非線形回路ハンドブック

第三章 非線形回路を理解する

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テスト装置

計測するパラメータとテストする乗算器の数に応じて、乗算器の特性をテストするために使用する装置は、必要なあらゆる機能を備えた自己完結型の乗算器テスト・セットから通常の実験用機器のシンプルな組み合わせまで、さまざまなものを選択できます。最も役に立つテスト装置の一部を以下に列挙します。

  1. デジタル電圧計 — 乗算器の「精度」を知るための DC オフセット、および入力/出力電圧の測定に不可欠です。ほとんどの測定には、表示分解能 4½ 桁、誤差 ±0.02 % 未満のもので十分です。1 V DC および 10 V DC のレンジが最も使われます。
  2. 高精度 DC 電圧リファレンス — 「精度」計測用の入力電圧、非線形性テスト用の安定したリファレンスを与えるために使用します。1 mA でプラスおよびマイナス 10,000 V の電圧を同時に供給でき、さらに 100 mV ステップでゼロ・ボルトまで調整できる必要があります。
  3. ファンクション・ジェネレータ — クロスプロット・テスト用に低周波数の正弦波入力信号を、また、動的テスト用に矩形波またはパルスを発生します。ジェネレータの出力電圧は、1 Hz ~ 1 MHz の周波数範囲にわたって 1kΩ に対しゼロから 20 Vp-p まで調整できる必要があります(より高速の乗算器の場合は 5 または 10 MHz の周波数範囲が望ましい)。
  4. 可変デュアル 15 V 電源、50 mA 出力電流、調整可能な電流制限付き。可変電源は、乗算器の入力および出力限界を電源電圧の関数として計測するのに役立ちます。
  5. オシロスコープ — クロスプロットおよび動的テスト用。クロスプロットには、校正され、DC 結合された垂直入力と水平入力が必要です。5 mV/cm(「高精度」乗算器のテスト用)~ 5 V/cm の垂直振れ係数を備えたものが最も有効です。水平振れ係数は 0.5 V/cm ~ 5 V/cm で十分です。「静的」誤差の計測には、両軸とも 100 kHz の帯域幅で十分です。動的テストには、帯域幅が少なくとも 10 MHz の広帯域オシロスコープが不可欠です。
  6. 高精度加算器/減算器 — 非線形性の計測用。これは、図 32 の回路図に従って作成できます。

図 32: 高精度加算器/減算器
図 32: 高精度加算器/減算器

 

 

テスト回路

クロスプロットは、例えばフィードスルーや非線形性などの乗算器誤差の微妙な調整や計測を行うための最も強力かつ有効な手法の 1 つで、これらの量を入力変数の関数としてプロットします。これは、オシロスコープの垂直軸に誤差を表示し、乗算器の入力信号を使って水平入力を駆動することによって簡単に行われます。

X フィードスルーを計測するためのクロスプロット・テストのセットアップを図 33 に示します。この場合は、乗算器の X 入力(オシロスコープの代わりに X-Y プロッタを使用して大きなスケールの記録を残すこともできます)を 20 Vp-p、10 Hz の正弦波で駆動し、Y 入力を接地します。乗算器の出力は、感度 20 mV/cm のオシロスコープの垂直チャンネルに直結で接続します。正弦波の X 駆動信号は、感度 2 V/cm のオシロスコープの水平入力に直結(±10V F.S.)で接続します。

オシロスコープ・トレースはスクリーンの中央に合わせます(ゼロ入力とゼロ・フィードスルーが原点)。

 

図 33: X フィードスルー計測用に接続されたクロスプロット・テストのセットアップ。Y フィードスルーの計測時は X 入力と Y 入力を交換します。
図 33: X フィードスルー計測用に接続されたクロスプロット・テストのセットアップ。Y フィードスルーの計測時は X 入力と Y 入力を交換します。

 

このテスト・セットアップを使って撮影したトランスコンダクタンス乗算器の X フィードスルーの写真を図 34 に示します。対称な放物線の形状は、X フィードスルーの非線形成分が X2 に比例していることを示しています。X フィードスルーのピーク値は 50 mV で、X = +10 V および -10 V で発生します。図 35 は、追加的な線形成分が X フィードスルーに及ぼす影響を示しています。これは YOS によって生じます。この図の放物線は、もはや対称ではありません。+10 V 側の端は -10 V 側の端より高く、その差は 40 mV です。

図表

これは、20 mVp-p の「線形」 X フィードスルーがあることを示しています(このフィードスルーは YOS を調整することで解消できます)。

 

図 34: 非線形(放物線)成分だけを示す X フィードスルーの測定値(X = ±10 V、垂直スケール: 20 mV/div.)
図 34: 非線形(放物線)成分だけを示す X フィードスルーの測定値(X = ±10 V、垂直スケール: 20 mV/div.)

