目的
今回の実習では、電圧/電流/抵抗と電荷の間にはどのような関係があるのかを実験によって確認します。それに向けて、まずはオームの法則について説明します。その上で、電気について理解するために同法則を利用する方法を紹介します。更に、同法則に関連する概念を実証するための簡単な実験を行うことにします。
電気の基本
電気や電気工学についてこれから学習する場合、まずは電圧、電流、抵抗の間の基本的な関係について理解するとよいでしょう。配線を流れるエネルギーや作業台に置かれた電池の電圧は、何らかの装置を使用しない限り肉眼で確認することはできません。空に光る稲妻であれば目にすることができます。ただ、閃光が生じるのは、雲から地面に向かって通過するエネルギーにより空気が加熱されるからです。稲妻に伴って交換されるエネルギーの量を目視できているわけではありません。各種の電気エネルギーを検出するためには、マルチメータ、オシロスコープ、スペクトラム・アナライザといった計測器を使用する必要があります。それらを利用すれば、システム内の電気信号の状態を可視化できます。今回の実習は、電気に関する基礎知識として電圧、電流、抵抗について、またこれら3つの依存関係について学ぶことを目的とします。
電荷
電気の根底にあるのは、電子の動き(流れ)です。電球、ファン、ラジオ、携帯電話などは、いずれも電子の動きを利用してそれぞれの機能を実現しています。
電子、より具体的には電子が生成する電荷に基づくと、以下に示す3つの基本的な概念が成り立ちます。
- 電圧:空間内の2点の間における電荷の差(電子が多いか、少ないか)
- 電流:2点の間で、通常は何らかの物質を通って流れる時間当たりの電荷(電子)の量
- 抵抗:電荷の流れ(電流)を妨げようとする物質の性質。抵抗が非常に小さい物質は導体と呼ばれる。逆に抵抗が非常に大きい物質は絶縁体と呼ばれる。
電気/電子回路は一種の閉ループとして構成されます。通常、電荷は、その中のある場所から別の場所へと移動することになります。回路では、その構成要素である部品によってそれらの電荷を制御します。その結果、何らかの処理を実現するために電荷を利用できるようになります。
Georg Ohm氏は、1789年生まれのドイツ(バイエルン)の科学者です。同氏は電気について研究し、オームの法則を発見しました。この法則は、電流と電圧によって定義される抵抗の単位について説明することから始まります。
電圧
電圧は、回路上の2点間に存在する位置エネルギーの大きさとして定義されます。電圧が生じている場合、一方の点には他方の点よりも多くの電荷(電子)が存在していることになります。それら2点間の電荷の差が電圧です。その単位としてはVが使用されます。厳密に言えば、電圧は上記のとおり2点間の位置エネルギーの差に相当します。1Cの電荷が移動する場合、1Jのエネルギーが伝達されることになります。
電圧、電流、抵抗といった電気に関連する要素について説明する際には、貯水タンクの例えがよく用いられます。電荷は水、電圧は水圧、電流は水流に例えられます。つまり、以下のような関係があります。
[水] = [電荷]
[水圧] = [電圧]
[水流] = [電流]
地面から見て、ある高さに貯水タンクが設置されていたとします。そのタンクの底にはホースがつながれているとしましょう。そのホースの先端の水圧が電圧です。そしてタンクの中に溜められた水は電荷に相当します。タンク内の水量が多いほど、多くの電荷が溜められていることになります。その場合、ホースの先端で測定される水圧は高くなります。
この貯水タンクを、電池に置き換えるとどうなるでしょうか。電池には所定の量のエネルギーを蓄えられます。それらのエネルギーは放出することが可能です。タンクからある程度の量の水を排出すると、ホースの先端に生じる水圧は低下します。これは、電圧が低下した状態を表していると言えます。つまり、電池が消耗するに連れて懐中電灯の光が弱くなっていくのと同じことです。また、その際にはホースを流れる水の量も減少します。つまり、水圧が低下することに伴って、流れる水の量が少なくなります。電流もこれと同様に振る舞います。
電流
