計装アンプを理解する ――ダイヤモンド・プロット・ツールの“秘密”

計装アンプは、さまざまなアプリケーションにおいて、圧力や温度などの測定に使われる優れたコンポーネントです。同アンプを使用する主要な目的は、信号を増幅することと、インピーダンスを調整することです。

計装アンプの次段には A/D コンバータ(ADC)が使われることがよくあります。そのこともあって、計装アンプの多くはリファレンス入力ピンを備えています。このピンに電圧を印加すると、加えた電圧の分だけ出力信号が高くなります。それにより、ADC の入力範囲に応じて計装アンプの出力を容易かつ正確に調整できます。つまり、ADC の入力範囲の全体を使うことができるので、高い分解能がもたらすメリットをフルに活用できることになります。また、信号のコモンモード電圧が高い場合、優れた同相ノイズ除去比と高い精度が得られます。

図 1 は、一般的な計装アンプの内部回路を示したものです。ご覧のように、3 個のオペアンプで構成されています。この種の製品としては「AD8421」があります。同IC は汎用的な特性を備えているので、さまざまなアプリケーションに適用できます

図 1 . 一般的な計装アンプの内部構造

図 1 . 一般的な計装アンプの内部構造

計装アンプを使用する場合、その最大出力電圧は、入力信号(コモンモードまたは差動)、ゲイン、電源電圧に依存します。また、内部構造からの制約を受ける可能性もあります。3 個のオペアンプで構成する場合、入力信号は、初段のアンプ(反転/非反転入力)によってプリセットのゲインで増幅されます。2 段目では、2 つの入力信号の減算を行うことで出力信号が生成されます。その信号にリファレンス電圧が加えられて最終出力になります。

IC の内部では、下図のようにいくつかの処理を経て最終的なアナログ信号が生成されます。それらの処理を行う際には、いくつかの要因によって内部飽和が生じ、最大動作範囲が抑えられる可能性があります

いくつかの要因とは、以下のようなものです。

  • プリセットのゲインに対して入力電圧信号が高すぎる
  • 生成される出力電圧信号に対してリファレンス電圧が高すぎる
  • 電源電圧が低すぎる

出力電圧と計装アンプの動作範囲は、最大入力信号、ゲイン、リファレンス電圧に依存します。また、選択した構造からの制約も受けるため、いずれも容易に計算することができません。これらの要因を図に表すと、ダイヤモンド型のグラフが得られます。これがいわゆるダイヤモンド・プロットです。グラフの空白の部分が動作可能な範囲を表します。複数の入力と出力が存在するため、その計算は容易ではありません。

アナログ・デバイセズは、そのような計算をオンラインで行う手段として「計装アンプ・ダイヤモンド・プロット・ツール( Instrumentation Amplifier Diamond PlotTool)」を開発しました。このツールは、必要な出力信号を得るためのリファレンス、入力信号、電源電圧、ゲインの構成を自動的に計算します。そして、特定の出力信号を得るためのパラメータの組み合わせをグラフィカルに表示します。

このツールには、アナログ・デバイセズのすべての計装アンプのデータが取り込まれており、迅速かつ容易に使用することができます。

図 2 、3 、4 は、このツールの GUI( Graphical UserInterface)です。それぞれ、「Diamond Plot(ダイヤモンド・プロット)」、「Internal Circuitry(内部ブロック図)」、「Recommended(推奨)」の各オプションを選択した場合に表示されるウィンドウです。

図 2 は、必要なすべてのパラメータを入力し、ダイヤモンド・プロットを計算して視覚化したものです(パラメータとしては、入力信号、ゲイン、電源電圧、リファレンス電圧があります)。入力信号については、コモンモード信号または差動信号を選択できます。また、このツールでは、選択したアンプに対する制限について確認することができます。それにより、入出力と内部の制約を区別することが可能になります。このことは、動作範囲の見積もりを正しく行うことにつながります。一般に、プロットの限界に近い部分の条件で動作させることは推奨されません。

図 2 . 計装アンプのダイヤモンド・プロット

図 2 . 計装アンプのダイヤモンド・プロット

図 3 では、アンプの内部回路が表示されており、構造を把握することができます。これにより、技術的な詳細情報と各内部電圧を確認することが可能になります。これらの情報は、設計に誤りがないかどうかを確認するうえで重要です。図 4 では、選択したパラメータの値に対応する代替案が提示されます。

図 3 . 計装アンプの簡略化した回路図

図 3 . 計装アンプの簡略化した回路図

図 4 . 推奨される計装アンプ

図 4 . 推奨される計装アンプ

計装アンプ・ダイヤモンド・プロット・ツールを使用することで、ダイヤモンド・プロットの“秘密”を解明することができます。同ツールは使いやすいユーザー・インターフェースを備え、いつでもオンラインで使用可能です。そのため、個々の計装アンプを選択/評価し、より複雑な回路を設計することが可能になります。

最後に今月の問題を紹介します。

http://www.analog.com/designtools/jp/diamond/

高精度の計装アンプ「AD8422」を差動入力で使用するケースを考えます。ゲインは 100、正と負の電源電圧はそれぞれ 15 V と -15 V とします。リファレンス電圧は0 V、同相電圧は 8 V、差動入力範囲は 100 mV ~ 148.5mV です。フルレンジの動作温度範囲に対応し、負荷は10 kΩであると仮定します。ダイヤモンド・プロット・ツールとデータシートを使用/参照して、この設定では同 IC が動作しない理由を説明してください。なお、同ツールには、analog.com/designtools/jp/diamond/ からアクセスできます。

著者

Christoph Kaemmerer

Christoph Kämmerer

Christoph Käemmerer。2015年2月以来、ドイツのアナログ・デバイセズに勤務。2014年にエアランゲンのフリードリヒ・アレクサンダー大学を卒業。物理学修士。その後、プロセス開発のインターンとしてリメリックのアナログ・デバイセズに勤務。2016年12月にフィールド・アプリケーション・エンジニアとしてのトレイニー・プログラムを終了してアナログ・デバイセズに勤務し、新興アプリケーションを担当。現在は新興ビジネス・マネージャとして、アナログ・デバイセズにとって将来成長が見込まれるオプションの検討を担当。