「グリッチフリーの電源監視IC」などというものは、本当に存在するのでしょうか?

質問:

真にグリッチフリーの電源監視ICというものは実在するのでしょうか? それとも単なるコンセプトなのでしょうか?

Is There Such a Thing as a True Glitch-Free Voltage Supervisor IC?

回答:

グリッチフリーの電源監視ICは市場に投入されています。「MAX16161/MAX16162」であれば、1V未満の低い電源電圧で動作する電子デバイスの監視にも対応できます。電源電圧がゼロの場合であっても、高い信頼性でリセット信号を生成することが可能です。

市場では、グリッチフリーの電源監視ICが強く求められています。そうした製品を使用できれば、電源電圧のトランジェントや障害に対するシステムの性能を高め、信頼性を向上することが可能になるからです。多くのICメーカーは、電源監視ICの性能を高めるべく努力を続けています。一般的な電源監視ICに必要なのはパワーオン・リセット(POR:Power-on Reset)と呼ばれる最小電圧VPORだけです。この電圧が得られれば、クリーンで信頼性の高いリセット信号を生成できます。電源電圧がその最小電圧に達するまでは、リセット信号の状態は不定になります。この状態を「リセット時のグリッチ」と呼びます(図4)。

ここで図1をご覧ください。一般に、電源監視ICのRESETピン(リセット信号を出力する)では、出力トポロジとしてオープンドレインまたはプッシュプルのうちどちらかが使われます。どちらのトポロジでもNMOSトランジスタをプルダウン用のMOSFETとして使用します。

システムのパワーアップを行う際、電源電圧がVPORよりも低い段階では、電源監視ICにとって十分な電圧が得られません。つまり、出力用のMOSFETを駆動するための内部回路が適切に動作しません。結果として、同MOSFETはオフの状態になります。一般的な電源監視ICは、この状態におけるリセット信号(出力電圧)を制御する方法を備えていません。リセット信号は、上昇するプルアップ電圧VPULLUPに比例して上昇します。電源電圧がVPORを超えると、出力用のMOSFETがRESETピンを有効な状態に駆動します。

図1. 一般的な電源監視ICの内部回路。リセット出力用にはオープンドレインまたはプッシュプルのトポロジが使用されます。
図1. 一般的な電源監視ICの内部回路。リセット出力用にはオープンドレインまたはプッシュプルのトポロジが使用されます。
図2. データシートの電気的特性表に示されたPOR電圧の仕様
図2. データシートの電気的特性表に示されたPOR電圧の仕様

電源監視ICは、アプリケーションで使用されるICの電源レールを監視するために使用されます。FPGA、ASIC、DSPなどでは、その電源レールに1V程度の低い電圧が使われる可能性があります。そうした低い電圧で動作するICの場合、I/O部が電圧に対して非常に敏感になります。図3に示すように、そのロジック・レベルとしてはVIHが0.5V程度の低い値になる可能性があります。

システムをパワーアップする際、FPGA/ASIC/DSPなどは、すべての電源レールが安定するまでリセットの状態で維持されなければなりません。電源電圧VCCがVPORより低い場合には、RESETピンがグリッチの状態になる可能性があります。そうすると、FPGA/ASIC/DSPなどが不定の状態になってしまうかもしれません。VCCがVPORの値を超えると、出力部のMOSFETがオンになります。それにより、RESETピンの出力がロジック・レベルのロー(GNDのレベル)まで引き下げられます。

図3. 低電圧で動作するASIC/FPGA/DSPと電源監視ICのインターフェース
図3. 低電圧で動作するASIC/FPGA/DSPと電源監視ICのインターフェース
図4. リセット時にグリッチが生じるパワーオン・シーケンス
図4. リセット時にグリッチが生じるパワーオン・シーケンス

電子機器で使用されるデジタルICの電源電圧は、継続的に引き下げられてきました。それに対応し、アナログICのメーカーも、従来の電源監視ICでグリッチフリーのリセット機能を提供するための取り組みを進めています。ただ、VPORの電圧は、製造プロセスを改善することでしか引き下げられません。従って、真にグリッチフリーの電源監視ICを実現するには新たなアーキテクチャが必要です。

現状、システム設計を担当する技術者は、従来の電源監視ICに外付け回路を適用することで、グリッチフリーに近い状態を得ています。具体的には、図5のように、ソース・フォロワ構成の標準的なJFETを追加します。そうすれば、ソースの電圧は、VGからJFETの閾値電圧を引いた電圧値に追従します。JFETの閾値電圧が理由となって、VGとVOUTの間には約1Vの差が生じます。それにより、内部回路が動作可能になるまで出力の電位が上昇するのを防ぐことができます。

図5. 従来の電源監視ICにJFET(P型)を外付けした回路。これにより、グリッチフリーに近い動作を実現します。
図5. 従来の電源監視ICにJFET(P型)を外付けした回路。これにより、グリッチフリーに近い動作を実現します。

MAX16161/MAX16162は、真のグリッチフリーを実現する電源監視ICです。これらのICは、上述したのとは異なるアプローチを採用しています。リセット・ピンを通じて電流をシンクすることで、VCCがゼロであってもリセット信号を強制的にグラウンド電位に引き下げられるようになっています。図6に示したのが、MAX16162の使用例です。ご覧のように、図5のような外付け回路は使用していません。このような構成でグリッチフリーの動作を実現できるので、小型かつコスト効率に優れたソリューションだと言えます。

図6. MAX16162のアプリケーション回路図。右に示したのはその入出力波形です。
図6. MAX16162のアプリケーション回路図。右に示したのはその入出力波形です。

まとめ 

「グリッチフリーの電源監視IC」というのは、もはや単なるコンセプトではありません。電源電圧がゼロであっても、高い信頼性でリセット信号を生成できる電源監視ICが登場しています。このような製品を採用すれば、低電圧(1V未満)で動作する電子デバイスの監視を行うことが可能になります。MAX16161/MAX16162は、真のグリッチフリーを実現する電源監視ICです。小型かつナノパワーの製品でもあり、自己消費電流はわずか825nAに抑えられています。そのため、バッテリ駆動のシステムでも、長い稼働時間を確保することができます。

著者

Suryash Rai

Suryash Rai

Suryash Rai has been working at Analog Devices as an applications engineer since 2016, where he supports the protection IC portfolio. He received his master’s degree in communications engineering from the National Institute of Technology Karnataka, Surathkal. Suryash currently lives in San Jose, California, and enjoys cooking, traveling, and meeting new friends.