ホースを介してタンクから排出される水の流れは、電流に似ています。水圧が高いほど水流は多くなり、水圧が低いほど水流は少なくなります。一定の時間内にホースを流れる水の量は、何らかの手段によって測定することが可能です。それと同様に、一定の時間内に回路を流れる電荷の量(電流)も測定することができます。測定の対象になる電流の単位はAです。1秒間に6.241×1018個の電子(1Cの電荷)が回路内のある点を通過した場合、その点には1Aの電流が流れたことになります。
ここで、2つの貯水タンクについて考えます。両者のサイズは同じで、入っている水の量も同じです。但し、一方のタンクには他方よりも細い(直径が小さい)ホースがつながれているとします。ホースから水が流れていない状態でホースの先端の水圧を測定すると、どちらのタンクの値も同じになります。なぜなら、下向きに押す水の量が同じであるからです。しかし、水が流れ始めたら状況が変化します。すなわち、ホースが細い方のタンクから流れる水の量は、ホースが太いタンクから流れる水の量よりも少なくなります。
電気に置き換えて考えると、細いホースを流れる電流の方が太いホースを流れる電流よりも少ないということになります。両方のホースの水流を同じにするには、ホースが細いタンクの水(電荷)の量を増やして、水圧を上げなければなりません。そうすれば、細いホースの先端の水圧(電圧)が高まり、タンクからより多くの水が排出されるようになります。つまり、電圧を高めれば電流の量が増加するということです。
上述したことから、ホースの径は考慮しなければならないもう1つの要素であることがわかります。ここまでの例えで言えば、ホースの径によって水(電荷)の流れを妨げる力が決まるということです。つまり、前掲の関係には、以下のようにもう1つの要素を加える必要があります。
[水] = [電荷]
[水圧] = [電圧]
[水流] = [電流]
[ホースの径] = [抵抗」
抵抗
ここでもう一度、2つの貯水タンクの例について考えてみましょう。一方のタンクには径の小さいホース、もう一方には径の大きいホースが接続されています。
水圧が同じである場合、細いホースに太いホースと同量の水を流すことはできません。太いホースと水圧が同じであっても、細いホースには水の流れを妨げる力が働くからです。この力に相当するのが抵抗です。
電気に置き換えて考えると、2つのタンクは、電圧が同じで抵抗が異なる2つの回路に相当します。そして、抵抗が大きい回路ほど電荷が流れにくくなります。つまり、抵抗が大きい回路ほど電流が少なくなるということです。
Ohm氏が発見した法則の話に戻りましょう。同氏は、1Ωという抵抗の単位を定義しました。ある導体の2点間に1Vの電圧を印加すると1Aの電流(1秒当たり6.241×1018個の電子)が流れるとします。その導体の2点間における抵抗の値が1Ωです。
オームの法則
Ohm氏は、電圧、電流、抵抗の関係を表す以下の式を定義しました。
ここで、各変数の意味は以下のとおりです。
V:電圧(単位はV)
I:電流(単位はA)
R:抵抗(単位はΩ)
これがオームの法則です。例えば、電圧が1V、電流が1A、抵抗が1Ωの回路には、オームの法則に基づく以下の関係があります。
水の例えに話を戻しましょう。ここでは、上記の関係が、太いホースが接続されたタンクの例に相当すると仮定します。ホースの先端の水圧は1V、水流を妨げるホースの径は1Ωです。この場合、オームの法則から水流(電流)の値は1Aになります。
次に、径の細いホースが接続されたタンクについて考えます。ホースが細い場合、水流を妨げる力が大きくなります。その力(抵抗)の大きさは、上の例の2倍に当たる2Ωだと仮定しましょう。タンク内の水量(水圧)は先ほどと同じなので、電圧も先ほどと同じ値になります。オームの法則を使用すると、径の細いホースが接続されたタンクについては以下の式が成り立つはずです。
抵抗の値はホースの径が太い場合よりも大きく、電圧は同じ値です。上の式から、電流の値はいくつになるでしょうか。その答えは0.5Aです(以下参照)。
予想どおり、抵抗が大きくなれば電流は減少するという結果になりました。オームの法則を使用する場合、2つの要素の値がわかれば、残る1つの値を求めることができます。
現実の回路による実証
今回の実習では、LEDを点灯させる回路を例にとりオームの法則について確認してみます。ここで、LEDはやや繊細なデバイスであることに注意する必要があります。具体的には、LEDに流れる電流を所定の値までに制限しなければなりません。許容可能な最大値を超える電流を流すと、LEDが焼損してしまうおそれがあります。LED製品のデータシートを見ると、必ず定格電流の値が記載されています。これが、そのLEDを破損させることなく流すことのできる電流の最大値です。
