ADALM2000による実習:電圧リファレンス

今回は、以下に示す電圧リファレンスやレギュレータの回路を構成し、その動作を確認します。

  • 電圧リファレンス
  • 改良型の電圧リファレンス
  • シャント・レギュレータ

電圧リファレンス

最初に取り上げるのは、電圧リファレンスです。

目的

前回までに、ゼロゲイン・アンプや定電流源、PNPトランジスタと負帰還を利用したカレント・ミラーについて検討してきました。今回はこれらを組み合わせることにより、広範な入力電圧に対して一定の(レギュレータされた、安定化された)出力電圧を生成する回路を構成します。このような回路を電圧リファレンスと呼びます。

準備するもの

  • アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000
  • ソルダーレス・ブレッドボード
  • 抵抗:2.2kΩ またはそれに近い値のもの(1 個)
  • 抵抗:100kΩ(1 個)
  • 小信号 NPN トランジスタ:「2N3904」または「SSM2212」(2 個)
  • 小信号 PNP トランジスタ:「2N3906」または「SSM2220」(2 個)

説明

図1に示したのが、本稿で取り上げる電圧リファレンスの回路です。任意波形ジェネレータ(AWG)の出力(W1)は、PNPトランジスタQ3と同Q4のエミッタを駆動します。Q3、Q4のベースをQ3のコレクタに接続することで、カレント・ミラーを構成しています。Q4のコレクタは抵抗R1に接続しています。トランジスタQ1、抵抗R1、同R2で構成した回路は、「ADALM2000による実習:バイポーラ・トランジスタで構成したゼロゲイン・アンプ」(2020年11月のStudentZone)で紹介しました。トランジスタQ2のVBEは、常にQ1のVBEより小さくなります。そこで、Q1とQ2については、手持ちのデバイスの中から(コレクタ電流が等しい場合に)Q2のVBEがQ1のVBEより小さくなるものを選択するとよいでしょう。Q2のベースは、Q1のコレクタのゼロゲイン出力に接続されています。また、Q2のコレクタは、カレント・ミラーの入力側(Q3のベースとコレクタ)に接続されています。オシロスコープのシングルエンド入力チャンネル2(2+)は、Q4のコレクタから出力される電圧を測定するために使用します。

図1. 電圧リファレンス
図1. 電圧リファレンス

ハードウェアの設定

AWG1は、ピークtoピークの振幅が4V、オフセットが2V、周波数が1kHzの三角波を生成するように設定します。オシロスコープの入力(2+)を使用し、Q4のコレクタから出力されるレギュレートされた電圧を測定します。なお、オシロスコープの負入力(1-、2-)はグラウンドに接続してください。

図2.図1の回路を実装したブレッドボード
図2.図1の回路を実装したブレッドボード

手順

オシロスコープは、測定した2つの信号の数周期分を取り込めるように設定します。また、オシロスコープによる波形の表示には、ソフトウェア・パッケージ「Scopy」を使用します。ここでは、XY機能を忘れずにオンにしてください。それにより、入力電圧と出力電圧(Q4のコレクタ出力)の関係をプロットしてみましょう(図3)。入力電圧がどのくらいの値になると、出力電圧は変化しなくなる(レギュレートされる)でしょうか。その電圧をドロップアウト電圧と呼びます。入力電圧がドロップアウト電圧より高い場合、入力電圧の変化に対して、出力電圧はどのくらい変化するでしょうか。入力電圧の変動量に対する出力電圧の変動量の比率をライン・レギュレーションと呼びます。追加の実験として、出力ノードとグラウンドの間に可変抵抗を接続してみてください。そして、入力電圧を固定し(電源Vpに接続するとよいでしょう)、抵抗値の設定を変化させながら出力電圧を随時測定していきます。その上で、各抵抗値に対応する電流値を算出してください。出力電圧は、出力電流に対してどのように変動するでしょうか。この変動比率は負荷レギュレーションと呼ばれます。

図3. 入出力電圧のXYプロット
図3. 入出力電圧のXYプロット

改良型の電圧リファレンス

続いて、図1の回路を改良した電圧リファレンスを取り上げます。

目的

図1の電圧リファレンス回路は1つの問題を抱えています。この回路では、Q2によって供給される帰還電流がQ3とQ4によってミラーリングされます。その帰還電流によって、負荷に供給できる電流量が制限されてしまうのです。電圧リファレンスとしては、広範な入力電圧だけでなく、広範な負荷電流に対しても一定の出力電圧を供給できるものが望まれます。図4に示したのが、この問題の解決を図った電圧リファレンス回路です。この回路では、出力段のエミッタ・フォロワを利用して電流を供給します。

準備するもの

  • 抵抗:2.2kΩ(1 個)
  • 抵抗:100kΩ(1 個)
  • 可変抵抗(ポテンショメータ):10kΩ(1 個)
  • 抵抗:4.7kΩ(1 個。回路に求められる動作を実現できるのであれば、近い値のものでも可)
  • 小信号 NPN トランジスタ(計:4 個):2N3904(2 個)、2 個入り SSM2212 デュアル・トランジスタ(1 個)

