アナログ・デバイセズの最新車載用半導体技術

高木秀樹 著
電波新聞ハイテクノロジー 2009年2月26日 掲載

  1. はじめに
  2. システム全体の誤差を低減

1.はじめに

車載制御システムにおいては、大きなコモンモード電圧が存在する中でも正確な電圧または電流を検出する必要がある。ディファレンス・アンプ(減算器)/電流検出アンプは、コモンモード電圧の高い環境下でも、ハイサイドおよびローサイドの電流を高精度に検出する(図1)。これらのアンプは一般に、負荷経路内のシャント抵抗両端の微小な差動電圧を正確に増幅することによって電流を検出するため、シャント・アンプとも呼ばれる。車載用途向けに特別に設計された本デバイスは、電流検出アプリケーションに対して優れた性能を提供する。

 

latest_automotive_semicon_tech_Fig1 


図1. 汎用オペアンプ+高精度抵抗と電流検出アンプとの比較

 

ディファレンス・アンプは、特殊な種類の計装アンプで、大きなDCまたはACの同相電圧が生じるアプリケーションで使用できるように設計されている。これには、多くの一般的な電流検出アプリケーション、たとえばモータ制御、バッテリ・チャージャ、電源コンバータなどがある。また、高同相電圧の自動車用電流検出アプリケーションに数多く使用される。自動車の燃料噴射制御、トランスミッション制御、エンジン管理、サスペンション制御、電子パワーステアリング、電子パーキング・ブレーキ、ハイブリッド車の駆動/ハイブリッド・バッテリ制御などである。

さまざまなシステムにおいて、より高精度な電流検出が必要となっている。しかし、ディスクリート品の組み合わせで高精度を実現するには、高価で高精度なディスクリート部品が必要であり、レイアウトの設計やディスクリート部品の選定、フィルターや保護回路などの設計等にも多くの時間を要する。

そこで、アナログ・デバイセズでは、業界をリードするアンプ技術を駆使し、電流検出専用の様々なアンプを開発している(表1)。これらのアンプは広い同相入力電圧範囲とすぐれたAD/DC精度を実現し、片方向だけでなく双方向の電流検出にも利用可能だ。アンプと抵抗を1チップに集積しているため、電流の高精度検出だけでなく、実装スペースの節約にも有効である。

表1:アナログ・デバイセズの電流検出用IC群

製品番号               
同相電圧範囲
 帯域幅(G=10 typ)
CMRR
ゲイン
動作電圧(min)
動作電圧(max)
入力オフセット・ドリフト
動作温度範囲
AD8202
-12 ~ 30V
50kHz 82dB
20
+3.5V +12V 10µV/℃
-40 ~ +125℃
AD8206
-2 ~ 65V  100kHz
76dB
20
 
+4.5V +5.5V 15µV/℃
-40 ~ +125℃
AD8210

-2 ~ 65V
 
500kHz
 
100dB
20
 
+4.5V +5.5V 10µV/℃
-40 ~ +125℃
AD8213
-2 ~ 65V  500kHz 100dB
20 +4.5V +5.5V  12µV/℃
-40 ~ +125℃
AD8215
-2 ~ 65V
450kHz 100dB
20 +4.5V +5.5V 6µV/℃
-40 ~ +125℃
AD8216
-4 ~ 65V
3MHz 90dB
3
+4.5V +5.5V 10µV/℃
-40 ~ +125℃

 

2.システム全体の誤差を低減

アナログ・デバイセズの電流検出用ディファレンス・アンプ「AD820x」ファミリーは、抵抗分割器構成を採り入れた従来型のディファレンス・アンプの入力段をベースにしている。これらのオンチップ高精度抵抗は0.01%以内のマッチングを実現し、その結果ディスクリート・オペアンプと抵抗で構成したディファレンス・アンプに比べてきわめて高い総誤差性能を示す。AD820xアンプでは、入力段で電圧を分割して低下させることで高同相入力電圧に耐えているが、対照的にAD8210アンプでは、入力トランジスタの高ブレークダウン電圧の性能によって高同相入力電圧に耐えている。この性能は、AD820xシリーズのアンプに高帯域幅、高入力インピーダンス、全体的な低ノイズ増幅度などの多くの利点をもたらしている。これらの利点が一体となって、システム全体の誤差を低減できる。

「AD8202/8203」は、プリアンプとバッファを有した構成になっている。AD8202/8203は微小な差動電圧を増幅し、ローパスフィルタで処理する単電源のディファレンス・アンプである。優れたACおよびDC性能を実現し、高いコモンモード電圧が存在する環境下でも、電流を高精度に測定可能である。AD8202/8203はシャント抵抗の片方向電流を測定でき、ソレノイド制御、トランスミッションコントロール、ディーゼルインジェクションコントロールなど、様々な自動車用アプリケーションで使用できる。

「AD8213」は、デュアルチャネルの高精度電流検出アンプで、ゲインは20V/V固定、全温度範囲の最大ゲイン誤差±0.5%、入力コモンモード電圧範囲-2~65Vである。AD8213はシャント抵抗の片方向電流を測定でき、モータ制御、ソレノイド制御、バッテリー管理など、様々な自動車用アプリケーションで使用できる。コモンモード電圧の存在とは無関係に、0~250mVの全入力差動電圧範囲で出力の直線性を維持するための専用の回路を備えている。また、入力信号を増幅する前に、グラウンドに接続したコンデンサを介してローパスフィルタ処理を行うことが可能である。AD8213は、-40~125℃の温度範囲で動作する(図2)。「AD8205/8206」は、-2~65Vの広い入力コモンモード電圧範囲を持つ、単電源の高性能ディファレンス・アンプである(図3)。




latest_automotive_semicon_tech_Fig2 


図2. AD8213によるデュアルの片方向電流検出アンプ


 

latest_automotive_semicon_tech_Fig3 

 
図3. AD8206のブロック図


これらのアンプは単方向動作と双方向動作が容易に設定できるため、電源、グラウンド、または外部電圧を基準とする出力を容易に発生させることが可能である。この高電圧ディファレンス・アンプは、小さい差電圧を正確に計測し、かつ高いコモンモード電圧を除去することにより、モータコントロール、油圧システム、トランスミッション、ソレノイド制御といった様々なアプリケーションで活躍する。

「AD8210」は、単電源のハイサイド双方向電流検出アンプである。-2~65Vの広い入力コモンモード電圧範囲、高帯域幅、ゲインは20V/V固定。単方向動作と双方向動作の設定が可能で、5V単電源で動作する。AD8210はSOICパッケージを採用しており、動作温度範囲は-40~+125℃。全温度範囲にわたって優れたACおよびDC性能があるため、測定ループでの誤差を最小に抑えることができる。オフセット・ドリフトとゲイン・ドリフトは、それぞれ最大8μV/℃、20ppm/℃で、出力オフセットは、VREF1ピンとVREF2ピンを使用し、5V電源で0.05~4.9Vまで調整可能だ。VREF1ピンをV+ピンに接続し、VREF2ピンをGNDピンに接続すれば、出力設定がハーフスケールになる。VREF1ピンとVREF2ピンの両方をGNDに接続すると、出力はグラウンド近くからユニポーラとなり、VREF1とVREF2の両方をV+に接続すると、出力はV+近くからユニポーラになる。その他のオフセットの場合は、外部電圧をVREF1とVREF2に印加する(図4)。

latest_automotive_semicon_tech_Fig4

  図4. モーター・コントロール・アプリケーション

エンジニア執筆記事一覧へ

ページトップへ