以下の実習では、アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000」を活用します。例えば、回路の電圧源としては、同モジュールが備える5Vの電源を使用するといった具合です。
準備するもの
- ADALM2000
- ソルダーレス・ブレッドボード
- ジャンパ線キット
- LED:1個。2本のリード線のうち長い方がアノード(正極)で、短い方がカソード(負極)です。
- 抵抗:1個
まず、実習を開始するに当たって留意していただきたいことをまとめておきます。LEDは、非オーミックなデバイスとして知られています。LEDにも抵抗成分は存在しますが、それはオームの法則における抵抗とは性質が異なります。つまり、V = IRというシンプルな線形の性質を示すわけではありません。また、LEDはダイオードの一種です。どのような種類のダイオードでも、電流を流すとその内部で電圧降下が生じます。以下の実習では、LEDに過剰な電流が流れないよう保護するために抵抗を使用します。LEDの非線形な電流特性(抵抗値)は基本的に無視し、オームの法則だけを使用して抵抗値を選択します。それにより、LEDを流れる電流を20mA未満に抑えて安全性を確保します。
それでは実習の解説に戻りましょう。まず、ADALM2000から5Vが出力されるように電源(V+)の設定を行います。この実習では、LED(赤色)として定格電流が20mA(0.020A)の製品を使用することにします。安全性を確保するためには、定格電流ではなく推奨される電流でLEDを駆動しなければなりません。LEDのデータシートによると、推奨される駆動電流の値は18mA(0.018A)でした。まずは、LEDを電池に直接接続しただけの状態を想定してみます。その場合にオームの法則を適用すると、どのようになるでしょうか。以下、オームの法則の式を再掲します。
ここで、左辺がIになるように変形します(以下参照)。
先述したとおり、LEDの抵抗は無視します。また配線を使用しているものの、その抵抗成分も存在しないと仮定します。つまり、抵抗の総計値が0Ωだとすると、以下のように値を代入することになります。
この式のとおりにゼロで除算すると、電流の値は無限大になってしまいます。実際の回路では電流値が無限大になることはありません。そうではなく、ADALM2000の5Vの電源によって供給可能な電流の最大値になります。そのような多くの電流をLEDに流すわけにはいきません。そこで、電流値を制限するための抵抗(電流制限抵抗)を追加します。
つまり、図1のような回路を構成します。
オームの法則を使用して、最適な量の電流を供給するための電流制限抵抗の値を求めます。以下、オームの法則の式を再掲します。
左辺がRになるように変形すると、以下のようになります。
ここで、Vに5V、Iに0.018A(18mA)を代入します(以下参照)。
上の式を計算すると、抵抗の値は以下のように求まります。
つまり、LEDに推奨される値の電流(定格電流未満の値)が流れるようにするためには、R1の値を約277Ωに設定すればよいということです。
ただ、277Ωというのは市販されている抵抗製品の一般的な値ではありません。そこで、アナログ・パーツ・キット「ADALP2000」に含まれる抵抗の中から、277Ωよりも値が大きく、なるべく近い値のものを探します。そうすると、前掲の図1に示したとおり、470Ωの抵抗(カラー・コードは黄、紫、茶)を選択することになります。
図1の回路をブレッドボード上に実装してください(図2)。選択した470Ωという抵抗値は、LEDに流れる電流を最大定格の値未満に抑えるのに十分な大きさです。また、LEDを程よく点灯させるために十分な値でもあります。5Vの電源電圧を印加してもLEDが点灯しない場合には、LEDの2本の端子(正極と負極)が正しく接続されているかどうかを確認してください。
LEDと電流制限抵抗を組み合わせた回路は、電子回路の典型的な例です。通常、この回路に流れる電流の量を調整するためにはオームの法則を使用することになります。
電流制限抵抗の配置場所は、LEDの前か後か?
