目的
今回は、永久磁石をベースとするラウドスピーカについて検討してみます。実際に回路を構成し、インピーダンスのプロファイルを取得して共振周波数を確認してみましょう。
背景
ダイナミック・ラウドスピーカにおいて最も重要な電気的特性はインピーダンスです。これは、周波数の関数として表されます。各周波数に対するインピーダンスの値を測定してプロットすれば、特性を視覚的に確認することができます。そのグラフは、インピーダンス曲線と呼ばれています。
ラウドスピーカとして最も一般的なものは、電気機械的なトランスデューサとして実現されています。その主要な構成要素は、振動板(コーン)に接続されたボイス・コイルです。この可動型コイルは、永久磁石によって生じる磁界の中に吊り下げられた状態になっています。そして、同コイルにオーディオ・アンプからの電流が流れると、電磁界が生成されます。その電磁界は、永久磁石によって生成される固定の磁界に反発し、ボイス・コイル(とコーン)に動きが生まれます。交流の電流を使えばコーンは前後に動くことになります。その動きによって空気が振動し、音が生成されます。
ラウドスピーカの可動システムは、コーン、コーンのサスペンション、スパイダ、ボイス・コイルなどで構成されます。同システムにはある程度の質量があり、満たすべき一定の条件が存在します。同システムをモデル化する際には、バネによって吊り下げられたシンプルな固まりとして扱うのが一般的です。
そのバネには、システムが最も自由に振動する共振周波数が存在します。この共振周波数は、自由空間におけるスピーカの共振周波数FSとして知られています。この周波数において、ボイス・コイルは最大のピークtoピーク振幅と速度で振動します。そのため、磁界の中におけるコイルの動きによって生成される逆起電力も最大になります。その結果、スピーカの実効電気インピーダンスはFSにおいて最大になります。この最大値はZMAXとして知られています。では、共振周波数よりも少し低い周波数においてはどのようなことが起こるでしょうか。その場合、周波数がFSに近づくにつれてインピーダンスが急激に増加すると共に、誘導性の性質を示します。共振周波数において、インピーダンスは純粋な抵抗成分になります。共振周波数を超えるとインピーダンスは低下し、容量性の性質を示します。ある周波数でインピーダンスは最小値であるZMINに達します。そして、ある程度の周波数範囲にわたり、ほぼ抵抗性の振る舞い(完全にではありません)を示します。このZMINの値を基にして、スピーカの公称インピーダンスZNOMが定められます。
共振周波数とZMAX、ZMINの値を把握するのは重要なことです。それらの情報は、マルチドライバのスピーカ用のクロスオーバー・フィルタ回路や、スピーカを取り付けるエンクロージャ(筐体)を設計する際に必要になるからです。
ラウドスピーカのインピーダンスのモデル
ここで図1をご覧ください。これは、ラウドスピーカの簡単な電気的なモデルです。これにより、本稿で実施する測定の内容が理解しやすくなるはずです。
図1の回路では、インダクタL、抵抗R、コンデンサCを組み合わせて損失の大きい並列共振回路を構成しています。また、それと直列に、DC抵抗RDCを配置しています。この回路は、対象周波数範囲におけるスピーカの動的インピーダンスをモデル化したものです。以下、この回路について詳しく説明します。
- RDCはラウドスピーカの DC 抵抗です。DC 抵抗計では、この抵抗の値が測定されます。多くの場合、スピーカやサブウーファのデータシートでは、この DC 抵抗のことを DCR と呼んでいます。通常、この DC 抵抗の測定値はドライバの公称インピーダンス ZNOMの値よりも小さくなります。そのため、ラウドスピーカの設計に不慣れな人は、ドライバ・アンプが過負荷の状態になるのではないかという懸念を持つかもしれません。ただ、周波数が高くなるにつれスピーカのインダクタンスL が大きくなるので、ドライバ・アンプから見て DC 抵抗が負荷になることはほぼありません。
- 図中の L はボイス・コイルのインダクタンスです。通常は mH単位で表されます。一般的に、ボイス・コイルのインダクタンスは 1000Hz で測定されます。周波数が 0Hz よりも高くなると、インピーダンスの値は RDCの値よりも大きくなります。これは、ボイス・コイルがインダクタのように振る舞うからです。このように、ラウドスピーカ全体のインピーダンスは一定にはなりません。そのため、入力周波数に応じて変化する動的プロファイルを取得する必要があります(これについては、後ほど実習で確認します)。ラウドスピーカのインピーダンスは、共振周波数 FSにおいて最大値である ZMAXに達します。