 

Y フィードスルーは、テスト・セットアップの X 入力と Y 入力を交換することによってクロスプロットできます。

 

図 35: YOS を最適化していない X フィードスルーの測定値(X = ±10 V、垂直スケール: 20 mV/div.)。追加線形項 = 40 mVp-p、YOS = 20 mV。
図 35: YOS を最適化していない X フィードスルーの測定値(X = ±10 V、垂直スケール: 20 mV/div.)。追加線形項 = 40 mVp-p、YOS = 20 mV。

 

クロスプロット手法は、図 36 に示すように、非線形性の計測にも応用できます。

図 37.DC 精度(誤差)、VOUT、IOUT、ZOUT

図 38.オフセット

図 39.低周波数フィードスルー、クロスプロット

図 40.非線形性、クロスプロット

図 41.ベクトル誤差、セトリング時間

図 42.1 % 誤差帯域幅、非線形性と周波数の関係

図 43.フィードスルーと周波数の関係

図 44.位相シフト、微分位相シフト

図 45. fp、ft、スルー・レート、過負荷回復、立上り時間

図 46.より高度な非線形テスト

図 47.多目的乗算器テスト・ボックス

 

図 36: Y = 10 V で X の非線形性を計測するためのクロスプロット・セットアップ。Y = -10 V の場合は、加算ブロックが EO + Vx を計算する必要があります。Y の非線形性を計測するには X と Y を交換します。
図 36: Y = 10 V で X の非線形性を計測するためのクロスプロット・セットアップ。Y = -10 V の場合は、加算ブロックが EO + Vx を計算する必要があります。Y の非線形性を計測するには X と Y を交換します。

 

図37: DC 精度、定格負荷での出力電圧および電流レンジ、出力抵抗を計測するためのテスト・セットアップ
図37: DC 精度、定格負荷での出力電圧および電流レンジ、出力抵抗を計測するためのテスト・セットアップ

 

 

図 38: 出力オフセットの計測
図 38: 出力オフセットの計測

 

 

図 39: 低周波数フィードスルー・クロスプロット
図 39: 低周波数フィードスルー・クロスプロット

 

 

図 40: 非線形性クロスプロット
図 40: 非線形性クロスプロット

 

 

図 41: ベクトル(瞬時)誤差、セトリング時間
図 41: ベクトル(瞬時)誤差、セトリング時間

 

 

図 42: 1 % 誤差帯域幅、X 非線形性と周波数の関係(第 3 象限と第 4 象限)
図 42: 1 % 誤差帯域幅、X 非線形性と周波数の関係(第 3 象限と第 4 象限)

 

 

図 43: X フィードスルーと周波数の関係
図 43: X フィードスルーと周波数の関係

 

 

図 44: 位相シフト、微分位相シフト
図 44: 位相シフト、微分位相シフト

 

 

図 45: フルパワー周波数/スルー・レート/過負荷回復、小信号振幅応答と立上り時間、出力電流と電圧
図 45: フルパワー周波数/スルー・レート/過負荷回復、小信号振幅応答と立上り時間、出力電流と電圧

 

 

図 46: 正確な乗算器をリファレンスとして使用する高度な X 非線形性テスト。X 入力が「適切」な周波数で掃引され、Y 入力信号がその範囲をゆっくりとスイングします。Y の非線形性をチェックするには入力を逆にします。Y を連続的に掃引すると、信号のエンベロープが最悪条件の誤差の大きさを示します。
図 46: 正確な乗算器をリファレンスとして使用する高度な X 非線形性テスト。X 入力が「適切」な周波数で掃引され、Y 入力信号がその範囲をゆっくりとスイングします。Y の非線形性をチェックするには入力を逆にします。Y を連続的に掃引すると、信号のエンベロープが最悪条件の誤差の大きさを示します。

 

 

図 47: 多目的テスト・ボックス
図 47: 多目的テスト・ボックス

 

注記: これらのテスト回路は、主に 4 象限デバイスをテストするために設計されています。1 象限デバイスのテストはいくつかの点が共通していますが、以下のように多少の違いがあります。

  1. 第 2 象限と第 3 象限、および第 3 象限と第 4 象限でのデバイスの負のゲインの利点を利用して、一方の入力を負電圧とし、さらに入力と出力の受動加算を行うテストは使用できません。高精度減算、または(十分な精度がある場合)CRO 差動入力のどちらかを使用する必要があります。
  2. 一般に、1 象限デバイスは、入力信号発生器の出力をハーフスケールでバイアスする必要があります。ピーク to ピーク・スイングは 10 V です(0 ~ 10 V デバイスの場合)。
  3. 対数デバイスの場合、応答の全体像を知るには、間隔を置いてバイアスした小信号を使って(例えば 9V ± 1V、0.9V ± 0.1V など)、それらのデバイスに何セットかの小信号テストを行わなければならないことがあります。

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目次: 基本動作、非線形デバイスの応用、非線形回路を理解する、設計者のための技術情報

この技術書は、Analog Devices社の"Non-Linear Circuit Handbook"を和訳したものです。
非線形アナログ回路の原理、性能、仕様、テスト、応用に関する情報が1冊にまとまっています。50年以上前に考案された半導体の非線形特性を利用した回路は、最新の信号処理用の集積回路の中に隠れて、数多く使われています。
非線形回路の詳細を理解することで、それらを応用した新しい集積素子実現のもとになることを願っています。

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