目的
今回の実習では、逆バイアスを印加した状態でPN接合の容量値を測定します。バイアス電圧を変化させて、その依存性を確認します。
背景
PN接合の容量
PN接合に逆バイアス電圧VJをかけると、境界部から離れる方向に電荷が再分布して空乏層が形成されます。空乏層は、コンデンサの2枚の電極板に挟まれる絶縁体のように機能します。図1では、この空乏層の幅をWで表しています。Wの値は、印加する電界と不純物のドーピング濃度に依存します。PN接合の容量は、拡散容量と障壁容量という2つの成分に分けられます。逆バイアスを印加した際には、自由キャリアの注入は生じません。したがって、拡散容量の値はゼロです。逆バイアス電圧、またはダイオードのターンオン電圧(シリコン・ダイオードの場合は0.6V)よりも低い正のバイアス電圧を印加した場合には、障壁容量が主な容量成分となります。障壁容量は、接合部の面積と不純物のドーピング濃度に応じて、1pF未満から数百pFといった値をとります。接合容量と印加するバイアス電圧の関係を、接合のC-V(容量-電圧)特性と呼びます。この実習では、様々なPN接合(ダイオード)のC-V特性を測定してグラフを作成します。
準備するもの
- アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000」
- ソルダーレス・ブレッドボード
- 抵抗:10kΩ(1個)
- コンデンサ:39pF(1個)
- ダイオード:「1N4001」(1個)、「1N3064」(1個)、「1N914」(1個)
- LED:赤色、黄色、緑色
- NPNトランジスタ:「2N3904」(1個)
- PNPトランジスタ:「2N3906」(1個)
ステップ1の手順
まず、図2に示すようなテスト用の回路を構成します。ソルダーレス・ブレッドボードを使って、この回路を図3のように実装します。ステップ1では、任意波形ジェネレータ(AWG)の出力とオシロスコープの入力の間に、値が既知のコンデンサC1を接続することにより、未知の容量Cmの値を測定します。オシロスコープの2つの負入力(1-と2-)は、いずれもグラウンドに接続します。オシロスコープのチャンネル1の入力1+は、ブレッドボードの1列を使用してAWG1の出力W1に接続します。オシロスコープのチャンネル2の入力2+は、W1が接続されている列から8~10列離れた列に接続します。オシロスコープの入力2+の隣の列からAWG1の列まではグラウンドに接続します。これは、AWG1とオシロスコープのチャンネル2の間の望ましくない浮遊結合を最小限に抑えるためです。空中配線はシールドされていないので、W1と1+のワイヤは、2+のワイヤからできるだけ離すようにしてください。
ハードウェアの設定
ソフトウェア・パッケージ「Scopy」のネットワーク・アナライザ機能を使用し、5kHz~10MHzにおけるゲイン(減衰量)と周波数の関係をグラフとして取得します。オシロスコープのチャンネル1はフィルタの入力で、オシロスコープのチャンネル2はフィルタの出力です。AWGについては、オフセットを1V、振幅を200mVに設定します。オフセットの値は、コンデンサCmの測定を行う段階では重要ではありません。但し、ステップ2でダイオードの測定を行う際には、このオフセットを逆バイアス電圧として使用します。
垂直方向のスケールを1dBから-50dBの範囲に設定します(図4)。掃引を1回実行し、得られたデータをCSVファイルとしてエクスポートします。測定結果を見ると、非常に低い周波数領域で大きく減衰するハイパス特性を示すことに気づくはずです。その領域では、コンデンサのインピーダンスはR1のインピーダンスと比べて大きくなります。一方、周波数が高い領域には、ゲインが比較的平坦な部分が存在します。そこでは、C1、Cmで構成される分圧器のインピーダンスは、R1のインピーダンスよりもはるかに小さくなります。
ステップ1の残りの手順
C1としては、Cstrayよりも十分に大きい値のものを選択しました。それにより、計算を行う際、Cstrayの値を無視しても、Cmの値として、実際の値に非常に近い結果が得られるようになります。
保存したデータのファイルをスプレッドシート・ソフトで開いてください。データの末尾近くまでスクロールし、減衰レベルが基本的に平坦になる部分の周波数を確認します(1MHz以上)。その周波数における振幅値をGHF1(単位はdB)として書き留めておいてください。GHF1とC1が既知なので、以下の式によってCmを計算することができます。
計算によって得られたCmの値も書き留めておいてください。この値は、ステップ2で様々なダイオードのPN接合容量を算出する際に必要になります。
ステップ2の手順
次に、アナログ・パーツ・キット「ADALP2000」に含まれている様々なダイオードについて、逆バイアスをかけた際の容量値を測定します。そのために、図5に示すテスト用の回路を構成してください。ステップ1のC1をD1(1N4001)に置き換えるだけです。ソルダーレス・ブレッドボードでは、図6のように実装します。AWG1の正のオフセット電圧によってダイオードに逆バイアスがかかるよう、ダイオードは正しい向きに接続してください。
ハードウェアの設定
引き続き、Scopyのネットワーク・アナライザ機能を使用して測定を行います。表1に示した各DCオフセット電圧(AWG1で設定)を印加した状態で、5kHz~10MHzにおけるゲイン(減衰量)と周波数のグラフを取得します(図7)。掃引によって得られたデータは、それぞれ別のCSVファイルとしてエクスポートしてください。
ステップ2の残りの手順
表1に、各オフセット電圧に対するGHFの値を記入し、ステップ1で示した式と算出したCmの値を使ってCdiodeの値を計算します。
表1. 容量値の測定結果オフセット電圧 | GHF | Cdiode |
0 V | ||
1 V | ||
2 V | ||
3 V | ||
4 V |
続いて、ダイオードを1N4001から1N3064に変更し、一連の測定を繰り返します。別の表に、測定によって得られた値とCdiodeの計算値を記入してください。1N3064と1N4001とでは、値に違いはあるでしょうか。測定するダイオードごとに、ダイオードの容量と逆バイアス電圧の関係を表すグラフを必ず添えてください。
次に、1N3064を1N914に置き換えます。ここまでと同様に一連の測定を行い、別の表に、測定によって得られた値とCdiodeの計算値を記入します。1N914の値は、1N4001や1N3064の値と比べてどうなりますか。
1N914の容量値は、他の2種類のダイオードよりもかなり小さかったはずです。Cstrayと同じくらい小さくなることもあります。
追加の演習
当然のことながら、LED(発光ダイオード)にもPN接合が存在します。シリコン以外の素材で作られているため、ターンオン電圧が通常のダイオードとはかなり異なります。しかし、空乏層も容量値も存在します。追加の演習として、ADALP2000に含まれている赤色、黄色、緑色の各LEDについて、ダイオードと同様の方法で容量値の測定を行ってください。テスト用の回路では、逆バイアスがかかるように正しい向きでLEDを接続する必要があります。逆向きに接続すると、実験作業の最中にLEDが点灯するかもしれません。
問題
ステップ1で示した式、C1の値、図4のグラフを使用して、オシロスコープの入力容量Cmの値を計算しなさい。
答えはStudentZoneで確認できます。