ADALM2000による実習:コルピッツ発振器

目的

発振器の機能は、様々な回路構成によって実現できます。その中から、今回はコルピッツ発振器を取り上げることにします。コルピッツ発振器では、2個のコンデンサを直列に接続した分圧器を利用してフィードバック・パスを実現します。

背景

コルピッツ発振器は、歪みの小さい30kHz~30MHzの正弦波信号を生成したい場合に特に適しています。図1に示したように、その回路は2個のコンデンサ(図中のC1、C2)を直列に接続した分圧器を使用していることを特徴とします。発振周波数は、他の並列共振回路と同様に、以下の式によって決まります。

図1. 基本的なコルピッツ発振器
図1. 基本的なコルピッツ発振器
数式 1.

直列に接続する2つのコンデンサの合成容量CTOTは以下の式で求められます。

数式 2.

図1の回路は、コルピッツ発振器の基本的な構成例だと言えます。周波数を決定する並列共振同調回路は、C1、C2とインダクタL1から成ります。この同調回路は、ベース接地アンプ(ベース共通アンプ)として機能するNPNトランジスタQ1のコレクタの負荷インピーダンスになります。それにより、同アンプは共振周波数においてのみゲインが高くなります。Q1のベースは、抵抗R1とR2から成る分圧器によって適切なDCレベルにバイアスされます。また、ACグラウンドとの間にはベースのデカップリング・コンデンサC3が配置されています。ベース接地アンプでは、コレクタの出力信号(電圧波形)とエミッタの入力信号は同位相になります。そして、C1とC2の接続部の信号成分がコレクタの同調負荷からエミッタにフィードバックされます。それにより、必要な正帰還が確実に実現されます。なお、コレクタからエミッタへのDCパスは存在せず、フィードバックされるのはAC成分のみです。

C1とC2の合成容量とQ1のエミッタに接続された抵抗R3によって、低い周波数の時定数が決まります。Q1のエミッタには、フィードバックされた信号の振幅に比例する平均DC電圧レベルが供給されます。それにより、ベース接地アンプのゲインが自動的に制御され、発振器のクローズド・ループ・ゲインが調整されます。すべての発振器と同様に、コルピッツ発振器もバルクハウゼンの発振条件を満たす必要があります。つまり、入力から出力までのトータルのゲインが1で、位相シフトが0°でなければなりません。この回路では、エミッタのノードをベース接地アンプの入力として使用するので、R3はデカップリングしていません。ベースはC3を介してACグラウンドに接続されているため、発振周波数におけるリアクタンスは非常に小さくなります。

事前のシミュレーション

実際に回路を構築する前に、シミュレーションによって回路の動作を確認しておくとよいでしょう。そのためには、図1に示したとおりの構成でシミュレーション用の回路図を作成します。R3の値を1kΩに設定し、Q1のコレクタ電流が約1mAになるようR1とR2の値を調整します。ここでは、回路の電源電圧は10Vに設定することにしましょう。抵抗分圧器に流れる定常的な電流をできるだけ少なく抑えるために、R1とR2の値の和ができるだけ大きくなるようにします(トータルで10kΩ以上)。C3と出力のACカップリング・コンデンサC4の値は0.1μFに設定してください。C1とC2の値については、L1を100μHに設定した場合に、共振周波数が500kHz近くの値になるように計算します。以上のようにして、シミュレーション用の回路図を作成したら、トランジェント解析を実行してください。得られた結果は実験レポートで使用できるよう保存しておきましょう。シミュレーション結果と実際の回路で取得した結果を比較できるようにするということです.

準備するもの

  • アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000
  • ソルダーレス・ブレッドボード
  • ジャンパ線キット
  • NPNトランジスタ:「2N3904」(1個)
  • インダクタ:10μH(2個)、100μH(2個)
  • コンデンサ:1nF(1個。「102」とマーキングされているもの)、4.7nF(1個。「472」とマーキングされているもの)、0.1μF(2個。「104」とマーキングされているもの)
  • 抵抗:1kΩ(1個)
  • その他の抵抗、コンデンサ、インダクタ(必要に応じて用意)

説明

図2に示すコルピッツ発振器の回路を、ソルダーレス・ブレッドボード上に実装します。バイアス抵抗R1とR2の値については、エミッタ抵抗R3を1kΩに設定した場合にNPNトランジスタQ1のコレクタ電流が約1mAになるように設定します。アナログ・パーツ・キット「ADALP2000」に含まれる標準的な値のものを使用できるようにしてください。発振器の周波数は、コンデンサC1、同C2、インダクタL1の値に応じて約500kHzから2MHzになります。ここでは、L1を100μH、C1を4.7nF、C2を1nFとします。それによって周波数が決まり、10Vp-pを超える正弦波が出力されるはずです。

図2. 実習に使用するコルピッツ発振器の回路
図2. 実習に使用するコルピッツ発振器の回路

ハードウェアの設定

図2の回路を実装したブレッドボードを図3に示します。

図3. 図2の回路を実装したブレッドボード
図3. 図2の回路を実装したブレッドボード

図2の青色のボックスは、ADALM2000のオシロスコープのチャンネルと電源を接続する個所を表しています。電源を投入する前に、必ず配線の再確認を行ってください。

手順

実装した回路に、5Vと-5Vの電源電圧を印加します。その状態でオシロスコープのチャンネル1(1+)を出力端子に接続し、回路が適切に発振していることを確認してください。実は、R3の値の調整は容易ではありません。少しの差によって、かなり歪んだ大きな波形が生成されたり、小さな出力が断続的に生成されたり、出力が得られない状態になったりする可能性があります。R3の最適な値を見いだすためには、1kΩの抵抗を5kΩのポテンショメータで置き換えて実験を行うとよいでしょう。そうすれば、最もきれいな波形、信頼性の高い振幅が得られる値を探し出すことができます。なお、R3の最適な値は、共振周波数によって異なる可能性があります。

図4に、出力信号の波形の例を示しました。このプロットは、R1= 10kΩ、R2 = 1kΩ、C1 = 4.7nF、C2 = 1nFの条件で取得しました。

図4. 図2の回路の出力信号
図4. 図2の回路の出力信号

問題1

コルピッツ発振器の主機能について説明してください。

問題2

コルピッツ発振器の実用的なアプリケーションとしてはどのようなものがありますか。

答えはStudentZoneで確認できます。

著者

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclausは、アナログ・デバイセズのシニア・ソフトウェア・エンジニアです。Linuxやno-OSドライバを対象とした組み込みソフトウェアを担当。それ以外に、アナログ・デバイセズのアカデミック・プログラムやQAオートメーション、プロセス・マネージメントにも携わっています。2017年2月から、ルーマニアのクルジュナポカで勤務。クルジュナポカ技術大学で電子工学と通信工学の学士号、バベシュボヨイ大学でソフトウェア・エンジニアリングの修士号を取得しています。