質問:
スイッチング・レギュレータのインダクタを流れる電流の値を測定したいと考えています。その場合、どのような方法が最適でしょうか?
回答:
一般に、スイッチング・レギュレータでは、インダクタによって一時的にエネルギーを蓄積します。この種の電圧変換回路を評価する際には、インダクタを流れる電流(以下、インダクタ電流)を測定することで、全体像の把握が容易になります。では、インダクタ電流の測定方法としては、どのようなものが最善なのでしょうか。
図1に、インダクタ電流の最適な測定方法を示しました。ここでは、典型的な降圧コンバータ(降圧トポロジ)を例にとっています。ご覧のように、インダクタとコンデンサの間に、小さなケーブルを追加しています。このケーブルは、電流プローブを使用してインダクタ電流を測定するためのものです。測定結果は、オシロスコープに表示されます。インダクタ電流の測定は、インダクタの両端のうち電圧が安定している側で行うとよいでしょう。スイッチング・レギュレータの大半のトポロジでは、インダクタの片端において、2つの極値の間で電圧がスイッチングされます。もう片端では、比較的安定した電圧が観測されます。図1に示した降圧コンバータでは、インダクタLの左端において、入力電圧とグラウンド電位が交互に現れます。切り替わりの速度は、スイッチング・エッジによって決まります。インダクタLの右側は出力電圧であり、通常は比較的安定した値になります。容量結合(電界結合)による干渉を抑制するために、電流測定ループは、インダクタの両端のうち電圧の変化が穏やかな方に配置します。
実際の測定環境の写真を図2として示しました。インダクタを基板から取り外し、2つの端子のうち1つを基板に対して斜めにハンダ付けします。もう1つの端子は、追加のワイヤを介して基板に接続します。この改造は、比較的容易に行えるはずです。インダクタを取り外すには、熱風を使うとよいでしょう。多くの場合、SMD(表面実装部品)用のリワークステーションでは、熱風の温度を調整できるようになっています。
電流プローブは、オシロスコープのメーカーから購入できます。残念ながら、多くの電流プローブは非常に高価です。そのため、シャント抵抗を使ってインダクタ電流を測定することはできないのかという案が再浮上するケースもあるでしょう。確かに、シャント抵抗を使用して電流を測定することも可能です。しかし、その場合、スイッチング・レギュレータで発生したスイッチング・ノイズがシャント抵抗を介して簡単に結合してしまうというデメリットがあります。結果として、インダクタ電流の方向が変わる際、測定結果は現実の挙動を忠実に表しているとは言えない可能性が高くなるでしょう。
図3に、インダクタ電流の測定結果を示しました(青色の線)。これは、オシロスコープとそれに対応する電流プローブを使用して取得した結果です。紫色の線は、インダクタが飽和して電流がピークに達した場合の挙動を表しています。このような現象は、アプリケーションに対して十分な定格電流が保証されていないインダクタを選択すると発生します。逆に言えば、スイッチング・レギュレータにおいてインダクタ電流を測定する目的の1つは、適切なインダクタが選択されているか否かを確認することにあります。また、スイッチング・レギュレータが動作している際、インダクタが故障して飽和してしまう可能性があるか否かを確認することも目的の1つです。
電流クランプの代わりにシャント抵抗を使用して測定を行う場合、ノイズが強固に結合します。特に、電流がピークに達した際には、それが顕著になります。そのため、インダクタの飽和を検出することが困難になります。
インダクタ電流の測定は、スイッチング・レギュレータの評価手法として非常に有効です。本稿で示したように適切な装置を使用すれば、インダクタ電流は簡単に測定できます。