目的
今回は、まず赤外線LEDとNPN型のフォトトランジスタを使用してフォトカプラを構成します。続いて、その基本的な動作を確認します。更に、IC化されたフォトカプラを使用したアナログ・アイソレーション・アンプの性能について検討します。
NPNトランジスタをベースとするフォトカプラ
まずは、赤外線LEDとNPNトランジスタを使用してフォトカプラを構成してみます。
背景
フォトカプラ(光アイソレータ)は、トランジスタに光を照射することにより、電気的な絶縁バリアを越えて信号を伝達することを可能にする電子回路です。その主な使用目的は、バリアの片側に存在する高い電圧や電圧スパイクによって、コンポーネントが損傷したり、バリアの逆側への信号の伝達が妨害されたりするのを防ぐことです。市販のフォトカプラ製品であれば、入出力間の3kV~10kVの電圧や、速度が最高10kV/µsの電圧トランジェントに耐えられます。フォトカプラの構成は、図1に示したようなものになります。ご覧のように、入力側には赤外線LEDが配置されており、逆側には光検出器が配置されています。それらの間には、電気的な絶縁バリアが存在します。光検出器としては、フォトダイオードやフォトトランジスタなどが使われます。LEDがオフのとき(発光していないとき)には、トランジスタのベースには光電流は流れずオフの状態に保たれます。LEDに電流が流れる(発光する)と、トランジスタのベースに十分な光電流が流れてターン・オンします。
フォトカプラの作製
今回は、最初のステップとして実際にフォトカプラを作製してみましょう。必要な部品である赤外線LEDとNPN型のフォトトランジスタとしては、アナログ・パーツ・キット「ADALP2000」で提供されているものを使用します。同パーツ・キットに含まれる製品を使用しない場合、類似のデバイスでも代用は可能です。但し、実験の結果は選択した製品によって多少異なる可能性があります。
まず、LEDとフォトトランジスタのリードを90°折り曲げます。それにより、ソルダーレス・ブレッドボードに差し込んだときに、同じ高さで互いに向かい合わせになるようにします。これらを一直線に保ちつつ、周辺光が入射しないようにするためには、図4のような構造を採用します。つまり、短いチューブか適当な長さに切った黒色の絶縁テープを使用して、LEDとフォトトランジスタを包み込むようにするということです。
準備するもの
説明
図5に示した回路をソルダーレス・ブレッドボードに実装します。NPN型のフォトトランジスタは、エミッタをグラウンドに接続した電流シンクとして構成しています。フォトトランジスタの2本のリードのうち、長い方がコレクタです。したがって、短い方をグラウンドに接続することになります。各コンポーネントのデータシートも再確認し、正しく接続を行いましょう。
ハードウェアの設定
任意波形ジェネレータ(AWG)は、ピークtoピークの振幅が3V、オフセットが2.5V、周波数が100Hzの三角波を生成するように設定します。オシロスコープの両方のチャンネルは1V/divに設定すればよいでしょう。なお、信号の表示にはソフトウェア・パッケージ「Scopy」を使用します。
手順
オシロスコープのチャンネル1は、抵抗R1の両端の電圧を測定するために使用します。その電圧によって、LEDの入力電流が得られます。一方、オシロスコープのチャンネル2では、抵抗R2の両端の電圧を測定します。その電圧により、NPNトランジスタの出力コレクタ電流が得られます。電流伝達率(CTR:Current Transfer Ratio)は、単にこれらの電流の比になります。CTRはデバイスのゲイン、効率、感度の基準になります。
説明
オシロスコープのチャンネル1については、1-に相当する入力をグラウンドに接続し直します。次に、オシロスコープのチャンネル2については、2+に相当する入力をフォトトランジスタのコレクタに接続し、2-はグラウンドに接続し直します。
続いて、AWGは、ピークtoピークの振幅が5V、オフセットが2.5V、周波数が5kHzの方形波を生成するように設定してください。オシロスコープの両方のチャンネルは1V/divに設定します。
手順
オシロスコープのチャンネル1では入力信号の測定を行い、同チャンネル2では出力信号の測定を行います。フォトカプラの速度を決める1つの要素は、入力波形と出力波形の間の遅延です。もう1つの基準として、出力波形の立上がり時間と立下がり時間も使用します。フォトカプラの周波数応答を確認するためには、Scopyのネットワーク・アナライザ機能を使用できます。同機能については、10Hz~100kHzで周波数が掃引されるように設定してください。また、AWGのピークtoピークの振幅を2Vに設定してください。オフセットは3Vに設定するか、またはDCオフセットが常にフォトカプラ回路の出力信号の中心になるように設定します。
電圧‐電流変換回路でLEDを駆動する
次に、電圧‐電流変換回路として構成したオペアンプ回路の帰還ループにLEDを配置します。このようにすれば、LEDの非直線性の影響を大幅に低減できます。
説明
ソルダーレス・ブレッドボード上の回路を図8に示すように変更します。NPN型のフォトトランジスタは、5Vの電源Vpにコレクタを接続して電流源として構成しています。このようにすることで、トランジスタの端子の電圧がどのように設定されても実際には問題は生じなくなります。
ハードウェアの設定
AWGは、ピークtoピークの振幅が3V、オフセットが2.5V、周波数が100Hzの三角波を生成するように設定してください。オシロスコープの両方のチャンネルは1V/divに設定します。
手順
まず、図5の回路で行ったのと同じ測定を実施します。次に、AWGで生成する信号を方形波に切り替えて再度測定を行い、遅延、立上がり時間、立下がり時間を記録してください。更に、AWGで生成する信号を正弦波(周波数は1kHz)に切り替えて高調波歪みを測定します。前の回路で取得したのと同様の出力波形が得られるように、AWGの振幅とオフセットを調整しましょう。
アナログ・アイソレーション・アンプの構成
続いては、より直線性が高いアンプ回路を構成します。そのためには、マッチングのとれた2つのフォトカプラが必要です。このような場合には、IC化されたフォトカプラを使用するべきです。
電圧‐電流変換回路を使用した構成では、LEDの非直線性の改善を図りました。帰還ループ内にフォトトランジスタも含めれば、その光‐電流変換における非直線性の影響も低減することが可能です。
準備するもの
- NPN 型のフォトカプラ:2 個
- コンデンサ:0.0047µF(472、1 個)
- 抵抗:470Ω(1 個)
説明
図11に示した回路をソルダーレス・ブレッドボードに実装します。使用するフォトカプラ製品によっては(パッケージが4ピン、6ピンのものなど)、配線を適切に行うのは難しいかもしれません。図では、パッケージが4ピンの製品の場合の標準的なピン配置を示しています。使用する製品の正しい接続方法については、それぞれのデータシートをご確認ください。
ハードウェアの設定
最初に、AWGはピークtoピークの振幅が4.8V、オフセットが2.5V、周波数が100Hzの三角波を生成するように設定してください。オシロスコープの両方のチャンネルは1V/divに設定します。
手順
図5、図8の回路で行ったのと同じ測定を繰り返します。次に、AWGが生成する信号を方形波に切り替えて、遅延、立上がり時間、立下がり時間を再度測定してください。更に、AWGが生成する信号を正弦波(周波数は1kHz)に切り替えて高調波歪みを測定します。これまでの測定結果と同様の波形が得られるように、AWGの振幅とオフセットを調整してください。
問題
1. フォトカプラを使用することによって得られるメリットを挙げてください。
2. フォトカプラが実際に利用されるアプリケーションの例をいくつか挙げてください。
答えはStudentZoneで確認できます。