目的
今回は、NMOSトランジスタで構成したシンプルなソース・フォロワ回路について検討します。ソース・フォロワ回路は、ドレイン接地回路(ドレイン共通回路)と呼ばれることもあります。
準備するもの
- アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000」
- ソルダーレス・ブレッドボード
- ジャンパ線
- 抵抗:2.2kΩ(1 個、RL として使用)
- 小信号NMOSトランジスタ:エンハンスメント型の「CD4007」または「ZVN2110A」(1 個。M1として使用)
説明
まずは図1の回路を取り上げます。図2に、この回路を実装したブレッドボードを示しました。トランジスタM1のゲートには、任意波形ジェネレータ(AWG)の出力(W1)を接続します。このノードには、オシロスコープのシングルエンド入力1(1+)も接続しています。また、M1のドレイン端子には正の電源Vpを接続してください。M1のソースには、2.2kΩの負荷抵抗RLとオシロスコープのシングルエンド入力2(2+)を接続します。RLのもう一端は負電源Vnに接続しましょう。入力と出力の電位差を測定する際には、オシロスコープの入力2+をM1のゲート、入力2-をソースに接続してください。
ハードウェアの設定
AWGは、ピークtoピークの振幅が2V、オフセットが0V、周波数が1kHzの正弦波を生成するように設定します。オシロスコープの入力2+によって、M1のソースの電圧を測定します。オシロスコープの入力1+は、AWGの出力を表示するために使用します。入出力の電位差を測定する際には、オシロスコープの入力2+、2-を使用して両者の差分を表示します。
手順
オシロスコープは、測定の対象とする2つの信号の数周期分が表示されるように設定します。また、オシロスコープによる波形の表示には、ソフトウェア・パッケージ「Scopy」を使用します。取得した波形の例を図3に示しました。
図1のソース・フォロワ回路では、理想的にはゲイン(VOUT/VIN)が1になります。しかし、実際のゲインは1よりもやや小さくなります。現実の回路のゲインは以下の式で表されます。
この式から、1に近いゲインを得るには、RLを大きくするか、rsを小さくすればよいことがわかります。rsの値は、ドレイン電流IDの関数として表されます。IDが増加するとrsは小さくなります。また、この回路ではIDはRLに依存します。RLの値が大きいほど、IDの値は小さくなります。これら2つの効果は、単純な抵抗性の負荷が接続されたソース・フォロワ回路では互いに相反する作用をもたらします。そのため、ソース・フォロワ回路のゲインを最適化するには、他方に影響を及ぼすことなく、rsを小さくするか、RLを大きくする必要があります。ここで重要なのは、MOSトランジスタの場合、ID = IS(IG = 0)であるということです。また、IDの値は以下の式で表されます。
この式において、μnCox/2(= K)とλは、プロセス技術によって決まる定数です。
ソース・フォロワ回路を別の視点から見ると、トランジスタのVthに起因する本質的なDCシフトにより、入出力の電位差は想定している振幅に対して一定になるはずです。シンプルな抵抗負荷であるRLの存在により、IDは出力の上昇/下降に伴って増減します。ここで、IDはVGSの2乗に依存することがわかっています。この例では、振幅が-1V~1Vの範囲で変動するので、IDの最小値は1V/2.2kΩで0.45mA、最大値は6V/2.2kΩで2.7mAとなります。つまり、VGSも大きく変化することになります。このような考察を踏まえると、ソース・フォロワ回路の改良案が導き出されます。
改良版のソース・フォロワ回路
ソース・フォロワ回路の改良策として、M1のソースにRLを付加する代わりに、StudentZoneの過去の実習で扱ったカレント・ミラーを使用することにします。それにより、M1のソース電流がほぼ一定になるようにします。カレント・ミラーでは、広い範囲の電圧に対してほぼ一定のシンク電流が流れます。その電流がM1に流れることにより、VGSがほぼ一定になります。カレント・ミラーは出力抵抗が非常に大きいので、その電流によって設定される小さな値にrsの値を保ちながら、実質的にRLの値を高めることができます。
追加で準備するもの
- 抵抗:3.2kΩ(1 個。1kΩ の抵抗と 2.2kΩ の抵抗を直列に接続して使用)
- 小信号 NMOS トランジスタ:ZVN2110A(1 個。M1 として使用)
- 小信号 NMOS トランジスタ:CD4007(2 個。M2、M3 として使用)
説明
図4に示したのが改良版の回路です。図5には、この回路を実装したブレッドボードを示しました。
ハードウェアの設定
AWGは、ピークtoピークの振幅が2V、オフセットが0V、周波数が1kHzの正弦波を生成するように設定します。オシロスコープの入力2+によって、M1のソース電圧を測定します。オシロスコープの入力1+は、AWGの出力を表示するために使用します。入出力の電位差を測定する際には、オシロスコープの入力2+、2-を使用して両者の差分を表示します。
手順
測定の対象とする2つの信号の数周期分が表示されるようにオシロスコープを設定します。取得した波形の例を図6に示しました。
ソース・フォロワ回路の出力インピーダンス
最後に、ソース・フォロワ回路の出力インピーダンスを確認するための実験を行います。
目的
ソース・フォロワ回路の重要な性質は、電力/電流に対するゲインを提供することです。高抵抗(高インピーダンス)の回路によって、低抵抗(低インピーダンス)の負荷を駆動できるようにすると言い換えることもできます。以下では、ソース・フォロワ回路の出力インピーダンスを測定してみましょう。
準備するもの
- 抵抗:4.7kΩ(1 個)
- 抵抗:10kΩ(1 個)
- 小信号 NMOS トランジスタ:CD4007 または ZVN2110A(1個。M1 として使用)
説明
図7に示したのが測定用の回路です。AWGからの信号をM1のソース(出力)に印加するために、抵抗R2を追加しています。M1のゲート(入力)はグラウンドに接続しています。図8に、この回路を実装したブレッドボードを示しました。
ハードウェアの設定
AWGは、ピークtoピークの振幅が2V、オフセットがM1のVGSの符号を反転した値(約-V)、周波数が1kHzの正弦波を生成するように設定します。それにより、M1のソースには±0.1mA(1V/10kΩ)の電流が印加されます。オシロスコープの入力2+により、ソースにおける電圧の変化を測定します。
手順
M1のソースで測定した電圧の値をプロットします。測定の対象とする2つの信号の数周期分が表示されるようにオシロスコープを設定してください。取得した波形の例を図9に示しました。
問題:
ソース・フォロワ回路のゲインを改善する(1に近づける)方法を2つ挙げ、その概要を簡単に説明してください。
答えはStudentZoneで確認できます。