説明

図1の回路と同様に、図4の回路ではQ1、R1、R2を使ってゼロゲイン・アンプを構成しています。また、Q2と可変抵抗R3は定電流源として機能します。Q1、Q2としては、マッチングの取れたNPNトランジスタ・ペアであるSSM2212を使用するとよいでしょう。エミッタ接地回路として機能するQ3と、そのコレクタに接続された負荷(抵抗)R4はゲインを与えます。エミッタ・フォロワとして構成したQ4は、出力ノードを駆動すると共に負帰還ループを閉じる役割を果たします。

図4. 改良型の電圧リファレンス
図4. 改良型の電圧リファレンス

ハードウェアの設定

AWG1は、ピークtoピークの振幅が4V、オフセットが2V、周波数が1kHzの三角波を生成するように設定します。オシロスコープのチャンネル2(2+)を使用し、Q4のエミッタに現れるレギュレートされた出力電圧を測定します。

図5. 図4の回路を実装したブレッドボード
図5. 図4の回路を実装したブレッドボード

手順

図4の回路について、ドロップアウト電圧、ライン・レギュレーション、負荷レギュレーションの測定を繰り返し実施してください。得られた測定結果は、図1の電圧リファレンスの測定結果と比べてどのような点が異なりますか。

図6. 入出力電圧のXYプロット。図4の回路の測定結果です。
図6. 入出力電圧のXYプロット。図4の回路の測定結果です。

シャント・レギュレータ

最後に取り上げるのは、シャント・レギュレータです。

目的

図7の回路では、ゼロゲイン・アンプ(Q1、R2)、定電流源(Q2、R3)、負帰還を利用するエミッタ接地回路(Q3)を組み合わせています。このように構成することで、広範な入力電流に対して一定の出力電圧を生成する2端子回路を実現できます。

準備するもの

  • ジャンパ線
  • 抵抗:2.2kΩ またはそれに近い値のもの(1 個)
  • 抵抗:100kΩ(1 個)
  • 抵抗:1kΩまたはそれに近い値のもの(1個)
  • 可変抵抗(ポテンショメータ):10kΩ(1 個)
  • 小信号 NPN トランジスタ(計:3 個):2N3904(1 個)、2 個入り SSM2212 デュアル・トランジスタ(1 個)

説明

図7の回路において、AWG1の出力(W1)はR4の一端を駆動します。Q1、R1、R2で構成した回路は「ADALM2000による実習:バイポーラ・トランジスタで構成したゼロゲイン・アンプ」(2020年11月のStudentZone)で紹介しました。Q2、R3で構成した回路は「ADALM2000による実習:定電流源」(2021年1月のStudentZone)で紹介したものです。Q1、Q2としては、マッチングの取れたNPNトランジスタ・ペアであるSSM2212を使用するとよいでしょう。Q3のエミッタはグラウンドに、ベースはQ2のコレクタに接続しています。Q3のコレクタには、R1、R3、R4、オシロスコープの入力(2+)が接続されています。

図7. シャント・レギュレータ
図7. シャント・レギュレータ

ハードウェアの設定

AWG1は、ピークtoピークの振幅が4V、オフセットが2V、周波数が1kHzの三角波を生成するように設定します。オシロスコープの入力(2+)を使用して、Q3のコレクタに現れるレギュレートされた出力電圧を測定します。

図8. 図7の回路を実装したブレッドボード
図8. 図7の回路を実装したブレッドボード

手順

図9に示したのは、取得した波形の例です。可変抵抗R3をうまく調整すれば、レギュレートされた出力電圧を観測できるはずです。

図9. 入出力電圧のXYプロット。図7の回路の測定結果です。
図9. 入出力電圧のXYプロット。図7の回路の測定結果です。 
図10. 入力電流と出力電圧のプロットの例
図10. 入力電流と出力電圧のプロットの例

問題:

シャント・レギュレータから、グラウンドに接続された負荷に対して電圧を供給しているとします。レギュレートされた出力電圧に影響を与える要因としては、どのようなものが考えられますか。

答えはStudentZoneで確認できます。

著者

Doug Mercer

Doug Mercer

Doug Mercerは、1977年にレンセラー工科大学で電気電子工学の学士号を取得しました。同年にアナログ・デバイセズに入社して以来、直接または間接的に30種以上のデータ・コンバータ製品の開発に携わりました。また、13件の特許を保有しています。1995年にはアナログ・デバイセズのフェローに任命されました。2009年にフルタイム勤務からは退きましたが、名誉フェローとして仕事を続けており、Active Learning Programにもかかわっています。2016年に、レンセラー工科大学 電気/コンピュータ/システム・エンジニアリング学部のEngineer in Residenceに指名されました。

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclausは、アナログ・デバイセズのシニア・ソフトウェア・エンジニアです。Linuxやno-OSドライバを対象とした組み込みソフトウェアを担当。それ以外に、アナログ・デバイセズのアカデミック・プログラムやQAオートメーション、プロセス・マネージメントにも携わっています。2017年2月から、ルーマニアのクルジュナポカで勤務。クルジュナポカ技術大学で電子工学と通信工学の学士号、バベシュボヨイ大学でソフトウェア・エンジニアリングの修士号を取得しています。