AN-2568: 入力のバッテリ短絡保護機能を備えた堅牢なビデオ・レシーバ
回路の機能とその利点
図1 に示す回路は、苛酷な環境でCBVS ビデオ信号を受信するための過電圧(バッテリ短絡[STB])保護機能を内蔵した非常に堅牢なソリューションです。低コスト、低消費電力のユニポーラ差動レシーバADA4830-1 を使用して、完全差動または疑似差動(グラウンドを基準にしたシングルエンド)ビデオ信号をシングルエンド信号に変換してから、ADV7180 によってデジタル化します。
入力ビデオ信号源と受信回路の間のグラウンド電位の差によって生じるコモン・モード・ノイズおよび位相ノイズを除去するのにADA4830-1 を使用します。更に重要なことに、ADA4830-1とADV7180 の組み合わせは、苛酷な車載環境で動作する非常に堅牢な入力を可能にします。この組み合わせは、バッテリ短絡に対する保護と検出機能を備えており、自動車メーカーの厳しい要件を満たします。
ADA4830-1 とADV7180 を使ったこの堅牢なレシーバ回路は、ADV7180 のような低電圧集積回路を外界から絶縁/分離し、信号のコンディショニングと保護にアンプ回路を使用する、広く用いられた実績あるアーキテクチャを採用しています。
ADA4830-1(シングル)はモノリシックの高速ディファレンス・アンプで、最大18V までの入力過電圧(バッテリ短絡)保護機能、広い入力コモン・モード電圧範囲、優れたESD 耐性を備えています。ADA4830-1 は、車載インフォテインメントやビジョン・システムのような苛酷でノイズの多い環境下で、差動または疑似差動のCVBS やその他の高速ビデオ信号用のレシーバとして使用することを目的としています。ADA4830-1 は高速性と高精度を兼ね備えており、CVBS ビデオ信号の正確な再生を可能にするだけでなく、不要なコモン・モード誤差電圧を除去します。
STB の保護/検出、堅牢なESD 耐性、および広い入力コモン・モード電圧範囲の組み合わせにより、ADA4830-1 を、リアビュー・カメラや後部座席エンターテイメントなどのシステムにおける車載アナログ・ビデオ・レシーバとして使用することができます。
ADV7180 とADA4830-1 は車載用に完全に適合しているので、両製品とも車載アプリケーションのインフォテインメントや視覚ベースの安全システムに最適です。ADV7180 とADA4830-1 は小型LFCSP パッケージで供給され、省スペースが不可欠なアプリケーションに最適です。
回路の説明
ADA4830-1 はモノリシック高速ディファレンス・アンプで、特に車載アプリケーション向けに設計されています。設計は従来用いられている4 個の抵抗を使ったディファレンス・アンプをベースにしていますが、不測の困難が生じないよう最適化すると同時に、標準的なアンプ・アプリケーション回路の利点を更に強化しています。
ADA4830-1 に搭載されているバッテリ短絡保護機能は、高速スイッチング回路を採用しており、入力の過電圧状態が検出されると内部電圧ノードを安全なレベルにクランプして保持します。この保護機能により、大きくて高価な直列コンデンサを使わなくても、リアビュー・カメラなどの遠隔のビデオ信号源にADA4830-1 の入力を直接接続することができます。
ADV7180 のような多くのビデオ・デコーダは非常に低電圧のプロセスで製造されるので入力電圧範囲が制限されます。ADA4830-1 の信号ゲインは0.5V/V で、これは、ビデオ信号をビデオ・デコーダの許容入力範囲内、標準では1Vp-p またはそれ以下、に保持するように設計されています。
入力コモン・モード電圧範囲
4 個の抵抗を使うゲインが0.5V/V の標準的なディファレンス・アンプは、入力コモン・モード(CM)電圧範囲がコア・アンプのCM 電圧範囲の3 倍です。ADA4830-1 の入力コモン・モード電圧範囲は(5V 電源の場合)グラウンドを中心にして±8.5V を超えて拡張されています。このようにコモン・モード電圧範囲が非常に広いので、非常に大きなコモン・モード・オフセットとコモン・モード・ノイズが存在しても、ADA4830-1 とADV7180 は画像品質に悪影響を与えることなく動作します。
