ADALM2000による実習:クラップ発振器

目的

発振器の機能は、様々な回路構成によって実現できます。その中から、今回はクラップ発振器を取り上げます。同発振器では、2個のコンデンサを直列に接続した分圧器と直列LC共振回路を利用してフィードバック・パスを実現します。

背景

クラップ発振器は、コルピッツ発振器を直列同調型の回路に改変したものだと言うことができます(図1)。実際、2個のコンデンサ(図中のC1、C2)を直列に接続した分圧器を利用してフィードバック信号を生成するという点では、コルピッツ発振器によく似ています。但し、インダクタL1に対して追加のコンデンサC3を接続しています。この点がコルピッツ発振器やハートレー発振器とは異なります。あらゆる発振器と同様に、クラップ発振器もバルクハウゼンの発振条件を満たす必要があります。つまり、入力から出力までのトータルのゲインが1で、位相シフトが0°でなければなりません。その発振周波数は、他の共振回路と同様に以下の式によって計算できます。

数式 1.

NPNトランジスタQ1のベース‐コレクタ間には容量成分が存在します。その影響を無視すると、共振周波数の計算には、以下に示す全等価容量CTOTを用いることが可能です。

数式 2.

図1に示した回路は、代表的なクラップ発振器の構成例です。この場合、L1とCTOTから成る直列共振同調回路によって共振周波数が決まります。この同調回路は、ベース接地アンプ(ベース共通アンプ)として機能するQ1のコレクタの負荷インピーダンスになります。値の大きいインダクタL2はコレクタ電流のDCパスになりますが、共振周波数においてはインピーダンスが高くなります。それにより、同アンプのゲインは共振周波数においてのみ高くなります。ベース接地アンプとして機能するQ1のベースは、抵抗R1と同R2から成る分圧器によって適切なDCレベルにバイアスされます。また、Q1のベースとACグラウンドの間にはデカップリング・コンデンサC4が配置されています。ベース接地アンプでは、コレクタの出力信号(電圧波形)とエミッタの入力信号は同位相になります。そして、C1とC2の接続部の信号成分がコレクタの同調負荷からエミッタにフィードバックされます。それにより、必要な正帰還が確実に実現されます。

図1. 基本的なクラップ発振器
図1. 基本的なクラップ発振器

また、C1とC2の合成容量とQ1のエミッタに接続された抵抗R3によって低い周波数の時定数が決まります。Q1のエミッタには、フィードバック信号の振幅に比例する平均DC電圧レベルが供給されます。それにより、ベース接地アンプのゲインが自動的に制御され、発振器に必要なクローズド・ループ・ゲインが1になります。この回路では、エミッタのノードをベース接地アンプの入力として使用するので、R3はデカップリングしていません。Q1のベースとACグラウンドの間にはC4が接続されているので、発振周波数におけるリアクタンスは非常に小さくなります。

事前のシミュレーション

実際に回路を構築する前に、シミュレーションによって動作を確認しておくとよいでしょう。そのためには、図1に示したとおりの構成でシミュレーション用の回路図を作成します。ここでは、R3の値を500Ωに設定し、Q1のコレクタ電流が約1mAになるようにR1とR2の値を調整します。また、回路の電源電圧は10Vに設定することにしましょう。抵抗分圧器に流れる定常的な電流をできるだけ少なく抑えるために、R1とR2の値の和ができるだけ大きくなるようにします(トータルで10kΩ以上)。C4と出力のACカップリング・コンデンサC5の値は0.1μFに設定してください。L1の値については、C1とC2の値をいずれも1nFに設定した場合に、共振周波数が750kHz近くの値になるように計算します。L2の値としては10mH以上の高い値を使用しましょう。以上のようにしてシミュレーション用の回路図を作成したら、トランジェント解析を実行してください。得られた結果は、実験レポートで使用できるよう保存しておきましょう。シミュレーション結果と実際の回路で取得した結果を比較できるようにするということです。

準備するもの

  • アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000
  • ソルダーレス・ブレッドボード
  • ジャンパ線キット
  • NPNトランジスタ:「2N3904」(1個)
  • インダクタ:1μH(1個)、10μH(1個)、100μH(1個)、10mH(1個。L2として使用)
  • コンデンサ:1nF(1個。C1として使用)、4.7nF(1個。C2として使用)、0.1μF(2個。「104」とマーキングされているもの)
  • 抵抗:470Ω(1個。R3として使用)
  • その他の抵抗、コンデンサ、インダクタ(必要に応じて用意)

説明

図2に示すクラップ発振器の回路をソルダーレス・ブレッドボード上に実装します。バイアス抵抗R1とR2の値については、NPNトランジスタQ1のエミッタ抵抗R3を470Ωに設定した場合にコレクタ電流が約1mAになるように設定します。アナログ・パーツ・キット「ADALP2000」に含まれる標準的な値のものを使用できるようにしてください。発振器の周波数は、コンデンサC1、同C2、同C3、インダクタL1の値に応じて約500kHzから2MHzになります。ここでは、C1の値を1nF、C2の値を4.7nFとします。C3の値を計算し、アナログ・パーツ・キットの中から最も近い値のものを選んでください。この発振器では、選択したL1の値によっておおよその周波数が決まり、10Vp-pを超える正弦波が出力されるはずです。

図2. 実習に使用するクラップ発振器の回路
図2. 実習に使用するクラップ発振器の回路

ハードウェアの設定

図2の回路を実装したブレッドボードを図3に示します。

図3. 図2の回路を実装したブレッドボード
図3. 図2の回路を実装したブレッドボード

図2の青色のボックスは、ADALM2000のオシロスコープのチャンネル、電源を接続する個所を表しています。電源を投入する前に、必ず配線の再確認を行ってください。

手順

実装した回路に、5Vと-5Vの電源電圧を印加します。その状態オシロスコープでのチャンネル1(1+)を出力端子に接続し、回路が適切に発振していることを確認してください。実は、R3の値の調整は容易ではありません。少しの差によって、かなり歪んだ大きな波形が出力されたり、小さな波形が断続的に出力されたり、出力が得られない状態になったりする可能性があります。R3の最適な値を見いだすためには、R3を1kΩのポテンショメータで置き換えて実験を行うとよいでしょう。そうすれば、最もきれいな波形、信頼性の高い振幅が得られる値を探し出すことができます。

図4に、出力信号の波形の例を示しました。このプロットは、R1 = 10kΩ、R2 = 1kΩ、R3 = 100Ω、L1 = 100μH、L2 =10μH、C1 = 1nF、C2 = 4.7nF、C3 = 10nFの条件で取得しました。

図4. 図2の回路の出力信号
図4. 図2の回路の出力信号

問題1

クラップ発振器の主機能について説明してください。

問題2

クラップ発振器は、どの種類の発振器を改変したものだと言えますか。

問題3

クラップ発振器は、コルピッツ発振器に何を追加することで実現されますか。

問題4

クラップ発振器がコルピッツ発振器よりも適しているのはどのようなケースでしょうか。

答えはStudentZoneで確認できます。

著者

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclausは、アナログ・デバイセズのシニア・ソフトウェア・エンジニアです。Linuxやno-OSドライバを対象とした組み込みソフトウェアを担当。それ以外に、アナログ・デバイセズのアカデミック・プログラムやQAオートメーション、プロセス・マネージメントにも携わっています。2017年2月から、ルーマニアのクルジュナポカで勤務。クルジュナポカ技術大学で電子工学と通信工学の学士号、バベシュボヨイ大学でソフトウェア・エンジニアリングの修士号を取得しています。