フィルタ用のアンプはどうやって選べばよい? ――この悩みを解消する「アナログ・フィルタ・ウィザード」

どのような回路を設計する場合でも、適切な部品を選択することは極めて重要です。量産の開始に向けて最後の承認を得る前に、適切な部品が選択されているかどうかを(シミュレーションやプロトタイピングを通して)検証するのは非常に重要なプロセスです。

皆さんは、設計を行う際の部品の選択方法ついてどのくらい自信があるでしょう。シミュレーションを実施する前に、選択について微調整を施すことを可能にするツールがあれば、非常に便利ではないでしょうか。

「アナログ・フィルタ・ウィザード( Analog FilterWizard)」は、まさにそのようなツールです。これを使えば、オペアンプを使用するフィルタの設計を実践的に行うことができます。例えば、ローパス・フィルタ、ハイパス・フィルタ、バンドパス・フィルタを開発する際、求められる仕様に対応可能なアンプ製品を容易に探すことが可能です。そのため、設計にかかる時間を短縮することができます(図 1)。

図 1 . フィルタの種類の選択

図 1 . フィルタの種類の選択

また、フィルタの理論上の性能と実際の性能の詳細な解析も行えます。

では、このツールはどのように使うのでしょう。パスバンド(通過帯域)とストップバンド(阻止帯域)を設定したら、それだけを基にして製品を推奨してくるのでしょうか。答えは「それ以上のことができる」です。図2 に示すように、このツールは、仕様の定義からフィルタの特性の算出まで、設計上のすべての過程に対応しています。オプションとしてフィルタの種類(バターワース、ベッセル、チェビシェフなど)を選択できますし、パスバンドからストップバンドへの遷移の定義も行えます。また、段数の少ないものやセトリングが高速なものを選択することも可能です。

図 2 . 「Magnitude( 振幅)」ビューにおける仕様の定義

図 2 . 「Magnitude( 振幅)」ビューにおける仕様の定義

アナログ・フィルタ・ウィザードは、「Magnitude(振幅)」、「Phase(位相)」、「Step Response(ステップ応答)」、「Power(電源)」、「Noise(ノイズ)」など、さまざまなビューを提供しています。仕様を変更したら、その都度性能を確認することができます。図 2と図 3 に、「Magnitude(振幅)」と「Phase(位相)」の各ビューを示しました。これらは、それぞれ信号の振幅と位相について理解するうえで役に立ちます。

図 3 . 「Phase(位相)」ビューの表示例

図 3 . 「Phase(位相)」ビューの表示例

Stages(段)」ビューを使えば、フィルタの段数とその特性を把握することができます(図 4)。このビューによって、フィルタの段ごとの特性について理解することが容易になります。

図 4 . フィルタの各段

図 4 . フィルタの各段

波形の歪みはオーバーシュートとリンギングによって定義されます。これは、「Step Response(ステップ応答)」ビューによって解析することができます(図 5)。

図 5 . フィルタのステップ応答

図 5 . フィルタのステップ応答

理論上の特性について考察したら、次に行うべきステップは回路設計です(図 6)。ここでは、最適化の種類(電力、ノイズ、電圧範囲など)を選択すると、それに基づいて推奨される部品が提示されます。なお、推奨された部品をそのまま使用することもできますし、自分自身で部品を選択しなおすことも可能です。

図 6 . 部品の選択

図 6 . 部品の選択

アナログ・フィルタ・ウィザードは、与えられた仕様に対して最適な部品を提示します。ただし、推奨された部品が入手困難であったり、使用が非現実的であったりといったことも起こりえます。そのため、「Component Tolerances(部品の公差)」という機能によって、抵抗やコンデンサの許容誤差を選択できるようになっています(図 7)。これにより、柔軟性が提供されるということです。また、その誤差を許容した場合に、フィルタの性能にどのような影響が及ぶのか確認することも可能です。

図 7. 部品の許容誤差の設定

図 7. 部品の許容誤差の設定

図 8 には、適切なオペアンプを組み入れた最終的な回路が表示されています。この後は、回路のシミュレーションやプロトタイピングといった作業に進むことになります。

図 8 . 最終的な回路

図 8 . 最終的な回路

アナログ・フィルタ・ウィザードは大きな価値を提供してくれます。仕様の定義から許容誤差の設定までの各ステップにおいて、その都度、フィルタの性能を確認できるからです。このような機能を活用することにより、各ステップで設計を微修正することができます。また、柔軟性を高めることにより、貴重な工数を削減するとともに、繰り返し作業を減らして設計を最適化することが可能になります。

アナログ・フィルタ・ウィザードには以下のリンクからアクセスすることができます。ぜひ、実際に使用してみてください。
analog.com/designtools/jp/filterwizard/

今月の問題:

問題 1:

アナログ・フィルタ・ウィザードを使って、カットオフ周波数が 1 MHz、ストップバンドが 3 MHz、ゲインが0 dB という仕様で 2 段のバターワース型ローパス・フィルタを設計してください。その際、± 5 V の電源を使用し、ノイズを抑えることを重視するという条件で最適化を行ってください。部品の許容誤差としては、デフォルトの値を選択し、ツールが推奨するオペアンプを使用してください。

完成したフィルタの静止電力はどうなりますか。

問題 2:

パスバンドのリップルが 0.08 dB で 2 段構成のローパス・フィルタを設計してください。4 次のチェビシェフ・フィルタと 4 次のバターワース・フィルタを同じ仕様で設計し、比較を行ってください。

遷移帯域が狭いのはどちらのフィルタですか。

答えは StudentZone で確認することができます。

著者

Kushwanthi Padmanabhuni

Kushwanthi Padmanabhuni

Kushwanthi Padmanabhuniは、欧州中央アプリケーション・センターでアプリケーション・エンジニアとして勤務しています。主に、高精度の計測に関するサポートを担当しています。2015 年 8 月にアナログ・デバイセズの新卒研修生としてキャリアをスタートし、ミュンヘンの拠点で勤務しています。電子機械工学の修士号と電子通信工学の学士号を取得しています。