Customer Case Study
アナログ・デバイセズのアナログ・フロント・エンドが実現するSOXAI(ソクサイ)の「Deep Sensing™」

ヘルステック企業の株式会社SOXAI(本社・神奈川県横浜市)は、同社のスマートリングの最新モデル「SOXAI RING 2」にアナログ・デバイセズのアナログ・フロント・エンド「MAX86173」を採用した。3つのフォトダイオード入力を利用し、LEDからそれぞれ異なる距離で受光する『空間分解分光法』に対応した構成を実現。多波長×空間分解による「Deep Sensing™」で脈波測定の精度向上を図っている。
https://soxai.co.jp/
| 顧客課題: | スマートリングにおける脈波取得の高精度化、および空間分解分光法の実現 |
|---|---|
| 導入製品: | ウェアラブル機器向けデュアルチャンネル光学AFE「MAX86173」 |
| 導入効果: | ・空間分解分光法に対応した構成を実現(フォトダイオードを3個搭載) ・多波長×空間分解による独自の「Deep Sensing™」で脈波測定の精度を向上 |
| キーワード: | スマートリング, ウェアラブルデバイス, ヘルステック, AFE, PPG, フォトプレチスモグラフィ, 空間分解分光法, 睡眠推定 |
ヘルステック企業のSOXAIから
スマートリングの新製品「SOXAI RING 2」が登場
ウェアラブルデバイス市場が活況を呈している。ビジネスチャンスを求めて市場に参入する企業も多い。スマートリング「SOXAI RING(ソクサイ リング)」の開発、製造、販売を手掛ける株式会社SOXAI(ソクサイ)もその一社だ。かつて非侵襲のバイタルセンシングの研究にも従事した経験を持つ渡邉達彦氏らが2021年2月に創業した。
同社は2022年4月に初代となる「SOXAI RING 0」の一般販売を開始したのち、2023年7月に「SOXAI RING 1」、2025年5月に「SOXAI RING 1.1」を発売した。
最新モデルが2025年12月発売の「SOXAI RING 2」だ。サイズのバリエーションに女性から要望の強かった8号と10号を追加したほか、リング内側の凹凸を減らし真円形状に近づけて装着性を向上させた。また、後述する独自開発の「Deep Sensing™」技術によってセンシング精度の向上を図っている。