ワイヤ診断
図1 に示すADA4830-1/ADV7180 の組み合わせは、ADA4830-1のSTB 出力をADV7180 のGPIO ポートの1 つに接続することにより、バッテリ短絡ワイヤの診断が可能です。バッテリ短絡が生じている間、STB 出力はロジック・ロー信号になります。ADV7180 はこのロー信号を読み取って、システムのマイクロコントローラが読み取ることができる割込みを発生します。バッテリ短絡の出力フラグ(STB ピン)は、バッテリ短絡保護から機能的に独立しています。その目的はどちらかの入力の過電圧状態の表示です。保護は受動的に与えられるので常に利用可能です。フラグは単にフォルト状態の有無を表示するだけです。
入力ESD 保護
ADA4830-1 の入力保護アーキテクチャには、双方向非対称ブロッキング電圧の新技術が使われています。これはバッテリ短絡状態に対して耐性があり、8kV のHBMを超えるレベルのESDに対する堅牢性を備えています。15kV までのESD保護を追加するには、外付けの過渡電圧サプレッサを推奨します。
コモン・モード・ノイズ除去
ADA4830-1 のチップ内蔵抵抗は本来良くマッチングしているので、広い周波数範囲でコモン・モード除去(CMR)性能が改善されます。ADA4830-1 の周波数に対するCMR を図2 に示します。これは低周波数での代表値が65dB なので、高いレベルのコモン・モード・ノイズが存在してもビデオ信号を復元することができます。
DC オフセットかAC 信号かを問わず、コモン・モード誤差によりビデオ画像品質が低下します。図3 と図4 は、白い背景に1 本の大きな黒のストライプを表示しています。図3 は、500kHz、1Vp-p のコモン・モード・ノイズ信号のビデオ画像品質に対する影響を示しています。図4 は、ADA4830-1 入力段を追加してコモン・モード・ノイズを除去した、改善後のビデオ画像の品質を示しています。
ADV7180 は世界標準のNSTC、PAL、SECAMに適合した標準アナログ・ベースバンドTV 信号を自動的に検出し、8 ビットITU-R.656 インターフェース標準に適合した4:2:2 コンポーネント・ビデオ・データに変換します。高精度の10 ビットA/D 変換により、真の8 ビット・データ分解能を使用するコンスーマ・アプリケーション向けにプロ品質のビデオ性能を実現できます。3 チャンネルのアナログ・ビデオ入力は、標準のコンポジット信号、S ビデオ信号、またはコンポーネント・ビデオ信号を取り込めるため、様々な民生用ビデオ信号源に対応することができます。自動ゲイン制御(AGC)回路とクランプ再生回路が内蔵されているため、最大1.0V の振幅をもつビデオ信号の入力が可能です。
PCB レイアウトに関する考慮事項
高精度を必要とする回路では、ボード上の電源とグラウンド・リターンのレイアウトを考慮することが重要です。PCB では、デジタル部とアナログ部をできるだけ分離するようにします。このPCB は、面積の大きいグランド・プレーン層と電源プレーン・ポリゴンを積み重ねた4 層基板を使用しています。レイアウトとグラウンディングの詳細についてはMT-031チュートリアルを、デカップリング技術についてはMT-101チュートリアルを参照してください。
ADV7180 への電源は10μF と0.1μF のコンデンサでデカップリングします。また、ADA4830-1 は0.1μF と22μF のコンデンサを使ってデカップリングし、ノイズを適切に抑えてリップルを減らします。これらのコンデンサはできるだけデバイスの近くに配置し、0.1μF のコンデンサは低ESR 値のものを使用します。全ての高周波デカップリングにはセラミック・コンデンサを推奨します。
電源ラインはできるだけ広いトレース幅にして低インピーダンス経路にし、電源ライン上のグリッチによる影響を軽減させます。クロックなどの高速スイッチング・デジタル信号は、デジタル・グラウンドを使ってボード上の他の部分からシールドします。