少しだけ難易度の高い問題について考えてみましょう。電流制限抵抗は、LEDの前(正極側)と後(負極側)のうちどちらに配置すればよいのでしょうか(図3)。
実は、図3に示した2つの回路はどちらも同じように機能します。つまり、電流制限抵抗をLEDのどちら側に挿入しても回路の機能に変化はありません。実際にブレッドボード上で抵抗とLEDの配置を入れ替えてみてください。どちらの場合も、LEDは同じ明るさで点灯するはずです。しかし、電子工学を初めて学ぶ多くの人にとって、この事実を理解するのは容易ではないようです。そこで、再度、水に例えて考えてみることにしましょう。
ここではループ状(途切れのない輪の形状)の送水管を例にとります。その送水管には、絶えず水を循環させるためのポンプが設置されていると仮定しましょう。そして配管のどこかにバルブが設置されているとします。そのバルブを完全に閉じると、一部の区間ではなく、配管全体の水の流れが止まります。次に、バルブを少し開いたとします。そうすると、水の流れが少し制限された状態になります。バルブがループのどの位置に配置されているのかにかかわらず、それを少し開いた状態では配管全体の水の流れが遅くなります。バルブを配置した位置に依存して、水が逆流したりすることはありません。そのとき、ポンプの吐き出し側からバルブまでの区間の水圧は上昇し、バルブからポンプの吸い込み側までの区間の水圧は低下しています。このポンプは電圧を上昇させる電圧源に相当し、バルブは電圧を低下させる抵抗に相当します。
上記の説明ではループ状の送水管を例にとりましたが、ここで例にとっている回路で電流制限抵抗を配置できる場所は2ヵ所だけです。電流制限抵抗をLEDの前後どちらに配置しても、回路は適切に機能します。
より科学的な分析を行いたい場合には、キルヒホッフの電圧則(KVL:Kirchhoff's Voltage Law)を使用します。この法則は、電気回路内の閉ループを一周する電圧の変化の総和はゼロになるというものです。この法則を適用すれば、電流制限抵抗をLEDのどちら側に配置しても同じ効果が得られることがわかります。KVLの詳細を学びたい方は、アナログ・デバイセズの学習コース「Electronics I」をご覧ください。
実際の電圧と電流を測定する
ADALM2000は、電圧計として使用できる2つの入力チャンネルを備えています。それらを図4のように接続すると、回路の実際の電圧を測定できます。ここでは、チャンネル1(+1と-1)は、5Vの電源電圧を測定するように接続しています。そして、チャンネル2(+2と-2)はダイオードの正極の電圧を測定できるように接続します。
図4の回路をブレッドボード上に実装してください(図5)。
続いて、ソフトウェア・ツール「Scopy」の電圧計機能を起動しましょう。すると、ユーザ・インタフェースの画面が表示されるはずです。
その画面において、緑色の「Run」ボタンをクリックすると、電圧の測定結果が表示されます(図6)。チャンネル1の電圧は、5Vの電源(V+)の実際の値を表します。一方、チャンネル2の電圧は、LED両端の実際の値に相当します。この例では、赤色LEDの両端の電圧は1.84Vになっています。図4を見れば、チャンネル1の電圧とチャンネル2の電圧の差が抵抗の両端の電圧になることがわかります。この例の場合、両チャンネルの電圧の差は3.12Vです。
オームの法則を使用すれば、抵抗に流れる電流の値を計算できます(以下参照)。
この式に各値を代入すると以下のようになります。
つまり、mA単位で表せば、以下の値の電流が流れるということです。
6.6 mA
問題1
電流制限抵抗は、どのような形でLEDを保護するのでしょう。また、オームの法則によって同抵抗の適切な値を計算するにはどのようにすればよいのでしょうか。
問題2
電流制限抵抗をLEDのどちら側に配置しても同じ効果が得られるのはなぜですか。
答えは StudentZoneで確認できます。