PPGの測定に、初代モデルから一貫して
アナログ・デバイセズのAFEを採用
「SOXAI RING」は他のスマートフォンやスマートリングと同様に光電容積脈波法(PPG: Photo Plethysmography)を用いて脈波を測定している。PPGとは、酸素と結合しているヘモグロビンに吸収されやすい赤色光/赤外線か緑色光を皮膚に照射し、その反射光の変動から、血流量の変化、すなわち脈(心拍)を計測する方法である。血中酸素濃度(SpO2)の測定にも類似の方法が使われる。
これらの測定に欠かせない半導体デバイスがヘルスケア機器向けの「アナログ・フロント・エンド(AFE)」だ。赤色、赤外、緑色の各LEDの駆動回路、それらの反射光を受けるフォトダイオードの入力、入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータ、および信号処理回路などから構成される。
SOXAI RINGには一貫してアナログ・デバイセズのAFEが搭載されてきた。初代のSOXAI RING 0には「ADPD4101」が採用され[*1]、続くSOXAI RING 1とSOXAI RING 1.1には「MAX86174A」が採用された。それぞれ、優れたダイナミックレンジ、蛍光灯やLED照明などの環境光(フリッカー)に対する高い除去性能、小型パッケージ、ローパワーなどが評価された。
フォトダイオード入力の多いMAX86173を採用
創業以来の夢である空間分解分光法を構成
最新のSOXAI RING 2に採用されたのが、アナログ・デバイセズのAFE「MAX86173」である。SOXAI RING 1およびSOXAI RING 1.1に用いられているMAX86174Aと基本的な内部回路構成は同等ながら、SNRの向上により、脈波信号の検出精度が改善され、フォトダイオード入力は2つから4つに拡張されているなどの違いがある。
SOXAI RING 2においては、まさにこの点が選定の決め手になったと渡邉社長は説明する。「創業以来の夢として、複数のフォトダイオードをLEDからそれぞれ異なる距離に配置して受光する『空間分解分光法』をいつか実現したいと考えていました。4入力を備えるMAX86173はまさにその願いを満たしてくれるAFEであり、採用を決めました」。
空間分解分光法(Spatially Resolved Spectroscopy)とは、半透明の物質に光を当て、光源から距離の異なる複数のポイントで受光し、光拡散理論を用いて物質の散乱係数や吸収係数を算出する手法だ。化学、生物、医学、環境などの分野で用いられている。
「SOXAI RING 2の内側に3個のフォトダイオードをそれぞれ光源から異なる距離に配置しています。就寝中などにリングが回転した場合でも良好な受信信号を選択できますし、将来研究が進めば空間分解分光法を用いて今までにないデータを取得できる可能性もあります。赤色/赤外/緑色の多波長と組み合わせたこの技術を『Deep Sensing™』[*2]と名付け、SOXAI RING 2の新たな価値として訴求していきます」と渡邉氏は説明する。
MAX86173の選定にあたってはパッケージサイズも評価した。厚さと細さにおいて世界最小クラスのスマートリングの実現を目指しているため、フットプリントの小ささはとても重要だからだ。MAX86173は2.78mm×1.71mmとMAX86174Aの1.67mm×1.78mmに比べて1mm程度大きいが、フォトダイオード入力が増えていることを考えて問題ないと判断した。
なお、他ベンダーのAFEも評価したそうだが、LED駆動電流の設定可能範囲などがニーズに合致しなかったという。
[*2] 特願2024-531905、特許第7655609号
MAX86174Aと比べたMAX86173の主な特長
- 平均化とオフチップフィルタリング時のダイナミックレンジが111dBから115dBに向上
- フォトダイオード入力が2つから4つへと拡大
- LEDドライバ出力が4つ(2系統)から9つ(3系統)に拡大
- 環境光除去が70dB(@120Hz)から80dBに向上
AFEが取得した正確な脈波をベースに
独自のアルゴリズムで睡眠領域を推定
渡邉氏がとくに注力しているのが睡眠の見える化である。日本人の多くが睡眠障害を抱えていると言われていて、実際に、寝つきが悪い、早い時間に目が覚めてしまう、逆に朝起きられない、寝たのに疲れが取れない、眠りが浅い、などと感じている人も多いのではないだろうか。
スマートフォン用の「SOXAI RING」アプリには、睡眠時間、睡眠効率、睡眠時無呼吸症候群の傾向、睡眠負債(睡眠不足の蓄積)などを分析し採点してくれる機能があり、生活習慣の改善の気付きを与えてくれる。
ただし、睡眠そのものを直接計測することはできないため、AFEで取得した脈波、脈波から推定した呼吸とそのパターン[*3]、温度センサーで計測した皮膚表面温度、および加速度センサーで検出した体動の情報から睡眠中か覚醒中かを推定し、さらには睡眠中であれば浅いか深いか、といった状態を推定している。
以前から同社は、生体信号処理などを専門とする東京大学大学院教育学研究科の山本義春教授らと共同でこの分野の研究を進めてきた。「睡眠領域の推定アルゴリズムについては世界最高レベルの精度が得られています。今後は睡眠のさらなる深掘りに加え、睡眠の改善につながるアドバイスを提供したり、無呼吸症候群の徴候が見られたときはクリニックに誘導する、といった取り組みにもつなげていきたいと考えています」と渡邉氏は展望する。
累計販売数が5万個を突破したSOXAI RINGの価値の源泉のひとつが、呼吸や睡眠の推定アルゴリズムの精度の高さだ。アナログ・デバイセズの高性能なAFEによって脈波データを正確に取得できているがゆえに、さまざまな推定が実現されていると考えることもできる。その意味でもアナログ・デバイセズのAFEはきわめて重要な役割を担っていると言えるだろう。
SOXAI RING 2の8号と10号サイズの追加を機に女性層への提案を増やしていくとともに、現在は国内だけの販売だが近いうちにグローバル展開も進めていく計画だ。

https://soxai.co.jp/?srsltid=AfmBOorBZt2wrz40mxHlvc62Y8mvK-lJlW0DxaMAbE6ibnwbuDQGHPKq