD4111で完全に置き換え可能なシグナル・チェーンです。AD4111の総合未調整誤差(TUE)の精度仕様は、システムレベルの条件を満たすことを目的としていますが、この精度は多くのソリューションにとって新たにキャリブレーションを行う必要がない十分なレベルである場合がしばしばです。既存の高精度ソリューションでは、多くの場合、モジュールはチャンネルごとに補正されます。AD4111は、各入力の一致精度が高く設計されているため、1つの入力を補正すれば、すべての入力にわたって同等レベルの精度が確保されます。
EMCテスト
PLCモジュールとDCSモジュールは、過酷な工業環境で動作することが多く、電磁場干渉(EMI)条件に適合する必要があります。ほとんどのデバイスは電磁両立性(EMC)が定格化されていないため、EMC性能を持つ入力モジュールの設計は非常に複雑になります。すなわち、入力保護とフィルタリング回路の設計が複雑になります。このため、設計と試験による開発期間が著しく増加してしまいます。EMC試験室は賃料が高く、試験に不合格になると、基板を再設計し再試験できるようになるまでに長時間かかる可能性があります。AD4111は、実証済みのEMCソリューションを示すプリント回路基板(PCB)に組み込む設計になっています。基板はIEC 61000-4-xの一連の規格に従って特性評価されており、回路性能は、放射無線周波数(RF)や伝導RF妨害による恒久的な影響を受けることなく、静電放電(ESD)、電気高速トランジェント(EFT)、サージに対して十分な耐性を持つことが確認されています。また、CISPR 11に対しても評価が行われ、基板の放射妨害波はクラスAの限界を十分下回っています。AD4111 EMC PCBの詳細については、AN-1572を参照してください。このアプリケーション・ノートでは、AD4111用のEMC実証済み入力モジュールを設計するための基板回路設計図やレイアウトの他、用いた試験手順に関する必要情報がすべて説明されています。
まとめ
AD4111は、高度に集積化されたシステムレベルのADCで、包括的な設定が可能です。このデバイスは±10Vの電圧入力と0mA~20mAの電流入力を処理し、断線出力機能を備え、5Vまたは3.3Vの単電源で動作する他、多くの機能を有しており、アナログ入力モジュール設計向けに比類のないソリューションを提供します。6mm × 6mmの40ピンLFCSPに収容され、これまで非常に複雑なPCBを必要としていたモジュールが、1つのデバイスで置き換え可能となっています。
ここで説明した製品の詳細については、次のサイトを参照してください。