2 つのステップで降圧を実施し、電力変換効率を高める

質問:

高い入力電圧を基にして低い出力電圧を得たい場合に、高 い電力変換効率を得るには、どうすればよいでしょうか。

RAQ: Issue 149

回答:

アプリケーションによっては、高い入力電圧から非常に低い出力電圧への変換が必要になることがあります。そのような状況に対応するためのものとして、さまざまなソリューションが提供されています。ここでは、48 V の入力から 3.3 V の出力を得るケースを考えます。このような条件は、IT 分野のサーバ・アプリケーションや通信分野のアプリケーションで実際によく見られます。

Figure 1
図 1. 4 8 V から 3 . 3 V への変換を 1 ステップで行う回路

図 1 に示したのは、降圧(ステップダウン)コンバータの回路例です。このような 1 ステップの変換で対応する場合、デューティ・サイクルが短いという問題に直面することになります。ここで言うデューティ・サイクルは、メインのスイッチがオンになるオン時間とメインのスイッチがオフになるオフ時間の関係を表します。降圧コンバータのデューティ・サイクルは次の式で表すことができます。

Equation 1

この式から、入力電圧が 48 V、出力電圧が 3.3 Vの時、デューティ・サイクルは約 7 % になります。

ここで、スイッチング周波数が 1 MHz であったとします。これは、スイッチングの周期が 1000 ナノ秒だという意味です。デューティ・サイクルが 7 % ということは、スイッチ Q1 は 1000 ナノ秒のうち 70 ナノ秒の間だけオンになるということになります。その後、Q1 は 930 ナノ秒の間オフになり、スイッチ Q2 がオンになります。この場合、スイッチング・レギュレータ IC としては、70 ナノ秒以下の最小オン時間に対応するものを選択する必要があります。ただ、そのような製品を選択すると、別の問題が生じる可能性があります。一般に、非常に短いデューティ・サイクルで動作している時、降圧レギュレータの電力変換効率は低下します。その理由は、インダクタにエネルギーを蓄えるために利用できる時間が非常に短くなるからです。インダクタは、長いオフ時間の間、電力を供給し続けなければなりません。そのため、通常は回路のピーク電流が非常に大きくなります。この電流を低減するためには、図 1 の L1 として比較的インダクタンスが大きいものを選択しなければなりません。オン時間の間に、L1 の両端には大きな電位差が生じるためです。

この例の場合、オン時間の間、インダクタの両端の電圧は、スイッチ・ノード側が 48 V、出力側が 3.3 V になります。つまり、約 44.7 V の電位差が生じます。インダクタに流れる電流は以下の式で求められます。

Equation 2

インダクタの両端に大きな電圧がかかると、一定の時間内に、一定のインダクタンスに応じて電流が増加します。インダクタのピーク電流を削減するには、より値の大きいインダクタを選択する必要があります。しかし、インダクタの値を高くすると、大きな電力損失が生じます。アナログ・デバイセズは、高い効率を実現するスイッチング・レギュレータ IC として µModule® ファミリーの「LTM8027」を提供しています。この製品を使ったとしても、上記のような条件の下では、4 Aの出力電流を供給する場合で 80 % の効率しか得ることができません。

Figure 2
図 2 . 2 ステップの構成で 4 8 V から 3 . 3 V を生成する方法。1 つ目のステップでは、4 8 V から 1 2 V の中間電圧を生成します。

このような条件下で電力効率を高めるための非常に一般的なソリューションがあります。それは図 2 のような構成で、中間電圧を生成する方法です。この回路は、効率の高い 2 つの降圧レギュレータをカスケード接続する形で構成しています。1 つ目のステップで 48 V の入力電圧を 12 V に変換します。この電圧を入力とし、2 つ目のステップで 3.3 V を生成します。LTM8027 で 48 V から 12 V に降圧する場合、92 % 以上の変換効率が得られます。2 つ目のステップでは、「LTM4624」を使って 12V から 3.3 V を生成しています。この時の変換効率は 90% です。この構成全体の変換効率は 83 % になります。つまり、図 1 の構成と比べて 3 % 高い効率が得られるということです。

これはある意味驚くべきことだと言えるかもしれません。3.3 V の出力に対応する全電力が、2 個のスイッチング・レギュレータ回路を通過する必要があるからです。図 1 の回路の方が効率が低いのは、デューティ・サイクルが短いため、インダクタのピーク電流が大きくなるからです。

1 つのステップで降圧するアークテクチャと中間電圧を利用するアーキテクチャを比較する場合、電力効率のほかにも考慮すべきことがあります。ただ、本稿では、電力変換効率という重要な側面に焦点を絞ることにします。本稿で取り上げている問題に対するもう 1 つのソリューションは、新たなハイブリッド型降圧コントローラ「LTC7821」を使用することです。この製品では、チャージポンプ動作とステップダウン式の降圧機能を組み合わせます。それにより、デューティ・サイクルを 2 × VIN/VOUT にすることが可能になっています。その結果、非常に高い降圧比が必要な場合でも、非常に高い電力変換効率が得られるようになっています。

中間電圧を生成する方法は、特定の電源において変換効率を高めるうえでは、かなり有効なものだと言えます。ただ、図 1 のような構成でも変換効率を高められるように、さまざまな試みが行われています。例えば、スイッチングによって生じる損失を削減することで効率を高める方法があります。つまり、GaN ベースのスイッチのような非常に高速のデバイスを使用して、電力変換効率を向上させるということです。ただし、現時点では、そうしたソリューションは、図 2 のようなカスケード構成のソリューションに比べてコストが高くなります。

著者

Frederik Dostal

Frederik Dostal

Frederik Dostalは、アナログ・デバイセズ(ドイツ ミュンヘン)のパワー・マネージメント担当エキスパートです。20年以上にわたって蓄積した設計/アプリケーションに関する知識を活かし、パワー・マネージメント分野のエキスパートとして活躍しています。ドイツのエアランゲン大学でマイクロエレクトロニクスについて学んだ後、2001年にNational Semiconductorに入社。お客様のプロジェクトを支援するフィールド・アプリケーション・エンジニアとして、パワー・マネージメント・ソリューションの導入に携わりました。その間、アリゾナ州フェニックス(米国)で4年間にわたりスイッチング電源に取り組んだ経験も有しています。2009年にはアナログ・デバイセズに入社。製品ラインや欧州のテクニカル・サポートを担当するなど、様々なポジションで業務に携わってきました。