- ラウドスピーカの共振周波数は FSで表されます。そして、ラウドスピーカのインピーダンスは FSで最大値に達します。共振周波数は、ラウドスピーカの可動部品の合計質量とスピーカのサスペンションが運動する際の力が平衡になる点で現れます。共振周波数の情報は、エンクロージャにリンギングが生じるのを防ぐ上で重要な意味を持ちます。一般に、可動部品の質量とスピーカのサスペンションの剛性は、共振周波数に影響を与える主要な要素です。ベント(通気口)を備えるエンクロージャ(バスレフ型)の場合、それら 2 つが調和して動作するよう FSに応じて調整が行われます。一般に、FSが低いスピーカの方が、FSが高いスピーカよりも低い周波数における再生性能に優れています。
- 図中の R は、ドライバのサスペンションの損失の原因になる機械的な抵抗を表しています。
準備するもの
- アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000」
- ソルダーレス・ブレッドボード
- 抵抗:100kΩ(またはそれに近い値のもの。1 個)
- ラウドスピーカ:1 個。共振周波数が比較的低いもの。コーン径が 4 インチ(約 10cm)以上のものが望ましい。
RMS電圧の測定
まずは、ラウドスピーカのRMS電圧から測定してみましょう。
ハードウェアの設定
ここでは、図2のような測定環境を構築します。必要な回路をソルダーレス・ブレッドボード上に実装してください(図3)。ラウドスピーカは、エンクロージャに収容してもしなくても構いません。
手順
ソフトウェア・パッケージ「Scopy」を使用して、任意波形ジェネレータ(AWG)を起動します。ピークtoピークの振幅が8V、周波数が100Hzの正弦波が生成されるように設定してください。
電圧計機能を起動し、両方のチャンネルをAC(20Hz~800Hz)に設定します。電圧計ツールを使用して、スピーカのRMS電圧(チャンネル1のRMS電圧)を、スピーカを流れるRMS電流(チャンネル2のRMS電流)で割ります。それにより、その周波数におけるスピーカのインピーダンスZの値を求めることができます。なお、RMS電流の値は、チャンネル2のRMS電圧の値を抵抗R1の値(100Ω)で割ることによって計算できます。次に、AWGの設定を変更し、異なる周波数の信号を生成して同様の作業を行います。スピーカの電圧とZの計算値がどのように変化するか確認してみてください。
![図4. ラウドスピーカのRMS電圧](/jp/_/media/images/analog-dialogue/en/studentzone/3-2023/488306-fig-04.jpg?la=en&rev=c31157843d0c4cd3b8c361f4d412d3da)
次に、周波数を横軸としてZの計算値のプロットを取得しましょう。AWGのステップ・サイズを100Hzに設定し、各周波数に対応するZの値を計算します。スピーカのインピーダンスは基本的に小さく、線形領域ではDC抵抗とほぼ等しい値になります。しかし、共振周波数FSではそれよりもかなり大きな値に変化します。なお、使用するスピーカに応じてグラフの形状は異なる可能性があります。
周波数応答
続いて、ラウドスピーカの周波数応答を取得してみましょう。
ハードウェアの設定
周波数応答のプロットを取得するために、ブレッドボード上の実装を図5に示したように変更してください。
手順
ネットワーク・アナライザ・ツールを使用して、対数掃引を実行します。スタート周波数を100Hz、ストップ周波数を1kHzに設定してください。位相は-30°~30°、振幅は0dB~10dBに設定します。
![図6. ラウドスピーカの周波数応答](/jp/_/media/images/analog-dialogue/en/studentzone/3-2023/488306-fig-06.jpg?la=en&rev=ded8ad97327d44b3b93e508dbfd2d614)
問題
1. ラウドスピーカのインピーダンスのモデルは、どのような要素によって構成されているでしょうか?
2. 図6に示したラウドスピーカの周波数応答から、FSとBWの値を求めてください。
答えはStudentZoneで確認できます。